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出生の秘密

「ふむ、では王都に向かうか?」


考え込むリリアにエレスが提案する。


「お、王都?」


突然の事にリリアは目を見開いた。

全く縁のない王都という選択肢にも、エレスの口から王都という言葉が出た事にも驚いたのだ。


「それもいいけれど、どうして王都なの?」


何か理由があるのかと尋ねるリリアに、しかしエレスの方が不思議そうな顔をしている。


「リリアが持っていた布に王家の霊紋が入っていた。リリアは王家に所縁のある人間なのだろう?」


「ええっ!?」


衝撃の事実だった。

王家といえば精霊とは別の意味で雲の上の人々だ。

確かにリリアは幼い頃に捨てられたが、大体の親と同じくリリアの親も夜中にこっそりリリアを置いていったという話だ。

孤児院にいた子供は大半がそうであり、王家との関係といえば連なる貴族の方々の寄付があるかどうかくらいだろう。


「私が王家と関係あるだなんて……」


信じられない。しかし、布? とリリアは思い至る。


(布。私が持っていた布といえば最初に着ていたボロの服だけれど、あれは孤児院で集めたものよ。もう一つの布といえば)


「おくるみの事……?」


唯一の家族との繋がりであるおくるみの布だ。

マチルダは「子供たちが家族家族うるさいから捨てられた時に持っていたものは返すようにしてるのよ」と仕事中にぼやいていた。

マチルダの思惑がどうあれ確かにリリアにとっては大切なものであり、村を出た時にも持っていたものだ。


「ああ、これだな」


エレスがおそらく地の力で瓦礫を動かし、風を起こしてひらりと白いものを小屋の残骸から舞い上げる。

それは布であり、リリアの手の中にゆっくりと収まった。


「おくるみ……」


「この布の端に模様があるだろう。それは王家でしか使われていないものだったはずだ」


今は土汚れがついてはいるし経年劣化でボロボロではあるが元はシンプルな白い布だ。確かにぐるりと囲むように模様が縫われている。凝ったものではないが独特な模様だ。物自体は良い布なのでリリアも「親は裕福なのかもしれない」と考えた事がないでもない。

ただどんな親であれ生まれたのが無加護であれば捨てられるのも仕方がないと納得していた。


「これが、王家のものなの?」


「もう昔の事だろうから今がどうかは知らないがな。ああいう立場の人間は伝統を重んじるのだろう。私の時にはその模様を王霊紋と呼んで特定の人間しか使えなかったはずだ。少なくともそう説明された」


聞きたい事はたくさんあった。

王家でエレスが何をしていたのかとか、自分の出自とか、色々だ。


(でも)


「とりあえず今日はもう遅いから寝る準備をしましょう」


話し合っている内に陽が沈んでしまっている

フォティアの火によって明るさは充分だがリリアは情報量にギブアップしていたし一度寝る事にした

まずは寝る所だ。


「それで、あの、エザフォスにお願いがあるのだけど」」


おずおずとリリアが切り出す。エザフォスは相変わらず「なあに~?」とのんびりしていた。


「もし大変でないのなら、その、背中で眠らせてくれないかしら」


「なっ……」


慌てたのはエレスである。

そんな精霊王を知ってか知らずかエザフォスはお安い御用さと応えてリリアを背に乗せる。


「壊しちゃったのは僕だしねえ~」


「嬉しいわ。ずっとこのふわふわを堪能したかった……の……」


エザフォスの背は想像通りふわふわだった。

暖かく、花畑に寝そべった時のような土の香りがかすかにしている。

丸い背中だから気を付けようとリリアは思っていたのだが実際寝そべると大地のように安定感があった。


「寝てしまいましたね」


寝転んで数秒後にはリリアの意識が落ちていた。


「ここ最近疲れていたみたいだからね。エザフォスの背は気持ちいいだろうさ」


「私の胸の中でもよかったのではないか?」


「王様いまふわふわじゃないからねー!」


「ほらほら、あまりうるさくしていると起きてしまいますよ。リリアさんも明日色々決めるでしょうから」


ウォネロの一声に確かにそうだ、と精霊達は気配を消す。

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