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突きつけられた死

キャロルは喜びに満ちていた。


(やっぱりあんな無加護より私を選ぶんだわ! 今年の精霊王は私の所に来てくれた!)


ブライアンから声をかけられた事でキャロルは歪んだ笑顔を浮かべた。

追いかけてきてくれて嬉しい。

さっき自分を蔑ろにした事がむかつく。

そんな感情がないまぜになっている。

だがそんな気持ちはブライアンの言葉で霧散する事になる。


「もうやめろよこんな事!何がしたいんだよお前」


「な、なんの事よ」


ブライアンは一旦自分の事は棚に上げる事にした。


(何がしたいんだよお前って、俺にも刺さるな)


後で反省にするにしても、とにかくこの事態を収めなければならない。


「ねえブライアン、それより無加護が」


「それをやめろ!」


叱責された途端、キャロルの気持ちがスッと冷めた。

浮かべた笑みは凍り付き、徐々に怒りの表情が現れる。


「なに? 無加護に味方するつもり?」


「だったら悪いかよ」


その一言でキャロルの顔がカッと赤くなった。


「無加護に騙されてるわよ! なんで? ここしばらく見かけないと思えばブライアンは変になっちゃったわ!」


無加護を探していた村の人々も二人の騒ぎを聞きつけて広場に集まってきた。

なんだなんだと二人のやり取りを聞いたり囃し立てたり、仕立て屋の息子がおかしくなっただの好き勝手に言っている。


「お前が盗ったんだろ、花冠。今皆の前でお前を調べたら分かる事なんだ」


「何を証拠に? 大体なんで私がそんなもの盗まなきゃいけないの」


「お前が持ってるその鞄はドレスに合わせたものじゃない。ドレス用のものはちゃんと店で貸したはずだ。でもあれじゃ花冠は入らないから普段使ってるものの中で一番綺麗なものを持ってきたんだろ」


キャロルはぎゅっと鞄の上から花冠を握りしめる。

ブライアンの指摘は当たっていた。

今ここで調べられたら確かにキャロルはあらゆる意味で終わってしまう。

味方だと思っていたブライアンが脅しでもそんな事を言うなど、キャロルには信じたくなかった。


「ふん。あんな無加護なんかに花冠を受け取ってもらえなかったくせに偉そうにしちゃって!」


「なんだと!」



(信じられないわ。あのキャロルとブライアンが言い争っているなんて)


リリアにとってはどうしても二人とも警戒すべき人物だった。いつも仲良く危害を加えてくる二人が喧嘩をしている。

ブライアンは本当に変わったのだ。

人の視線があるときだけ良い恰好をしたがるブライアンが、周囲の目を気にせず庇ってくれている。

じんわりとした嬉しさを噛みしめながら二人の様子を眺めている時、突然腕に痛みが走り視界が回った。


「おい! 無加護がいたぞ!」


「痛っ」


「花冠を返せ! お前みたいな無加護が持っていていいものじゃないんだよ!」


囚人のようにずるずると広場の前に引きずり出されるリリア。


「……っ!」


骨が折れそうな程の力で腕を掴まれている。

そのまま広場の中心、篝火と舞台の間にの地面に投げ出された。


(あ……)


その意図はすぐ察する事が出来た。

見世物としての処刑だ。

うっ憤を晴らす為の私刑。

明確な罪を犯した無加護に遠慮する者はいないだろう。


村人は自然と手に手に石を拾い、そのまま追い詰められたリリアに四方八方から石を投げつけようとしている。

沢山の手が振りかぶって自分に向かって石を投げる様が、リリアにはスローモーションのように見えた。

痛みに備えてぎゅっと目を瞑る。


(死にたくない!)


その時弾けるような感覚があった。


きつく目を閉じたまま、いつまでたっても石礫の衝撃はやってこない。

不思議に思いながらも恐る恐る周囲を見渡すと奇妙な光景があった。

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