再会
「…………っ」
リリアが大精霊たちと畑の土を耕していると、どこからか懐かしい声に呼ばれた気がした。
屈めていた腰を伸ばして周囲を見渡すが、人影はない。
そもそも森に用事のある村人なんてそうはおらず、ましてや無加護のリリアの名前を呼ぶような友はいないはずだ。
「気のせいかしら」
「……ー! リ…ア-!」
「気のせいじゃなさそうだねリリア!」
「私の名前を……? この声、どこかで聞いたことあるような……。それになんだか大変そうだし、村で何かあったのかしら」
「でもでもっ! あんまり関わらない方が良いと思うよ!」
「そういうわけにもいかないわよ」
少年のような、男の声だ。
やけに切羽詰まっている。
何か事件だろうか。
だが事件があったとして、しばらく森の中でのんびり暮らしていたリリアに関係があるとも思えない。
リリアがじっと耳を澄ませていると、やがて人影が見えてはっきりした声も届く。
「リリア! 助けてくれ! こっ、殺される!」
「ブライアン!?」
目を凝らすと、ブライアンが必死に走って向かってきているのが見える。
聞こえる叫びは穏やかなものではない。
よくよく見ると、なんとリリアが小屋についた時にいたあの大男たちがブライアンの後を追ってきているではないか!
「大変……っ」
リリアは慌てて小屋に戻る。
何があったのか分からないが、はやくエレスを呼ばなければ。
大精霊たちはリリアの様子に首を傾げ、とりあえずといった様子でリリアについて小屋へ入る。
「エレス、エレス……寝てるわ!」
だが運悪く精霊王は寝ていた。
以前眠るのに慣れる為起き続けているという話を聞いた為、リリアは一瞬起こすのを躊躇った。
だがそれどころではない。
あまり良い感情を持つ相手ではないが、ブライアンが危険なのだ。
「エレス、起きてエレス!」
だが、眠る時でさえ完璧な美貌を輝かせる精霊王は中々起きる気配がない。
(睫毛が長くてキラキラしてる……って違うわ、どうしよう)
「リリア、あの人間を助けたいのかい?」
そんな様子を見ていた精霊たちが口を開く。
こちらものんびりした様子だ。
「そうなのよフォティア。どうしよう。エレス、全然起きないわ」
「リリアに危険が迫ってるわけじゃないからね! あんまり起きる気がないんじゃない?」
「そんな……」
「リリアさん、あの人間を助けるくらいなら私たちでも出来ますよ」
「そうなの……!? じゃあお願い! 早く助けないと!」
「どっちを殺せばいいのー?」
無邪気なアエラスの言葉にリリアはぎょっとする。
「どっちも殺しちゃダメ! えっと……追いかけてる大きな人達の動きを止めてほしいの!」
「はあい!」
アエラスは元気よく返事をして外へ飛び立つ。
追いかけるようにしてリリア達も外へ出ると、ちょうど三人分の悲鳴が聞こえてきたところだった。
少し遅れて、高めの情けない声も。
リリア達がブライアンの元へたどり着くと、大男たちが水車のようにぐるぐる回されていた。
ただし空中で。
アエラスは楽しそうに風を操っていた。
「ねえねえ! このまま刻んでもいいんだけどそれはだめなんだって~!」
アエラスは元気よく脅しているが、目を回している山賊達に果たして聞こえているのだろうか。
それを見あげるブライアンは腰を抜かしたのか、その場にへたり込んでいる。
「ブライアン、大丈夫?」
「リリア……?」




