45 下手っぴな説明でごめんなさい
それからヨハンさんは一度お屋敷のほうへ戻ることになった。
最初は出来ることなら今すぐルリさんも一緒に!みたいな勢いだったけど、あまりにも私の様子がおかしいから日を改めると自ら言い出してくれた。
そんなに私、酷い顔をしているのだろうか。
自分ではわからないけど、酷く動揺しているのは間違いない。
だって、どう受け止めたらいいのかわかんない……。
ヨハンさんが出て行って、部屋にはトウルさんとセルジュと私の三人が残った。
しばらく沈黙が流れていて、普段なら気まずいと思うところなんだけど、今の私はどうしようって思ってばかりで少しも余裕がなかった。
「その様子だと……何か心当たりでもあんだろ?」
「っ!」
そんな時、トウルさんからそう声をかけられてビクッと肩を揺らしてしまう。
私の様子を見てすぐさまトウルさんは困ったように片眉を下げた。ご、ごめんなさい、大げさに反応しちゃって。
「言いたくないなら言わなくていい。だが……いつまでも返事を保留には出来ない。キンドリー家を敵に回すのは厄介だからな」
「それは、わかっています。あれだけ真摯に頼んでくれましたし、検査を受けるのは構わないんですが……」
気にするなとか言われるより、ずっと誠実だな。この件をそのまま放置は出来ないってちゃんと教えてくれてありがたいよ。
きっと二人は相談にのってくれる。一緒に考えようとしてくれているのがわかるから泣きそうになる。
私が言い淀んでいるのは、今ここで二人に打ち明けるかどうかという一点のみだった。
「一人で考えたいか? それなら俺たちは……」
「ま、待ってください」
気を遣って席を立とうとする二人を慌てて引き留める。
……うん、私はこの人たちを信じる。
それに、今を逃したら話すタイミングがなくなるかもしれない。
あと、私が二人に相談に乗ってもらいたい!
一人でなんて、答えがまとまりそうにないもん!
覚悟を決めて顔を上げると、少し驚いたような表情を浮かべた二人と目が合った。
「聞いて、もらいたいです。その、信じられない話かも、しれないんですけど……」
言っておきながらちょっと自分勝手すぎたかな? と心配になって尻すぼみになっちゃった。こういうところ、私って本当に締まらないなぁ。
けど、トウルさんもセルジュもまるで当たり前と言わんばかりに微笑んでくれた。
「私は、ルリの話すことを全て信じる。心配なら誓ってもいいが」
「いやっ、そ、そこまでは……!」
「おいおい、心外だな。俺たちがお前の話を信じないと思うのか?」
「思ってませんっ」
うっ、今の私に優しい言葉はとても効く。
涙腺が緩んでじわっと涙が浮かんだ。
「お、思うわけ、ない……っ、お二人のこと、信じてますからぁ……」
「ああ、泣くんじゃない。ゆっくりでいい」
「っ、はい……!」
セルジュから差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭いながら私は少しずつ説明を始めた。
「私、さっきヨハンさんがしてくれた話を以前聞いたことがあるんです」
「聞いたことがある……? 詳しい話は秘匿された情報だ。どこで聞いた? いや、それ以前に一体誰が」
「神様です」
「「……」」
セルジュに聞き返されたので答えたけれど、無言になってしまった。
いくら信じると言っても、あまりにも突飛な話すぎてそうなるよね。わかってる。
だからダメ押しでもう一度言ってみた。
「えっと、神様、です……」
「……聞こえてる。悪ぃ、予想外すぎただけだ」
「私も驚いてしまった。すまない、どうか続けてくれないか?」
私も最初に神様に会った時は信じられない気持ちだったもん。話を聞いただけの二人がそうなるのは仕方のないことだね。
それでもちゃんと信じて続きをと言ってくれる二人はやっぱり優しい。
私は一度頷いてから再び話し始めた。
「じゃあ続けますね。もう予想は出来ていると思うのですが、私は異世界で育ちました。それで……死にました」
「は……?」
「え、えーっと。今は生きてます! というか生き返らせてもらった? というか……?」
支離滅裂になりそうだったので一度落ち着き、私はあの時神様からしてもらった説明をどうにか思い出しながら二人に伝えた。
「……というわけで、神様から『見る目』を与えられてこの世界にきたんです。好きなように生きなさいって言ってもらえて、今にいたります」
流れる沈黙。二人があまりにも真剣な眼差しをしているので、何を思っているのかまったく読めない。
ミルメちゃんに聞きたいのをグッと堪え、二人が何か言ってくれるのをひたすら待った。
私、ちゃんと説明出来たよね? 余計なことまで細かく話しちゃった気はするけど。
だ、だって、順を追って話さないと私が混乱しそうだったから!
しばらくして、先にトウルさんが口を開く。
「……この世界に来たのが、クランに来た日か」
「そうですね。運良くウォンさんとテッドさんに会えました」
「それにしても、一度死んだ……? 早逝は運命だった、だと?」
ミシッとどこからともなく音が聞こえて発生源を探すと、セルジュが部屋の柱を掴んだ音だということが判明。
あ、握力だけでそんな音鳴る!? 壊れちゃうよ!!
「セ、セルジュ!?」
「ああ、すまない。悲しみと怒りと喜びが同時に襲い掛かってきたのは初めてで、今自分の感情を持て余しているところだ……」
「奇遇だな、俺も似たような状態だ」
「トウルさんまで! テーブルが割れちゃうので押さえてくださいっ!!」
このままじゃ部屋にあるものがいろいろと壊されちゃう。後でモルガンさんに言っておかなきゃ。直してくれるかな……?
「っつぅか、騙してきた男ってやつ。実質そいつがルリを殺したようなもんじゃねぇか」
「まったくだ。女性に手を上げただけでも極刑ものだというのに、そのせいで階段から落下。立派な殺人罪だな」
「この手で制裁を加えられねぇのが一番腹立たしい」
「完全同意だ。この怒りをどこにぶつければいい?」
あー……上坂くんの件は黙っていればよかったかも。馬鹿正直に全部話すからこんなことにっ! 情報の取捨選択が下手すぎるっ!
ああ、もう私って本当に、いまだにミルメちゃんがいないとダメダメだぁ!!




