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壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
【書籍版】下着じゃないから恥ずかしくないのか…
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【書籍版】65話 未成年に対するネットフィルタリングの重要性


「ということで」


 ネグリジェ姿のキャロルはまとめる。


「ヒマタからいきなり謎の政府組織にスカウトされたミズキは、何だか急に不安になって、消灯直前の夜遅くに私の部屋まで直行してきたわけか」

「そういうことだ」


 俺は素直に認めた。


「たった数時間前には私と事に至る直前で逃亡したミズキは、親切快活な軍人だと思っていたヒマタに対して急にただならぬ物を感じ取り、他ならぬ私を頼るため、報告がてら部屋へと直行してきたわけか」

「そういうことだ」


 俺は再び、素直に認めた。


「……都合の良いときだけ頼るって、なんか虫が良すぎないか? 私は都合の良い女か?」

「かくいうお前は俺にガチの精神攻撃を仕掛けたわけで、お互い様だと解釈している」

「お前の言うことは一理ある」

「それに俺は、都合の良いときだけお前に頼ってるわけじゃない。わりといつでもお前に頼りっぱなしだ」

「それはそれでどうなのだ? ヒモ体質なのか?」


 生地が透けるタイプの半透明なネグリジェを身に纏うキャロルは、部屋に備え付けられたポットでホットミルクを淹れながらそう言った。彼女のスケスケ寝間着は保温や秘匿といった衣服としての基本機能をほぼ有しておらず、彼女の身体のラインを扇情的に引き立てるためだけの効果を果たしている。


「……そのエロ寝間着は、一体どこで買ったんだ?」

「ネット通販。お前が喜ぶかと思って」


 この16歳は、いつもそんなことばかり検索しているのか?

 俺は未成年に対するネットフィルタリングの重要性について真剣に考えさせられた。


「いつもこんなのを着てるのか?」

「いや。お前が来ると聞いて着替えた」


 そうですか……。


 ということで火又と話した後、何となく身の危険を感じた俺は、キャロルが寝泊まりしている居室へとお邪魔させてもらっていた。ケシーはというと、現在隣の居室でケビンらREAの隊員と一緒にスタブラをやっている。仲が良いのは良いことだ。


 結局、彼には「少し考えさせてください」という風に答えた。それを聞いた彼は、俺のことをどうこうしようというわけではなく、ただ「良い返事を待っているよ」と答えただけだった。試験演習の最後に、改めて返事を聞きたいとも。


「ヒマタ大尉……いや少佐が、非公式の部隊を率いているという噂は聞いたことがある」


 キャロルは注いでくれた珈琲を俺の前に置くと、自分の分の珈琲を持って座り込んだ。


「それにスカウトされたのだろうな」

「しかし……俺が? いくらレアスキルを持ってるって言ったって」

「何十億の価値があるかもしれないレアスキルだ。その保有者がもしも手に入り、その部隊で運用できるのならば……至極まっとうなスカウトであると思うがな。ヒマタはお前のことが気に入っているようだし、私がREAに入れたがっていることも知っている。人材として不足無し。ぜひとも欲しいということだろう。何をそんなに怖がっている?」

「いんや……怖がってるわけじゃないんだけどな?」俺はやや強がりながらそう言った。「ただ何か、あの人って底知れない所があるだろ。どんだけ笑顔でも、目が笑ってないというかさ」

「ヒマタは元特殊部隊だからな」


 マジか。


「あと今日も色々と話したんだけど……あの人って、何かちょくちょく雰囲気が変わるんだよ。ケシーでも心の中が読めないし……やっぱりなんか不気味でなあ」

「入れと脅されたのか?」

「いいや、全然そういうわけではない」

「高圧的な態度を取られたのか?」

「一緒にお酒を飲んで、手製の鍋まで食べさせてもらった」

「じゃあ、何が心配なのだ?」


 ほんとにその通り。

 しかし、やはり何かが引っ掛かって仕方ない。

 彼から不意に感じる強烈な威圧感というか、蛇に睨まれたような悪寒。

 そのとき背筋に浮いた冷や汗の感覚が、俺に言い知れぬ焦燥感を与えてやまない。


 …………いや、もうこういうことを考えるのはやめよう。


 けっきょく何が俺の不安を駆り立てているかというと、その原点はやはり『スキルブック』である。やはり一般人が、こんなとんでもないスキルを持っているのは精神衛生上よくない。治安の悪い街で、財布の中に常に1億円を突っ込んでプラプラ歩いているような気分だ。ケシーにいちいち知り合った人のチェックをしてもらってる所も含め、つまるところ、俺はすっかり、ひどい疑心暗鬼に陥っている。


 話を聞いたキャロルは、ミルクを一口飲んで俺のことをちらりと見た。


「まあ、威圧感を感じるのも無理はない。ヒマタのレベルは50を超えているからな」

「ごじゅ……50!?」


 50以上といえば……今の世界一位が、米国のウォレス・チャンドラーが誇るレベル63のはずだから……ほとんど、世界最高レベルじゃないのか?


「そんなのが日本にいるなんて、聞いてないぞ」

「現在のヒマタのレベルは、私よりも高い。以前に会ったときは私の方が上だったのだが、いつの間にか超えられていた」

「そんなヤバイ人だったのか……」

「私の『龍鱗の瞳(スケイル・アイズ)』でも、今の火又はレベルまでしかわからない。以前はステータスまで抜けたのだが……やはりケシー殿の言う通り、何らかの妨害スキルを使っているのだろうな。まあそういうことで、レベル差に気圧されてしまって、色々と不安が掻き立てられたのだろう。ミズキはただでさえ『スキルブック』を誰から狙われていてもおかしくない立場なのだから、無理もない。考えすぎだとは思うが」

「そういうことか……」

「まだ不安か?」

「まあ大体理解はできたが、頭は一瞬で切り替わらないからな」

「なら、その不安を解消してあげられる良い方法がある」

「良い方法? 『悪いことを企んでないだろうな』って、火又に電話で聞くつもりか?」

「そんなわけないではないかー」

「急に幼児退行するな」

「まあまあ、これでスッキリ(・・・・)するはずだ。『龍鱗の瞳(スケイル・アイズ)』を使うから、ベッドの上に仰向けになって寝そべってくれ」

「寝そべる?」

「そうだ。セキュリティソフトで言うところの、完全(フル)スキャンをしてみよう」


 言われるままに仰向けになって寝そべると、キャロルは俺の上に覆いかぶさるようにして跨った。ベッドの上で抱き合うような恰好になり、彼女の顔が眼前に迫る。


「ヒマタは強力な魅了系の使い手。何か裏の意図があってミズキに接触したのであれば、すでに何かされている可能性が高い」

「何かって?」

「多智花に譲った『誘導』のように、魅了系の神髄は多種多様な精神干渉にある。いつの間にか捻じ曲げられる意思。気付かぬうちに誘導される行動。やりようはいくらでもある。そんなヒマタの精神攻撃を受けていないか、チェックしてくれよう」


 文字通りの目の前から……いや目の上から(・・・・・)俺を覗き込む蒼色の瞳が、黄色に変わって蛇のように縦に伸びた。


 彼女と出会った当初にやられた、『龍鱗の瞳(スケイル・アイズ)』による超至近距離での『解析』だ。


 数分の間、俺とキャロルはそうしていた。

 彼女の浅い息遣いを浴びながらじっとしていると、彼女は不意に、ほっと一息つく。


「……ここからもう少し詳しく解析するために、唇を重ねて舌を入れる必要があるのだが」

「いや、今絶対終わっただろ」

「もっと安心できるぞ」

「逆に心配事が増える」

「ちっ」

「舌打ちはよせ」


 そんなことを言い合ってから起き上がると、頭がややクラクラとする感覚があった。キャロルの『龍鱗の瞳』で頭の中を隅々まで解析されるのは、ケシーが心の中に入って来るのとはまた違う感覚だ。痛みや触覚こそ無いものの、脳内を棒でかき回されてから完全に元通りにされたような、鈍い違和感が頭蓋の奥に残る。


「それで、どうだった?」

「いや、問題無い。何もされていないようだ」

「そうか。なら、やっぱり杞憂か」

「レベル差が大きいと、感情の動き方で意図せず相手を威圧してしまうことがある。それを感じたのかもしれない。ヒマタが日頃から明るい態度を崩さないのは、おそらくはそのせいもあるだろう」

「そういうことか」


 そこで俺は、齢16の少女であるキャロルが妙な威圧感を持っているように見えるのは、R・E・Aの隊長という先入観以上に、彼女とのレベル差によってそう感じるのだろうことを理解した。


「ヒマタがミズキを、無理やりにどうこうするつもりは無いと思うが……不安であれば、私の居室に泊まるか?」

「いや、大丈夫だ。スッキリしたから自分の部屋に戻るよ」そう言って、俺はベッドから立ち上がった。「キャロルの言う通り、そのレベル差って奴にあてられたんだと思う。あの人って、自分の世界に入るとたまにおかしなこと言い出すんだよ。良い人なのはわかるけど、それがなおさら不気味でなあ。なんていうか、すまん。迷惑かけた」

「スッキリしたなら何よりだ。だが、遠慮せずに泊まるといい」

「いや、部屋に戻るよ」

「遠慮するな。一晩泊まってみれば、もっとスッキリできるぞ」

「いや、戻るわ」

「チ………ッ!」

「本気の舌打ちやめない?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] こういうイチイチごちゃごちゃウジウジと 管巻いてるのを毎回やられると萎える。 だったらサッサとスキルブック売れよ思う。
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