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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第86話 リラの薬瓶 4


「アリア殿?」


「え? あ……、すみません。少し驚いてしまって」


「この黒いものに見覚えが?」


「それは……、海藻の一種です」


「あ、ちゃんと食べられる物も入っていたんですね?」


 リラが少し安心したような表情を見せた。食べられる物が入っていようと、ヒ素が入っている時点で状況は変わらないのだが……。


「たしかに食べられるよ。人体に必要な栄養も豊富。だけど自然の……、無機ヒ素が多く含まれているから、きちんと下処理をしないと危険な食べ物でもあるの。私たちの世界では、この海藻を食べないようにと注意を促した国もあるくらいで」


 アリアが神妙な面持ちでアーヴィンを見上げた。


「殿下、以前にワカメとお豆腐のお味噌汁を召し上がっていましたよね?」


「え? あ、あぁ。スズ殿に半ば無理矢理食べさせられたな。でも、わりと美味かった……が?」


「そもそも海藻には無機ヒ素が含まれています。もちろん、ワカメにも。でも、この黒い海藻にはワカメの約三倍のヒ素が含まれていて……。無機ヒ素は化学物質の有機ヒ素よりも危険度が高いですし、この海藻を妊婦さんが食べても良いかどうか意見が分かれたりと扱いが難しいんですよ」


「そんなに危ない物が食用なのか?」


 アーヴィンが疑問に思うのも無理はないだろう。しかし、この海藻は日本人が古くから食べてきたものだ。海外で出されたデータにより、含有されるヒ素の量が日本でも問題視されるまでは、妊婦は積極的に摂るべきだとも言われていた。


「先ほどお話しした通り、栄養も豊富なんです。妊婦さんに必要なカルシウムや鉄分も含まれているので、上手に適量を食べることは良いことだとも言われています。ただ、やはり不安であれば無理に摂らない、専門の主治医に相談して決めることを推奨されていますね」


「正しい下処理というのは?」


「乾燥させた海藻を水でよく洗って、茹でこぼします。そうすることによってヒ素が溶け出して、食べても安全なレベルまで下がります。ただ、やっぱり食べ過ぎるのは良くないので、小さなお皿に盛るくらいの量を二日に一回程度が適量だそうです。まぁ、丼ぶり……えーと、サラダボウル一杯分を頻繁に食べるような食生活でなければ大丈夫らしいですけどね。ただし――」


 アリアは薬湯の中に浮いた海藻に視線を向けた。


「それは正しい下処理が行われた上での話です」


「これは、その下処理がされていないと?」


「おそらく。ただ、この薬は、あえてヒ素が溶け出したほうの湯を使った可能性もあります。その際に少量の海藻が混ざってしまったのではないかと。有機ヒ素に加えて無機ヒ素まで……。これを体内に入れた場合、どうなるのか私にも分かりません。対処方法を間違えることで、さらに危険な状態になる可能性も大いにあります。一度、魔導師の棟の信用できる医師や薬師に調べてもらったほうが良いと思います。それから、至急リラを安全な場所へ」


 リラを見ると、わずかに震えながらアレクの袖口を掴んでいた。


「とりあえず、母の温室に行こう。元々、日中はそこで過ごすようにと母から言われてるんだろ?」


「はい」


 アリアは短い返事を返しながら手早く薬湯もどきを瓶に戻して、きつく蓋をした。そして、新聞紙で巻いてからビニール袋に入れて口を縛る。

 代わろうとアーヴィンが手を伸ばしたが、間に合わないほどのスピードだった。


「アリア殿、あとは俺が」


「殿下もアリア様もお待ちください。ここからは私が」


 せめて、とアーヴィンが瓶を持ち運ぼうとしたが、アレクに回収され、軽く睨まれた。兄弟のいない王子が危険なことをするな、と普段から口酸っぱく言われているらしい。


「いつも悪いな」


「こういったことも私の仕事のうちです。お二人共、正義感も探究心もほどほどになさってください」


「すみません」


 リラの小言の代わりにアレクに(いさ)められ、アリアは少し縮こまった。


(アレクのこんな低い声、初めて聞いた……)


「ンンンー」


 少しばかり重い空気の中、温室へ向かう準備を始めようとしたところで、ロードがくぐもった声を上げた。「アリア」と名前を呼ばれたような気がして振り返ると、窓辺で大人しくしていたロードが白い紙製の小鳥を咥えている。


(絵面……っ!)


 紙だと分っていても、鷹がバタバタと暴れる小鳥を咥えている光景は何とも言えない気分になる。


 ロードが口を開けて解放すると小鳥はパタパタと飛び、アリアの指にとまった。そして、ポンッとマジックのように手紙に形を変えた。


(陰陽師の式神みたい。こんなことする人っていったら……)


 そう思いながらアリアが手紙を開封すると、予想通り送り主は魔導師マーリンだった。


「えーっと……」


 アリアが手紙の内容を声に出して読み上げる。


「親愛なるアリア様。例の件ですが、私が得た情報によると、一連の事件の犯人は名前が分からないあの人で決定です。ただし、犯行の瞬間でなければ取り押さえることはできません。それなりに地位のある人物ですから。そして、料理人見習いの少年やメイドの他に仲間がいるのかについては、まだ判明していません。彼らはファイにいる家族を人質に取られて脅されていただけのようで、目的などは知らされていないとのことです。王宮の中も外も、誰が敵か分からない状態です。引き続き、警戒を怠らないでください。ただ、ニールとニーナは信用しても大丈夫です。彼らについては私が保証します。取り急ぎご報告まで。殿下にも、よろしくお伝えください。それでは、また――。貴女の親友より。追伸、この手紙は燃えます…………ぅ!?」


 書き添えられた通り、読み終わると虹色のグラデーションの炎を上げて手紙は跡形もなく消えた。そのように細工された魔法の炎なのか熱さをまったく感じず、アリアの手も傷ひとつない。


 敵に情報を渡さないための工夫と遊び心が混ざった仕掛けだったのだろう。その場にいた全員が張り詰めていた気を緩めて溜め息をついた。良くも悪くも、彼の行動はどんな時でもトリッキーだ。

お読みくださり、ありがとうございました。


久しぶりに最新話を投稿できました!

そして当初は、本文にある海藻の名称を出すつもりでしたが、色々と不安な部分あるため、「海藻の一種」としました。



また、改稿作業でご迷惑をおかけしておりますm(_ _;)m

数話前にアリアと殿下が、「言いませんでした?」「初めて聞いた」という会話をしていたのですが、「え、本当に初めて……?」と作者が不安になりまして……。


第二章に入る前に改稿するつもりでしたが、どうせなら矛盾点や誤字脱字を修正してから第一章を完結させようと思い、少し予定を早めて改稿作業を始めてしまいました。


PVを見ていると、改稿済み部分まで追いかけてくださっている方が何人かいらっしゃるようで、本当にありがたいです。


2023年 12月17日(日)午前10時の時点で、第10話まで改稿済みです。


最新話の更新も続けますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 海は怖いねぇ。 改めてそう思うお話や。
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