攻略開始《2》
現在通っているここは、どうやら大部分が謎解きエリアになっているようだ。
サクヤの選んだ扉は大正解だったようで、道はしっかり続いていたのだが、その先で新たな謎解きに行き当たる。
が、それらはもう問題にならなかった。
サクヤは謎など見ていないが、最初からどこが正解かわかるようなので、全く意味を成していない。
いやもう、扉が一つだけで、場に置かれているボタンを順序良く正しく押す、みたいなヤツでも、サクヤが触りたがる通りに触らせると、扉が開くのだ。
いったいこの子は、何を見て判断しているのか。我が息子が大きくなり、しっかり会話が出来るようになる時が楽しみだな。
内部構造に関してだが、俺だったらアスレチックエリアを導入するところだが、今のところは謎解きだけ。
サクヤのおかげで全部正解しているので、失敗した時どうなるのか気になるところだが……まー、この謎解き、別に間違えても死にゃあしないんだろうな。
もしかすると警備のゴーレムどもは出て来るかもしれないし、延々と迷ったりするハメになる可能性も存在するが、多分即死ギミックみたいなものは存在しないと思われる。
で、きっとやり直しも可能なのだ。
何故ならここにある謎解きは、敵を通さぬために存在するものではなく、解かれることが前提で存在するものだろうからだ。
だから、最終的には突破出来るようになっているのでは、と思うのだ。
そもそも謎解きなんていうのは、解いてほしいが解いてほしくない。そんな風に思ってしまうもののはずだ。
少なくとも、侵入者を阻むだけを目的にするのならば、もっと別の形にしていたはずだろう。
まあ、どうであるにしろ、今俺達がこうして謎解きしている様子をここの製作者の神――恐らく地の女神が見たら、俺達が挑戦している様子を見て喜ぶか、あるいはサクヤがギミック無視で突破するものだから、「それはズルい!」と憤慨していることだろう。
なんて、ちょっと楽しくなりながら皆と共に先へ進んでいくと、やがて大広間のような場所に辿り着く。
奥に、上へと昇るための大階段が見えるのだが――問題が一つ。
その手前に、見覚えのある形状をした、巨大なヒト型のゴーレムが、一体。
顔面にある、一つ目の宝玉。
数本の腕。
「久しぶりだな。いや、同型ってだけで、以前のヤツとは違うんだろうが」
――阿修羅ゴーレム。
前回遭遇した個体と違うのは、手に持った武器の種類と、こちらはまだ錆び付いていない、という点だろう。
今は起動していないが、配置的に……これを倒さねば先に行けない、というところか。
「門番か」
直接的に殺しに来るようなのはないと思っていたが、全部が全部そういう訳じゃないらしい。
つっても、ああしてわかりやすく「俺を倒せ!」みたいに配置されている時点で、相当楽をさせてくれているとは言えるだろうが。
「魔王、あれは……」
「あれもここまでのと同じ、エンシェントゴーレムだ。ただ、強さは段違いだぞ。以前アレと遭遇した時は、逃げることしか出来なかった」
「戦ったことがあるのかい?」
「一回だけな」
「ユキ君、あれ、仮に外の世界に出たら、多分一体だけで国を滅ぼせるだろうね。分類するなら、確実に『災厄級』だよ」
「……私も、そう思いますー。レフィならば勝てると思いますが、枠組みとしてはそこに来るでしょうねー」
「おう、俺も同感だ。改めて見ても、やっぱアイツ、別格だわ」
放ってる魔力の圧力が、桁違いだ。
……いや、前に出会ったヤツよりも強そうに見える。
これは恐らく、配置された場所の差、だろうか。
あっちは野ざらしにされ、全身が錆びて苔とか草とか生えていたが、こっちは室内にあり、恐らくは整備もされているのだろう。
この鎧があるからワンチャン通り抜けられるかと思ったのだが、足を踏み入れてみた瞬間即座に呼応して身体を起こそうとし始めたので、慌てて数歩下がると、再び停止状態に戻った。
……なるほど、中に入ってきたヤツを問答無用でぶっ殺す設定になってるんだな。
ここまでが謎解きエリアならば、さしずめここは、『力試しエリア』といったところか。
――ヤツを相手に、まともに戦うつもりはない。
ヤツと本気で戦えば命懸けになるのは間違いなく、正面から正々堂々とやって、勝てるかどうかは良くて五分、だろう。
いや、リルがいないことを思えば、勝率三割か四割くらいにまでは下がるか。
だから俺は、先にヤツの起動条件を探ることにした。
幸い、そういうことが得意な人員がここにはいるので、レイラを筆頭にした調査隊の面々にも協力してもらい、結果としてわかったのは、ヤツは広場に入らなければ何をしても起動しない、という事実である。
範囲外で戦闘用にわかりやすく魔力を練ってみても、阿修羅ゴーレムに何も反応はなく、次に石ころを投げ付けてみたら、目からビームを出して迎撃は行ったものの、それ以上の動きは見せなかった。
で、広場に足を踏み入れると、やはり起動する。
力試しエリアかと思ったが……ここも、もしかすると謎解きエリアの一環なのかもしれない。
これなら、話は簡単だ。
「みんな、離れてろよ」
俺が構えるのは――神槍ルィン。
すでに第三形態となっているそこに、俺が持つありったけの魔力を注いでいく。
いや、俺が持っている以上を、だ。
魔力ポーションを飲むことで、少しずつ回復させながらそれも注いでいき、さらにはお師匠さんが仲介役を熟すことで、調査隊の皆の魔力を受け取り、それも流し込んでいく。
他人に魔力を譲渡する技術は、簡単には真似出来ないかなりの高等テクニックのはずなのだが、どうやらエルドガリア女史ならば出来るようだ。
そこに加わった魔界王が、「いやぁ、何だかドキドキするねぇ」と言って笑っていた。
そうして、俺が扱える以上の魔力を神槍に込め――一息に、振り抜く。
「ビームはなッ、俺も撃てるんだぜッ!!」
発動したのは、『魔刃砲』。
ギュカッ、と鳴り響く、空気を斬り裂く音。
刹那、阿修羅ゴーレムもまた迎撃のビームを放ち、二本の光線が空中で衝突し、閃光が迸る。
爆音。
まるで、鍔迫り合いでもするかのように拮抗し――やがて、天秤は傾く。
俺はこの一撃に掛け、魔力を全ブッパした。
対し阿修羅ゴーレムは、ただ迎撃としてビームを放った。
その差は大きい。
膠着状態に陥っていたのは一瞬で、やがて俺の『魔刃砲』が阿修羅ゴーレムのビームを飲み込み、着弾。
吹き飛ぶ阿修羅ゴーレム。
だが、俺はそこで油断しなかった。
もう魔力はほぼ空っ穴だが、身体は動く。
腿を躍動させ、大理石の床を力の限りで蹴り飛ばし、ギュンッ、と弾丸のように飛び出す。
事実、阿修羅ゴーレムはまだ、稼働停止していなかった。
胴を凹まし、装甲をひしゃげさせ、内部パーツの幾つかを露出させながらもなお、起き上がろうとしている。
今ので貫通しないとはな……全く、神槍での攻撃だぞ。どんな装甲の硬さをしてやがるんだ。
硬さだけなら、龍族並かそれ以上じゃないか、コイツ?
改めて、正面突破は無理だな。
「警備ご苦労ッ!! お前の役割は今日で終わりだッ!!」
懐に入り込んだ俺に対し、阿修羅ゴーレムは腕だけを動かして迎撃してくるが、腰が入ってないな。
エンで防御しながら、逆にその腕をかち上げて無防備な状態にさせ――内部が露出している胴の一部に、神槍を突き入れた。
さしものヤツも、ゼロ距離からの神槍は、防げないらしい。
丸見えになっていた内部機構を断ち切る感触が腕に伝わり、そして、阿修羅ゴーレムは宝玉の輝きを色褪せさせた。




