使い《1》
やっぱり皆さん、あの国民的超有名ゲームはプレイしてらっしゃるんですねぇ。何だか感慨深い限りです。
……勿論、大乱闘スマッシュシスターズのことですよ?
「……お?侵入者」
いつもの如く玉座の間でのんびりしていると、その時、突如マップが反応を示し、侵入者の赤点を表す。
――久しぶりの人型の侵入者だ。
……勇者が遊びに来た、という訳じゃなさそうだ。
アイツが来た場合、マップは開くが敵性反応の赤じゃなくて味方の青が付くようになってるからな。
俺はその敵性反応の赤点をタップして、詳細を確認する。
名:ハロリア=レイロート
種族:ガルディアン・デビル
クラス:近衛隠密兵
レベル:54
……なるほど、コイツ、魔族か。
レベルも54と、なかなかに強い。ステータスも見る限り、以前王都で出会った聖騎士、カロッタと同程度のステータスを有している。
まあ、『近衛隠密兵』なんて国の重要そうなクラスに就いているヤツだしな。
ある程度の強さが無ければやっていけないのだろう。
「で、その近衛隠密兵なんてヤツが、どうしてこんなところまで来たんだか」
イービルアイの送って来る映像を確認すると、目深にフードを被った魔族は背中の翼を羽ばたかせ、何かを探しているらしく周囲をキョロキョロしながらダンジョン領域内を飛び回っている。
……まあ、こんなところまで来て、何かをキョロキョロと探しているとなったら、そりゃまず間違いなく用があるのは俺か、我が家のダンジョンの面々の誰かだろう。
それ以外にここらにいるのなんて、魔物だけだし。
「なぁ、レイラ。近衛隠密兵って知ってる?」
「近衛隠密兵ですかー?私が知っている限りだと、あの方達は魔族の王である方の魔王様の、子飼いの諜報員だったはずですー。仕事としては、やはり調略や裏工作が基本ですねー」
俺の問い掛けに、近くにいたレイラがスラスラと答える。
「ふーん、なるほどね……」
俺のイメージしているものと、そんな大差はない訳か。
……やっぱり、以前王都で会った魔族のクソ野郎の関係者、という可能性が高いだろうな。
「近衛隠密兵が、どうかしたのですかー?」
「いや、なんかウチの敷地内に侵入して来ててな」
「……魔王様、何か目を付けられるようなことをしたのですかー?」
「心当たりがないと言ったら嘘になるな」
両腕、斬り落としたしな。
「……あの方達に手を出すと、完全に王の一派に敵対される可能性がありますので、私としては、出来ることならば友好的に接していただきたいのですがー……」
「あいあい、了解。まあ、もしかしたらもう手遅れかもしれんがな」
ま、いいさ。別に俺だって、積極的に敵対したい訳じゃないからな。
元から敵だってんなら、話は別だが。
「エン、すまん、ちょっと一緒に来てくれるか」
「……ん。わかった」
俺の意図をすぐに悟って、武器に戻ったエンを肩に担ぐ。
「侵入者発見」と報告をしてくるリルに、「ソイツは俺が向かうから待機してろ」と『遠話』で指示を送ってから俺は、玉座の間の外へと出て行った。
* * *
「――よう、ずっとキョロキョロしてやがったが、誰を探してるんだ?」
「!?」
『隠密』を発動して空に飛び上がり、そのまま侵入者の背後まで忍び寄ってからそう声を掛けると、フード野郎はガバッとこちらを振り返り、即座に腰の短剣を抜き放つ。
「おう、動かない方がいいぞ。首が飛ぶから」
が、先に俺がその首筋にスッとエンの刀身を当てたことで、フード野郎は一瞬身を強張らせてから、すぐに握っていた短剣から手を離し、それを眼下の森に捨てた。
「……アーリシア王国の首都アルシルにて、悪魔族一派の内部工作を潰した、魔王ユキですね?」
……お?
勝手に男だと思っていたが、どうも女だったらしい。
強張ってはいるが、存外に綺麗な声で、そう問い掛けて来る。
……首都アルシルってのは、以前俺が行った王都の名前だ。
この言い方からすると、コイツはその一派とは別組織なのだろうか。
「さてな。仮に俺がその男だったらどうするんだ?」
「……対話を。我々は恐らく、共通の利害関係を有しているはずです。お互いがお互いの益を得るために、対話を望みます」
……嘘、という訳じゃなさそうだ。
ダンジョン領域に侵入者が現れた場合、マップは俺が許可した者以外の全ての侵入者を『敵』として表示するが……しかし俺の『索敵』スキルならば、話は別だ。
コイツからは、敵対的な意思を感じられない。
得体の知れない相手に警戒はしているようだが、逆に言えば警戒止まりだ。
とりあえず敵ではなさそうだ、ということを判断した俺は、エンの刀身を引いて、再び肩に担ぐ。
「それで?俺がそのユキという男だった場合、ソイツにはどんな益があるってんだ?」
俺が武器の構えを解いたことで安堵したらしく、幾ばくか緊張の和らいだ声音で、俺の問いに答える。
「……これから襲い来るであろう敵の情報と、その敵の敵である我々という味方を得ることが出来ます」
「……へぇ」
女の言葉に、スッと自身の眼つきが鋭くなるのを感じる。
……なる、ほど。
「……差し詰めお前は、現魔王のメッセンジャーってことか」
分析スキルで俺に近衛隠密兵という正体がバレていると知らない魔族の女は、その言葉に驚愕の表情を顔に張り付ける。
「ッ……やはり、貴方が魔王ユキ、その人なのですね。聞いていた通り、そこらの力に酔い痴れた魔王とは違うようです」
「俺は他の魔王に会ったことないから知らんがな。――まあいい、話は聞こう。付いて来い」
クイッと首を曲げ、顎で洞窟の入口の方を指し示した俺は、そのまま身を翻すと、そのままそちらの方向へと飛んでいく。
チラリと背後に視線を送ると、フードの女は特に逡巡する素振りも見せず、素直に俺の後ろを飛んで付いて来ていた。
……すっごいどうでもいいんだけど、今の顎を『クイッ』てやる動き、実はずっと、前々から一度はやってみたいと思ってたんだよね。
出来てよかったです。
* * *
――その後、フード女を伴い俺が向かったのは、勇者が来た時にも使った、旅館にある一つの部屋。
「おし、着いた。まあ、座れ。床に直接座るから、あんま慣れないかもしれんが」
部屋の一角から取り出した座布団に座り、もう一枚対面に置いた座布団をポンポンと叩きながら俺はそう言った。
「ど、洞窟の奥に草原と城が……」
フード女は何だか唖然とした様子ながらも、俺の言葉に従い座布団の上に腰を下ろす。
まあ、うん、君、道中結構驚いてたもんね。
俺が洞窟の中に入ってった時はこちらを侮るような顔してたけど、扉を潜った瞬間広がった草原と城に、度肝抜かれてたもんね。
俺としては驚いてくれるのは嬉しいからいいんだが、隠密なんて仕事をしているヤツが、そんな簡単に他人から表情を読み取られていいのだろうか。
――ちなみに、フード女とは言っているが、今コイツはフードを取って、その顔を覗かせている。
声からしてそんな印象はあったのだが、思った以上に若く、大人の女の顔に、まだあどけなさの残るような顔立ちをしている。
少女から大人になりかけている最中、といったところだろう。
その頭からは二本の小さめな角が生え、先程までは気が付かなったが、外套の下からは細い尻尾が覗いていた。
うん、まさに俺の想像通りの魔族の女、って感じだな。
「お茶をお持ちしましたー」
と、その時、部屋の襖がガラガラと開かれ、その奥からお盆に湯呑を乗せたレイラが部屋に入って来る。
「おう、ありがと、レイラ」
いや、ホントに有能なメイドだな、レイラ。
ここに近衛隠密兵さんを連れてくる前に、さっきちょろっと客が来たから旅館の方行って来る、と言っただけなのに、この仕事の早さよ。
間違いなくメイド力530000は超えているな。
俺、知ってる。きっとレイラが本気を出すと、どんどんと数値が上がって行って、最終的にスカウターが爆発するんだ。
そんなアホなことを考えていた俺だったが、ふと正面を見ると、何故かフード女が部屋に入って来たレイラの方を向いて、愕然とした表情を浮かべていた。
「レ、レイラ……?もしや、『知識欲の鬼人』と呼ばれた、羊角一族のレイラですか!?」
…………は?




