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壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
【書籍版開始地点】第一章エピローグ
42/110

【書籍版】42話 大変長らくお待たせいたしました。


 オオモリ・ダンジョンの管理施設は、現在絶賛工事中である。


 前回に来た時よりも工事は進んでいる様子だが、冒険者はまだギリギリで、ダンジョン内部へと入ることができていた。これから入り口周辺部の本格的な工事段階に入ると、一時的にダンジョンへの立ち入りはできなくなってしまうのだが、それまでは申請と認可を通せば、臨時で監督に着いてくれる職員と共に工事関係者に混ざってダンジョン入り口部へと進むことが出来る。前回のように、日本の法律で所持が禁止されている火器をダンジョン内に持ち込む際は、もっと複雑かつ長期的な手続きを踏む必要があるのだが。今回その必要は無い。


 野外の個室トイレほどの大きさのプレハブ準備室が二つ、男女別々に用意されており、そこでダンジョン侵入前の最後の準備が出来た。俺はその中に一人で入って着替えながら、運転中にキャロルと話した内容を思い出している。


 「ミズキの隣人だが、あれは一体どういうことだ?」

  大きめのスポーツバッグを膝の上に乗せながら、キャロルがそう聞いた。

 「ちょっと変な人なんだよな。何してるのかイマイチわからない人でさ」

 「『龍鱗の瞳(スケイル・アイズ)』の『解析』が通らなかった」

 「通らなかった?」

 「癖でステータス情報を抜こうとしたのだが、情報が得られなかった。パッシブ系のスキルか何かに妨害されたんだと思う」

 「そういうことがあるのか?」

 「ほとんどない。超上級の冒険者の中には、『解析』を通さないための妨害スキルを常在させている者もいるが……あまり会ったことはないな。何者だ?」


 キャロルにそう尋ねられても、俺は上手く答えることができなかった。

 一度、彼にきちんと聞いておかないといけない。

 準備室から出ると、すでにキャロルが俺のことを待っていた。


「遅いぞミズキ。早く行こう」

「待て」


 俺は普段着の軽装甲冑から着替えた様子のキャロルを見て、思わずそう言った。


「なんだそれは。どういうことだ」

「お前のために、特別に新装備を取り寄せてやったのだ」


 キャロルが着替えたのは、日本のファンタジーゲームでよく見るような、やたらと露出度の高い女性用アーマーだった。冒険のためにどうしてそんなエロい恰好をする必要があるのか、その装備は露出度に比例して防御力が下がる一方なのではないか、そういったことを小一時間問い詰めたいタイプの奴だ。尻や胸を強調するためだけに作られたかのような構造には一体どんな実用性があるのか、それはビキニなのかアーマーなのか、一体どういう趣味で着るものなのか、首を傾げずにはいられない奴。


 スポーツバッグをやたらガチャガチャと言わせているから何かと思ったら、そういうことだったのか。

 そんなアーマーを着込んだキャロルは、その場でくるりと回って、その全体像を確認させてくる。なぜか脇やへそを積極的に露出していくスタイルの、防御力の低すぎる構造。胸を強調するように突き出た胸部装甲に、尻部を覆うアーマーはもはや装甲というよりは、お尻をそういう風に露出させるためのデザインでしかない。その下に覗く布地面積も異様に小さくて、ほとんどTバック下着に近かった。


「どうだ? 似合っているか? 男性というのは、こういうのが好きなのだろう」

「わりと正気か?」

「そこまで言われるとは思っていなかったから、普通に傷つくぞ。お前が喜ぶと思って取り寄せたのに」

「あ、普通にごめん」


 俺は悲しそうなキャロルに謝ってから、疑問を口にする。


「一応だけど。その装備って、何か実用的な意味はあるのか?」

「無いぞ。涼しいだけだな。熱中症対策だけは完璧だ」

「元の装備に着替え直せ」


 ◆◆◆◆◆◆


 ケシーのナビに従いながら、俺と普通の甲冑に着替え直したキャロルは、ダンジョンを進んでいる。オオモリ・ダンジョンの浅層にはほとんどゴブリンしかいないため、キャロルは攻撃用のスキルも使用せずに、常在している強化スキルだけでゴブリンやスライムを薙ぎ払っていた。問題が無さそうな時には俺も参戦し、『スキルブック』の挙動を確認している。


「前回の戦いで、『接触系』のスキルの重要性に気が付いてな。スキル構成を見直したのだ」

 襲ってきたゴブリンを4体ほど薙いだ後に、キャロルが歩きながらそう言った。

「『接触系』?」

「ダメージにならない接触でも、相手にデバフとかを押し付ける奴だ。便利だから、お前も持っておくといいぞ」

「いくらくらいするんだ?」

「大体、数百万か一千万円くらいから選べる」

「やっぱり桁が違うな」


 ゲームの世界ならまだしも、現実世界の武器屋でそんな有り金をはたく気にはなかなかなれない。しかし、一応は堀ノ宮の依頼の前金として結構な額を貰っているので、そういったスキルを購入したいとは思っているのだが。


 さてさて。

 察しの良い方は、すでにお気づきのことだろう。

 このように回り回って進んで進み、場面は元の場所へと接続されたわけである。北海道大守市は小和証券大守支店をスタート地点とするマラソンは、最初の小休憩地点であるこの地点に合流した。


 しかして、俺こと水樹了介の顛末をサクッとお伝えするには、まだまだ先の先の方へと合流しなければならない。俺はまだ不可逆的なマラソンを走り始めたばかりであり、今はまだ、顛末と呼べるような物すら存在しない。

だが、その時はいつかやって来る。


ケシー、ヒース、詩のぶ、堀ノ宮、キャロル。姿は見せたが本性は見せていない者たち、いまだその姿が見えぬ者たち。そして俺こと水樹了介と、奇妙奇天烈で異常でファンシーなことになってしまったこの世界。その全ての本当の顛末を、いつかサクッとお伝えする時が来るだろう。


 しかし、ここが一つの小休憩地点であることは間違いない。そこには何かがあって然るべきである。この世界の朧げな顛末については、あの白い鱗の彼に説明を任せたい。


 そんなこんなでダンジョンを進んでいると、ケシーにしか感知できない隠し通路を発見した。その先へ進むとにわかに肌に鳥肌が立ち始め、周囲に冷気が満ちたことがわかる。

 その道の先に、懐かしい白雪の洞穴があった。俺がキャロルと共にその中へと足を踏み入れると、その洞穴の中でうずくまって寝入っていた一匹の巨大な白竜が目を覚まし、ズゴゴという壮大な音を立てて起き上がる。


『“ミズキ……ミズキ・リョウスケッ! 待ちわびたぞ! 遅かったではないかぁ!”』

「お待たせいたしまして、申し訳ございません!」


 俺は何となく嬉しくなってしまい、そう叫んだ。

 ダンジョン最初の顧客との、感動の再会というところだ。


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