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壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略③
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97話 スキルワーム

 キャロルの雄叫びを聞いたアラクネは、その巨体をカサカサと動かして壁を這い上がり、闇の中へと素早く消えていった。


「あれがエクスカリバー持ちのボスか!?」

「おそらく! ここで倒すぞ!」

「待て、その前にケシーだ! 援護してくれ!」


 俺は絡め取られた三人に駆け寄って、彼らが持っていたはずのケシーを探した。


「ズッキーさーん! ここです! ここですー!」

「ケシー!」


 黒人の腕の中で蜘蛛の糸に絡まっていたケシーを引き剥がし、救出に成功する。

 ケシーを取り戻した俺は、彼女を大事に抱えるようにして胸元に引き寄せた。


「大丈夫か!? 怪我は!?」

「だ、大丈夫です! それよりもーーー」

「…………ん?」


 そこで俺は、奇妙なことに気付く。

 蜘蛛の巣に絡め取られている、P2部隊の三人。

 彼らは絶命していないようだが……様子がおかしかった。


「ぉっ、ごっ」


 彼らの咽頭が膨れ上がり、苦しげなうめき声が漏れる。

 糸を何重にも巻かれているせいで、その体がどうなっているかはわからないが……そこから覗く肌は、内側から何かがボコボコと膨れ上がっていて、体内で無数の生物が蠢いているかのように見えた。


「なんだ……これ……」

「ズッキーさん! 危ない!」


 頭上を見上げると、そこにはいつの間にか、音もなく忍び寄っていたアラクネ。

その長い脚が素早く伸びて、俺の身体を捉えようとする。俺はその場に倒れ込みながら、スキルブックを殴りつけるようにして起動した。


「『火炎』!」


 上方向にスキルブックの業火が噴出し、アラクネの腹を焼く。


「ギィィィィィィィィィィィィッ!」


 金属を擦り合わせたかのような不快な悲鳴が鳴り響き、俺の身体を掬い上げようとしていた蜘蛛の脚が宙を切った。火炎を浴びたアラクネはたまらず後退し、また素早く闇の中へと消えていく。


「ミズキ、大丈夫か!」


 追いついたキャロルが、俺を立ち上がらせながらそう叫ぶ。


「あ、ああ、なんとか!」

「ど、どうしよう! とりあえず踊りますが! 何を上げればいいですか!?」


 後ろでビクビク震えながらマイクを握っていた多智花さんが言った。


「敏捷をミズキに! 思ったより素早い!」

「は、はい! えーとー! 水樹さん頑張ってー!♪ お願いー! 素早くなってー!♬」


 歌って踊る多智花さんを中心に置いて、俺とキャロルは即応体勢で構えた。

 その様子をオロオロとして見ていた上村専務は、俺たちに叫ぶ。


「な、なんだこれは!? 私の部隊が! なんだアレは!」

「ボス・モンスターだ! いいか上村、俺たちで戦ってる場合じゃない! 死にたくなかったら協力しろ!」

「協力するって言ったって……」


 恐怖でわけがわからなくっているらしい上村は、その目に涙を溜めながらわめく。


「私は、何にもスキルが使えない! あいつらの監視役で来ていただけだ!」

「さっきの岩壁に潜るスキルは!? お前も潜ってだろ!」

「あいつらのスキルで一緒に潜ってただけだ! 接触していれば一緒に潜れるんだ!」

「じゃあ隠れてろ! 邪魔だ!」

「ひっ、ひぃっ!」


 上村がその場に倒れ込むようにして縮こまり、俺たちはアラクネの追撃に待機した。


「…………」

「……」


 しかし追撃はなかなか来ず、あたりを静寂が支配する。


「け、ケシー? レーダーに反応はあるか?」

「無いです。というか……わかんないんです……!」

「わからない?」

「なんか、ゴチャゴチャになってて。いろんな生体反応があって……混乱してて、わかんないんです……! ごめんなさい……!」


 腕の中に抱えていたケシーをジャケットの空きポケットに入れて、俺は前方を警戒しながら呟く。


「あの……ケシー。さっきはすまなかった」

「い、いえいえ……」


 ケシーはポケットの中から顔をちょこんと出しながら、俺を上目遣いに見る。


「とにかく、ズッキーさんが無事でよかったですー……!」

「俺も同じ気持ちだ。ああ、お前の言う通りだった。もうこんな危ないことはやめよう。ここを切り抜けたら、もうやめるよ。ああ、そうとも! すっかり反省した! お前の言う通りだ!」

「とにかく! がんばりましょう!」


 パキッ……。


 何か薄い殻が破れるような音がした。

 それは蜘蛛の糸に絡め取られた三人から発せられている。よく見ると……彼の肌が割れて、中から粘着質の何かがズルリと垂れ落ちていのがわかった。

 人間から生まれた拳大の芋虫のような何かは、地面に落ちたとたんに跳ねて、その身体をモゾモゾと動かして這い始める。


 そのあまりにおぞましい光景に、俺は表情を歪ませた。


「なんだアレは……!」

「こ、ころしてくれ……ぇ……」


 糸に巻かれて身動きが取れない白人が、そう呟いた瞬間。

 彼の体が弾けて、中から夥しい量の芋虫が溢れ出た。

 それはおおむね何かの幼虫のような姿をしているが、よくよく見てみると……

 その一体一体には、人間の顔が。それぞれの虫に、あの白人の顔が張り付いている。


「うぎゃああああああ! なんじゃこりゃあ!」

「ミズキ、焼け! 焼いてしまえ!」

「『火炎』! 『火炎』!」


 前方に大火力の『火炎』を放ち、襲い来る人面虫の群れを一掃する。

 その火炎の渦の隙間から、ビュッと白い糸が吐き出された。

 勢いよく吐き出された粘着質の糸は、その場に縮こまっていた上村専務の体に当たり、そのまま地面へと貼り付けにしてしまう。


「ぎゃあっ! た、助けて! 助けてくれ!」

「本体が来るぞ! もう一発『火炎』を打つか!?」

「いや待て、視界を確保したい! 炎の隙間から攻撃される!」

「が、がんばってー!♬ ひえーーーっ! お二人ともー!♪ お願いですからがんばってー!♬」


 直前に打った火炎が消え去った瞬間、さらに大量の人面虫がズリズリと這い進む。

 夥しい量の芋虫の頭部には、今度はあの黒人と女性の顔が貼り付いている。黒人の方は苦しげに呻き、女性の方はなぜか笑っているのだ。


「イギィィィィィィィィイイィイ」

「ケラケラケラケラケラケラケラ」

「ぐおおおおっ! やばい! 何かわからんがやばすぎる!」


 たまらず後退するが、糸で貼り付けにされている上村専務は瞬く間に虫に群がられて、そのまま見えなくなった。


「うぎゃああああ! 助けてくれ! だずげでぐれぇぇ!」

「『火炎』!」


 群がる虫たちを再び焼き払った瞬間、天井で何かがカサカサと動いた。


 それは無数の虫で覆い尽くされている上村専務の頭上へと素早く移動し、その尻尾の先端を振り下ろして何かを突き刺す。大量の芋虫の下で、上村専務らしき人影がモゾモゾと暴れていた。


「ぼごごごご! おごごごごごごごご!」

「気を取られてるぞ! チャンスだ!」

「多智花、私に強化(バフ)を! 敏捷だ!」

「は、はいー! キャロルさんー!♪ がんばってーどうぞー!♬」


 多智花さんの『怪しい踊り』で移動速度に強化を受けたキャロルが、焼かれて消し炭と化した人面虫の群れを踏みつけながらアラクネに接近する。

 電光石火の如き素早さで近づいたキャロルは、上村専務から毒針を抜いてまた退散しようとするアラクネに追いつき、跳躍からの回転斬りで交錯した。


「えぇぇええいっ!」

「ギィィィィィイイイイイイッ!」


 キャロルの一閃で蜘蛛脚のいくつかと尻尾を刈り取られたアラクネは、天井から剥がれて地面に落ちる。同時に滞空時間ギリギリまで剣戟を繰り出していたキャロルも、着地までは叶わずに叩きつけられるようにして地面に転がった。


 苦しげに呻くアラクネに対し、俺は間髪入れずスキルカードを叩く。


「『電撃』!」


 瞬間の雷がスキルブックから放たれ、アラクネの身体に直撃する。

 初の実戦投入となる『電撃』は、以前のキマイラ戦にて苦戦させられたのと同じスキルだ。


「ビィィイイイイイイイッ!」


 そのあまりの威力は、蜘蛛の身体を一瞬にして黒焦げの灰に変えた。

 アラクネが灰と化して活動不能に陥った直後、上村専務に群がっていた人面虫がそれぞれが個体を維持できずに瓦解し始め、あたりに気色の悪い体液を撒き散らしながら四散する。


「はーっ! はぁーっ……! やったっ!」

「や、やりましたね! よかった! すごい!」


 多智花さんの喜びの声を聞きながら、俺は倒れたキャロルの下に近づく。


「大丈夫か、キャロル! 怪我は!?」

「背中を何か掠ったような気はするが……大丈夫だ! おそらく!」


 俺はキャロルの手を引きながら立たせると、彼女の身体を確認しながら呟く。


「しかし、あんなグロモンスターが居るなんて聞いてなかったな……」

「今までのボスで一番超えちゃいけないライン超えてましたね!」


 そう言ったのはケシーだ。


「しかし人蜘蛛に、あんな放送禁止系の能力はなかったはずだが……」


 キャロルが最後にそんなことを呟いた、ドタバタの戦闘後。


 いまだ色々と頭が追いついていない俺たちの目の前で、奇妙な現象が起きた。


「…………あ?」


 倒したアラクネの身体が崩壊し、塵となって消えようとする最中に。


 その中から、何かに引き抜かれるようにして……一本の剣が出現したのだ。

 それは黄金の輝きを放つ両刃剣だった。


 黄金で出来ていると思わしき刀身と、所々にあしらわれた色彩鮮やかな青色。

 その周囲には謎の磁力が発生しているようで、剣は鋒を地面に向けたまま、水平に浮かび上がっている。


「…………えっ?」

「エクス……カリバー?」


 俺は思わず、そう呟いた。


 そして、次の瞬間。

 その刀身が微細に震え始め、くるりと先端で弧を描いて回転し、その切先を…………上村専務の方へと向ける。


「えっ」


 事態を理解する間もなく、その黄金の剣は弾丸で撃ち放たれたかのようにして飛翔し、上村専務の身体に突き刺さった。


 しかし両刃剣が刺さってもなお、泡を吹いて気絶している上村は、ビクビクと震えながら横たわっている。

 その突き刺さった刀身は、そのまま上村専務の体の中に沈み込んでいき……

 そして、見えなくなった。


「…………はえ?」

「な、なんだ今のは?」


 呆然としてその光景を見ていたキャロルが、混乱しながら上村専務に歩み寄る。


「今のが、エクスカリバーか?」


 そう言って不思議そうに上村を眺めるキャロルに、俺も歩み寄る。


「剣の形をしていたぞ? そんなスキルが存在するのか?」

「あの、この人に突き刺さったみたいなんですけど……」

「何もわからん……とりあえず、叩き起こそう! おい、起きろ! きゃっ! む、虫の体液がついた!」


 キャロルが平手打ちを喰らわせると、自己崩壊した人面虫の体液でベタベタになっている上村専務は、ビクリとして気絶から回復した。しかし精神に異常をきたしているようで、彼は覚醒して周囲を見渡すと、ガクガクと震えながら奇声を上げ始める。


「ひっ! ひぃぃいいいっ! ひええぇぇぇっ!」

「落ち着け、上村。終わった。アラクネは倒した」

「ひぃっ! きぃぇえええっ! う、腕を刺された! 奴に腕を刺されたんだ!」

「いいか、ウエムラ。よく聞け」


 キャロルが、喚き散らかす上村に話しかける。


「運が良いことに、とにかくお前は生き残った。だが、我々がお前を守ってやる必要はない。このままここに置き去りにしてしまおうかと思っている」

「や、やめろ! 置いていかないでくれ! 一緒に帰らせてくれ!」

「なら、ステータスを開け」


 俺が冷たい口調で言った。


「ステータスを開いて、確認させろ」

「な、なにを確認するんだ? 私は、小和証券の監督役で……社長に言われて来ただけで、何も知らないんだ! スキルも何も、大したものは持ってない!」


 気絶していて先ほどの光景を見ていなかった上村は、ワナワナと震えながらそう言った。


「いいからステータスを開け。でないと、ここに置き去りにして我々は帰投する。あと3秒だけ待つ。いーち……」

「ま、待ってくれ! わかった! ステータスを開けばいいんだな!」


 キャロルに脅されて焦った上村が、ステータス画面を表示させる。

 スキル欄を開かせると、そこには一つだけ、スキルが存在した。


------------------------------

スキルワーム ランクXXX

対象を無制限に情報化し、これを無制限に抜き取る。

この情報は改竄可能である。

------------------------------


「……スキルワーム?」


 それを見て、俺たちは同時にそう呟いた。

 眉をひそめたキャロルは、芋虫の体液でぐちゃぐちゃになっている上村に尋ねる。


「ウエムラ、このスキルはなんだ」

「えっ? し、知らない」


 ビクビクと震えながら答える上村を眺めながら、俺は考える。

 もしかすると……いやもしかしなくとも。

 これが、さっきの剣か?


 あれは剣の形をしたスキル……つまりはエクスカリバー。

 そして、その正式名称が……「スキルワーム」というのか?


「まあいい。そのスキル、我々に引き渡してもらおう」

「ど、どうやって渡せばいい」

「ドラッグ&ドロップで渡せ。パソコンのマウス操作みたいに」


 キャロルが自分のステータスを開き、その「スキルワーム」とやらの所有権を移動させようとする。

 しかしそこで、ビーッというエラー音が発生した。


「ん? どうした」


 俺が聞くと、キャロルが険しい表情で上村のスキル欄を睨みつける。


「譲渡…………できない?」

「……どういうことだ?」

「つまり、この『スキルワーム』は……固有(ユニーク)スキル? 我々の『龍鱗の瞳』や『スキルブック』と同じように、譲渡できない」

「んだと……」


 予想外の事態に、俺は頭を抱える。


「ええと、ならどうする。せっかくここまでやったんだ、なんとかしよう」

「……まあ、こいつごと持って帰るしかないな。原則、固有スキルは死亡時にも引き渡せないから……」


 不服そうにそう呟いたキャロルは、何か思いついてポンと手を叩く。


「あっ、でもあれか。先ほどの挙動を見るに、死んでくれればまた別の宿主に入りそうだな」

「たしかに。またあの剣が出てきて、誰かにぶち刺さるんだろ」


 そういえば、と俺は思う。


「どうしてよりにもよって、上村に入っちまったんだ?」

「もしかしたらだが……私とミズキはすでに、それぞれの固有スキルを保有している。その空き容量の関係で我々は避けられ、ウエムラとタチバナの内で距離が近かった方が選ばれたのかもしれん」

「うっぎやぁぁぁぁあぁっ!」


 キャロルと話していると、上村専務がまた喚き始めた。


「なんだ、一体どうした」

「う、腕が! あいつに刺された腕が、い、痛い! 筋肉が蠢いてる!」

「……あれか、さっきの奴か?」


 先ほどP2部隊を一挙に全滅させて無数の人面虫へと変異させた非人道的すぎる攻撃。この上村は、今まさにその変態中なのだろうか。


「……放っておいても死にそうだな。死なせてみるか?」


 キャロルがそう提案した。


「た、助けてくれ! 腕が! 腕だけだ! 一思いに斬り落としてくれ!」

「……まあ寝覚めは悪いが、俺的にはこいつは死んでもOKだ」

「そんな! 水樹くん! 頼むよ! ゆるしてくれえええ!」

「まあまあ、水樹さん。さすがに死なせちゃうのはですね、色々まずいですよ。水樹さんはOKでも人道的にアウトですよ」

「そうだ! その通り! いっ! いぎゃぁあああっ!? 指が! 私の指が! 指がもう芋虫になってる!」

「わかった、上村。助けてやってもいいが、条件がある。あの横領事件と今回の件について、ことの真相を全部話せ」

「話す! 話す! 話すから! お願いだ! 助けてくれ! いぎぃぃいっ! もう肘まで痛みがきてる! 助けてくれ! 俺の腕が、指がぁぁ!」

「よし。じゃあキャロル、ちょっと助けてやってくれないか」

「ええっ。嫌だなあ……気持ち悪いもんなあ……なんかもう指が芋虫になってるし……剣でも触りたくないなあ……」

「ひぎぃぃいい! お、俺の親指と小指が交尾を始めてる! なんだこれは!? ひいぃいぃぃぃぃぃぃっ!? 早く斬り落としてくれぇええええええ!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 上村が男なんだか女なんだか、口調が俺だったりばらついてますな。
[一言] 比喩じゃなかったw
[良い点] >親指と小指が交尾を始めている こんなそのまんまな伏線回収するの初めて見たぞwww 比喩じゃなかったんかwww
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