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愛と元素のフェアリズム  作者: みなもとさとり
Element.2 世界を繋ぐもの
64/93

第二四話 世界を繋ぐもの 1 -Elemental Bond 1-

 決着はあっという間だった。


「きゃあっ!」


 悲鳴を上げて、マーレが俺達の方まで吹っ飛んで来る。


「マーレ! ――くそっ、チェーロ・エリアルダガーっ!」


 相棒を気にかける暇すら与えず、四体の人型フアンダーの攻撃がチェーロに襲いかかった。チェーロはさながら一陣の風の如く舞い上がって躱すと、両手を勢い良く振り回し、宙からカウンターとばかりに何十本もの風の短剣を撃ち放つ。

 だが、それが人型フアンダーたちの身を貫くのとほぼ同時に、今度はさらなる上空からスズメバチフアンダーが一斉にチェーロ目掛けて襲い掛かる。


「くぅっ……ああああぁっ!」


 無数の鋭い針に嬲られるように打ち付けられ、チェーロが落下していく。

 フェアリズムの衣服や肉体がどういう仕組みなのかはわからないが、針がチェーロの身体を貫くことは無かった。しかし、それは無効化とは程遠い。攻撃を受ける度にチェーロのコスチュームはボロボロになっていった。チェーロがよろめきながら着地した時には、露出した腕や肩に真っ赤な打撲痕が浮かんでいる。ダメージの蓄積は痛ましいほど伝わってきた。


「フアンダァァァ!」


 無数のエリアルダガーに貫かれて動きを止めていた人型フアンダーたちが、くぐもった咆哮を上げる。

 すると連中の身体に突き刺さっていた緑色の短剣は、バキッと音を立てて砕け散った。


「フアンダァァァ!」


 四体のうちの一体がもう一度吼える。今度はこちらの番だ――そう言わんばかりに、猛烈な勢いで突進、スズメバチたちを押し退けて、チェーロに体当たりをぶちかます。


「うわぁぁぁっ!」


 弾き飛ばされたチェーロは風の壁を突き抜け、そのまま俺たちのすぐ目の前にどさっと落下する。

 風の壁はそれを合図にしたかのように、呆気無く掻き消えてしまった。


 戦闘開始から僅か五分程度。既に勝敗は決したも同然だった。

 螢が眠らせていたスズメバチフアンダーも復活してしまい、敵の総数は三十を超えている。圧倒的戦力差――しかしそれだけならば、マーレとチェーロの連携を持ってすればどうにかできたかもしれない。

 だが、それを阻んだのは四体の人型フアンダーだ。


 前回の戦いの時にフアンダーにされてしまった篠原先生や渚と比べると、今回の人型フアンダーたちは無個性な外見をしている。恐らく絶望のエンブリオを使用せずに作られたフアンダーなのだろう。黒尽くめのボディスーツを着込んだようなその姿は、言ってしまえば戦隊ヒーローの敵で出てくる下っ端戦闘員のようなものだ。


 だが、その戦闘力は決して侮れない。

 連中は突出した特殊能力こそ無いものの、単調な動きのスズメバチたちと違って戦い方の幅を持っている。単なる連携戦法だけであれば、昨夜見た通りスズメバチもある程度は用いてくる。しかし人型フアンダーのそれは、さらに一つ次元が違うものだった。


 それは相手の連携を分断する動きにある。

 人型は空中のスズメバチと連携しながら、マーレとチェーロが協力し合えないように動きを巧みに分断した。そうなれば、数の有利はさらに効果を発揮する。

 人型たちの動きは、戦法よりひとつ上のレイヤー――戦術レベルに達していた。


 たとえ一、二体を行動不能に追い込んだところで、残った敵は浄化技を繰り出す暇を与えてくれない。そのうち復活されてしまい、振り出しに戻る。そんなままならない戦況が繰り返された。

 俺も螢も、マーレたちがボロボロにされていく様をただ眺めていることしかできなかった。


「ふ、あはは! 威勢だけじゃないの、フェアリズム!」


 砂浜に突っ伏すマーレとチェーロを、そして立ち尽くす俺たちを、ポプレは笑う。

 同時にフアンダーたちがモーセの海割りの如く左右にザッと散り、俺たちとポプレを結ぶ直線を空けた。


「お前たちの大事なリーダーが死ぬ様、そのまま這いつくばって見ていなさい!」


 ポプレの突き出した右手の先に、先程放った技と同じ超圧縮の水球が生み出される。とどめの一撃は自らの手で――そういう腹づもりなのだろう。


 だが、


「させ、ない……!」

「ぼくたちは、まだ負けちゃいない!」


 マーレが、チェーロが、明らかにダメージの残る身体を振り絞って立ち上がった。華奢な女の子の背中が――しかし大きな力強さを持つ二つの背中が、ポプレの射線を阻むように俺たちの眼前に並ぶ。

 既に二人とも相当なダメージを負っている。その言葉が強がりなことくらい、俺にもはっきり見て取れた。

 それでも二人はチラと俺たちに視線を向け、横顔でニッと笑う。


「あなたたち……!」


 俺の腕の中で螢が目を見開く。俺の襟元を掴む手に、ぎゅっと力が込められた。自分を守って戦う二人の姿に、果たして螢は何を思っているのか。

 対するポプレの心情は明白だった。虫でも見るかのような冷ややかな目で二人を睨めつける。


「だったらお前らも一緒に消し飛べッ! ミラージュ・ダークスプラッシュ!」

「何度でも防いでみせる! チェーロ・エリアルシールドっ!」

「マーレ・グレイシアウォール!」


 再び激しい水流と二枚の防壁が衝突する。

 だが今回は、一度目のようにはいかない。ポプレの放った水流はその激情に呼応するかの如く、さらに威力を増していた。対してマーレとチェーロの防壁はその輝きが弱まっている。


 水流の勢いに押され、マーレの水の防壁が歪む。それをチェーロの風の防壁がなんとか押し返そうとするものの、逆にジリジリと後退してしまう。


「くっ……!」

「まずい、このままじゃ……!」


 マーレとチェーロのの突き出した両手の根本、肩甲骨がグッと震える。傷ついた身体で、二人がありったけの力を込めてくれているのがわかった。

 それでもポプレの放った水流の勢いは止まらない。

 二枚の防壁は今にも突き破られてしまいそうな程に歪む。やはりフアンダーに負わされたダメージが、二人の出力を落としてしまっているのだ。


 だが、


「二人とも諦めないで! フィオーレ・ヒーリングブルームっ!」


 俺たちの背後から桃色の光の筋が二本走る。シルクのリボンのように帯を描く光の流れは、マーレとチェーロの身体に触れると一気に広がった。

 幾枚もの花びらの形に変化した桃色の輝きの中で、二人のダメージが瞬時に癒えていく。それどころか、コスチュームの破れた箇所までが修復された。


「何っ!」


 ポプレの表情に動揺が走った。そして傷の癒えた二人は、その瞬間を見逃さなかった。


「チェーロ、今です!」

「わかってる、マーレ――いくよ!」

「はぁぁぁぁっ!」


 二人の掛け声の直後、バシッ! と、まるで何かが弾けるような湿った音が轟いた。

 それは二枚の防壁がポプレの水流を相殺し、共に弾け飛んだ音だった。


「マーレ、チェーロ、遅くなってごめん!」


 俺と螢を飛び越えて、二人の近くに着地する影。

 桃色の光で二人を癒やした、回復の力を持つ木の戦士――フェアフィオーレだ。

 その肩には少女の姿の妖精、アリエルがしがみついていた。


「あぶないところだったわね、まったく世話が焼けるんだから!」


 アリエルは憎まれ口を叩きながら、フィオーレの肩から俺の頭の上に飛び移る。

 お前に世話を焼かれた覚えはない、と言ってやりたいところだが、今はそれどころじゃない。


「フィオーレ、助かりました!」

「ナイスタイミング!」

「あはは、ごめんね。(ひかる)ちゃんも麻美ちゃんも起きなかったから、書き置きだけ用意してて……」


 フィオーレはマーレとチェーロにそう言って、それから俺たちの方を振り返る。


「お兄ちゃん、螢ちゃん、もう大丈夫。二人はわたしたちが絶対に守るから!」


 迷い無く言い切るフィオーレの声は、優しさと力強さを同時に宿していた。

 その瞳に湛えた輝きは、初めてフィオーレに変身した姿を見た時よりも、そして昨夜の戦いの時よりも、より大きくなっている。


「次々と鬱陶しいわね、どうせなら一度に来なさい!」


 ポプレは忌々しげに吐き捨てた。

 ダークスプラッシュを阻まれてなお、五人のフェアリズムを同時に相手するだけの自信があるということだろうか。


「フィオーレ、チェーロ、お二人はフアンダーをお願いします。私はポプレを食い止めます!」


 猛るポプレを一瞥し、マーレが残る二人に指示を出す。二人はそれにコクリと首肯した。


 ポプレが持つのは五行の水のエレメントストーン、対するマーレは五大の水のエレメントストーン、どちらも水の力を持っている。

 以前の戦いで五行の火を持つルーチェが五大の火を持つシスター・アセロスの攻撃を打ち消したように、同じ属性の力であれば相手の技を封じることもできる。

 流石はマーレ、的確な分担だ。


 だが、俺はそれ以上に効果的な組み合わせを閃いていた。


「悪い、マーレ。口を出していいか?」

「え? ――ええ、もちろん」


 戸惑いながらもマーレが頷く。


「ポプレにはフィオーレが当たってくれ。マーレも相性が良いが、恐らくフィオーレがベストだ」

「え?」


 今度はフィオーレが困惑の声。だがその隣でチェーロは得心がいった様子で頷く。


「そうか、リョウくん――五行相生(ごぎょうそうしょう)だね?」


 流石は中二病ゲーマーのチェーロ、俺の言いたいことを瞬時に理解してくれた。

 東洋における元素の考え方である五行説には、木・火・土・金・水の五つの元素が互いを強めたり弱めたりする、相克(そうこく)相生(そうしょう)という関係性が定義されている。それによれば『水生木』……水は木を育み、その力を強めるのだ。


「フィオーレの五行の木のエレメントストーンなら、ポプレの五行の水の力を上手く利用することもできるはずだ。その優位性を駆使して、ポプレに加えて人型フアンダー四体を引き受けて欲しい。厳しい戦いになるが、ひとまず防戦に徹してもいい、とにかくポプレと人型四体を引き付けてくれ。そうすればマーレとチェーロがスズメバチに専念できる。あの数は厄介だが、広範囲の技を持つマーレとチェーロが自由に連携できる状況なら、あんな連中は怖くない――」


 一気に言い切り、三人の表情を伺う。

 三人はそれぞれ少し呆けたような顔で俺を見つめ返し、それからニッと笑って頷いた。


「――というわけだ、いけるな?」

「うん!」

「はい!」

「任せて!」


 三人は三様の返答を残して、瞬時に散開する。

 左の砂浜側にはチェーロ、右の海面側にはマーレ、そして岩場に向かって直進したのはフィオーレだ。


「フィオーレ・ヴァイン!」


 フィオーレは砂地の上を走りながら、掌から蔦を放つ。

 蔦はしなやかなロープの如くあっという間に四体の人型を縛り上げ、その一方でまるで強靭な針金のように彼らを宙に釣り上げる。


「シスター・ポプレ、いくよ!」


 フィオーレは走る勢いに乗せて、四体の人型フアンダーをポプレに向かって投げ飛ばした。


「なめるなッ!」


 ポプレはそれを避けようともせず、胸の前で両腕をバツの字に構えて振りぬいた。

 するとその手刀から水流が迸り、いくつもの半月状の刃を形作って人型フアンダーもろともフィオーレの蔦を切り裂く。


「グアアァァッ!」


 全身を切り刻まれながらも蔦の戒めから解き放たれた人型フアンダーたちは、くぐもった悲鳴を上げながらそのまますっぽ抜けるように慣性で飛んで行き、ポプレの背後の岩壁にぐしゃっと音を立てて叩きつけられた。

 四体ともそのまま力なくずるずると落下し、岩場の上に倒れている。


「なっ……!」


 味方であるフアンダーたちを平然と傷つけたポプレに、フィオーレは絶句する。


「ポプレ、あなた味方をそんな風に扱うなんて……!」

「はぁ? フアンダーが不死身なことくらい、お前だって知ってるでしょう、フェアフィオーレ?」

「だから仲間を傷つけてもいいって言うの?」

「仲間? 笑わせないで、そいつらはここに来る途中に見繕っただけの道具よ」

「道具……?」


 フィオーレの視線が人型フアンダーたちに注がれる。

 ダメージが比較的少なかった二体がよろよろと立ち上がる。残る二体はまだ倒れたままだ。いずれにせよ四体とも、放っておけば復活してしまうだろう。


「あなたのために懸命に戦おうとしている人たちを、道具だって言うの!?」

「道具よ。そいつらには元の人間の意識なんて残っていない、不安に駆られて動くだけの人形だもの。あたしに従っているのも、忠誠心でも敬愛でもなんでもないただの習性」


 ポプレは冷酷な笑みを浮かべて言い放つ。

 一時は失っていた余裕を取り戻しつつあるのか――そう思った瞬間、


「――もっとも、醜悪で脆弱な人間なんかより、こうしてあたしの道具になったほうが幸せだわ」


 ポプレは両眼を見開き、唇を歪め、本来は整った顔におぞましいほどの憎しみの形相を浮かべた。

 背筋がピリピリと震え、まるで周囲の温度が一気に下がったかのような錯覚を覚える。


 ついさっき、ポプレはダイアに向かって「人として死ねることを喜べ」と言った。その一方で今は「人間などやめてしまったほうが幸せだ」と言う。まるで真逆の言葉だ。だがそのどちらにも、根底に深い人間への絶望があるのだと伝わってくる。


「オリガ! お前は何故そこまで人間を憎む!」


 気がつけば俺は叫んでいた。

 さっきの俺たちのやりとりを知らないフィオーレは、俺の方を振り向いて訝しむように眉を顰めた。頭上からもアリエルの「オリガ……?」という呟きが聞こえる。


「何故――何故ですって? あたしの過去を覗き見したお前がそれを尋ねるの?」

「ああ。確かにお前は卑劣な連中の手によってタチアナと引き裂かれ、人生を狂わされたかもしれない。でもそれだけか? お前の周りには憎むべき人間しかいなかったのか? タチアナだって、たった今お前が醜悪で脆弱と言い捨てた人間だったんじゃないのか!」

「その通りよ、だからタチアナは死んだ!」


 ポプレが吼える。


「タチアナは自分の境遇を嘆きこそすれ、誰かを憎むことは無かった。だから死んだの。人間の本質は憎悪、憎悪こそが最も強い力。憎まなければ生きられない――憎み合って、より憎しみの強い方が生き残る。それこそがこの世の摂理――あたしはそれを教えてやっているだけよ」


 俺の腕の中で、螢が「ポプレ……」と呟く。その体は少し震えていた。

 手段はどうあれ、人間を救いたいと考えている螢にとって、ポプレの言葉は決して同意できないものだろう。しかし根底に絶望を抱えて、今の世界の在り方を否定しているという点では、二人の思想はよく似ていた。それを感じ取り、あるいはポプレの姿に自分を重ねているのかもしれない。


「花澤両太郎、お前は人間界と精霊界フェアリエンを巻き込んだこの戦いの発端を知っている?」

「…………ああ。フェアリエンに住む人間が、妖精たちから三諸侯(オーベロン)の恩恵を奪い取ろうとしたのが発端――この戦いの最初の図式は、人間と妖精の殺し合いだ」


 俺の言葉に、フィオーレがハッと青ざめる。スズメバチを相手にしているマーレとチェーロも同様だ。


「リョウ、あなたどこでそれを……?」


 頭上でアリエルが困惑の声を漏らした。俺はそっと手を伸ばし、指先でアリエルをゆっくり撫でてやる。

 パックとアリエルがこのことを隠していたのは正直フェアじゃないと思う。人間と妖精が敵対した事実を伝えてしまえば、俺たちがタイタニアを救うことをやめてしまうかも知れない――そんな心配をしたのだろう。


「心配するな、お前やパックが俺たちの大事な仲間であることは変わらない」

「――べ、別に心配なんかしてないし!」


 アリエルはキンキンと甲高い声で叫んで、俺の指に噛み付いてきた。

 それが面白くて、俺はつい笑ってしまう。咄嗟に言い返したから深く考えてなかったんだろうけど、心配してないってことはつまり、俺たちを信頼してるってことじゃないか。

 その様子を見て、ホッとしたようにフィオーレも笑った。


「オリガ、そういうわけだ。戦いの発端がどうあれ、俺たちの意志は変わらないぞ」

「別にそんなことを言いたいわけじゃないわ。――それじゃ、これは知ってる? その人間と妖精が、今は傷王インジュアリーの下で協力して王都を奪還、あたしたち《組織》を相手に抗戦しているの」

「え、ほ――本当!?」


 驚きの声を上げたのはアリエルだ。

 俺も含めて、人間界組は王都とか傷王インジュアリーなんて言われてもイマイチピンと来ない。


「王都が……人間と妖精が? 良かった……!」


 それはアリエルにとってよほど嬉しいニュースだったのだろう。掴まれてる俺の髪がグイグイ引っ張られて痛い。

 だがそんなアリエルに、ポプレは軽蔑の眼差しを向けていた。


「人間と妖精が仲直り――本気でそう思っているの? おめでたいわね」

「何よ、アンタが今そう言ったんでしょ! ――はっ、もしかして嘘ついたのね!」

「人間と妖精が手を組んで戦っているのは本当よ。それを仲直りだと思っているのがおめでたいと言っているの」

「………………?」


 頭上でアリエルが困惑したのが伝わってくる。――いちいち髪の毛を引っ張るのはやめて欲しい。

 だが、俺にはポプレの言わんとすることが分かった。わかってしまった。

 それはきっと、俺もまた一度は人間や世の中に対して深い絶望を抱いたからなのだろう。


「人間と妖精に《組織》という共通の敵ができたから争いをやめただけ――そう言いたいのか」

「ご名答。もしお前たちフェアリズムがあたしたちを倒すことができたとして――共通の敵がいなくなったその先にあるものは、一体何かしらね?」


 それは昨日の昼、螢からこの戦いの発端を聞かされた時に俺も考えたことだった。

 タイタニアを救い、《組織》を倒した時、果たしてフェアリエンは平和を取り戻すのだろうか。単に人間と妖精の争いが再開されるだけではないのか。


「この世界の本質は憎しみ。誰も彼もが憎しみを振り下ろす相手を探して生きている。《組織》がいれば《組織》を憎み、いなくなれば人と妖精とで憎み合い、どちらかが滅べばきっと種族の中で憎み合う。それがお前たちの守ろうとしているものの本当の姿だ!」


 ポプレは強い口調で言い切った。俺はそれに対し、咄嗟に言い返すことはできなかった。

 螢の時と同じだ。ポプレの考えは一方的な上に歪んでいる。でも、そこに理屈が通っていないわけではない。それがどんなにおぞましいものだとしても、ポプレにはポプレの理念がある。

 否定したい。けれど俺はポプレの言葉を論理的に否定しきれない。

 この人間界だって、宗教や国家の対立によって止むことなく戦争が起きている。《組織》さえいなくなれば、フェアリエンから争いが消えてなくなるなんて保証は無いのだ。


 そんな風に俺が歯噛みしている時、


「違う!」


 躊躇してしまった俺の代わりに毅然と言い返したのは、フィオーレだった。

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