第67話 スズとの再会。そして…… 1
廊下を歩く女性の足音に気づくと、アリアはパタパタとドアに駆け寄り、複数の鍵を開けた。
「スズさん! お久しぶりです!」
アリアが勢いよくドアを開けて出迎えると、驚いたスズが少し仰け反っていた。
スズはテーブルに案内される途中で、コソッとリラに話しかけた。
「殿下から聞いてはいたけど、ほんとにすごいね。ここ、防音なんでしょ?」
「はい。どのように聞こえているのか、私も仕組みは分からないのですが……」
「仕組みって、機械じゃないんだから」
スズとリラが苦笑している様子を見て、アリアは小さく首を傾げた。
「あ、ごめんね。何でもないよ。わ、すごい量のお菓子だね!」
テーブルに着くなり、嬉しそうなスズの声が上がった。
「はい。スズさんと久しぶりにお会いするので、リラと料理長が頑張ってくれました」
「嬉しい……。実はちょっと風邪こじらせてね。最近、あんまり食べれてなかったんだぁ」
(寝込んでた理由は、そういう設定なんだ)
「もう大丈夫なんですか?」
「うん! おかげ様で復活しました」
「良かったです。無理のない程度に召し上がってくださいね」
アリアがいつも通りに笑うと、スズはホッとした表情を見せた。
「ちょっと小耳に挟んだんだけど……。アリアちゃん、最近大胆なことやらかしたんだって?」
(私の行動も知られてるのか……)
「えっ……と。はい、やらかしました」
「あはは、アリアちゃんって、わりと行動派だよねぇ。でも、無事で良かったよ」
「はい……。ご心配おかけしました」
「うんうん、反省してるなら大丈夫だね。会える機会は少ないし、これからは一層、気をつけてね?」
「はい」
アリアは素直に頷きつつも、少しスズの言葉がひっかかった。すると、アリアの表情を読んだスズは言葉を付け足した。
「あ、知らなかった? 私ね、引っ越すの」
「え!?」
「引っ越すって言っても、敷地内の魔導師の塔だから。またお茶しようねー」
「魔導師の塔!? ど、どうしてですか?」
「うーん、利害の一致?」
「マーリン様に関係が?」
「お、さすが鋭いね。私が使える魔法ってさ、独特だったでしょ?」
聖女の力の話題になったため、アリアとスズが気兼ねなく話せるようにと、リラは静かに下がった。
「有機物にはヒールが使えないって……」
「そうそう、それね。ちょっと違う方向で試すことになったの」
アリアは首を傾げつつ、スズの状況を想像する。
「えーっとねぇ……。簡単にたとえると、リモコンの電池をプラスとマイナス逆に入れてた感じかな? その状態だと機能しないでしょ?」
「電源が入らないですもんね」
「そういうこと。まぁ、団長は嬉しそうに小難しいことを延々と語ってたけど、要はそういうことなんだと思う」
「…………電源が入るようになることは、スズさんにとって良いことですか?」
「まぁ、一応『聖女』だと言われてるからには、できることは多いほうが良いよね」
そう言ったスズが、左手の中指にはめているシルバーの指輪を撫でた。
土台に乗せられた大きな石は、深い藍色に細かい砂金のような模様があり、まるで美しい夜空のようだ。
(ラピスラズリ? スズさん、こんな指輪してたっけ)
アクセサリーは気分で変えることも多い。おそらく転移してきた時に持っていて、今日は着けたい気分だったのだろう。
「綺麗な指輪ですね。ラピスラズリですか?」
「え? あぁ……、うん。そうだよ。アリアちゃん、宝石とかパワーストーン好き?」
「わりと好きなほうだと思います。発掘とかも」
「そっからかー! そういえば、大学では考古学が専攻だったね」
「はい」
ラピスラズリの指輪の話の時は、少し煮えきらない返答をしていたスズが、アリアの言葉で明るくなった。
(指輪については、あまり聞かれたくないのかな……? そうだ。私、まだ……)
話題の転換にちょうど良いということもあり、ずっと胸につかえていたことをスズに伝えた。
「スズさん。先日、庭園でお会いした時に失礼な態度を取ってしまって、申し訳ありませんでした」
スズは一瞬キョトンとしたが、すぐに理解した。
「あぁ、そうか。あれね。いやぁ、アリアちゃん走るの速いねぇ。びっくりしたよ」
「いえ、そういうことではなく。いえ、そういうことなんですけど……。挨拶もせずに走り去ってしまって……」
「いやいや、あれは誤解せるようなことしてた私も悪いから! そりゃ、嫌な気分になるよねぇ。好きな人が、他の女と二人きりでいたら。私もちょっと、はしゃぎ過ぎてたし……」
「え!?」
「ん? そういうことでしょ?」
「……え? え?」
「もしかして、隠してるつもりだった?」
「は、い。でも、リラとアレクにも、ばれてしまっていたようで」
「あはは、そりゃあねぇ」
「あの……。もしかして、殿下も……?」
「さぁ? あの子は鈍いからねぇ。直接聞いてみたほうが早いんじゃないかな?」
「いえ、直接聞くってことは、つまりそういうことになってしまうので、それはちょっと……。それに、たぶん殿下はスズさんのことが……」
「えぇ? それはないよー。殿下と私は、十歳近く離れてるし。王太子殿下に失礼かもしれないけど、完全に姉と弟みたいな関係だよ?」
「で、でも、歳の離れた幼なじみのことを急に異性として見るようになった……、とかも無きにしもあらずで。それに、スズさんは姉弟だと思っていても、殿下もそうとは限らないですし」
「あー、それもテンプレだよね。アリアちゃん、幼なじみ物、好き?」
「はい……」
「そっかぁ」
考え過ぎて右往左往しているアリアには聞こえないくらいの小さな声で、「こじらせてるなぁ」とスズは呟いた。
お読みくださり、ありがとうございました。
ガールズトーク回です。
そして、スズは魔導師の塔に行くことになったので、アリアやアーヴィンが暮らす区域から離れます。
魔導師、魔術師たちは、自宅から通っても良いし、快適で自由な寮で暮らす選択肢もあります。
「スズとの再会、そして…… 2」に続きます。
それでは、次話もどうぞよろしくお願いいたします。




