鞘作り
罪焔の鞘を、作ってやろうと思う。
我が愛武器、罪焔が、なんかちょっと予想外の成長の仕方をした先日から、少し経った今日。
俺は、魔境の森で採れる様々な素材が置かれた工作用テーブルを前に、胡坐を掻いて座っていた。
『…………』
俺の隣には抜き身の罪焔が置かれ、基本的に喋ることはないのだが、ちょっとご機嫌そうな様子が伝わって来る。
恐らく、誰かと一緒にいることが嬉しいのだろう。愛いヤツだ。
とまあ、こんな感じで、あのクソ獣を倒したことをきっかけに一段階成長した後のコイツは、俺がその柄を握っていなくとも『念話』なるもので意思や感情を伝えて来るようになっていた。
ちなみに、今現在の罪焔を分析スキルで見たところ、このようになっている。
名:罪焔
種族:魔剣
品質:測定不能
攻撃:459
耐久:672
保有魔力:618
固有スキル:念話、吸血
スキル:紅焔lv3、自己修復lv1
称号:インテリジェンス・ウェポン
魔王ユキの作成した、刀の形状をした紅色の大剣。罪を憎み、罪ある者を許さず、裁きを与える断罪の剣。魔王ユキの手により、明確な意思を持つようになった。生物の血を吸うことで、その刀身の鋭さを増し、更に成長していく。装備時に限り、装備者のステータスを大きく増幅させる。
なんか、表示がただの道具を鑑定した時と比べて、すんごい変わっていた。
つか、まず何よ、種族『魔剣』って。魔剣って種族な訳。
……まあ、魔王も種族だしな。魔剣って種族があってもおかしくない、のか?
数値に関しても、比べるものがないため武器としてこの値が高いのか低いのかよくわからない。
保有魔力などという項目もあるが、いつの間にコイツ、魔力なんか獲得したんだ?
確かに今のコイツからは魔力を感じるのだが、以前は俺が魔力を流し込むだけで、コイツ自身は魔力を有していなかったはずだぞ。
スキルに至っては、まあ固有スキルは元々そういう武器だったし、まだ納得出来るから置いておくとして、魔術回路であったはずの『紅焔』がスキルとして認識されている。
これ、スキルレベルも明記されていることだし、もしかして使っていけばさらに威力が伸びるのだろうか。気になる。
いつの間にか『自己修復』スキルなぞというものも獲得してやがる。これはどうも、自己の保有する魔力を消費して刃毀れや刀身の曲がりを修復出来るようになるらしい。
コイツの脅威的な固さは、これが原因か。全然刃毀れしないから、それだけ優秀な刀なのだと思っていたが、恐らく自分で修復していたのだろう。
それにしてもわからん。わからんことだらけだ。
もう何か、ホント色々予想外だよ。検証せねば。
ちなみにコレを見た時のレフィなど「はー、全く……本当にお主の傍は退屈しないな」と些か呆れた表情を浮かべていた。
どうも、レフィとしてもこんな生物チックな武器は初めて見たらしい。
インテリジェンス・ウェポンなるものがあることは知っていたそうだが、こんなはっきり意思を伝えられるものは今まで見たことがなかったそうだ。
すごいぞお前。伝説の覇龍様が初めて見たってよ。
とまあ、色々と変化を果たした罪焔なのだが、何故俺が鞘作りをしようと思い立ったのかと言うと、あれからアイテムボックスにしまう時に、罪焔からなんか、毎回すんごい寂しそうな意思が伝わって来るようになったのだ。
本人(?)には別にそんなつもりはないらしいのだが、どうもまだ『念話』スキルの使い方をよくわかっていないらしく、彼女……かどうかはわからないが、そんな感情が漏れて流れ込んで来るのだ。
正直、何と言うか……落ち着かない。
なんかちょっと、罪焔は子供のような印象を受けるし、そんな感情を流されると、すんごい悪いことをしている気分になってくる。
俺としても、コイツを非常に気に入っているから、罪悪感もひとしおだ。
罪焔はアイテムボックスの中に一人でいるのがどうも寂しいようだし……なので、外に置いておけるように、その刀身をしまう鞘を作ってやろうと思った訳だ。
今目の前のテーブルに置いてあるのは、俺がここ最近の魔物狩りで得た魔物の素材と、さっき切り倒して来た木材を加工したもの。
どんな素材が鞘に適しているのかなど知らんから、色々と試してみるために用意してみた。
ちなみに、別に工作が得意でも何でもない俺が、どうやって鞘作りをするのかと言うと、使用するのはこれまた『武器錬成』スキルだ。
鞘は武器じゃねぇ、と言いたいところなのだが、すでに幾度か実験して、鞘が作れることは確認している。
まあ正しくは、鞘というものに見えるような武器だ。
この武器錬成スキルは、かなり汎用性が高い。
例えば、内部に刃の仕込みがあれば老人などが使う杖も作れるし、同じような感じで中心の太い骨を鋭い刃にして、傘も作れたりする。
通常はボールペンで、しかし一定の動作をすると鋭い針が飛び出す暗器なんかも作れたりする。
作ったはいいものの、危ないから全部アイテムボックスの中に死蔵してるんだけどね。
つまり何が言いたいかと言うと、それに武器としての要素、そして素材と魔力、想像力さえあれば、大抵の物は武器錬成で作れてしまうのだ。スキルってすげぇ。
「――よし、出来た!」
そして、とりあえず作ってみた一作目。
少々無骨な木造りだが、ちゃんと鞘である。
まあ、鞘を作るのなど慣れていないから、多少は許してもらおう。
これの内部に仕込まれている武器としての要素は、鞘の一番下、こじりに衝撃を与えると、その先から刃が飛び出すようになっている。
本当は、ボタンを押すと散弾が飛び出る、みたいな機構を組み込んでみたかったのだが、それだと罪焔の刀身に合わせて作っているために元々デカい鞘がさらにデカくなってしまうし、そういう複雑な機構は脳内でしっかりと設計図を組み立てておかないと作成時に失敗する。
そして何より、俺、銃の構造とか知らない。恐らく武器錬成で作れないことはないだろうが、せめて見本でもないと作れる気がしない。
ま、それは今後暇な時にでも作ってみようか。幸い、時間はたっぷりと、腐る程あるしな。
そうして、一作目の鞘に罪焔を納刀してみたのだが――。
『……これ、や』
どうも、彼女……でいいや。なんか女の子っぽいし。
彼女はお気に召さなかったようだ。
む……ちょっと、微妙に鞘の長さが合ってないな。鯉口から微妙に刀身が出てしまっている。
しかも、内部の大きさが合っていないようで、左右に揺らすと少しだけカタカタしてしまっている。
ぶっちゃけ、罪焔の刀身が長いために普通の刀のような抜刀は出来ないので、抜き放った鞘はアイテムボックスにしまうか、その場にそのまま投げ捨てるかするつもりだから、そこまで凝ったものを作るつもりもないのだが……と言っても、これはちょっと、適当過ぎるだろう。
次だ。次に行こう。
* * *
それからも、幾本もの鞘を作製した俺だったが……なかなか、これ、というものが作れずにいた。
罪焔の方はもう、俺に気を遣って『……もう、いい』とか『……これで、だいじょーぶ』とか伝えて来るのだが、彼女から漏れ出て来る本音はまだ納得した様子はない。
ここで作るのをやめてもいいのだが……しかし俺の作り上げた、我が子とも言える存在の初めてのワガママなのだ。
聞いてやらねば、親の矜持が腐るってもんだ。
――ここまででわかったのだが、どうも、俺の趣味と彼女の好みが合っていないらしい。
しっかりとした造りの、結構カッコいい、モ〇ハンとかに出て来そうな感じのワイバーンの鱗を使った鞘とかも出来たのだが、あんまり気に入った様子はなかった。
ふむ……まあ、女の子っぽいもんな、罪焔。何故か。
そりゃ、男の俺が好みそうなヤツを作っても、気に入りはしないか。
とすると……ちょっと女の子が好みそうな感じのヤツでも作ってみるかな?
……よし、その方向性で行こう。
俺は、次の素材を手に取り、新しい鞘を作り始め――。
魔王の仕込み鞘:魔王ユキの作成した、武器『罪焔』のための鮮紅色の鞘。鞘のこじりに刃が仕込まれている。頑丈な造りをしており、生半可な衝撃では壊れない。品質:A+。
作り上げたものを手に取り、まじまじと眺める。
おぉ……いいんじゃないか?
形としてはシンプルだが、ここまで何本も作って来たおかげで、造りはかなり良い。
ピンクっぽい色の甲殻を持った魔物の素材を使用して作ったため、鞘全体の色は綺麗な鮮紅色をしており、罪焔自体の持つ紅色の刀身とよく合っている。
まあ、罪焔の柄は普通の木造りなので、そこだけ色合いが少し浮いてしまっているのだが……後で滑り止めの色付き紐でも巻いてやればいいか。
「どうだ?エン」
エン、というのは、彼女の呼び名だ。名前の後ろから取った。罪焔って微妙に呼び辛いからね。
彼女をその鞘に納刀してから問い掛けると、エンはしばしその鞘の感触を確認してから、最後に頷きのような意思を返して来る。
『……とても、いい』
おっ、どうやら、これは彼女の御眼鏡に適ったらしい。結構本気で気に入ってくれている様子が感じられる。
やはりコイツ、女の子か。女の子はピンク好きだもんな。この方向性で当たりだったようだ。
それに見たところ、サイズに関してもエンにピッタリと来ているし、カタカタもしてない。
よかった、どうにか彼女も気に入ってくれる、良いものを作り上げることが出来たようだ。
俺は、満足げに「うむうむ」と首を縦に振る。
「……フフフ。それにしても、子供すら虜にしてしまう、我がセンスの素晴らしさよ」
この魔王に掛かれば、子供の趣味もばっちり把握済みなのだ。
また一歩、クリエイティブ魔王への道を前進してしまったな……。
『……?どうした、の?』
「フフ、何でもないのだ、エンよ……ただ、溢れんばかりの我が才能が恐ろしくてな……」
『……そう』
いつもなら、この辺りでダンジョンの面々からのツッコミが入るのだが……しかしまだコミュニケーション能力の乏しいエンは、テンションが著しく上がっている俺の様子を見て、ちょっとだけ楽しそうな感情を伝えて来るのだった。




