第53話 王太子の隠し事 2
追記 2023年 10月3日(火)
魔術師と魔導師の区別について。
この作品では、
魔法を使える人を「魔術師」
魔法を使える上で、他人に教えたり、魔法について研究する立場にある人を「魔導師」としています。
ちなみに、
「魔術書」はテキスト(基本編)や専門書(応用編)
「魔導書」は論文を含めた専門書(小難しい)
と位置づけています。
「アリア様、お待たせいたしました」
「アレク、お帰りなさい。どうだった?」
「殿下に確認したところ、やはり『すべて揃っている』とのことでした」
「――そう」
(やっぱり隠すのね。私に読ませたくないのか、殿下があの本を読んでいたこと自体を知られたくないのか……)
アリアは頬杖をついた手に顎を乗せて、アーヴィンの考えを改めて推測する。
そして、「すべて揃っている」という答えに、納得していないであろうアリアの表情を見たアレクは賭けに出た。
アリアは不足していると確信していながらも、「あの本がない」と最初から明確に伝えなかった。つまり、アーヴィンと同じく、何か言えない理由があるのだろう。
また、その本はおそらく、アリアに見つからないように厳重に管理されているだろうとも考えた上での賭けだ。
「何か足りない物がございますか? もしかしたら、殿下もお忘れになっているのかもしれません。タイトルや表紙のデザインなどが分かれば、私が探して参りますが……」
「…………いいえ、殿下が全て揃っているとおっしゃるのであれば、これで全部なんだと思う。ごめんね、手を煩わせて」
「とんでもございません。また何かございましたら、いつでもお申し付けください」
「ありがとう」
「では、失礼いたします」
アレクは内心で冷や汗をかきつつ、礼をとって下がった。
(今日は、ずいぶんと仕事らしく振る舞うのね。でも、これで決定……ってことかな)
アレクの分かりやすい態度に、アリアは小さく苦笑した。
「ねぇ、リラ。図書室って大臣たちも使うの?」
「そうですね。政治や研究に熱心な一部の方は……」
「そう……」
「殿下がおっしゃっていた通り、準備が整うまではいらしてはいけませんよ?」
「うん。それは……、分かってる」
ここまで守られている立場で軽率な行動を取ることは、大人としても人としても褒められたものではない。
(今回尋ねたことで、私があの本を探してることを殿下は気づいたよね。その上でまだ隠すっていうことは、図書室への出入りが解禁になっても見張りが付くかも。それに、そもそも殿下が隠し持っているとしたら見つけられない……。いや、でも禁書であれば、たとえ殿下であってもそう簡単には持ち出せないはず……。どちらにしろ、今の私の状況では確かめられないな)
様々な可能性を考えたが、やはり今のアリアではあの本にたどり着くことは難しいだろう。
しかし、どうしても諦めきれないアリアは、今の状況でできることをしようと決めた。
有料動画サイトが初月無料だったため、軟禁生活中にいくつか契約してみたが、ちょうど飽きてきたところだ。
この際、徹底的に調べてみようと色々な物を駆使した。
試しに電子書籍の購入手続きをしてみたところ問題なく決済できたため、クレジットカードが使用できることも分かった。預金残高にも余裕があるため、多少の出費であれば問題ないだろう。
(もしものために、って多めに入れておく習慣を付けてて良かった)
まさか、“異世界に転移した時のため”に使うことになるとは夢にも思わなかったが……。
そして、電子書籍や論文を読む環境が整ったことで、ある程度どころか、かなりの量の情報が手に入るようになった。
しかし、現代日本で販売されている書籍は、この世界で通用するものではなかった。魔術や魔法という言葉が入ったオカルト系のものを中心に目を通したが収穫はない。
そして、手当たり次第に情報を吸収した結果、占い師になれるのではないかというほどに東洋西洋どちらの占術にも精通してしまった――。
特に面白いと思ったのはタロットカードだ。
(実際に使ってみたいなぁ)
しかし、残念ながらタロットカードが手元にないため、紅茶占いをすることが日課となった。
紅茶占いとは、紅茶を飲み干したあとのカップに残った茶葉の模様から、現在や未来の状況を読み取る占術だ。
実は、魔法学校が舞台の映画を見てからずっと興味はあった。そして、いざ使ってみると、これがわりと当たる気がする。
今日の占いでは、『冒険』と読み取れる結果が出た。少し不穏な模様があることが気にかかったが、些細なことだと脇に置いた。
「ねぇ、リラ。メリッサ様にお会いすることはできないかな? あの温室なら安全みたいだし……」
「たしかに、そうですね。もしかしたら温室であれば……。殿下に伺って参りますので少しお待ちくださいね」
リラがアーヴィンのもとに向かっている間、アリアは借りていた本をパラパラとめくった。
アーヴィンから借りた本は早々に読み終えていたが、興味深い内容も多く、何度も読み返している。
ここから得た情報では、この国の医療や科学がそれなりに発展しているということが分かった。スズの突飛な要望に応えられるのは、そのためかもしれない。
さすがにAIなどは存在しないが、この世界には魔法がある。それらが補っている、もしくは現実世界よりも発展している部分もあるのかもしれない。
そして、現実世界では民間療法とされるメディカルハーブや天然アロマオイル。漢方薬に近いものを、こちらの医師は一般的な治療として用いているらしい。
そういえば、アリアが発熱した時も、かえって倒れそうなほど苦い薬草茶を飲まされた。
(……うっ)
思い出しただけでも気が遠くなる。
あの襲撃があった夜、アーヴィンが読んでいたのは薬草学に医学書、白魔術の魔導書……。
おそらく彼は、国王であるリカード、王妃メリッサ、そして、アルフォンスの妃であるシェリルの病を治す方法を探しているのだろう。
しかし、表向きの一般書物では求めている情報は見つからなかった。
そして――――。
黒魔術について書かれた本にまで手を伸ばしたのだろう。
アリアに貸し出されなかったものは、黒魔術に関する魔導書ばかりだった――。
お読みくださり、ありがとうございました。
アーヴィンが隠していたものが明らかになりました。
不穏な部分と甘い部分が混ざりながら、ストーリーは進んでいきます。
次話もどうぞよろしくお願いいたします。




