謁見堂2
「あの者らは逆賊なるぞ!!ひっ捕らえよ!!」
戦闘の余波か、割れた窓から聞こえて来るその声。
どういう訳か、クソ王子は朗々と上段から演説をかましているが、しかし、ステータスは見る者を誤魔化すことが出来ても決して嘘を吐かない。ヤツのHPは全損を示している。
加えて、魔力眼を併用しているからわかることだが、あのクソ王子、いつかのゾンビどもと同じように全身を魔力でガチガチに縛られている。
見れば見る程ただの生者にしか思えないアレは、完全に操り人形そのものだ。
恐らく、スキルか魔法かはわからないものの、以前街で遭遇したゾンビどもを操っていたヤツらより、あの王子を操っているヤツの方が技術に長けているのだろう。
プラーガでも体内に植え付けられたか?いや、アレに寄生されているヤツらは別に、死人という訳ではなかったな。
まあ、冗談はさておくにしても、魔力眼でよくよく見ればあの王子の身体部位の内、特に脳味噌から脊髄にかけての中枢神経系の辺りが重点的に魔力で縛られ、活発に運動していることがわかる。
以前に見たゾンビどもには、そんな特徴はなかった。恐らくはあれこそが、あそこまで生者に近しい死人を作り上げることを可能にしている要因だろう。
ただ……いくら普通の人間に見えるからといって、これは少々、おかしい。
――何故、誰もそのことに気が付かない?
俺が疑問に感じるのは、そこだ。
そういう、敵を傀儡にして操る術が存在する世界であるならば、対抗手段や看破手段も同様に存在するはずだ。というか、無い訳がない。
そして、仮にも一国のトップに立つ王室なら、それぐらいの道具は当然の如く持っていて然るべきものであり、用意していないなどあまりにもお粗末に過ぎる話である。
それに、地下牢で少し話をした時に、国王は自身の息子が『どんどんおかしくなって』と言っていた。
あの国王も急激に変化した息子に対して不審に思っていたのだし、であればこそ、そのような看破手段も用いたことがあったはずだ。
アイツがいつからゾンビになっているのかは知らないが、しかしそういう兆候を見つけていたのであれば、クソ王子が何者かに干渉され、敵の手駒にされつつあるということに、とっくに気が付いていても――。
……いや、違うな。
ふと俺の眼に留まったのは、内部に強力な魔力を有している、クソ王子の指に嵌まっている一つの指輪。
虚実の指輪:他者からのステータス干渉に対し、虚実を織り交ぜて見せることが出来る。品質:S−。
――あれが、原因か。
品質を見るに、あれはほぼ最高級品に近い。あの指輪のせいで、そういう看破する能力が誤魔化されているのだろう。
俺が見破れたのは……俺の持つ分析スキルのスキルレベルの高さが故か。
レフィのステータスを見たいがために上げていたのに、いつまで経っても見えないもんで、全然そんな気にはならないのだが、俺の分析スキルのスキルレベルは非常に高い。
そう、『ほぼ』最高級品であるあの指輪の効果程度であれば、無効化出来るぐらいには高いのだ。
全く……レフィの底知れなさがよくわかるな。
俺は苦笑を浮かべてから、雑念を追い払い部屋の内部の様子を観察する。
――あのクソ王子は、マリオネットだ。糸を操る者が、別で存在する。
だが、あれだけ精巧に死体を人間に見せかけているのだ。なれば、遠くから操作をしているという可能性は極めて薄いと思われる。
何せ、死体に言葉を喋らせているのだ。その場の状況に適宜応じた言葉を喋らせなければ怪しまれることは確実だろうし、であるならばその場の近くにいて状況を知る必要がある。
俺の持っているイービルイヤーやイービルアイのようなものを使用している可能性も考え得るが……魔力眼で見る限り、そのようなものは見当たらない。
サーマルスコープを想像したら早いか。魔力眼は、あんな感じで周囲の魔力反応を識別することが可能で、故に魔力を使用して姿を隠している隠密スキルなどであれば、余裕で見抜くことが出来る。
まあ、スキルレベル10とかの隠密だったらどうなるかわからないのだが、ただスキルレベル10などレフィですら無数に有するスキルの中で、数個しか到達していないと言っていた。
であるならば、現実的に考え、魔力眼に反応が無いということはまずこの場にそんなものは無いと考えていいだろう。
そう判断を下した俺は、分析スキルと魔力眼を併用して、順繰りに敵のあぶり出しに掛かり――。
――いた。
部屋の隅で、大臣みたいな恰好をしている一人の男。フードを被っていて、顔は見えない。
残念ながら、ソイツの胸から下げられている宝珠からジャミング波のようなものが出されており、能力値の数値を誤魔化すとかそれ以前に分析スキル自体が通らないのだが……逆に考えて、ヤツにはこの場においてステータスを隠す必要がある、ということだ。
そして、何より決定的なのは――ヤツの持つ、魔力。
魔力は、個々で微妙に波長が違うことを魔力眼を通して知っているのだが、クソ王子を縛る魔力とあの男の持つ魔力は、一致している。
アイツが、糸の端を握っている黒幕だ。
フン……自分で戦わず、他者を操って裏で笑う。いけ好かない連中だ。
俺を敵に回したツケ、高く付くぞ。
敵に目星を付けた俺は、外から王城の外観を眺め、ちょうど良い突入ポイントを探る。
位置は……ここがいいか。
移動し、突入ポイントを決めると、少し城から距離を取る。
十分に助走を付けられる位置まで移動した俺は、すぐに反転して城へと身体を向け、思い切り翼を羽ばたかせる。
グオン、と急加速し、風圧が身体を襲う。
そのまま、狙い定めた窓ガラスに激突する直前で翼を消し――一気に突き破って、内部へと侵入した。
飛び散る、ガラスの破片。
突然飛び込んで来た何者かに、内部から漏れ出る驚愕の声。
俺は落下の勢いを乗せ、同じく驚愕して動きを止めていた黒幕に向かって、叩き付けるようにして罪焔を振り下ろした――。




