第六話 空2 -Entity and Empty2-
無。何も無い状態――何も考えない状態。
俺は無、俺は何も考えない、考えない、考えない考えない考えない考えない――
「喝っ!」
すぱーんと小気味よい音とともに背中が打ち付けられ、ヒリヒリと灼熱感を伴う痛みに俺の瞑想はまたも中断を余儀なくされた。
いや逆か。瞑想できていないから背中を叩かれたのだ。
俺と優は今、子連れの観光客たちに混じって寺の法堂に集まり、座禅の体験会に参加している。
座って教えられたとおりに手で印を組み、じっと心を落ち着かせること十数分。既に俺は四度も背中を叩かれてしまった。その度に周囲の子供たちがクスクスと笑うのが聞こえてくる。
……屈辱だ。
座禅の始まる少し前に住職さんと座禅の監督役のお坊さん――直堂さんという役職らしい――にこっそり呼ばれて説明を受けたところによると、そもそも本来こういった座禅方式はこの寺とは違う宗派のやり方だそうだ。しかし観光客はそんな細かい宗派の違いなど知らないため、テレビ等でよく取り上げられるこの方式の座禅の方がウケが良い。ことさら警策と呼ばれる棒で「喝っ!」の掛け声とともに肩や背中を叩くのが、いわば「お決まり」になっている。
一般向けに開かれる坐禅会、特に子供の座禅体験会などでは、ハリセンや竹刀のように強く叩かなくても大きな音が出るようになっている警策を使って、それっぽい気分を味わいやすくしているのだという。いわばエンターテインメント性を重視したイージーモードだ。
ところがこの寺ではそんな便利な代物は用意しておらず、本格的な警策しかない。観光客に楽しんでもらえるような良い音を響かせるとなると、叩かれる側にそれ相応の痛みが生じるというわけだ。
観光客たちには座禅気分を味わって欲しいが、かといって子供と主婦が中心の観光客たちを本物の警策で叩くのも忍びない。さあ困った、どうしよう。
……とまあ、そこまで説明された時点で、いくら鈍い俺でも次にどんな頼みごとが来るか、流石に察するしかなかった。俺たちは半分サクラ、つまり叩かれ役というわけだ。
「いやー、すまないね二人とも。引き受けてもらえて助かるよ。まあ無理やり叩いたりはせず、ちゃんと座禅に集中できてない時だけにさせるから安心しなさい」
住職さんのそんな言葉に、直堂さんは笑顔で頷いていた。その笑顔に、俺はまんまと騙されてしまった。
座禅が始まってからというもの、その笑顔はどこへやら。直堂さんは厳粛そのものの表情で、数分に一回のペースで容赦のない打撃を浴びせてくる。それも一回に付き数発セットで。
一方、俺の隣に座ってる優はまだ一度も打たれていない。あまり優にまで痛い思いをさせたくなかったので好都合といえばそうなのだが……。
しかしどうやら、直堂さんは別に贔屓や気遣いで優を避けているわけじゃないらしい。横目でチラと優の姿を盗み見ると、さっきからまるで微動だにしていない。力みもなく、緩みもなく、「ただそこに存在する」という様相で静かに座している。
……優のヤツ、どう見ても座禅慣れしてやがる。大叔父さんが住職なんだし、小さい頃から時々こうして座禅をしてたのかもしれない。
となると、これはどうも優は、住職さんや直堂さんとグルなのではないか。住職さんは優と俺の二人に話を持ちかける形をとっていたものの、実際は俺一人が叩かれ役になる筋書きだったのだ。
きっと「無理やり叩いたりはしない」という言葉に嘘は無く、俺が座禅に集中できていないだけなのだろう。でも住職さんも直堂さんも、「どうせ素人がいきなり集中できるわけがない」くらいは思って、俺だけ叩く展開を予想していたはずだ。優もそれをわかった上で黙ってたに違いない。
くっそー、騙された……!
「喝っ!」
恨みの念を悶々と蓄えていた俺の背中は、再び直堂さんの警策に小気味よい音とともに打ち付けられてしまった。
思わず「いてっ!」と声に出て、それを聞いた周囲の子供がとうとう吹き出した。
……ちくしょう。重ね重ね屈辱だ。
-†-
座禅体験会の後は、引き続き法堂で少しばかり説法をして、それで観光客の相手は終了だという。
その後はようやく住職さんから話を伺えるということで、俺と優は一足先に敷地の中央にある本堂に通され、住職さんを待つことになった。
本堂は外観から想像していたよりは狭く、高校の教室より少し広い程度に感じられた。壁に掛けられた曼荼羅や、その手前に並ぶいくつもの仏像が俺たちを出迎える。
仏像は木造彫刻のものもあれば鋳造されたと思われる金属製のものもあり、その大きさも様々だ。表情も、穏やかなものだけではなく厳しく目を見開いたものもある。きっと作られた時代もまちまちなのだろう。
だが俺にはそれらが一体なんという仏なのかさっぱりわからない。例の虚空蔵菩薩もこの中にいるのだろうか。
「あー肩凝ったー!」
優はずかずかと本堂に踏み入り、お堂の真ん中で仰向けの大の字になる。いくら親戚の家みたいなものだとはいえ、物怖じしないやつだ。せっかく女の子らしい白いサマードレスを着ていても、木登りはするわ大の字で寝そべるわ、行動パターンはいつもの優だ。
そんな優の様子に俺は逆にどこかホッとして、隣に腰を下ろす。
「座禅は肩こりの解消にも良いって聞いたことがあるぞ?」
「んー、らしいね。ちゃんとやればそうなのかも。でもぼくは我流だし、ほら――じっとしてるの苦手だから」
あはは、と優は屈託のない顔で向日葵みたいに笑う。
困ったやつだ。さっきまで恨み言の一つでも言おうと意気込んでたのに、すっかりそんな気持ちが霧散してしまった。
まあ、それでも言うけどさ。
「謙遜するなよ、なかなか堂に入った座禅っぷりだったじゃないか。……おかげで俺はまだ背中が痛いんだぞ。ったく、優と住職さんたちに完全に一杯食わされた」
「や、それはリョウくんの修行が足りないだけだしー」
確かに言う通りかもしれないが、釈然としないものがある。一般家庭の平凡な高校生は普通、修行なんて足りてないだろうよ……。
「でもリョウくんに座禅を体験してもらえて良かった」
「ん……なんでだ?」
俺の問いかけに優は不敵にニヤリと笑みを返して、むくっと上体を起こした。
「座禅は心を空にするためのものらしいから」
「……へ?」
「ぼくも意味はよく分かってないんだけど、和典じいちゃんがよくそう言ってたのを覚えてたんだ。もしかしたらリョウくんだったら理解して、シスター・キャンサー攻略のヒントを掴めるかもって思って」
和典じいちゃんというのは優の大叔父である住職さんのことだ。今の優の話しぶりからすると、観光客の体験会に巻き込まれなかったとしても、最初から優は俺に座禅をさせるつもりだったのだろう。
座禅は心を空にするためのもの……それが本当なら、確かに座禅に五大の空のエレメントストーンに関するヒントが隠されていたのかもしれない。
だが、残念ながら俺はそれを見つけることができなかった。なぜならさっきの俺は座禅そのものに一生懸命になってしまっていて、エレメントストーンのことなんて頭から飛んでいたのだから。
「優、なんでそれを先に言ってくれなかったんだ? そうと知ってれば、もう少し座禅の最中に注意することもできたのに……」
「そう言うと思った。だから黙ってたんだよ」
「――どういうことだ?」
さっぱり話が掴めずにいる俺に、優は呆れ顔で溜息をつき、頬をぐにぐにと人差し指で突いてきた。
「そうやってあれこれゴチャゴチャ考えてたら座禅にならないでしょ?」
「う、それは確かに……」
「まずは先入観無しで実際に体験してもらって、頭を動かすのはその後にしたほうがいいと思ったんだよ」
「なるほど……それは賢明だった」
反論すべくも無い。最初から座禅の意味を知らされていたら、優の言う通り俺は座禅に集中しようとすることすらできなかっただろう。そうなれば警策で打たれた回数が倍どころじゃ済まなかったかもしれない。
「それにしても座禅は心を空にすること、か。俺は頭の中を無にするために、必死に何も考えないようにしてたんだけど、空ってのは空っぽ――無ってことでいいのか?」
「さあ、ぼくに訊かれてもわかんないよ……」
「わかんないってことはないだろ、優はちゃんと座禅できてたし。なあ、どうやって優は頭を空っぽにしたんだ?」
「なんかそれ、馬鹿にされてる気がするなあ……。でも、うーん――そうだなあ。空っぽとか無っていうのとは何かちょっと違うかな?」
「違う? 空は無とは違う……?」
もしも『空』が『無』と同義だったなら、それはまさにキャンサーが振るうあの謎の打ち消しの能力に通じるものがある。ようやく手がかりに近づけた――そう思った矢先に、それを覆す優の言葉で思考は混迷を極める。
「おや、座禅の反省会かな?」
そのぐちゃぐちゃの思考を断ち切ったのは、入口の方から聞こえたそんな声だった。
「あ、和典じいちゃん。説法は終わったの?」
「ああ、待たせて済まなかったね」
住職さんは禿頭を撫でながら、柔和な笑みとともに本堂に入ってきた。俺が慌てて姿勢を直して正座しようとすると、それを手振りで制止して、
「いやいや、楽になさい。……それで、何やら面白い話をしていたようだね?」
俺たちのすぐ隣にどかりと腰を下ろし、胡座をかいた。
住職さんは大姪の優と身長がほとんどかわらない。優は中二の女子としてはやや背の高い方かもしれないが、男性である住職さんは小柄なご老人という印象だ。しかもゆったりとした胡座をかいている。
だというのに、その佇まいからはどこか緊迫感というか、威厳のようなものを感じる。座禅の最中に直堂さんに背後に立たれた時以上に、ピリピリと背筋に緊張が走っていく。
「はい、座禅の目標である空というのは、無とどう違うのかと話していました」
「ふむ……」
住職さんは俺の目をじっと覗き込み、唸る。
「確か両太郎くんだったかな?」
「は、はい」
「きみは色不異空・空不異色・色即是空・空即是色という言葉を聞いたことがあるかな?」
「はい。ええと……般若心経でしたっけ」
もちろんこれもゲームやマンガの知識なので、正直自信が無い。
しかし俺の答えに住職さんは静かに頷いてくれた。よかった、合っていたらしい。
「色というのは姿かたちのある、目に見えるもの。そして空というのは目に見えないもの。その二つが実は同じものなのだという意味だ」
「目に見えないもの……?」
いまいちピンと来なくて、思わず首を傾げてしまう。すると住職さんはそれを咎めることもなく、脇に携えていた鞄の中から何かを取り出した。それはごくありふれた形の卓上電卓だった。
住職さんは「よく見なさい」と言わんばかり、俺の目の前に電卓を突きつけてくる。
「この電卓で喩えてみよう。いまは液晶画面には何も表示されていないね?」
住職さんの言う通り液晶表示部には何も映っていない。鞄の中に入っていたのだから当然だ。この手の電卓はしばらく操作をしないと自動で電源がオフになる仕組みなのだから。
俺が首肯を返すと、住職さんもゆっくり二度頷いた。
「じゃあ電源を入れてみよう。そら、今度はゼロが表示された。……さて、さっきまでの電源が入っていない状態と、こうしてゼロが表示されている状態。どちらも『何も無い』と言い表すこともできるが、果たしてこの二つは同じかな?」
住職さんの問いに、俺はまるで稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。なにしろ、言われてみるまでそんなことを考えたことは無かったのだ。
その衝撃は俺の思考を揺さぶり、かき混ぜ、新たな筋道を作り出す。まるで何かに導かれるように、次から次へと考えが湧き起こっていく。
「いえ……違います。電源が入っていない状態は、1や2のボタンを押しても何も現れない。本当の意味で何も無い、虚無でした。でも、こうしてゼロがある今は違います。1のボタンを押せば1が、2のボタンを押せば2が現れます。それは千にも万にも、億にだってなる。でもその始まりはゼロで、ゼロが無ければ何もありませんでした。だから――そうか! ゼロがあるということは、全てがあるということと同じ……ゼロの中に無限大があるんだ。逆に1でも2でも、『何かがある』ということは、その背後に『ゼロがある』ということです。これが、空……?」
止めどなく溢れてくる思考を取捨もせずに口に出し、一気にまくし立ててしまった。住職さんは少し面食らったような顔を見せ、それからすぐに穏やかな笑みを取り戻す。
「そうだ。姿かたちのあるものはすべて目に見えないものでできているし、目に見えないものはあらゆる姿かたちのあるものを内包している。その両者は違うようでいて、実は同じものなのだ。これが空即是色・色即是空という言葉の意味だと私は考えている」
「……少し理解できたような気がします」
「あるいは、物質と元素と言い換えてもいいのかもしれないね」
「元素……」
その単語に、思わずドキリとさせられる。
そうだ、確かに形のある物質は目に見えるし、手で掴むこともできる。しかしそれを形作っている一つ一つの元素は人間の目には見えないし、手で掴むこともできない。
ひょっとして、それがキャンサーの――五大の空のエレメントストーンの秘密なのだろうか?
俺たちは五大の空のエレメントストーンの力は打ち消し、あるいは消滅なのだと考えていた。でもそれは間違いだったのかもしれない。フェアリズムたちの攻撃は消えたのではなく、ゼロに変わっていたのだとしたら――。
「――さて、座禅に話を戻そうか」
俺の思考の切れ目を狙い澄ましたように、住職さんは穏やかな声で続けた。
「目に見えるということは即ち、目に見えないもので満ちているということだというのは理解したね。実は座禅の目指すところもそれだ。頭を空にするということは、何も無い空っぽの状態にすることではなく、形の無いもので満たすことなのだ」
「満たす……?」
「満たすといっても、勝手に湧いてくる欲や悩みだけで満たすのではダメだ。喜びも悲しみも、……別け隔てなくありとあらゆるもので満たす必要がある。そのためにはまず自分が自分であることの執着から意識を解き放たなければならない。どうしてかわかるかね?」
「なんとなくわかります。何が喜びだとか、悲しみだとか――それを選り分けて決めているのは自分だから……」
俺が答えると、住職さんは目を細めて頬を緩めた。その笑い方は優とよく似ていて、ようやくこの二人が親戚同士なのだと実感する。
「その通りだ。きみは随分と筋がいい。……自分を自分であることから解き放てば、喜びと悲しみに、安らぎと悩みに、あらゆるものに境界が無くなる。すると、喜びに見えていたもの、悲しみに見えていたもの、それらが全て目に見えない『空』となって己と一体化する。それは即ち、自分と世界のあらゆる存在との境界をも取り払うこと――世界と自分を一体化させることなのだ」
住職さんの言葉に、俺は先日のポプレとの戦いの最中に感じたことを思い出した。
生まれる前の赤ん坊は何も知らず、それゆえに自分とそれ以外の間に境界線が無い。全てが一つに繋がった世界の中にいる。
生まれ落ちて何かを知っていくということは、その一繋がりの世界に境界線を引くこと。あれは父親、あれは母親、あれは犬、あれは鳥、あれは車――そうやって一つだった世界を無数の存在に分割していくということだ。俺はそれをある意味で憎悪に、そして絶望に似ていると思った。
心を空にするということは、その境界線を一度すべて消し去り、自分を一繋がりの世界へと立ち返らせることなのかもしれない。あらゆるものが自分と一体化し、喜びも悲しみも、安らぎも悩みも、何もかもが形を失って始まりの中に還る。そう、それが空だ。
あるいはその『空とは何か』という定義すらも境界線の一つであり、本当の意味で空になるためには、『空とは何か』という知識すらも捨て去らなければならないのかもしれない。
「まあ、きみは仏教徒ではないのだろうから、あまり難しいことを学ぶ必要はない。きみが悩みや苦しみに心を苛まされた時、そこから自分を救う参考にしてくれれば幸いだよ」
「悩みや苦しみから……救う……?」
「この色に満ちた世界を生きている以上は、常に空であり続けることは難しい。でも一時でも心を空に近づけられたなら、悩みや苦しみは外からやってくるのではなく、自分の心が作り出しているに過ぎないのだと気がつける。それが救いになることもあるはずだ」
「そうか、それが空の、五大の空のエレメントストーンの持つ浄化の力……!」
「ふむ?」
「あ……い、いえ! こっちの話です!」
思わず声に出してしまっていた。ハッとして優に視線を送ると、ぱあっと明るい笑顔を浮かべていた。俺が答えに辿り着いたことが優にも伝わった――あるいは優自身も空とは何かを掴んだのだろう。
「ところで、両太郎くんも私に何か訊きたいことがあったのではなかったかな?」
「いえ、それはもう教えていただきました」
こうして五大の空のエレメントストーンの力を理解できたのは住職さんのおかげだ。いやたとえそれが無くても、今日の話を伺えたことは俺にとって大切な糧になるだろう。
優の親戚にこんな素晴らしい人物がいてくれて良かった。本当にそう思う。
不思議そうに首を傾げる住職さんに、そんな心からの感謝を込めて頭を下げる。
「ほほ。事情は存ぜぬが、可愛い大姪とその友人の役に立てたなら幸いだ」
住職さんはそう言うなりスッと音もなく手を伸ばした。
え? と思った瞬間にはその指先が優のお尻に到達する寸前で、そして他ならぬ優の手で瞬時に床に押さえつけられた。
……ええ? え?
「まったく和典じいちゃんは油断も隙も無い。昔からすぐそうやってセクハラするんだから……」
「ほっほっほ。しばらく見ない間に随分とおなごらしくなったと思ったが、腕前は健在――いや、また腕を上げたな優」
「まあ稽古はしっかり頑張ってるからね! ――って、言っとくけどそんな褒め言葉でぼくは誤魔化せないからね?」
「なあに、可愛い大姪とのちょっとしたスキンシップじゃないか」
「それにしちゃ手つきが怪しかったけど?」
「むむ、あの一瞬でそんなところまで……本当に腕を上げたな。次からどうやって触ったものか……」
「はぁ……。まったく、こんなんでよく住職が務まるよ」
先程までの威厳はどこへやら、だらしないスケベ爺さんと化した住職さんと、それを叱りつける優。突如として繰り広げられた大叔父と大姪の攻防に、俺は顔を引き攣らせることしかできなかった。
住職さん、いろいろ台無しです。さっきの俺の尊敬の気持ちを返してください…‥。
まあ何はともあれ、他のエレメントストーンの力を呆気無く消し去ってしまう、最強にして凶悪な謎の力――そんなふうに思っていた五大の空のエレメントストーンが、本当は他と同じ浄化の力を持つ存在だと知ることができた。ならばそれをどう攻略していくか、ここから先は再び俺とフェアリズムのみんなで知恵を絞りだす段階だ。
俺と優はもう一度しっかり住職さんに礼を言い、寺を後にした。
明日はみんなで生徒会室に集まってキャンサー対策について相談しよう。優と二人でそんな話をしながら、都心へと帰るために駅の改札をくぐった。
――その時だった。
「はい、もしもし。どうした桃――」
「お兄ちゃん! パックとアリエルがエレメントストーンの波動を感じたの!」
突然かかってきた桃からの電話が、俺たちに風雲急を告げたのだった。




