第45話 ふいうち 2
「話が戻りますけど……。陛下を退位させたい派閥は、アーヴィン殿下の即位を望んでいるんですか?」
「まぁ、おおよそは。しかし、聖女の記憶に関して以外……為政の手腕その他もろもろ、私は父や祖父の足元にも及ばない。だから、国や民のためにも、今はまだ父に退かれては困るんだ。そのためなら、私が道化にでも何にでもなろうと決めた。ちなみに、祖父もこの計画には賛同してくれている」
「アルフォンス様が殿下のことをずいぶん下げて評価なさっていることも、そこに繋がるんですか?」
「……いや。情けない話だが、祖父には本気でそう言われている。『お前は甘い』と」
「あぁ……」
「そこで納得されるのも、辛いものがあるな」
「ふふ、それは失礼しました」
くすくすと笑いながら、アリアは目を細めた。アーヴィンから一本取れたようで気分が良い。
そういえば、スズがアルフォンスを“狸”だと表現していたことを思い出し、アリアはまた笑いそうになるのを堪えた。
「何?」
「いいえ、何も。気にしないでください」
いじけたように「まぁ、いいけど」と呟きながら、アーヴィンが足を組み直す。
(こういうところを、スズさんから弟扱いされてるんだろうなぁ)
ふたりのじゃれ合いを思い浮かべると、今度こそ声を出して笑ってしまった。
「さっきから、いったい何なんだ」
「何でもないですよー」
綺麗にセットされていた髪をくしゃくしゃと乱すアーヴィンを見ながら、によによとしてしまう顔をアリアは必死に戻した。
一時の穏やかな空気がノック音で途切れた。ガチャっと響く金属音で、鍵を解錠されたことにも気づく。
『アリア様? あれ、いらっしゃない……。殿下ー? いらっしゃらないんですか? おかしいわ。お二人とも、こちらだと思ったのに……』
アリアの自室のほうからリラの声が聞こえてきた。
「え? リラ?」
「あー、リラは部屋の鍵を持ってるからなぁ」
隠し部屋を開く前に、人払いの目的でアリアの私室に鍵をかけたがリラには通用しない。
「大丈夫。外からの音はこちらに聞こえるが、この隠し部屋内の音は外に漏れないから」
リラの声がする方に向かおうとしたアリアの指先を、アーヴィンが軽く握って制した。
「でも、リラが私を探して……」
襲撃以降、少し過保護になったリラを心配させたくはない。
「リラもこの部屋の存在を知っているが、今回のことでここを使うことはまだ知らせていない。だから、今出て行くのはマズイんだ。余計な心配はさせたくないから」
「そう、ですか……。そうですよね。この部屋を使うほどの大事だと知らせるようなものですもんね……」
アーヴィンの説明を聞いたアリアは素直に腰を下ろした。
『アリア様ー?』
リラはまだアリアを探しているようだ。先ほどよりも声が遠いため、おそらくバスルームなどを確認しているのだろう。
「リラを足止めするようにとアレクに伝えたが、アイツには少し荷が重かったか。リラは案外すばしっこいからなぁ」
そう言って苦笑しながらも、アーヴィンの表情はどこか優しい。
(――幼なじみって羨ましいな)
『リラ!!』
「お、やっとアレクが追いついたか」
リラの所作は見惚れるほど洗練されているが、実は鬼ごっこや、かくれんぼが得意な女の子だったのかもしれない。
(小さい頃のリラも可愛かったんだろうなぁ。侯爵家のお嬢様だし、綺麗なドレスを着たりして……)
『アレク! どうしよう、アリア様がどこにもいらっしゃらないの……! 殿下の姿もなくて……』
『大丈夫、大丈夫だから。きっと庭とか、人目がないところで話してるはずだから。そんなに心配するな』
『でも……っ!』
リラの涙声がアリアの胸に刺さる。そして、呑気に幼少期のリラに思いを馳せていたことを申し訳なく感じた。
『本当に大丈夫だから。ほら、アリア様がお戻りになった時のためにお茶でも用意しておこう』
『……アリア様に何かあったら、アレクのせいだからね』
リラのワントーン低い声とともに、扉が閉まる音が小さく聞こえてきた。
お読みくださり、ありがとうございました。
「ふいうち 3」に続きます。
今回は雑談の中に、物語の背景説明を入れることに必死でした……。
「ふいうち」は、堅苦しい説明だけではなく甘いシーンも出てきますので、次話以降もお付き合いいただけましたら幸いです。
今週中には更新する予定です。




