我が麗しのダンジョン
太陽が真上から、暖かい陽光を差し込む昼下がり。
「あー、やっと帰って来た」
いつもの洞窟の前に辿り着いたところで、俺はそう言葉を溢す。
リルの身体をベッドに少しだけ仮眠を取ったからというのもあるのだろうが……途中、少々雑事を片付ける必要が出て来たせいで、勇者がいないから本気でリルを走らせていたのにもかかわらず、行きより時間が掛かってしまった。
というのも、帰りの道中で『盗賊団』なるものとかち合わせしたのだ。
有無を言わせず襲って来たもんだから、とりあえず全員返り討ちにし、ついでに近くにあったそのアジトに殴り込みをかけ、盗賊どもが溜め込んでいた金銀財宝を奪って、最後にアジトごと燃やしてきた。
……何だか俺の方が犯罪者染みた所業だがまあ、どいつもこいつも称号を見る限り、情状酌量の余地無しだったので別にいいだろう。
俺、何故か知らないけど断罪の魔王なので。天罰とでも思っていただこう。
いやー、初めての盗賊アジトは正直、かなり楽しかったです。
盗賊ども、捨てられた砦のようなところを活動拠点にしており、そこを攻略するのは往年のRPGのクエストでもやっている気分だった。
機会があれば、またその内襲いに行ってもいいかもしれない。金目の物も手に入るし。使い道はないが。
……いや、そう言えばやったことなかったので忘れていたが、死体じゃなくともダンジョンの糧として吸収出来るんだったな。
後で吸わせてみるか。もしかするとDPが多く得られるかもしれない。
とまあ、そんなことを考えながら、リルとはすでに別れているので一人で洞窟の中を進み、普段は草原エリアへと繋がる扉から直接、真・玉座の間へと向かう。
「ただいまー」
「――!おにいちゃん、おかえり!」
部屋に入ると、すぐにこちらに気が付いたイルーナが、トテトテと駆け寄り、勢い余ってそのまま抱き付いて来た。
「オカエリ、アルジ!」
一歩遅れて、同じようにトテトテとやって来て俺の腰に抱き付くシィ。
「おう、ただいま、二人とも」
嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべて俺を見上げる二人の頭を、両手で撫でる。
あぁ、癒される……。
「ご主人!おかえりっす!」
「魔王様、おかえりなさいませー」
メイドさん達に「ただいま」と挨拶を返してから、俺は、ダンジョンのもう一人の住人の方へと顔を向ける。
「ただいま、レフィ」
こちらを見ていた彼女と目が合うと、レフィは何故かちょっと頬を紅く染め、口を開けたり閉めたりを繰り返し、そしてコホンと咳払いしてから、努めて何事もないかのような表情を浮かべる。
あ?どうしたんだ、コイツ?
「う、うむ、ようやく帰ったか」
と、彼女は幼女まみれになっている俺の傍まで来ると、俺の服の端をちょこんと掴み、今度は若干もじもじしながら、恥ずかしそうに言葉を続ける。
「お、お主がいなくて、わ、儂は寂しかったぞ」
「コフッ」
堪らず噴き出す俺。
「お、おい、どうしたんだ、レフィ?何かヘンなものでも食べちゃったのか?」
「べ、別に普通じゃ。その……お、お主と会えないのが、こんなに辛いとは思っていなかっただけじゃ」
「ひゅいっ!?」
レフィの口から放たれる甘い言葉に、へんな声が漏れる。
ホ、ホントにどうしちゃったんだ、レフィ!?
今の小動物染みたレフィは、抱き締めて持って帰りたいぐらいには可愛いのだが……正直、違和感が半端ない。
一言で言って、キャラが違い過ぎる。何かの天変地異の前触れだろうか。レフィがやるとマジで天変地異が起こせるから洒落にならない。
皆は違和感を感じないのか、と周囲を見渡すと、何故かこちらを見てガッツポーズをしているリューと、いつも以上にニコニコしているレイラ。
もしや……何かアイツらに、入れ知恵されたのか?
と、口を開こうとしたその時、レフィが何やら怪訝そうな声を上げる。
「む……?ユキ」
鼻をスンスン鳴らして、俺の体臭を嗅ぐレフィ。
「な、何だよ?」
「……お主から、別の女の臭いが凄いするんじゃが?これはどういうことかの?」
ヒィ、ば、バレた……!?
「い、いや、別にやましいところは無いぞ?向こうでちょっと、子供に懐かれて、相手をする機会があっただけだ。女の臭いっつっても、い、イルーナよりちょっと大きいぐらいの子の香りだろう」
「ほう?つまりお主は、また性懲りもなく幼女に手を出し、その歪んだ性癖を発散させてきた訳じゃな?」
「その解釈には非常に悪意を感じるぞ!?」
凄みのある笑顔を浮かべるレフィに、脂汗ダラダラで戦々恐々とする俺だったが、彼女は突然ハッと我に返ったようになると、ふるふると首を振ってから言葉を続ける。
「……まあ、良い。お主も疲れたろう。昼飯は食ったのか?」
「へ?い、いや、まだだ」
「ふむ。ならば丁度良い。儂らも今から昼にするところじゃ。ほれ、二人とも。そろそろ離してやれ。飯の準備をするぞ」
「はーい!」
「ウン、オネエチャン!」
幼女二人は、元気に返事して俺から離れて行く。
「ユキ、お主は先に座って待っておれ」
「あ、あぁ。わかった」
そうして俺は、レフィに連れられ食卓の椅子に腰を下ろす。
そのレフィはと言うと、珍しいことに、本当に珍しいことに、俺の案内をした後皿運びの手伝いをとキッチンの方へ消えて行った。
「……何が起きているんだ、いったい……」
この身を襲う怪奇に、ただ俺はそう呟くことしか出来なかった。
ここからずっとレフィのターン。




