ダンジョン強化計画:始動
「ふむ……トラップはこんなもんでいいか?」
上に乗った瞬間礫混じりの爆発が起きるトラップや、そのエリアに足を踏み入れた瞬間、即効性のある毒が塗られた刃物が四方八方三百六十度全てに飛び散るトラップ。
少し気を付けていれば見つけられるトラップと、気を張っていなければ見つけられないトラップ。
そして、魔法が掛かっており、相当高位の看破系スキルを使わなければ発見出来ない上に、他二つと比べて一番殺意が高く踏んだ瞬間猛毒ガスが付近の空間に噴射されるトラップ。
この三つは並べて設置してあり、一つ目と二つ目をダミーにして、三つ目の殺意の高いヤツを隠すことを目的にした、三重式のトラップだ。
他には植物型で、普段はただの植物として擬態し、近くに生物が通り掛かった時のみ作動して、付近の植物が一斉に剣山となり敵を串刺しにするトラップや、スキルにすら反応しない微弱なフェロモンを周囲に垂れ流し、方向感覚を狂わせる花型のトラップ。
それ以外にも、様々なトラップを設置してある。さながら地雷原だな。
これらのトラップ群は、ダンジョン領域の一定ラインから内側に設置されており、その領域の一番外側が最もトラップの密度が濃く、ウチの洞窟に近付くにつれ散発的になっていき、だんだんと隠蔽性を重視したトラップへと変化していく。
気を抜いたところに、ズドン、といった感じだ。
ただ、これらのトラップは基本的にアクティベートされていない。
殺傷能力が高く、ややもすれば殺さなくていいような者まで殺してしまう可能性が高いし、何より壊れた時に再設置するためのDPがちょっとお高い。雑魚にこんな罠を使用しても勿体ないしな。
トラップを起動するかどうかは、ダンジョン領域に敵が入り込んだ場合、ソイツが強敵であれば俺のマップが反応するので、それで確認をしてから決めることにした。
これで、安全対策もバッチリだろう。
「あとは新しいペットだが……うーん、ちょっとDPが足りねぇな」
まだあることにはあるのだが、しかし俺が召喚しようと目を付けた魔物共を一斉に召喚するとなると、ちょっと足りない。
ならば個々で召喚して、後でDPが溜まった時にまた別のヤツを出現させればいいのだが、次に召喚する予定の四匹は同期としてやっていってほしいのだ。
今先に二匹ぐらい召喚してしまうと、残りのヤツらを召喚するのが大分後になってしまいそうだからな。もう少し、溜めてから一気に召喚しよう。
ちょっと前にぶっ殺した盗賊どもから奪った金銀財宝が、ダンジョンに吸収させたらかなりのDPになったのは嬉しい誤算だったのだが……トラップの設置にちょっと使い過ぎてしまったか。
俺、興が乗るといっつもこうだからな。気を付けないと。
――まあいいや。せっかくだし、ちょっとトラップ、試してみようか。
「――リル」
『クゥ』
マップには結構遠くに映っているリルを呼ぶと、耳元のすぐでリルの鳴き声が聞こえて来る。
これは『遠話』という、ダンジョンの機能の一つだ。配下の魔物のみと交信可能で、いつもリルを呼ぶ時はこれを使用している。
「ちょっと、手伝って欲しいんだ――」
* * *
「リルッ!あそこだッ!!」
「グルゥ!!」
俺の声にすぐに反応を示し、リルは一瞬だけ物凄い速度で加速し、俺の指定したポイントを大きく飛び越してから後ろを向き直る。
その俺達の視界に映るのは、怪獣染みた雄叫びを上げながら、木々をなぎ倒して迫り来る、バカでかい亀。
コイツは『グランドトータス』という亀の魔物だ。
攻撃自体はそんな強くないのだが、亀というだけあってアホみたいな硬さがあり、凄まじい斬れ味を誇る罪焔であっても甲羅には刃を通すことが出来ない。
刃が通るのは甲羅から伸びる首や足だけだ。
しかも、危機を感じるとそのアホ強度の甲羅の中に引っ込み、外部の脅威がいなくなるまで絶対に動き出さないので、倒そうと思えば一撃でその首を飛ばす必要がある。
まあ、翼が二対になってから大分空中制御が容易になったため、空から急降下をかまして素っ首だけを斬り落とすことも可能になった故に、今の俺の手を煩わせるような敵ではない。
リルも、その素早さから一瞬で首を嚙み砕くことも出来るだろう。
ただ、防御は非常に高く、しかし倒そうと思ったらすぐに倒せるというその性質上、今回の実験には最適だろうと住処から一匹釣って来たのだ。
ちなみにどう釣って来たのかと言うと、ヤツがちょうど住処を離れていたので、その住処にあったデカい卵を目の前で盗みました。食べられるかどうか知らんが、その卵は後でレイラに渡しておくとしよう。
怒り心頭の表情の亀野郎は、そのまま俺達に向かってドシドシと走って来て――俺が仕掛けた罠の上を通過した。
刹那、小さな爆音。
同時、地面から空間に幾百の刃物がばら撒かれ、その内の数本が手足にズカカ、と刺さる。
亀野郎は最初、刺さった刃物など歯牙にもかけず、そのまま俺達の方へと向かって来ようとするが――ガクリ、と急に足を挫く。
何が起こっているのかわからない、といった様子の亀だったが、そのまま砂埃を上げながら地へと倒れ、そして動かなくなった。
分析スキルで見る限り、HPはまだ残っているので、恐らく昏睡状態に陥ったのだろう。
「うはーっ、すげえな、こりゃ」
予め原初魔法を発動して、水の大盾で飛んで来る刃を防いでいた俺は、その結果に満足の声を漏らす。
流石、一番DPを食う罠だっただけある。この巨体に、こんな短い時間で毒を回らせるか。これなら、魔物以外の人型のヤツにも十分有効だろう。
回復魔法なるものもあるそうだからわからんが、少なくともポーションを使う間もなく昏睡させることは可能なはずだ。
俺はリルの上から降り、その首を斬り落として死体をDPに変えてから、リルに声を掛ける。
「リル、お前も気を付けとけよ。基本罠は敵が来た時しか起動しないし、お前もダンジョンの魔物だから罠のある位置は見えてるだろうけど、起動した罠を踏んだ時はお前にも効果あるからな」
俺がそう言うと、リルは「気を付けます」とでも言いたげにこくりと首を縦に振った。
「あと、そうだ、リル。俺、今度お前の後輩召喚するつもりだから、召喚したら面倒見てやって欲しいんだ」
「クゥ?」
リルから疑問げな鳴き声が返って来る。
「あぁ。ウチのダンジョンモンスターとして、他のどの魔物にも負けないように鍛えてやってくれ。頼んだぜ」
「クゥ」
我が家のペットの頼もしい返事に、俺は満足げに頷いてその首筋をポンポンと叩いた。
「――よし!今日はこのまま魔物狩りに行くか。リルにも大分離されちまったし、俺もレベル上げしとかねぇとな」
「クゥ?」
「そういや言ってなかったな。街でちょっと、すんごい強いヤツと戦う機会があってよ。このままだとちょっと危ないから、俺も鍛え直すことにしたんだ――」




