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愛と元素のフェアリズム  作者: みなもとさとり
Element.1 運命の戦士フェアリズム
26/93

第二四話 雨の日の戦い2 -Una furtiva lagrima 2-

 生徒会室に戻ると、ゆうは少し厚手のシャツにハーフパンツという体操着姿で、椅子の上にあぐらをかいていた。その後ろに立った渚が、ゆうの髪を丁寧に梳かしている。既にだいぶ乾きつつある髪は、乱暴な拭き方をしたせいでいつも以上にツンツンとあちこちに跳ねていて、渚は悪戦苦闘だ。


「おかえり、リョウくん。気を使わせてゴメンねー」

ゆうが気を使わな過ぎなのよ……」


 どこまでも呑気なゆうに対して、呆れ顔の渚。二人のやりとりはごく自然で、渚の様子におかしなところは感じられない。

 果たして麻美はこの様子をどう感じたろうかと視線を送ってみると、少し目を細めて難しい顔をしていた。一度灯った疑念が揺らいでいるのだろう。

 だが麻美とはお互いに、白黒はっきりするまでは絶対に油断も安心もしないと釘を刺し合ってある。

 まずは作戦プランAの実行だ。


「でもゆうも麻美も渚もみんな性格違うのに、小さい頃からの仲良しって面白いな。三人はどういう経緯で出会ったんだ?」

「あっ、それ――わたしも気になるかも」


 俺が尋ねると、上手い具合に桃も食いついてくれた。

 ゆうと渚は顔を見合わせる。


「んとね、まずぼくと渚の出会いから――ぼくの家は武術の道場やってるんだけど」と口火を切ったのはゆうだ。「と言っても別に何百人も弟子がいるような凄い道場じゃないから、三人の兄とぼくの学費なんかで家計が大変でさ。お祖父ちゃんが師範だった頃は、師範代のお父さんは政治家やお金持ちのボディガード兼運転手みたいな副業をして収入を得てたんだ」

「――都議をしているうちの父が生天目師範(せんせい)に一時期運転手をお願いしていたのですが、同い年の娘がいるという話になって随分盛り上がったそうで」

「それでお父さんが家族旅行の警護を頼まれた時、ぼくにも渚の遊び相手としてお呼びがかかったんだ」

「あれは私たちが年長組の時だったわね」


 二人が交互に説明してくれた内容に食い違いは無い。麻美も頷いているところを見ると、麻美の知っている情報との差異も無さそうだ。


 それから小学校に入学したゆうと渚が麻美に出会い、仲良くなるところまで話が進んだ。三人が通っていた小学校は隣の区にある、お嬢様御用達で有名な私立の小学校だった。近場の公立に通う予定だったゆうは、水樹家からの嘆願(と学資援助)を受けて渚と一緒の学校に通うことになったらしい。

 麻美の家については詳しい話を聞かなかったが、お嬢様校に通っていた辺り、傘から感じた「裕福そう」という印象は正しかったようだ。


 結局そこまでの話でおかしなところは見つからなかった。麻美も懐かしそうに会話に加わりながら、色々と渚に話を振ってくれていたのだが、特にボロは出ない。

 これでシスターが渚に化けているという可能性は限りなく低くなった。

 俺と麻美は目配せをして、作戦プランBに移行した。


「……お茶、入れる。皆、飲みたいもの、あったら言って」


 そう言って麻美が席を立つ。もちろん事前の打ち合わせ通りだ。


「それじゃ、ぼくは冷たいお茶にしようかな。冷蔵庫にあったよね」

「私もゆうと一緒でいいわ」

「あ、じゃあわたしもそれで」

「――俺はホットコーヒーをもらおうかな。ブラックで」


 次々と麻美にリクエストが飛ぶ。

 桃が「手伝います」と立ち上がった時は少しヒヤヒヤしたが、麻美が「……座ってて」と制止した。

 それから麻美はポットでお湯を沸かし始めた。続いて棚からグラスを三つとカップを二つ、それからコーヒーのドリップパックを二つ取り出すと、グラスに氷を入れていく。いいとこのお嬢様という割に無駄な手順も無く、実に手馴れた様子だ。


 それにしてもこの生徒会室、シンクに冷蔵庫に食器棚となかなか設備が整っている。中等部生だった頃は入る機会が無かったので、元からからそうだったのかはわからない。ひょっとしたら、このお嬢様集団による改装の結果ではないだろうか。バスタオルだって出てくるくらいだし。


 程なくして、麻美がお盆を運んできた。

 ゆう・渚・桃の席には氷入りの冷たい緑茶のグラス、俺と麻美の席にはホットコーヒーのカップが置かれる。それからオマケに桃の席の前に琥珀色の液体が入ったショットグラスが二つ。

 一瞬ウィスキーか何かかと驚いたが、麻美が「……二人には、蜂蜜」と補足してくれた。パックとアリエルが嬉しそうにグラスに飛びついて抱きかかえる。人間にとってはほんの一口サイズの小さなグラスでも、妖精にとってはまるでバケツだ。ちょっと微笑ましい。

 麻美のおかげで全員の視線がパックたちに集中したので、俺はその隙に作戦を進める。


「うわぁっ!」


 手が滑ったフリをして、コーヒーを思い切り自分の上半身にぶちまけた。


「熱っ――!」

「ちょっ、大丈夫ですか!」

「リョウくんこれ!」


 大げさに熱がると、渚とゆうが慌ててお茶のグラスを差し出してくれた。遠慮なくそれを受け取って、コーヒー色に染まったシャツの上からかけていく。

 二人とも熱湯による火傷の際はいきなり服を脱がず、まず服の上から水で冷やす――という対処法をきちんと知っていたようだ。さすが生徒会役員。いや、関係あるのかはわからないけど。


「お兄ちゃん大丈夫!? は、早くシャツ脱いでちゃんと冷やさないと!」


 一方の桃は大慌てだったが、その方が都合がいい。俺は桃に促されるままにシャツを脱いだ。

 対面のゆうがすかさずタオルを投げて来たので受け取る。さっきまでゆうが使っていたタオルは、ひるがえす時に一瞬ふわっといい匂いがした。

 脱ぎ捨てたシャツは「……染み、ならないように」と麻美がシンクに持っていって水洗いしてくれた。



「ごめんごめん、皆ありがとう」


 湿らせたハンドタオルを患部に当てながら謝罪する。

――と言っても、実のところ俺は火傷なんてしていなかった。麻美は俺の分のカップにあらかじめ氷をいくつか入れ、コーヒーの温度を下げておいてくれたというわけだ。


「いえ、大事に至らなくて何よりです」

「あはは、リョウくんもおっちょこちょいなところあるんだね」

「もう、お兄ちゃんたら……」

「……にーさま、ドジ」


 うち一名は演技なのだが、年下の女の子たちに次々と呆れ顔をされるとやっぱり胸に刺さるものがある。温かい言葉をくれたのは渚だけだ。

 だがこんな芝居をわざわざ打ったのは、心苦しいがその渚を試すためなのだ。


「ごめんな麻美、せっかく淹れてくれたコーヒーこぼしちゃって」


 麻美には半ば本心から、改めて謝罪した。


「……いいよ、洗い終わったら、もう一回淹れる」

「あ、わたしがやるよ」


 桃が空になったカップやグラスを回収してシンクに持っていく。麻美も今度は素直に桃の協力を受け入れた。さっきは氷のトリックが使えなくなるから桃に手伝わせるわけにいかなかったのだ。


 桃がお茶の支度をしてくれている間に、俺は鞄から取り出したジャージの上を着た。麻美は水洗いの終わった俺のシャツをハンガーにかけ、部屋の脇のラックに吊るした。ゆうの制服も隣にぶら下がっている。

 今の位置関係は長方形のテーブルを囲んで、左奥に桃と妖精たち、左手前に俺、右側は奥から渚・ゆう・麻美という具合だ。俺のシャツがかけられているラックは桃の背後にある。

 よし、これで作戦プランBのお膳立ては整った。小芝居はこの配置を実現するためのものだ。


 俺はタイミングを見計らって、トリガーとなる言葉を発した。


「……あれ、そういえば俺、エレメントストーンどこにやったっけ?」


「えっ?」

「へ?」

「え?」


 桃・ゆう・渚がそれぞれに驚きの声を上げた。

 その様子を見て、俺は確信した。

 もう間違いない。

 麻美と目が合う。麻美も今の決定的瞬間をはっきり見たのだろう。覚悟を決めた顔で目配せをくれた。


「あれ、無い……」


 桃が俺のシャツの胸ポケットを漁りながら、慌てた様子で言った。本当に桃は狙い通りに動いてくれて助かる。人を疑うことを知らない子だからな。だからこそ、そんな桃を騙そうとするヤツからは俺が守らなきゃいけない。


「――いいんだ、桃。座ってくれ」

「え、でも……」

「いいから」


 強く促すと、桃はまだ状況が飲み込めないといった様子で着席した。渚とゆうは説明を求めるような顔で俺を見ている。


――大詰めだ。

 会話の順番を間違えるなよ、言い逃れの出来ない順番を組み立てるんだ。そう自分自身に言い聞かせながら、全員の顔をゆっくり一瞥して、それから口を開く。


「落ち着いて聞いて欲しい。まず、五大の水のエレメントストーンは大丈夫だ。在り処はわかってる」

「――それはつまり、リョウくんは芝居を打ってたってこと?」


 流石はゆう、頭の回転が速い。


「ああ。エレメントストーンが無いって言った瞬間の、皆の視線の先を確かめたくてな。まずゆうゆうはエレメントストーンが無いって言った時に俺の方を見た。それはどうしてだ?」

「どうしてって、そりゃあリョウくんが持ってるって聞いてたから――」


 ゆうの口調はどうしてそんな当たり前のことを訊くのか、といったニュアンスを含んでいた。

 俺はその回答が妥当なものだという意味を込めて頷く。


「じゃあ次は桃。桃は俺の方を向かず、背後にあった俺のシャツの胸ポケットを調べにいったな。それはどうしてだ?」

「えっと、そこに入ってると思ったから……」


 桃は自信なさげに答える。いいんだ桃、その答えでいいんだよ。


「何故そう思った?」

「えっ――?」


 桃の顔色が変わる。どうして自分がそう思ったのかを自覚していない様子だ。


ゆうが戻って来るより前、誰かがそう言ってたからだよな」

「あっ、そういえばそうかも」

「誰か、覚えてるか?」

「えっと、確か――」


 桃は麻美の問いかけに対し少し考え込んでから、ハッとして渚の方を向いた。

 よし、よく思い出したぞ桃。 


「そうだ、言ったのは渚だ。そして渚がそう言った時点では、確かに五大の水のエレメントストーンは俺の胸ポケットにあった。渚がどうしてそれを知っていたのかはひとまず置いておくぞ。それならエレメントストーンが無いって言った時、渚も俺のシャツのポケットにあると思うはずだよな。なのに渚はその瞬間、全く別の方向に視線を向けていた――」


 ここで一呼吸を入れ、渚の方を見る。渚は顔を強張らせて俺を睨んでいた。すぐ隣では困惑した表情のゆうが俺の次の言葉を待っている。


「渚はどういうわけか、俺でも俺のシャツでもなく、麻美の方を見ていた。そして――」


 俺が視線で促すと、麻美は制服のポケットから青い宝石の付いた金色の指輪を取り出し、全員に見せた。

 そう、五大の水のエレメントストーンだ。

 さっき作戦会議をした時に、麻美に預けておいたというわけだ。

 俺は麻美から五大の水のエレメントストーンを受け取り、スラックスのポケットに仕舞う。


 状況を理解したのか、ゆうの表情が一気に険しくなった。桃・パック・アリエルは俺と渚の顔を交互に窺っている。


「確かに五大の水のエレメントストーンはそこにあった。――なあ渚、どうして君はエレメントストーンの在り処を二度も正確に察知できたんだ?」

「…………」


 渚は答えない。俺を睨み続けたまま、下唇を噛み締めている。

 ならば俺から言ってやるしかない。


「――渚。今の君は、フアンダーだ」

「…………」


 渚はまだ何も答えない。


「ポプレに絶望のエンブリオを埋め込まれてしまったんだ。違うか?」

「…………」

「フェアリズムの浄化を受けてくれ。そうすれば――」

「……さい」

「――え?」

『うるさい!!』


 渚は絞り出すような大声で叫んだ。それは確かに渚の声なのに、まるで大きな洞穴の中にいるような雑音混じりのエコーがかかって、二重に聞こえる。


『よく分かったわ、花澤両太郎。確かにあなたには注意力も洞察力もある、皆があなたをリーダーに選んだのも当然だわ』

「渚……?」

『でも、それじゃあ私はどうなるの! 選ばれない私は――エレメントストーンからも、仲間からも選ばれない私はどうなるの!』

「渚、そんな……ぼくたちは」

ゆうは黙っていて!』

「……っ!」

『だったら私が選んでやる。そうよ、私が選ぶ側になってやるんだああああぁぁぁぁ!』


 声帯が擦り切れてしまうのではないかと思うほどの絶叫。

 同時に、渚の身体の中心から黒いもやでできた渦のようなものが湧き上がる。それは猛烈な勢いで広がり、テーブル、椅子、床、壁、窓、辺り一帯の何もかもをあっという間に包んでいく。


「なっ……!?」

「きゃああああぁぁぁぁ」

「うわああぁぁぁぁ」


 為す術も無く、その場にいた全員が闇に飲まれた。

 黒もやに包まれて姿が見えなくなったどころか、悲鳴すらも途中で寸断される。

 そして黒もやはどんどん濃くなり、俺はまるであらゆる感覚がブラックアウトしてしまったかのような感覚に包まれた。



             -†-



 ふと気がつくと、俺は薄暗くてだだっ広い場所に倒れていた。

 頬を生温い雨が打ちつけてくる。ここは外――なのか?


 すぐ近くに桃・ゆう・麻美も倒れている。だがパックとアリエルの姿は見えない。


「いてて……」

「今のは、一体?」


 全員すぐに立ち上がる。意識はしっかりしているし、特に外傷も無いようだ。


「……ここ、どこ?」


 麻美が周囲を見回しながら呟いた。

 三百六十度どこをどこまで見渡しても、荒れた地面がひたすら続いている。薄暗い空は紫色に濁っていて、そこから絶え間なく雨が降り注いでいる。


「うふふ……あはははは!」


 急に俺たちの背後から笑い声が響いた。

 慌てて振り向くと、いつの間にかそこに二つの人影があった。


「フアンダーの心の世界――精神の地平線(マインド・ホライズン)にようこそぉ、フェアリズムさんたちぃ」


 嘲るような笑みを浮かべながらそう言ったのは、黒いローブに身を包んだ妖艶な美女――シスター・ポプレだ。


 その隣には渚の姿がある。

 だが渚の服装はさっきまでの中等部の制服ではない。灰色の下地に黒い蜘蛛の巣模様の入ったトップス、漆黒のフレアスカート、アームカバー、ブーツ。色こそ違えど、それはフェアリズムたちの姿にそっくりだった。

 その手にはこれまた真っ黒な刀身を持つ、長い剣が握られている。


「渚、その格好は……」

『大人しくしてなさい、ゆう。私の邪魔をするならあなたでも容赦しないわ』


 呆然としながら近寄ろうとしたゆうに、渚は冷酷な目でスッと剣先を向けた。

 ゆうは一歩も退かず、今度はポプレを睨む。


「シスター・ポプレ……よくも渚を!」


 だがポプレはそんなゆうを見て一層の愉悦に顔を歪めた。


「うふふ……。絶望のエンブリオで生まれるフアンダーの姿や強さはぁ、元の人間の不安によって変わるのよぉ?」

「どういう意味だ!」

「この姿はこの子の不安の形そのものよぉ。つまりこの子、あなたたちフェアリズムのせいでとっても大きな不安を抱えてたのよ。こぉんな強いフアンダーになっちゃうくらいねぇ?」

「なっ……!」


 ゆうはビクッと身体を震わせた。それから渚とポプレの顔を交互に見て、後ずさる。


「そんな……ぼくたちが……」


 そんな優の様子を見守る麻美もまた、眉を顰めて下唇を噛み締めていた。


 篠原先生がフアンダー化した時は、途中で猫科動物を思わせる黒いスーツを纏った姿に変身した。あれは篠原先生が抱えていた不安が猫にまつわるものだったということだろうか。だがその不安が小さなものだったため、篠原先生はあまり強力なフアンダーにならなかったのだ。

 渚はの姿はフェアリズムそのもの。そして渚は篠原先生の時よりずっと強力なフアンダーになってしまったようだ。それはすなわち、フェアリズムに起因する渚の不安が、非常に大きなものだということを表しているのだろう。


 ゆうも麻美も渚を対等な仲間として扱っていたし、少なくとも俺から見てそこには何の偽りも感じられない。二人は心から渚を大切に思っていたはずだ。

 だがエレメントストーンに選ばれず、一人だけフェアリズムになれずに過ごしてきた時間の積み重ねは、渚を焦らせ、不安に陥らせていたのだ。

 渚が言い放った『エレメントストーンからも、仲間からも選ばれない私はどうなるの』という言葉は、彼女が心中でずっと繰り返してきたものに違いない。

 知らず知らずに渚を不安にさせてしまっていたという事実は、ゆうや麻美にとって相当重いものであることは俺にも想像できる。ともすればそれは、二人から戦う意志を奪ってしまうのではないかと思えるほどに。


 そして俺が危惧した通りに、二人は愕然とした表情で渚を見つめている。


――しかし、


「……生天目さん、金元さん、変身しようっ!」


 桃が叫んだ。

 その声は少し震えている。二人が今どれだけの衝撃の只中にいるのか、桃だってきっと分かっている。

 いや、わかっているからこそ叫んだ。


「――でも、ぼくたちは……」


 ゆうの声は泣き出しそうなほどにかすれ、震えていた。

 いや、降りしきる雨のせいで分からないだけで、とっくに涙を流しているのかもしれない。


「…………」


 明るく気さくなゆうのこんな姿を見るのは非常に辛い。


 麻美に至っては言葉も出てこない。普段あれだけ無表情な顔をくしゃくしゃに歪め、口元をわなわなと震わせている。


 だが二人のそんな姿を見ても、桃は口を一文字に結んで首を横に振った。


「――わたしたちで水樹さんを助けよう!」


 そう言って、桃は天を仰ぐ。

 雨がその頬を容赦なく打ちつけ、身体を伝って流れ落ちていく。


「この世界が水樹さんの心の世界だっていうなら、この雨は涙だよ。水樹さんはいま、泣いてるんだよ。どんな理由で不安になったんだとしても、その不安を友達を傷つけるために利用されて嬉しいはずなんてないから。――だから、わたしたちは戦わなきゃダメなんだよ!」


 桃の叱咤は決して論理的とは言えなかった。感傷的で、感情的で、感覚的。しかしその言葉の一つ一つには強い意志が込められていた。

 そしてその意志は、ゆうと麻美にも届いたようだった。

 二人は顔を見合わせ、頷いた。


「ありがとう、花澤さんの言う通りだね」

「……渚ちゃん、今助けるから」


 二人はエレメントストーンを取り出し、左手の薬指にはめる。

 それを見た桃もニッと微笑み、後に続く。


『フェアリズム・カーテンライズ!』


 雨音をつんざいて、三人の掛け声が響き渡った。

 まぶしい光に包まれた三人はほとんど裸同然のシルエットになる。その身を光の中から生じたトップス・フレアスカート・アームカバー・ブーツが次々と覆っていき、髪は光と混ざり合ってボリュームを増す。


「咲き誇る愛の華、フェアフィオーレ!」

「吹き荒ぶ天空の嵐、フェアチェーロ!」

「キラッキラの星の輝き、フェアステラ!」


 三人は瞳に強い意志を宿し、口許には慈愛の微笑みを湛えている。

 名乗りを上げた時、彼女たちは中学生の女の子から運命の戦士フェアリズムへと、文字通り変身を遂げていた。


 そんな彼女たちの姿に、俺も胸に熱いものが込み上げてくる。

 だがその熱に浮かされて冷静さを失ってはいけない。直接戦闘では役に立てない分、戦術面で全力でバックアップするのが俺の役目だ。


――待ってろよ渚、いま俺たちが助けるからな。

話数追加(14/04/07)

表現調整(14/11/07)

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