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ラストバトル(前編)

 ……俺の人生は、常に『岩』と共にあった。


 昔、俺の家はすげー貧乏で(今でも俺の部屋にはエアコンが無いが)、俺が赤ん坊の頃から玩具(オモチャ)やぬいぐるみの代わりに親から与えられたのが『岩』だった。


 今思えば随分ヒデえ話だが、周りが戦隊モノやお面のライダーのソフビ人形に興じている時に、1人岩で遊び続けていたおかげで、俺は『岩の声』を聞けるようになり、(しま)いには『岩と会話』が出来るようになった。


 特殊な能力(ちから)を身に付けた俺は、きっとマンガやアニメみたいな主人公キャラになるのだろうと思い、来るべく時に備えて、俺は自らの技を鍛えに鍛え上げていた。


 ……しかし、その夢はあっさりと砕かれる。


 どのマンガやアニメ、ラノベを見ても、火・水・風属性の主人公は腐るほどいるのに、『岩使い』や『地属性能力者』は敵キャラや雑魚キャラ、あるいは地味なモブキャラしか存在しないという事に俺は気づいてしまった。


 岩使いは、主人公にはなれない。

 地属性能力者では、俺は主人公キャラを目指す事は出来ない。


 だが、俺に岩を()てるという選択はあり得なかった。


 生まれた時から、俺の側には岩があった。

 岩だけは俺を裏切らず、苦しい時も辛い時も、岩は常に俺に寄り添ってくれた。


 だから俺は岩を捨てるくらいなら夢を捨て、一生モブキャラでもかまわないと思っていた。



 それでも……。



 *



 真円を描く月が煌々と照らす中、微居はポーン、ポーンと片手で岩を放り上げ、メタルマンを()めつけながら対峙する。


「……絵井、ジュエルを頼む」

「ジュエルちゃん、こっちへ」


 モブの特性をフルに生かし、気配を消して忍び寄っていた絵井がジュエルをその場から連れ出す。

 シャンカラ・ストーン奪取を阻止されたメタルマンは、大袈裟にため息を()いて首を振った。


「てめェはよォ、『悪役令嬢』ブームをどう思う?」

「……ヤブから棒に、一体何だ?」


 脈絡も無い問いに、きょとんとする微居。


「俺様ァ、あの手の話が実に気に食わなくてなァ。転生した奴らは悪役になったくせに、死亡フラグ回避だの、らしくねェ善行を施したりで、結局良い子ちゃんぶりやがる。せっかく悪役になったんならよォ、死んでも悪を貫き、悪の限りを尽くせってんだ」

「何が言いたい?」

(てめェ)の分を(わきま)えろっつう話だァ! モブが主人公(ヅラ)してんじゃねェぞゴラァッ!!」


 ドリルを鳴らして恫喝するメタルマンに、微居は薄く笑い。


「……そいつは悪かった。真の悪役にモブが相手じゃ不足だったか?」


 放り上げていた岩を右手でパシッと掴むと、颯爽と構えた。


「だったら、今日の俺は主人公(ヒーロー)だ」

(シャ)()臭せェ事、言ってんじゃねェーッ!!」


 怒号とともにメタルマンは、鋼鉄の刃を放つ。

 微居は迫る複数の鉄刃を軽快にかわし、すぐさまに岩を投擲する。


 キュドンッッ!!


「があッ!?」


 機人には、突然目の前に岩が現れたようにしか見えなかっただろう。

 カウンター気味に顔面に直撃し、メタルマンは首が(ねじ)切れんばかりにのけ反りながら、大きく吹き飛ぶ!


「もう俺はモブじゃねえ。弾速(スピード)も威力も今までと同じと思うなよ?」


 その攻防を離れたところから見守る、絵井とジュエル。

 絵井は微居の勇姿を目にし、(つぶや)く声を上ずらせる。


「戻って来た……」

「え?」

「あの頃の微居(アイツ)(かえ)って来た。『ラノベやマンガに出てくる主人公みたいな』微居だ」


 地面を転がりつつも態勢を立て直したメタルマンは、右腕に鈍色の鉄刃を出現させ。


「クソがァッ! マルノコ……」


 バチィッ!


 視認できないほどの高速の岩が、機人の腕からブレイドを弾き飛ばす。


「!!?」


 微居の右腕が振り抜かれると、更なる岩が機人を襲う!


 ドゴォッ! ドゴゴォッ!!


「もう、そんなトロい技は通用しねえぞ」

「ッ!」

「おらおらおらおらぁーっ!!」


 ドガガガガガガガガガガッ!


 先ほど、微居が岩を地面にばら撒いたのは荷重を減らし、身軽さと瞬発力を上げるため。

 主人公と化した微居から放たれる岩の破壊力は、まさしく戦闘機の機銃掃射!


「ぐおおおおおおおおおおッ!?」


 圧倒的な物量が、鋼鉄の機人を追い詰める。

 しかし!


「がああッ! マグネット・ストリームッ!!」


 黒い旋風がメタルマンの周囲を巻き、バルカン砲のような弾幕を受け止める。

 ドドドドッと、岩と砂鉄が草原に散らばった。 


「……さすがにタフな野郎だな」

「はあッ、はあッ……。やってくれんじゃねェかよ。悔しいが認めてやるよ、てめェが主人公だって事をよォ……」


 肩で息をしながら、メタルマンはまともに微居に向き直る。


「てめェがヒーローだってんなら、俺様はラスボスだァ! 『電磁界嵐(マグネット・ストーム)』ッ!!」」


 鋼鉄の機人が両手を掲げると、胸に埋め込んだシャンカラ・ストーンが赤く輝き、燃えるようなオーラが全身から放たれる。


 ゴオウッ!


「うおっ!?」

「微居、気を付けろ!」

「とてつもないエネルギーです!」


 熱を孕んだ突風が微居だけでなく、距離を置いている絵井とジュエルにも吹き付ける。


『ウリイイイイイイイイイイィーーーッ!!』


 怪鳥(けちょう)のような機人の雄叫びに大地が(うな)り、地面から砂鉄の霧が湧き出て来る。

 それだけではない。

 山中に捨てられた空き缶や鉄クズ、果てはスクーターや冷蔵庫、自動車までがメタルマンに引き寄せられる!

 新生物を創成するかのように、ぐにょぐにょと黒い塊が(うごめ)き、(つい)には5mを超える巨大な人型が形成された。


「で、デカい……!」

「ば、化け物……!?」


 遠目に見ている絵井とジュエルでさえも圧倒される偉容。

 いかにも『力が欲しいか?』とでも言いそうな黒い巨神は、赤い眼光を(たぎ)らせながら名乗りを上げる。


「テーツテツテツ! どうだァ、これが俺様の最終(ラスボス)形態ッ! 名付けて、永遠なる鋼鉄巨人エターナル・メタルマン。略して『()()()マン』ッ!」

「縁起でもねえな」

「スカしてられんのもそこまでだァ! ブラック・フィストォッ!」


 巨人が左の黒腕を繰り出すと大蛇のように伸長し、微居を襲う!


「うおっ!?」


 さらに、ムチのようにしなりながら(サイド)に払われる腕を、微居は跳躍してかわす。


「ブラック・ブレイドッ!」


 続いて、宙に浮いた微居を刻まんとばかりに、肩に搭載したドリル砲から黒い渦巻状の斬撃を散らす。


「ちいっ!」


 微居は空中で(たい)をひねりつつ、黒い巨人の胴体に豪腕を振るう。


「ロックバスターッ!」


 ドドドドドンッ!


 しかしっ!


「テーツテツテツ! そんな豆鉄砲じゃ、ダメージは入らねェぜ?」


 ボディに岩がめり込むが、纏った砂鉄や鉄屑が緩衝材となり、ビクともする様子もない。

 機神は、巨獣のような黒く太い右腕を地面に叩きつける!


「ブラック・スパイクッ!」


 ズガガガガガッ!


 剣竜類(ステゴサウルス)()(すじ)を思わせる無数の鉄刃が、微居に向かって地面を(はし)る。


「くっ!」


 横っ飛びで回避する微居。そこへ、鎌首をもたげた大蛇の左腕と、鉄砂の黒刃が一斉に迫る!


 ビュオンッ! グオンッ! ズガガガガッ!


 主人公モードで身体能力を底上げした微居だが、流石(さすが)に3種類の同時攻撃を(さば)き切る事は難しい。

 それでも、必死の迎撃インターセプトを見せていたが。


「ぐっ……!」


 ズガガガガガガガガッ! ズドガッ!!


『!!』


 ついに地面から生えた黒い(つるぎ)が、微居の腹部を刺し貫いた!


「微居ーっ!!」

「微居さん!?」


 地に倒れ伏す微居。だが、ふらつきながらも(すぐ)に立ち上がる。


「……大丈夫だ。こいつが(まも)ってくれたからな」


 穴の空いたパーカーからボタボタと零れ落ちるのは、血液ではなく砕けた石板の欠片。

 それは、微居が物語の冒頭からずっと磨いていた『(ばい)()(せき)』。


「……すまない、最後まで磨いてやれなくて。だが、お前のおかげで助かった」


 欠片を拾い上げ、人に遇するがごとく岩に感謝する微居。

 だが、その姿を鋼鉄の巨人はくだらねェとばかりに(あざけ)(わら)う。


「石ころに救われてちゃ、世話ねェなァ! だが、てめェの悪運もここまでだァ! 極殺ッ! 『ブラック・トライデント』ォーッ!」


 エタルマンの咆哮とともに放たれる黒蛇・黒渦・黒剣の三重奏が、岩使いを死へと(いざな)う。


「ちっ、()()も無え……」


 微居は両手に岩を構え、玉砕覚悟の特攻を試みた。


 しかし、その時。


 彼が最も信頼を置く、少年の叫びが雷鳴のように戦場に轟く!


『3時の方向に()()れ、微居!!』

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[良い点] 今回は一際微居が輝いていますね! 主人公になれなかったモブの意地を見ました。
[一言] >俺が赤ん坊の頃から玩具やぬいぐるみの代わりに親から与えられたのが『岩』だった。 wwww >岩だけは俺を裏切らず、苦しい時も辛い時も、岩は常に俺に寄り添ってくれた。 そ、そりゃあね?ww…
[良い点] キャーーー(・∀・)微居くんカッコイイ!! でもってメタルマン(※最終形態)の略称がッ!!なんとラスボスに相応しいネーミングなのでしょう←褒めてます [一言] いよいよ大詰めですね!
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