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壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
1章 【WEB版】壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略①
23/110

23話 不幸にも黒塗りの高級車が到着してしまう


 はじめまして。私は堀ノ宮秋広(ほりのみやあきひろ)と申します。


 私はあなたが、つまりは水樹了介さまが、先日の『詩のぶチャンネル』というYourTubeチャンネルに関連する事件において、彼女を助けた冒険者であるということを突きとめています。


 専門家の話によれば、あなたの保有しているスキルはデータベースに情報の無い未知のスキルであり、職業冒険者としても名前の知られぬ、謎の人物であるということがわかりました。またそのような冒険者が、動画に登場したようなレアスキルを保有しているのは、かなり驚くべき事実であるとも。


 私はとある目的のために、現在複数の冒険者を雇っています。しかしその目的は達成されぬまま、悪戯に時間だけが過ぎるだけで、もう3年もの月日が経過しています。そんな中で発見した、水樹了介さまという一種のイレギュラーである存在に私は心惹かれ、また特別に仕事を依頼したい理由もございまして、一度お話を聞いて頂きたいと思っているところであります。


 なお、保有しているスキルを不当に奪われるのではないか、というご心配につきましても無用でございます。口先だけでこのようなことを述べても説得力は無いものと思いますが、私がそのつもりであれば、もっと速やかかつ直接的な手段でもって、そのようにしているだろうということは、ご理解頂ければ幸いです。


 それでは、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。



 メールの文面は、以上の通りだった。


 この下には携帯のものと思われる電話番号が記されており、そこに連絡を寄越せという内容の文章が添えられている。


 素性も割られて、ほぼほぼ電話をするしか無いような状況だ。

 しかし俺のことをそこまで調べ上げて、こんなメールを寄越すくらいだったら、直接電話をして口頭で伝えりゃあいいのに。形だけでも、こちら側に選択権を残しているつもりか?


「こそこそと嗅ぎまわりやがって、気に入らねえな」


 堀ノ宮秋広という名前をネットで検索してみる。彼の名前は、検索窓に打ち込む途中で予測変換として登場してきた。さらにその名前で検索をかけると、検索トップには個人名のWilypediaが出て来る始末だ。説明されている人物像は、以下の通り。


 堀ノ宮秋広(ほりのみや あきひろ、19X3年7月12日-)は、日本の実業家。

 ホリミヤグループの創業者であり。ホリミヤグループ代表取締役社長やダンジョンテック会長、フォース取締役などを務める。また、ホリミヤグループの筆頭株主である。


 正直、この検索結果はすでに知っているものだった。すでに退職したとはいえ、俺は証券マンだったわけだから。日本の巨大企業グループとその創業者、現社長くらいは頭に入れている。ただし流石にメールが来るとは思っていないわけだから、条件反射的に検索してしまっただけだ。


 特に何も用事が無いのであれば、面倒事は後回しにしない主義だ。

 俺はスマホを取り出して、メールが届いてから二分以内に電話をかけてやる。


 コール音が二回鳴ってから、通話が接続された。


「水樹了介です」

『お返事が早くて助かります。私は堀ノ宮です』

「僕とお話がしたいとのことでしたので」

『その通りです。しかしこのまま電話口で、というのはなんですから、会食にでもお招きできればと思うのですが』


 日本有数の企業グループの長だというのに、嫌に腰が低い奴だ。

 しかし優秀な経営者ほど、こういう人間は多い。


 まだ全然捨てきれない線は、手の込んだ……ここまでいくと流石に手が込みすぎているわけだが、堀ノ宮秋広を騙った何らかの詐称であるというパターンと、本当だとしても詐称だとしても、このまま俺を拉致及び監禁及び……というコンボで、俺のレアスキルを狙っているパターンか。


「会食といっても、僕は遠方に住んでおりますので」

『存じております。ですのでちょうど、今。私の方から出向かせて頂きました』


 …………。


 は?


 俺は通話中のスマホを頬に押し当てたまま、玄関から外へと飛び出した。


 アパートの前には、黒塗りの高級車が一台停まっている。

 ちょうど今ここに到着して、そこで停止したのだ。


 スーツ姿の運転手が車から出て来て、後部座席の扉を外から開いた。開かれたドアからスマートな所作で長い脚が伸びて、一人の男が立ち上がる。つまりこの男は、自分では車の開閉をしないタイプの人種というわけだ。


 すらりと背の高い、ライトグレーのスーツをきっちりと身に纏った初老の男。

 紫色のネクタイ。胸に差された白いハンカチ。


 彼は通話が繋がったままのスマホを耳に当てながら、アパートの部屋から飛び出してきた俺と目を合わせた。


『改めまして、水樹了介さん。私が堀ノ宮秋広です』


 やれやれ。


 その初老の男性は、俺が経済新聞やネットのニュースでよく見ていた通りの、リッチなハンサム面だった。



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