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Vol.1 第一章 3話 母から受け継いだ瞳

少年はその質素な朝食を食べ終えた後、使用人が置いていった薬剤に手を伸ばす。

葉の上に乗せられた粉末状の薬。

一つ一つを、その葉を折り曲げスルスルと口に落としていく。

非常に不味い。だが、効果は絶大だった。

とりわけ精神安定剤と痛み止めの効果はすぐに現れる。

急激な気怠さと、頭がボーッとする感覚に苛まれる。

この薬のせいで、まともに勉学すら出来なかった。


そもそも、エルフという種族に教師という明確な職業はない。

各々の親は子供が実際に動ける様になったら、実際に狩りや農村に連れ出し体験をもとに教育する。

エルフにとって重要なのは、野生や紛争を生き抜く術であり勉学は重要視されない。

学びたいなら勝手に学べば良いというのがエルフの常識だ。

その為、見下される官僚や外交官達は戦士として不適格とされた者が生き残る唯一の道だった。

だからこそ、彼等は必死に勉強するし

寿命が長い分蓄えた知識量も相当な者だ。


戦士と知識人、そのどちらにも属せない存在は集団農園に送られて、その人生を全て植物の栽培に費やす事になる。


だが、彼等にもチャンスはある

齢20を超えるまでに、障害を上回る戦士としての価値を王に示すことが出来れば晴れて一般国民として認められる。

少年もまた、人権を得るために戦っていた。

意図的に、周囲の女達から妨害されながら。


薬を全て飲み終えた少年は、近くに置いてある

薄い白い布の服を見に纏う。

一般国民では絶対に着ることの出来ない美しい羽衣。

この羽衣が、女官達からの物理的な迫害から身を守り

そして、理不尽な憎悪を向けられる原因でもあった。

袖に手を通し、腕からヒラヒラと垂れ下がる虹色の衣をはためかせ部屋の隅にある鏡の前に立つ。


照らし返すは、美しい銀髪とそれに混ざる煌びやかな金髪。

その金髪が、銀髪に反射し

まるで白金のような温かいクリーム色に染まっている。

肩にまでかかりそうな髪の毛に包まれるは、中性的で艶やかな肌と唇。


父親譲りの冷ややかかつ吊り上がった鋭い瞳。

不思議な事に左右の色が異なっている。

右目はまるでガラス細工のように透き通る銀色の瞳。

左目は夜空に煌めく月のような金色の瞳。

これは、母の故郷の住人に見られる月の妖精セレナーデという特徴だった。


なんでも、母の一族は皆一様に金色の瞳をしており

この左目が母の血を受け継ぐ動かぬ証拠だった。

エルフの瞳の色は民族の証明のようなものだ。

偶発的に純血でも色彩に変化が起きる者もいるが、それはかなり低確率。

この目に見える事実が、余計にエルフの民族主義的思考に拍車を掛けていた。

だが、少年はこの金色の瞳が大好きだった。

この瞳が大好きな母を感じる事の出来る、証だったから。

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