ラストバトル(後編)
声に応え、微居は右方向に側転を繰り出す。
すると、エターナル・メタルマンの黒砂の刃は、微居の目の前で交錯したあと、それぞれがあらぬ方向へ飛んでいく。
「おいおい、微居! 俺の存在を忘れてんじゃないのか?」
目を向ければ、広げた掌で眉間の中心を押さえるようなポージングの、いわゆるジョジョ立ち姿の少年が。
「絵井……!」
「次来るぞ! 9時に跳べ!」
すかさず、横っ飛びでかわす微居。肌を掠めるぐらいのギリギリではあったが、ノーダメージで切り抜ける。
「次は5時! 10時っ! 真上にジャンプ!」
「おう!」
微居は息の合った絵井とのコンビネーションで猛攻を避け、加えて反撃の岩をエタルマンに放つ。
ドドドンッ!
「ちいッ!」
黒い巨神は右腕でそれらを弾き飛ばし、茶色髪の少年に赤い眼の照準を合わせる。
「てめェがあッ!」
左腕から放った黒い大蛇が、唸りを上げて絵井を襲う!
「絵井っ!!」
「ジュエルちゃん、8時だ!」
「はいです!」
しかし、2人は織り込み済みだとばかりにバックステップで避難すると、敵の攻撃は目標を見失ったかのように明後日の方角へ逸れて行った。
「モブのくせに、躱しやがっただと!?」
「へへっ、俺の耳は超音波探知機でね。お前の狙いや攻撃速度は音で読む事ができる。かわすだけなら訳ないさ」
絵井は自分の耳を指差しながら、ニヤッと笑う。
「くそモブがァ……!」
「クズ鉄のくせに、絵井をバカにしてんじゃねーよ」
ドガンッ!
再び絵井に向けて攻撃態勢を取ろうとする、エタルマンの後頭に微居の岩が炸裂する!
「がッ!?」
「どうだ、俺の『相棒』はスゲーだろ?」
「……!」
微居が不敵に微笑みながら、何気なく放ったその言葉。
それは、絵井が岩使いの少年と出会ってから、ずっと追い続けていた『称号』。
絵井の背筋に、感無量の武者震いが走る。
「……ああ、そうだ! 俺とお前が揃えば最強だ! あいつの攻撃は俺が読むから、お前は遠慮なくぶちかませ!」
「おう!」
「微居さん、これを!」
突如、ジュエルから放たれた乳緑色の石を、微居は片手で受ける。
「これは……!」
「シャンカラ・ストーンはあらゆる岩や鉱石に干渉できるアイテムです。微居さんなら、きっとあいつに対抗出来ます!」
微居は3人で手に入れた秘石を握る。すると、石から放たれる緑色の光が全身を淡く包み込む。
「……見えたっ!」
「てめェらァ! 何をゴチャゴチャやってやがるッ!」
黒い機神が地面を殴りつけると無数の鉄剣が発生し、ズガガガガッ! と大地を削りながら微居に迫る。
「4時の方向に逃げろ、微居!」
「微居さん!」
だが微居は避ける素振りも見せない。シャンカラ・ストーンをパーカーのフードにしまうと、その場にしゃがみ込み、地面に手を当てる。
「……岩寄せ」
ゴバァッ!
「『ストーンヘンジ』ッ!」
微居の足元から巨大な岩壁がせり上がり、津波のように襲い来る剣を防ぎきる。
その巨岩の風格は、まさにイギリスの世界遺産!
「何だとーッ!?」
「岩寄せ」
ボコンッ!
微居は地中から飛び出して来た手頃な岩を、掌の中に収める。
「『スーパー・ロックバスター』ッ!」
キャノン砲のように撃ち出された岩は、鮮やかな緑色のオーラを放ち、地面からタケノコのように突き立つ黒剣をことごとく消し飛ばしながら標的に向かう!
ガオンッ!!
「ぐおッ!?」
エタルマンは身を捩って避けるが、弾岩が掠めた脇腹が、空間を削り飛ばしたかのように丸くえぐれる。
纏われていた砂鉄の鎧に干渉し、削り取る。これもシャンカラ・ストーンの能力の一端であった。
「……面白れえ。これで、勝負は五分ってところか?」
「ナメんじゃねェぞ、てめェ……!」
*
「ロックバスターッ!」
「ケッ、しゃらくせェーッ!」
微居が投げる光の岩とエタルマンが放つ黒刃の威力は拮抗し、弾けるように相殺される。
「微居、6時に下がれ! 2時に跳べ! 上、上、下、下、左右左右、B、A!」
「おう!」
微居は錆の臭いが漂う弾幕を走りながら掻い潜り、間断なく反撃を行う。
月下に繰り広げられる、互角の戦い。
いつ果てるか知れない戦闘を、ジュエルは固唾を飲んで見守っている。
しかし!
「『ロックマンB』は半年も連載しているくせに、ブックマークは20件足らず、PVは3000、ポイントも二ケタ。やっぱモブが主人公じゃその程度だなァ! 大爆死もいいとこじゃねェかッ!」
「ゲボーッ!?」
「微居っ!?」
「微居さん!?」
エターナル・メタルマンのメタるネタが、微居の精神にクリーンヒット! 微居は間欠泉のように血を吐き出す。
「『あきぼく』の人気にあやかって、人のふんどしで相撲を取っておきながら、原作者に申し訳ねェと思わねェのかァ? てめェは、さっさと土下座で詫びやがれェッ!」
「うっ……、ぐっ!」
エタルマンの口撃に、フラフラと膝をつく微居。
そんな彼にジュエルは必死に呼び掛ける。
「微居さん! あなたはちっとも悪くないです! 毎日更新が当たり前の『なろう』で、2週間か3週間にいっぺんしか更新していない、『ロックマンB』の作者がいけないんですっ!」
「ジュエル、そんな事は言ってやるな……」
ジュエルの辛辣な励ましに、微居は口元の血をぬぐい、震える膝を抑えながらも立ち上がる。
「……作者は忙しい合間を縫って、スキマ時間にちまちま書き溜めているんだ。むしろ、誉めてやってくれ」
「そうかァ? 更新が滞ってる理由の半分は、作者がコーエーテ◯モの『三國志14』にハマってたかららしいぞ?」
「言うなーっ!!」
攻防戦はさらに激しさを増す。
聴覚を研ぎ澄まし、必死に微居のサポートをしていた絵井にも異変が。
タラーッ。
「あっ、絵井さん! 鼻から鼻血が!」
神経を集中しすぎたせいか、彼の鼻から赤い筋が垂れる。
「ジュエルちゃん! 今は手が離せないから、ちり紙を詰めてくれないか?」
「了解です!」
ジュエルはティッシュをくるくる丸めると、絵井の鼻に鼻栓を押し込む。
しかし!
「ああっ! 今度は、耳から耳血が!」
耳からの出血に、ジュエルは慌ててティッシュを丸め、絵井に耳栓をしようとしたが。
「いやいや、それをされたら聞こえなくなっちゃう」
「ごもっともです!」
微居は二人のやり取りを横目で見ながら、絵井の限界が近い事を知る。
さらに自身も。
「テーツテツテツッ! てめェ、動きが鈍くなって来たんじゃねェのか? オイッ!」
ビシッビシッ!
攻撃がかすり、水色のパーカーに裂け目が入る。
「……くっ!」
ヒーローになったとはいえ、微居は生身の人間。その体力には限りがある。
対するエタルマンは半永久動力炉を備えた、疲れを知らない機械化人。
戦いが長期になるほど、勝機は潰える。
「……今、ここで決める!」
微居は左手に岩を構えると緑色のオーラを纏わせる。さらに周囲に散らばった岩や地中に埋まった岩々も、輝きを放ちながら空中に浮き上がる!
「おおおおおーっ! 『ロック・ブラスター』ッ!!」
微居がトルネード投法で腕を振るう!
同時に、宙に浮いた岩も援軍とばかりにエタルマンを一斉に襲う!
ドガガガガガガガガガガッ!!
ズドドドドドドドドドドッ!!
幾条もの光線が、闇を走り抜ける。
さらに追い撃ちをかけるべく、微居は岩を投げる、投げる、投げるっ!
ドガガガガガガガガガガーーーッ!!
「おおおおおおおおおおーっ!!」
「があああああッ……! うおらァーッ!!」
ドバンッ!
飛来する岩を全て撃墜し、弾き飛ばしたエタルマン。だが、赫い視線を先に向けると。
「なあっ!?」
「俺の全てを、この一投に懸ける……っ!」
天球を担ぎ上げるアトラス神のように、巨大なエネルギー弾を右腕で掲げる微居の姿。
それは、大量の岩を集積して創り上げた、いわゆる岩の『元気玉』!
「これで最後だっ! 『メテオ・ドライヴ』ッッッ!!」
微居は左足を高く上げた、巨人の星の天馬投法で緑色に輝く巨岩を放つ。
光球は草原をえぐり、地面に跡を刻みながら敵を捕捉し、激突する!
「ごがあああァァァーーーッ!!」
あまりの速度にエタルマンは避ける事も出来ず、真正面から受け止めざるを得ない。
両腕で弾き返そうとするが、その圧倒的なパワーに押され、ズルズルと足を引きずらせながら後退していく。
「があァッッ!」
ズドンズドンと両足を地面にめり込ませ、何とかその場で持ちこたえる暗黒の巨神。
だが、全身に纏った砂鉄の黒鎧が、ボロボロボロと崩れ落ちる。
しかしっ!
「ぐああああああああああ…………ッ、があああああーーーッ!!!」
ドオォーーーンッ!!
エタルマンは両腕で巨岩を捻り潰し、粉々に破壊!
緑色の光が周囲に拡散し、微居が全身全霊を込めた一撃を完全消滅させた。
『ウリイイイイイイイイイイィーーーッ!!』
砂鉄が剥がれ落ち、元の機人の姿に戻ったメタルマンが高らかに勝利の凱歌を上げる。
胸部の赤い秘石が、脈々と耀く。
力を使い果たし尽くした微居は、足元から崩れ落ちた。
「微居が、負けた……?」
「そんな……」
「マグネット・ストリーム」
すかさず、殺戮機人は自らの右腕に黒い砂塵を纏わせる。
「ブラック・フィストォッ!!」
「まずいっ! 微居、7時だっ!!」
「微居さんっ!」
しかし、微居は跳び退るどころか立ち上がる事すら出来ない。
「サモン・ロッ……」
ゴドオォッッッ!!!
辛うじて防御の体勢を取ろうとしたが、ほとんど防ぐ事も出来ず。
丸太を振り回したような巨腕の重い一撃を受け、微居は無惨にも紙クズのように吹き飛んだ。
『微居ーーーーーっ!!!』




