本戦開始:老執事《2》
まず、初撃は――俺。
ぶっ飛んで行った勢いのままに、エンを上段から一気に振り下ろす。
結構な速度で振り下ろしたその攻撃を、しかし当然のように老執事は避け、空振ったエンの刀身がステージの床を派手な音を発して大きく叩き割る。
「オラッ!!」
俺はその飛び散った床の破片を蹴り上げ、老執事の顔面に向かって飛ばしてから、エンを横薙ぎに振るう。
が、老執事は涼しい表情のまま、飛んで来た床の破片を空中でみじん切りにして無力化させ、横薙ぎに振るわれたエンをヒョイと間合いから外れて回避。
「ふむ……恐ろしい攻撃速度ですな」
「それを普通に避けてるアンタが言うことじゃねー、なッ!!」
言葉尻と共に、もはやタイムラグも無しに念じた瞬間発動出来るようになった水龍を数匹出現させ、老執事へと放つ。
最初からエンジン全開だ。じゃないと負けそうだからな。
『グルルルァァァッッ!!』
ちょっと前から、何故か咆哮を放つようになってしまった水龍達は、互いに絡み合うようにして中空を勢いよく進んで行き、大きく咢を開いて老執事へと食らい掛かり――。
「フッ――!」
――そして、老執事はその襲い掛かる水龍達を、斬った。
「ゲッ、マジかよ!?」
まさしく、一刀両断。
上段からブゥン、とデカい風切り音と共に振り下ろされた剣が、俺の水龍達を左右に真っ二つに裂く。
魔法としての形を崩された水龍達は、そのままただの水へと戻り、やがて何の痕跡も残さず消えて行った。
オイオイオイ。ちょっと待てや。
魔法って斬れるんすか、そうすか。
「油断は大敵ですよ」
「おわっ!?」
魔法が想定外の方法で無効化されたことに動揺してしまい、動きの鈍った俺に対し、一気に距離を詰めて来た老執事が突きを放つ。
慌ててエンで防ぐが、しかし途中で生き物のように蠢いて剣の軌道が変わり――えぇ!?ちょ、ちょっと待て、何だよソレ!?
その瞬間、老執事の一度の斬撃で二つの攻撃が同時に放たれ、二本の剣が俺へと迫り来る。
どうにか後ろに下がって回避するも、両肩を同時に浅く斬り裂かれてしまい、ブシュッ、と血が爆ぜる。
「なっ、何だよ今の!?」
今、剣を持ってる腕が二本に増えたように見えたぞ!?
恐らくは、腕が分裂したと錯覚を起こしてしまうような恐ろしい速度で、連撃を放ったのだろうが……。
「こんなのは小手先の技です。貴殿も、もう少々研鑽を積めば出来るようになるでしょう」
何言っちゃってんだこのじーさん。人類皆超人だとでも思ってんのか。
俺なんて、器用値がすっごい上昇して、魔法の扱いはメチャクチャやりやすくなったけど、剣の方はちょっと上手くなったかな?って程度なんだぞ。
何度も感じてることだが、俺に剣の才能は無い。ただスキルとステータスで誤魔化しているだけなのだ。
あー、チクショウ。こんなことならダンジョンを出る前に、剣術スキルと大剣術スキルのレベルをもっと上げて来るべきだったか?効果、重複するもんな。
……いや、そんなことをしても、このじーさんには意味無いか。
――落ち着け、もっとしっかり頭を使え。
まず、剣の腕じゃ勝ち目はない。身体の身のこなしも、俺の方が圧倒的に若いはずなのに負けている。
何というか、動きの速さは当然俺の方が上なのだが、じーさんには身体の動きにムダがなく、まるで落ちてくる木の葉のように捉え難い体捌きをしてやがるのだ。
……じゃあ、逆に俺のアドバンテージは?
身体の強靭さ。魔法。上を取れる翼。そして、エンだ。
――よし。
俺は背中に翼を出現させ、握ったエンへと声を荒げる。
「エン!!風魔法を発動しろ!!」
『……ん!』
俺の意図をすぐに理解し、力強い頷きの念話を送って来るエンを後ろに構え、魔力を流し込んでその刀身に焔を纏わせる。
エンは、自身の身体が焔で包まれたのを感じるや否や、その周囲に後方へと噴射する気流を纏わせ――瞬間、爆発。
「ぬっ――!!」
「燃えたらちゃんと消火してやるよッ、じーさんッ!!」
文字通りの意味でぶっ飛んだ俺は、一瞬で間合いを詰め、ジェットエンジンと化したエンをそのまま老執事へと放つ。
流石にこれを食らうのはマズいと思ったのか、大きく飛び退って回避するが――その程度じゃあ逃がさんぞ。
前にエンを繰り出した反動で身体が大きく後ろに下がるが、翼の制御を存分に用いてギュインとUターンし、再び一気に加速。
さらに、剣を構える老執事の手前で翼を羽ばたかせ、軌道を急激に変化させながら、じーさんへと襲い掛かる。
「ぬうんっ!!厄介ですな!!」
そんなことを言いながら、しかし老人とは到底思えない俊敏な動きで、次々と俺の斬撃を躱す老執事。
チッ、どっちが厄介だ。
「アンタの体捌きの方が、よっぽど厄介だッ!!」
何度も老執事の周りをぶっ飛び回り、斬りつけることで轟炎が掠り、老執事の執事服をどんどんボロボロにはしていっているが――いまだ、クリティカルヒットはなし。
そのことに焦れてしまったせいか、少々攻撃が荒くなってしまった隙を突かれ、通り過ぎ様に脇腹を斬り裂かれる。
グッ……効く。
幸い傷は浅かったが……ったくこのじーさん、今の速度に付いて来れるだけじゃなく、的確に反撃してくる辺り、どんな反射神経してやがるんだ。
魔境の森の、俺と同程度のステータスを持っている魔物どもだって、エンに轟炎を纏わせてぶっ飛んでる時の攻撃はほぼ避けられないってーのによ。
老化するとステータスって下がっていくそうだし、もっと若い頃を想像したらマジで恐ろしいな。
このじーさんだったら、龍族ともいい勝負出来るんじゃないのか?
『す、すごいすごいすごい!!なんて試合だ―ッッ!!こんな試合をこの大会中盤戦で行ってしまっていいのか――ッッ!?』
司会と観客の熱狂の声が、今ばかりは少し鬱陶しい。
フゥ……落ち着け。
エンの刀身の轟炎を解除し、風魔法をやめさせ、空に飛び上がった状態で動きを止めていた俺は、深呼吸してステージ外の様子を全て脳内から消し去り、ただステージの上だけに意識を集中させる。
『主っ、傷は?』
「こんぐらいなら無傷だ。それよりエン、魔力の残りは?」
『……あと、一分ぐらい』
チッ……しまった、使い過ぎたか。
流石に、エンにポーション類は効かないしな……。
「……なるほど。初めて見ましたがその武器、『インテリジェンス・ウェポン』というものですか」
「おう、よくわかったな」
「剣が、貴殿の意思に従っているように感じました故。素晴らしい剣をお持ちです。大事になさい」
「当たり前だ!ウチの子達は世界最強に可愛いんだぞ!言われなくても大事にするさ!」
ズビシ!と指を突きつけると、フフッと一瞬だけ好々爺然とした様子で微笑む老執事。
『…………』
と、エンから伝わって来る、照れたような、悶えるような感情。可愛い。
「それより、降りて来てはいただけないので?」
「バカ言え!誰がそんな危険地帯降りて行くかってんだ!」
少なくともここなら、あのじーさんの攻撃は届かないだろうしな。
「そうですか。では――私から行かせていただきましょう」
「ッ――!!」
瞬間、危機察知スキルが伝えて来る、強烈な危機。
それに逆らうことはせず、翼を用いて空中で全力の緊急回避を行う。
刹那、グオンと老執事が振るった剣から、斬撃――飛ぶ斬撃らしきものが放たれ、俺の顔の数センチ横を掠ってどこかへと飛んで行った。
な、何だよ、そりゃあよぉ!!
剣術スキルってカンストすると、遠距離攻撃も出来るようになんのか!?
今の攻撃を魔力眼で見る限り、どうやら剣に魔力を乗せ、それを斬撃としてこちらに放ったようだが……ったく、まるでビックリ箱だ。
「ほう、今のを避けますか」
「あぶねーなコンチクショウッ!!」
仕返しとばかりに俺は、同じようにエンへと魔力を流し込み、いつもならそこで発動する『紅焔』のスキルを発動させないよう注意しながら、その魔力を遠くへと飛ばすようなイメージで思い切り振り抜く。
すると、その攻撃自体は避けられてしまったものの、エンの刀身の先からじーさんがやった時と同じように飛ぶ斬撃が放たれ、ステージの床を大きく抉る。
お、おぉ、初めてやったが、案外いけるもんだな。
「見ただけで真似しますか!流石ですな」
「フン!その余裕そうな表情、絶対歪めてやるからな、じーさん!」
ここから、第二ラウンド開始だ!
じーさんは強キャラ。はっきりわかんだね。




