第一九話 夜は更けゆく 1 -Nessun Dorma 1-
フィオーレがスズメバチフアンダーを撃退した後、俺たちはすぐに他のみんなと合流し、別荘に戻った。日付も替わろうとする時間だったが、最低限の状況確認はしておかなければならない。
思わぬ場所でフアンダーと遭遇したことを報告すると、海辺の合宿でどこか緩んでいたフェアリズム全員の表情が、一気に引き締まる。
一ヶ月前にポプレを撃破してからというもの、主を失ったことで暴走したスズメバチフアンダーは度々出現した。しかし出現箇所は朝陽学園の周辺の数キロ圏内に限られていたし、そもそもここ半月ほどはずっと鳴りを潜めていた。俺たちは既に残ったスズメバチフアンダーを倒しきったのだと考えていた。
しかし奴らは、学園から百キロは離れたこの海辺の街に現れた。これは一体何を意味するのか。
考えられる可能性は三つだ。
一つ目はまったくの偶然。たまたまこの辺りまで活動範囲を広げたフアンダーがいて、そいつらがたまたま俺たちと出会ったというものだ。
しかしこれはあまり現実的とは思えない。もしそんなフアンダーが存在するのなら、これまでにもっと各地で大騒ぎが起きていたはずだ。
二つ目は、この近くにエレメントストーンが出現していて、フアンダーはそれを嗅ぎ付けて来たというものだ。
だがこれもすぐに否定された。パックとアリエルにエレメントストーンの探知をしてもらったが、何の反応も無かったのだ。
三つ目は、何らかの理由で俺たちがここにいることを察知し、襲いかかってきたというもの。
はっきり言ってこれが最も可能性が高い。
というのが俺の考察で、もう一人の頭脳担当である渚も同意してくれた。
ただ、その「何らかの理由」までは知る由もない。相手の行動原理がわからない以上は先手を取ることは難しい。残念ながら受け身にならざるを得ない。
もし連中が再び襲ってきても対抗できるよう、エレメントストーンは肌身離さず身につけておくこと。
万が一この近くでフアンダーが暴れだしてもすぐに察知できるよう、ラジオやテレビに注意を払い、携帯電話もなるべく離さず持っておくこと。
その二点をフェアリズムたちに言いつけ、それ以外の全員にも単独行動は絶対しないよう注意を促す。
当たり前だが、反論をするものは誰一人いなかった。
エミちゃんや梶までもが、真剣な顔で俺の言葉に頷いた。
しかしその二人よりも、そしてフェアリズムの五人よりも、一際険しい顔をしているヤツがいた。
螢だ。
最初は「この合宿が終わったら黒沢螢とはお別れだ」という自分の宣言に対して、覚悟を強めているのかと思った。だがどうも様子がおかしい。険しい表情をしながらもどこか上の空にも見える。
何より、そんな様子を見せ始めたのは「ここ半月ほどスズメバチフアンダーは鳴りを潜めていた」という話をした辺りからだった。
俺たちと違って《組織》側の事情も知る螢は、何かに感づいたのかもしれない。
-†-
軽いミーティングを終え、今日はお開きになった。各自で入浴を済ませた後は就寝するだけだ。
と言ってもこの別荘には浴場が一つしか無い。十人くらいなら軽く同時に入れる広めの露天風呂で、お湯も天然の温泉を引いているという非常に贅沢な代物だ。しかし男女混合である俺たちは流石に一度に済ませるわけにはいかない。
例によって光には「水着で一緒に入ればいいじゃん!」とキラキラした目で強く誘われたが、いくらなんでも丁重にお断りさせていただいた。水着とはいえ恥ずかしいし、何より体を洗う時どうするんだよ……。
そんなわけで今はエミちゃんと一緒に中学生組が風呂を使用していて、俺はリビングで順番待ちだ。
することも無いので、渚が本を読む時に座っていた揺り椅子をシーソーみたいに前後させながら、ボーっと窓越しの夜空を眺めている。浜辺より見える星の数は少ないが、それでも都心と比べれば――いや比べるべくもない満天の星空だ。
梶が起きていればビーハンとか色々と時間の潰しようもあったのだが、「僕は朝風呂派なんだよねー」と言い残して、パックとアリエルを連れてさっさと部屋に引っ込んでしまった。二人の妖精もエレメントストーン探知で疲れ果てていたので、朝までぐっすりだろう。
それにしても梶の様子は解せない。あの変態野郎のことだから「女子中学生の残り湯!」なんてはしゃいで俺と一緒に入るのかと思ったが、最低限の理性は残っていたらしい。
いや、それじゃまるで俺が最低限の理性すら無い、女子中学生の残り湯目当ての変態野郎みたいじゃないか。違う、断じて違う。大体、そんなのが目当てだったらそもそも誘われた時点で一緒に入るし。俺が最後に入るのは別にいかがわしい理由じゃない。俺が先に入って女性陣七人を待たせるより、俺一人が待つ方が効率がいいというだけの話だ。変な発想が出てきたのだって、別に俺がそう考えたってわけじゃなく、梶ならいかにも言いそうだと思ったに過ぎない。
などと心中で自分に釈明をしていたところ、
「……にーさま、どうしたの、変な顔を窓に映して」
「うわあっ!?」
突然後ろから話しかけられ、驚いた拍子に揺り椅子からずり落ちてしまった。ぐえっと情けない悲鳴を上げて背中から床に着地、もとい落下する。
「……なにしてるの」
「ってて……ごめんごめん、ちょっとボーっとしてたから――ん?」
今の声は麻美だな。なんて思いながら、床に仰向けになったまま声の方を向く。
視界の半分に入ってきたのは俺を呆れ顔で見下ろす麻美の顔。
もう半分には、しなやかな曲線を描く色白の脚が二本。そしてその先にはひらひらとした傘状の布地。その中央――二本の脚の付け根には、決して名前を口にしてはいけない純白の聖域。
そう、俺は体勢的に、完全に麻美のスカートを下から覗きこんでしまっていた。
「……別に、にーさまが怪我してないなら、いいけど」
その椅子、渚ちゃんのお気に入りだから、壊さないでね。なんて麻美は呆れ声で言う。
どうやら麻美はまだ状況のヤバさに気づいていないらしい。優や光なら気づいた上で気にしていない可能性もあるが、麻美に限ってそれはない。
俺は今、確実に生命の危機を迎えている。気づかれたら即、死の制裁だ。
考えろ、全力で考えろ。そしてほんの少しでも怪しい素振りを見せるな――。
「いつまで金元さんのスカートの中覗いてるのよ」
俺の必死な危機脱出プラン構築を一瞬でぶち壊してくれたのは、麻美の後ろからの声だった。
「……っ!」
「なっ――ちがっ!」
麻美が慌ててスカートを抑えたのとほぼ同時に、俺も全力で顔を背けて目も閉じる。
もちろん、見てないアピールをするためじゃない。そんなのはもう手遅れだ。
これは単に、人間に備わっている普通の反応。大きな危険や恐怖を察知した際に起きる反射運動に過ぎない。そしてその効果は――
「……にーさま」
全然無かった。
地の底から響く魔王の呻きさながらに、麻美の声はドスが効いている。まずい、物凄く怒っていらっしゃる。
「待ってくれ、違う! いや、見ちゃったのは違わないけど、わざとじゃない! 誓って本当だ!」
こうなっては小細工は無意味だ。目を瞑って顔を背けたまま、必死の弁明を試みる。
「……だったら、こっち向いて」
「え?」
絶対殴られると思ったのに、麻美から返ってきたのは思いがけない言葉。
いや、待てよ。これは罠なんじゃあ……?
そうだ、そうに違いない。振り向いたらまたパ――サンクチュアリが待ち構えていて、俺は今度こそ現行犯として制裁を受けるのだ。その手には乗らないぞ。
「……にーさま、本当にやましい気持ちが無いなら、こっち向いて」
「はい」
決意虚しく、麻美の凄みの効いた声に思わず言いなりになってしまった。ああ、俺のバカ。
罠を覚悟し、恐る恐る目を開く。
「……ぷっ」
目の前にあった麻美の顔が、吹き出しながら綻んだ。
「……にーさま、凄いヘタレ顔」
俺のすぐ横にしゃがんで、くっくっと声を押し殺すように笑う麻美。スカートはしっかり両足で挟んでガードしている。
なんだか酷く馬鹿にされている気はするものの、恐れていた罠ではなかったらしい。
「……わざとじゃないなら、許してあげる、ヘタレのにーさま」
まだ少し口許を緩めたまま、麻美が言った。
いつも問答無用で鉄拳制裁を飛ばしてくる麻美なのに、なんだか妙に優しい。いや、殴られないのを優しいって言うのも変だけどさ。思えば夕方に麻美とバルコニーで話をして以来、俺に対する麻美の態度が以前より柔らかくなった気がする。
それにしてもなかなか感情を表に出さない麻美がこんな表情を見せてくれるのは、素直に嬉しい。
「ああ、お互い忘れよう。単なる不幸な事故だからさ」
麻美の笑顔に俺も笑顔で答える。
だが、そこで――
「………………不幸?」
君子豹変す。
麻美は据わった目でジロリと俺を睨む。その口許にはさっきまでの笑みなんか欠片も残っていない。どうやら俺は墓穴を掘ってしまったらしい。
「ま、待て。別に麻美のパンツを見ちゃったのが不幸とかそういう意味じゃなくてだな、言葉の綾というか、いや、その――よくよく思えばラッキーだったな、うん俺ってラッキー! 麻美のパンぐごっ!」
無駄な悪足掻きも奏功せず、怒りと恥辱で顔を真っ赤にした麻美に強烈なボディブローをお見舞いされてしまった。
「いてて……悪かった、変なこと口走って」
腹をさすりながら起き上がる。相変わらず麻美の小さな手で繰り出される打撃は、筋と筋の隙間を貫くような鋭さを持っていた。しびれたぜ、今のパン――いやその単語はなんか微妙に危うい。しびれたぜ、今の拳はよ!
うん、これなら安心だ。
麻美はまだ少し頬を赤らめたまま、しかめっ面で俺を睨んでいた。
まあ、今のは流石に俺が悪い。何が「パンツ見えてラッキー!」だよ、と内心自分でも呆れてしまう。これじゃ完全に変態の発言だ。そういうのは梶の専売特許にしておきたい。
「戦いが絡まない時の両太郎は本当にダメね……」
蔑むような目でそう言ったのは、麻美の後ろにいた螢だ。さっきの告げ口もこいつの仕業らしい。
「反論のしようもない。それで、二人ともどうしたんだ? もう風呂から上がった――ってわけじゃなさそうだな」
話題の転換も兼ねて、ふと浮かんだ疑問を二人にぶつける。
みんなが浴場に向かってまだ十分経ったかどうかといったところだ。二人は風呂上がりにしては髪も濡れていないし、何より二人ともスカートを履いている。これから寝る格好には見えない。むしろ螢の格好は黒のキャミソールにこれまた黒のスカート。さっき浜辺に行った時の格好から、羽織っていたカーディガンを脱いだだけだ。
「これよ」
螢は自分のかけている眼鏡の弦を人差し指でトントンとつついた。
それはシスター・ダイアとしての正体を隠すため、黒沢螢の姿の時にかけているものだ。
ああ、つまりそういうことか。
「なるほど、一緒に風呂に入ったら眼鏡を外すしか無いもんな。まあ眼鏡外しても、お前がダイアだって気づくかは怪しいけど……」
「脱衣所まで行ってから気づいたんだけどね。金元さんが『話があるから後で二人で入ろう』って、機転を利かせてくれて助かったわ」
「そういうことか。ありがとうな、麻美」
俺が礼を言うのも変な感じだが、螢のことを秘密にして欲しいって言ったのは俺だ。
昼間の件で麻美と螢の間で何かがあったということはみんなも薄々察しているだろうし、それを逆手に取った麻美の機転に賞賛を贈りたい。
その麻美は、ようやく不機嫌が収まったらしく、いつもの無表情に戻っていた。
「……どうする気だろうって思ってたら、急に慌て始めたから」
「ちょ、ちょっと失念してただけよ、しょうがないでしょ!」
今度は螢が顔を赤くする番だった。
螢は理知的でクールな外見をしてるくせに、割と抜けているところがある。ヴィジュニャーナが俺に見せた過去の螢は男の子顔負けのやんちゃっぷりを披露してたし、本来の螢は快活であまり細かいことを気にしない性格なのかもしれない。
「……なあ、螢」
「何よ」
「さっきの続きだ。お前は本当にこの合宿が終わったら、『黒沢螢』をやめる気か?」
俺の問いに、螢の表情が強張った。その視線が一瞬だけ麻美の方に向けられ、もう一度俺に戻される。
麻美は表情を変えなかったが、僅かに全身に緊張感を漲らせた。
「ええ。わたしはシスター・ダイアとして、世界を絶望の底に沈めるためフェアリズムと――そしてあなたと戦うわ」
螢は冷たくそう言い切った。だがその声は少し震えている。
「お前の願いは希望のせいで傷つく人間を救うこと。絶望によって誰もが許し合う優しい世界を作ることだったな」
「そうよ、それがこのシスター・ダイアの願い」
「どうしてそこまで拘る。お前はフェアリズムたちに――桃や麻美に親しみを感じ始めているんだろう? ただ傷つけ合いたいわけじゃないんだろう?」
「――それは否定しないわ」
螢は目を伏せた。やはりフェアリズムと戦うことに対して抵抗感が芽生えているのは間違いないのだ。
麻美は螢のそんな様子を見て警戒を解く。麻美もまた、螢を――シスター・ダイアを単なる敵だとは思えなくなっているのだろう。
「でも、拘るしかないのよ」
螢はそう言って、突然着ているキャミソールの裾を持ち上げる。
「え、ちょ――螢?」
「見なさい」
螢が思い切り下着が見えるところまでキャミソールを捲り上げたものだから、俺は咄嗟に目を瞑った。
いや、見なさいって……。螢にそんな趣味があったなんて、俺はショックだよ。
っていうか、麻美のパンツの次は螢のブラジャーって、どういう展開なんだこれは。
「……これは、なに?」
ショックを受けている俺に代わって、麻美が口を開いた。だがその声色には、驚愕と困惑の色が混じり、真剣味を帯びていた。
麻美の尋常じゃない反応に、俺も恐る恐る目を開く。
色白な螢の腹部。その上の緩やかな二つの起伏と、それを包むように守る白い下着。それらが視界に飛び込んできて、ドキリとさせられる。
だが、次の瞬間には俺の視線はある一点に釘付けになった。
それは両胸の間のすぐ下――ちょうど鳩尾の辺り。そこに、拳大の黒い宝石のようなものがあった。
螢の体を侵食している――あるいは体内から皮膚を食い破って突出しているように見えるその石は、中心部がどす黒く濁っていて、外縁部は螢の皮膚組織に癒着するように融合している。
昼は腹部まで隠れるスクール水着だったおかげで気付かなかったが、螢の胸にはこんなものが埋め込まれていたのだ。いや、それを隠すための水着のチョイスだったのだろう。単純に他の水着の用意が無かっただけかもしれないが。
「わたしがみんなと一緒に入浴できなかった理由は眼鏡だけじゃないの」
「これは悪趣味なインプラント……ってわけじゃないよな」
「この石の名前は《死に至る病》。宿主を人ならざる者へと変え、人ならざる力を与える絶望の石」
「人ならざる、者……?」
ついさっき、浜辺で螢の指が唇に触れた時のことを思い出す。
まるで生きた人間のものとは思えないほど冷たい感触。
「両太郎、『黒沢螢』なんて子は、本当はもうどこにもいないの。今のわたしはシスター・ダイア。黒沢螢であることも人間であることもやめた、不安を司るシスターの一人よ」
冷たく言い放ち、螢はキャミソールを下ろす。
その瞳はもう、ずっと揺れ動き迷っていた少女のものではない。戦いを覚悟した戦士の眼差しだ。
「それがお前の生き方なのか?」
「ええ。止めようとしても無駄よ」
「わかってる、止めないさ」
俺の返答に、螢は――そして何故か麻美も眉を顰めた。
「物分かりが良くて助かるわ」
「それがお前の生き方だって言うなら、俺はそれを否定したくない。でも、俺は諦めないぞ」
「え?」
「今は止められない。でも諦めない。いつかお前にシスターをやめさせる。それが俺の生き方だから、止めても無駄だ」
言われたことをそっくり言い返す。螢が意地を張るなら、俺だって意地を張るしかない。
刹那の姿をしたヴィジュニャーナの化身が言っていたことが、俺にも理解できた。螢を今すぐ心変わりさせることは難しい。メトシェラが刹那を殺したのは誤解だということ、そして二人が姿を変えて今も生きているということ――きっとそれを告げてもなお、今の螢はシスターである自分に殉じることを選ぶだろう。
時間と、そしてなにかきっかけが必要なのだ。
「それじゃあ、まるっきり今まで通りじゃないの」
螢はプイッと顔を背け、そう言った。
「それは違う。これまでは俺一人でお前をどうにかしようと思ってたけど、今は麻美がこうして協力してくれてる。きっと桃や光も――フェアリズムのみんなだって、事情を知ればそうする。だってお前と皆はもう友達だからな。今まで通りじゃいられない」
「桃は『シスター・ダイア』を憎んでいるわ。大切な兄を殺しかけたんだもの」
「それを何とかするのが俺の役目だ。っていうか、俺にはそれくらいしかできないんだけどな。でもフェアリズムのみんなは違う。その《死に至る病》とやらだって、きっとみんながぶっ壊して、お前を人間に戻す。だから首を洗って待ってろ」
「――勝手にしなさい」
螢は顔を背けたまま歩き出す。その足取りが向かうドアの先は、個室の方だ。
「……お風呂、交代の時、呼びに行くから」
麻美が投げかけた言葉に、螢は手振りだけで肯定を返す。
「……螢ちゃん、言いたいことは、ちゃんと口で」
「………………」
「……お風呂、呼びに行くから」
何故か急に恩着せがましく礼を求める麻美。
俺はまたもや麻美と螢が争い出すんじゃないかと、思わず身構えてしまった。
だが螢はしばらく立ち止まった後、
「――ありがとう、待っているわ」
結局振り向きこそしなかったが、静かに呟くように言った。そのまま言い逃げするように、リビングをそそくさと出て行く。
一体今のは何だったのだろうか?
ただ風呂の時に呼びに行くってだけのやりとりにしては、妙な緊迫感があった。
「……にーさま」
首を傾げていると、麻美がちょんちょんと俺の腕を突っつき、「しゃがめ」とジェスチャーを送ってきた。たった今「言いたいことはちゃんと口で」って偉そうに言ったのはどこの誰だったのか。
よくわからず、麻美に促されるままにしゃがむ。流石にいくら麻美が小柄といっても、しゃがめば俺の目線の高さは麻美の胸辺りになる。
「……ヘタレのにーさまにしては、頑張った」
麻美はそんなことを言いながら、唐突に俺の頭に手を置いた。
「んなっ!?」
「……よしよし」
そのまま麻美はわしゃわしゃと俺の髪を掻き分けて頭を撫でてきた。な、なんかめちゃくちゃ照れくさいんだが……。
「ま、麻美さん、えっと?」
「……桃ちゃんのこと、麻美も協力するから」
「え? ああ、そうしてもらえると助かるよ。いきなりだと桃もショック受けるだろうから」
「……まあ、まずはこの合宿、だね」
「だな。螢も合宿が終わるまでは今の関係を続けるつもりみたいだし」
何故か麻美に頭を撫でられたまま、いつの間にか作戦会議に突入していた。
結局そのままの姿勢で作戦会議はしばらく続き、風呂上がりの光に見つかって「ずるい!」と騒がれる羽目になったのだった。
微修正(2014/12/19)




