第64話 軟禁から監禁へ 1
アリアの部屋のドアを開けたアーヴィンは、そのまま彼女の手を引いて窓辺の椅子に座らせた。
アリアは、リラに何と言われるかということで頭がいっぱいで、アーヴィンの存在をあまり認識できていない。
「聞いてるか?」
「……え?」
「今からリラを呼ぶが良いか? と聞いた。着替えも必要だし、土で汚れたのなら、もう一度風呂にも入らないといけないだろ」
「こんな夜遅くに、リラを呼び出すなんて悪いです」
「こんな夜遅くに、ひとりで出歩いていたのは誰だ?」
「うっ……」
「そういえば……。アリア殿は、ひとりで着替えも入浴もできるそうだな?」
「まぁ、はい。こちらの世界のご令嬢とは違いますので」
「ふーん。貴女の所作を見たところ、それなりの家の出だと思っていたが?」
幼稚舎から初等部までに受けた淑女教育は、異世界の王族にも通用するらしい。
「現代の私たちの国では、かなり裕福なお家のお嬢様でも、ひとりで入浴される方が大半だと思いますよ。ボディケアやヘアケアなんかは、人に任せているかもしれませんけど」
「へぇ、そうなのか」
平安時代のお姫様や、女中がいるような名家のお嬢様は、西洋貴族のご令嬢に近いお世話をされていたかもしれない。
しかし、アリアは両親がいた頃から、そのような生活は送っていない。
どちらかと言えば、着替えも入浴も歯磨きも、できるだけ早く自分でできるようにと、親はサポート役に徹するような教育方針だった。
まるで、アリアを残して、自分たちがいなくなることを予知していたかのように――。
そのため、召喚されてすぐは、リラに甲斐甲斐しく世話をされることが少し窮屈ですらあった。
しかし、今ではこの生活に慣れてきてしまっている。そんな状態に少し戸惑うが、侍女がリラだったから早く馴染めたのだろうとも思う。
それでも、身の回り全般のことを自分でするくらいの生活力は今もある。この部屋にキッチンと食材があれば自炊もできるだろう。
「そういう世界で生きてきたので、私はひとりで大丈夫です」
だから、どうかリラは呼ばないで……、と懇願するような目でアーヴィンを見ると、ニヤッと笑われた。
「そんなに情熱的な視線を送られると、この部屋の鍵を増やしたくなってしまうな?」
「今、そんな話してました? それに、鍵を増やすって……」
「あぁ。内側からは決してドアが開かないようにな。本当に、貴女は目を離すと何をするか分からない」
「それは……、監禁と呼ぶのでは?」
「何か問題が?」
「問題しかないのでは?」
「危険なことに首を突っ込んで、心配させる貴女が悪い」
「それは返す言葉もないですけど。でも、危険なことなら殿下だって……」
「…………何か言いたいことでも?」
「……いいえ、ありません」
黒魔術について指摘したかったが、本人に直接言ってしまっては今までの行動が水の泡になってしまう。
もっとも、アリアが探っていることをアーヴィンが気づいているだろうということも、アリアは分かっている。
しかし、決定的な言葉を口に出すことは避けた。
「返す言葉がないなら、大人しく従って」
素直に頷かずに、ふいっと顔を背けたアリアを見ながらアーヴィンが溜め息をつく。
「分かった。今後のことは、また明日にでも検討しよう。まずは、今この状況での選択肢を二つあげようか」
アリアがアーヴィンのほうへ向き直ると、恐ろしいほどに美しい顔と甘い声で言い渡された。
「一、質問攻めにあいながら、俺に風呂に入れられる。二、小言を聞かされながら、リラに風呂に入れられる。さて、どちらが良いかな?」
「…………リラでお願いします」
「了解。じゃあ、リラを呼んでくる。あ、逃げるなよ? 逃げたら分かるからな」
そう言ったアーヴィンがドアを指差した。
(結界って、そういうこと……)
つまり、部屋を出た時点で、アリアの行動はアーヴィンには筒抜けだったということだ。
「……ままならない。っていうか、鍵がなくても実質、監禁状態だったってこと?」
パタンとドアが閉まると同時に、アリアはテーブルに突っ伏した。
お読みくださり、ありがとうございました。
サブタイトルが、あまりにもアレなので……(汗)
何か浮かべば、変更します。
次話もどうぞよろしくお願いいたします。




