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決意

翌日起きたリリアは実にすっきりしていた。


普段が眠れないというわけではない。

ただただエザフォスの背が気持ちよくて心行くまで睡眠を楽しんだのだ。

孤児院暮らしが長く、日の出と共に起きるリリアには珍しく昼くらいまで寝ていた。


「こんな時間まで寝ていたら怒られる……いえ、そもそも朝の内に起こされて怒られるわね」


ぐっと伸びをして既に高い位置にある陽を感じる。

精霊達も思い思いに過ごしていたようで、リリアに気付くと軽い挨拶をする。

ふわふわを名残惜しく思いながらもリリアはエザフォスの背から降りた。


「ありがとうエザフォス。こんな時間までごめんなさい。とっても気持ちよく眠れたわ。……あら?」


顔の方へ移動して声をかけるが、返事はなくエザフォスの瞳は閉じられていた。


「まだ寝てるのね」


なんだかおかしくなってリリアはくすくすと笑う。

アエラスは結構せっかちで朝も夜もびゅんびゅんと飛び回っている。

フォティアは意外と気分にムラがあったり、ウォネロは逆に常に落ち着いている。

精霊にも司る属性によって個性がある事がリリアには面白いと感じる。


ぐっと伸びをして荷車から果実を取って齧る。

改めて小屋は見事なまでに全壊しており、やはりどこかに居を移す他ない。

早急にどこへ行くかを決め行動しなければならず、また荷車はそっくりそのままあるのだった。

村に降りてどこかへ住むか、他の場所へ行くか。

しばし悩んだリリアは精霊達を呼び、宣言する。


「王都へ行くわ」


村にいれば精霊を敬う人達によって何不自由なく暮らせるだろう。

しかし苦い思い出もある土地だ。変わってしまった村人たちの態度に耐えられるかどうかも分からない。

それに森の小屋で暮らして好きな存在達と自由に過ごす楽しさを知ってしまったのだ。

もう村にはいられない。


「そうと決まれば旅になるね」


「飛んでいけば速いよー!」


「人目がある所でそんな事を続ければリリアさんが大変ですよ。身体も冷えるでしょうし」


「上空はヒトには危険だよ~。地中のが安全だと思うなあ~」


「地中を進めるのはアンタだけだよ!」


大精霊達が早速ああだこうだと旅に関しての議論を始める。


「そうね。確かに飛んでいくのは最低限にしたいし、見られたくないわ。まず村に降りて地図をもらいましょう。そこから街道を進んでいくの。行商の人達が使ってる割と大きな道だから迷う事はないはずよ。日の出とともに出発すれば、日暮れまでには次の集落があるって村で飲んでいた行商人が話していたからなんとかなるでしょう」


馬を使えば集落をいくつか飛ばして進むことも出来るらしい。これらはリリアが水汲みをしていた時に大きな声で話していたのが聞こえたものだ。その時は外の世界に少しだけドキドキしたのだが、今まさにその世界に向かおうとしている。


荷車はリリアの力では動かず、大精霊達がリリアの隣で人間のように持ち手をもって運ぶことになった。

精霊の姿は見えないのでこのままではリリアが力持ちに見える事だろう。


「村で小さめの荷車に移し替えてもらった方がいいかしら」


「それくらいお安い御用です。なんなら馬も差し上げますよ!」


村に着いてリリアが事情を説明すると、しばらくは異常に食い下がられたがやがて納得したようで具体的な話に入ってくれた。

村長がリリアの後ろを見て冷や汗を流したのをリリアは知らない。


「馬は扱いが分からないの。それにこの村の大事な財産でもあるでしょう」


「一日もあれば基本的な扱いは分かりましょう。女の子が一人で荷車を運ぶよりは目立ちませんよ」


(それはそうかもしれないわね)


「値段に関しては、そうですな。贈り物と同じく我々にとっては喜ばしいものであり、今までの迷惑料と考えて下さっても構いません。もしそれでも気が咎めるというのなら、あまり価値のない馬にしますよ」


「価値のない?」


まるで自分の事を言われたかのような気がしてリリアは苛立った。

リリアの事は本当には何も理解していないのだ、と分かったので遠慮なく貰ってしまおうかと考える。

その子にとってもここが居辛い場所かもしれない。


「ええ、ええ。フォティア様の加護を強く受けたせいか気性が荒く……いえ、そのもちろん炎の大精霊様に非はないのですが。我々人間には非常に難しい馬でして。ですが大精霊様の近くであれば言う事も聞くかもしれません」


「……分かったわ。案内してくれるかしら」


人は簡単には変わらない。キャロルもそうなのだろう。

だからこそブライアンの変化はある意味で奇跡のようなものだったのかもしれない、とリリアは思った。


元よりリリアも全員の全て変わるとは思っていない。

関わった人達の中で、少しでも何かを感じてくれたらそれでいいのだ。

それが精霊に畏怖しているからだとしても、きっかけは大体そんなものなのだ。

ちらりと精霊達を見るが、精霊達はそもそも人間に何の期待もしていないのが通常らしくいつも通りだった。

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