ギロル氏族《1》
人数は、五十人は超えているが百人には満たない程。
これ、どう考えても、リューの身内だよな。
……リューが、「も、もうちょっとだけ心の準備を……!」とか言うので、今日はやめておいたのだが、これだったら無理にでも連れ帰ってやった方が良かったかもな。
……いや、すれ違いになったらむしろ面倒か。
むしろ、今のタイミングで彼らがこの森まで来てくれたのは、僥倖だったかもしれない。
「――って、あーあー、ヤバいな。完全に襲われてるじゃねーか」
以前の人間どものような、魔物を無効化する魔導具などは持っていないのだろう。
どうも俺のダンジョン領域には、森の中を逃げている内に入って来た結果らしく、周囲に棲息する魔物どもがひっきりなしに現れては、彼らに襲い掛かっている。
ウォーウルフ族の面々も優秀らしく、全員が上手く連携を取って応戦し、どうにか死者を出さずに対抗は出来ているようだが……イービル・アイを通してみた限りだと、怪我人の数が、少しずつだが確実に増えて行っている。
これは、放っておいたらいつか全滅してしまうだろう。
……流石に、リューの身内を見殺しにするのは憚られる。
まあ、ここで彼らを助けることが出来たら、恩を売って穏便に話を進めることも出来るかもしれないしな。
「……ハァ、仕方ねぇ。お前ら、先に行って獣人族を食おうとしている魔物ども、ぶっ殺して来てくれ。今のお前らなら余裕で倒せる相手だ。あ、でも、多分お前らのことを見たら敵だと思ってその獣人族達が襲って来るだろうから、魔物をぶっ殺したらすぐに逃げて周辺待機してろ」
その俺の言葉に、赤蛇のオロチ、鴉のヤタ、化け猫のビャク、水玉のセイミが了承の意思を示し、すぐに行動を開始してこの場からいなくなる。
「リル、お前はネルをダンジョンまで連れ帰ってやれ。ネル、すまん。魔物狩りは終わりだ。ダンジョンに戻って待っててくれ」
「クゥ」
「うん、わかった。ダンジョンで待ってる」
ニコッと笑って彼女はそう言うと、もう大分慣れたらしく「リル君、お願いね」とヒョイとリルの上に飛び乗り、そのままリルに揺られて我が家のある洞窟の方へと帰って行った。
「……さ、て。それじゃあ俺は、お客さんの歓迎会でもするとしましょうか」
* * *
――彼らは少し開けた場所で、真ん中に負傷者を、周囲に戦える戦士を、という布陣で固まり、休養を取っていた。
マップで確認した限りだと、周囲に敵性生物はおらず、少し離れたところで我が家のペット達が魔物どもと戦っている。
どうやら、我が家のペット達は上手く周辺の魔物の注意を引いてくれたようだ。
アイツら、ちょっと見ない間に、随分優秀になったんじゃないか?
リルの教育の成果だろうか。
部下が有能だと、楽で助かるな。
と、そんなことを考えながら彼らの方へと向かって行くと、まだ少し距離があるのにもかかわらず近付く何かの存在に気が付いたらしく、集団の外側にいる戦士達が俺の方に向かって瞬時に武器を構える。
へぇ、索敵範囲が広い。
そう言えば、リューも耳と鼻が良かったっけか。
「――おい、こっちだ」
木々の間から姿を現し、ピョンと転がっていた丸太を飛び越えてそう声を掛け――が、何故か彼らは武器を下ろさず、むしろさらに警戒した様子でこちらを睨み付ける。
……あれ、思っていた反応と違うんだが。
「貴様ッ、惑わしの魔物の類かッ!!」
「え、いや、普通に人なんだが……」
「信じられるものかッ!!何故、この恐ろしい森に人などがいるッ!!」
……なるほど、どうも俺のことを魔物の一種だと思っているようだ。
「あー……まあ、俺が何なのかはこの際どうでもいいだろ。それに、問答している余裕がお前らにあるのか?」
「ッ……!」
チラリと後ろの負傷者の方に視線を向けながらそう言うと、相手もよくわかっているようで、苦渋の表情を浮かべる。
それこそ死と生の狭間を彷徨うような、といった者はいないが、足がもげていたり腕が吹っ飛んでいたりなどの重傷者は普通にいるからな。
早い内に手当してやらないと、どの道出血多量で死ぬだろう。
「俺は、安全地帯を知っている。負傷者の手当ても出来る。付いて来るなら、全員助けてやろう。が、付いて来ないなら……まあ、好きにしろ」
ちょうどダンジョンまで連れて帰ってやれば、リューとも対面させられるだろうしな。
付いて来ないのならば、ちょっと面倒くさいが、我がペット達と共に周辺の魔物狩りを行ってやるとしよう。
リューの身内を見捨てるのはあり得ないので、なるだけ助けるようにはするが……後者の選択は本当に面倒なので、出来れば付いて来てくださいね。
と、そんな俺の思いが通じたのかどうかはわからないが、こちらを警戒しながらも仲間内で相談を始める。
そのまま腕を組んで少し待っていると、やがてウォーウルフどもの中から一人の青年がずいと前に現れ、まるで見据えるように俺を凝視しながら、言葉を放つ。
「……貴殿の言葉、信じて良いのだな?」
「俺からすると、信じてくれとしか言えんがな。まあ、悪いようにはしねぇよ」
「……わかった。貴殿を信じよう。お前達、武器を下ろせ」
「し、しかしボス!俺達はまだやれます!ここで立ち止まる訳には……!!」
「……お前達の忠義、ありがたく思う。だが、想定以上に被害が出過ぎた。今後のためにも、一度態勢を立て直した方がいいだろう」
「……了解!」
青年の言葉に、周囲のウォーウルフどもは武器を引き、怪我人達を移動させるための準備に動き出す。
「――あぁ、アンタがウォーウルフの族長か」
「そうだ。ギロル氏族の長、ベルギルス=ギロル。此度の助け、恩に着る」
ステータスを見ると……なるほど、この中で一番数値が高く、そして称号に『ウォーウルフの族長』というものがある。
ということは、この青年がリューの親父さんか。
何だ、思っていたより大分若いな。30にも届いていないように見えるが。
族長とか言うから、てっきりもっと歳を食ったおっさんを想像していたのだが、そうではなかったらしい。
……いや、ちょっと待て、仮にこの青年が30間際だとすると、いったいいつ頃結婚して、子を為したんだ……?
リューは確か、17だ。
とするとこの親父さん、13には結婚して、子供を作っていることになるのだが……。
……きっと、この親父さんが実は若作りで、もう少し歳が行っているのだ。
うん。きっとそうだ。
35ぐらいならば、18で子供を作ったことになるからな。それならまあ、まだあり得る歳だろう。
そういうことに、しておこう。
「じゃあ、アンタがリューの親御さんなんだな?」
「ッ、む、娘のことか!?」
リューの名を出すと、親父さんは何故か激しく動揺したような表情を浮かべ、言葉を続ける。
「と、ということは貴様っ、ま、魔王!?」
「え?あぁ、そうだけど――」
「お、おのれ魔王めッ!!謀ったな!!その命ッ、刺し違えてでもここで断つッッ!!」
…………えぇ。




