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壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
1章 【WEB版】壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略①
17/110

17話 登録者1人につき日本列島を1cmずつ動かすオリエンタルテレビ


 それからいくらか経過して、俺の下には『冒険者資格』の証明書とその証明カードが交付された。


 証明カードはクレカくらいの大きさと厚みで、免許証のような作りになっている。といっても、運転免許証のような野暮ったさは無い。むしろ顔写真が付いたクレジットカードのようなデザインで、なかなかに所有欲を満たしてくれる。名前は忘れたけど、たしか有名なデザイナーが関わったんだ。


 うむ、良い。

 財布の中に仕舞い込むのが惜しいくらいだ。

 そんな風に冒険者資格の証明カードをまじまじと眺めていると、ケシーがヒラヒラと飛んできた。


「ズッキーさんズッキーさん」

「なんだ?」

「資格は取れましたけどー、これからどうするんですかー?」

「まずは、あのドラゴンに電池を渡しにいかないと駄目だろ」

「えっ。マジで渡しに行くんですか?」


 ケシーはゲッという顔をした。


「ぶっちゃけ私、もう会いたくないですよー」

「約束しちまったんだからさ、しゃあないだろ。レアスキルも貰ったんだし」


 居間の棚の上には、あのドラゴンに渡すための電池がドッサリと置かれていた。


 長寿らしいドラゴンのためとはいえ、流石に買いすぎたなと俺は思う。あれを使い切る頃にはタイムレコーダーの方が故障しているだろうし、とてもじゃないが一回では持っていけない。

 何か、そういう運搬系の便利なスキルがあると良いんだが。というより、そんなにたくさん渡す必要もないか。


「あとは……結局さ、お前をどうするかなんだよな」

「あー。まあ、そうですよねー」

「お前だって、元の世界に戻りたいだろ?」

「そりゃそうですけどー。私はもう、半分諦めてますけどねー」

「お前が諦めてどうするんだよ。あのドラゴンにでも聞けば、何か知ってるかもしれないし。もう一回会ってみようぜ」


 うぅむ……と腕を組んで難しい顔をしてみせるケシーは、ふと思いついたように顔を上げた。


「それで、ズッキーさんは?」

「ん? なにが?」

「ズッキーさんは、これからどうするんです? 仕事も辞めちゃったじゃないですか」

「それは、将来設計的な意味でか?」

「ですです」

「ええと……俺はもうちょっとこのスキルとか冒険者とかを調べてみてから、安全に取引が出来るタイミングで全部売り払って、その金を元手にトレーダーにでも転身しようかと思ってるよ」


 まとまった金が入ったら、やらなきゃいけないこともあるしな。


「もったいないと思いますけどねー」

「まあそう言うなよ。とにかく、色々と準備したり勉強してから、もう一回あのダンジョンに潜ってみようぜ」


 ケシーにそう言ってから、俺はパソコンを立ち上げる。


 窓を見てみると、もうすっかり外は暗く、夜になっていた。

 今日はもう、冒険者の情報でも集めながら酒でも飲んで、ケシーと一緒に『笑っちゃたらいけない』シリーズでも見て終わりだな。


 そこでふと、テーブルの上に貼られたままの付箋が目に留まった。

 あの女子高生YourTuber、詩のぶが残していった個人情報の塊だ。


「そういえばあいつ、あれからどうしてるのかな」


 最後に派手な喧嘩(?)別れをしてから、詩のぶは俺の前に姿を見せなくなっていた。

 自分でどうにかするとか言っていたが、変な暴走をしてないといいけどな。


 何となく気になった俺は、YourTubeを開いて、彼女のチャンネルを検索してみる。


 たしか、そのまんま『詩のぶチャンネル』だったはずだな。

 検索窓にそう打ち込むと、以前に見せてもらった通りのホーム画面が現れた。


「おや?」


 俺はそんな声を上げた。


 チャンネルの登録者数を見てみると、4万人を超えている。以前は3万人ちょっとだったはずだから、あれからまたずいぶんと増えたらしい。

 3万人でサラリーマンの月収くらいは稼げると言っていたが……4万人にもなると、ひと月に何十万ということになるのだろうか。広告収入の世界はよくわからんが、いずれにしても大した奴だ。やや性格に難があるにせよ、あの行動力と気概があれば、大人になっても色々とやっていけるだろう。


 ホーム画面の一番上には、配信中の生放送が貼り付けられている。


 そのタイトルを見て、俺は自分の目を疑った。


「は?」


 指がなかば反射的に動いて、即座にその生放送がクリックされる。

 画面が切り替わると、YourTubeの大きな再生画面が表示された。


 手振れがひどい再生画面には、マスクを付けて興奮した様子の、詩のぶの姿が映っている。


『ど、どうも! い、今ですね! ダンジョンに! ダンジョンに、潜っています!』


 震える声色で、画面の向こうの詩のぶがそう言った。


 生放送タイトル……『JKが新ダンジョンに潜入してみた!生放送中!』。


『だ、大丈夫です! 大丈夫! あの、許可は、撮影の許可は取っていますので! あ、ああ! 投げ銭、投げ銭ありがとうございます!』


 彼女は暗い洞穴に居るようで、撮影用のライトの明かりが背後の岩肌を照らしていた。


「ズッキーさん、これって……」

「あ、ああ……」


 生放送のチャット画面が、高速で流れている。


 ¥1,300 ¥2,000 ¥500

20:03 mitimaru 高校生に撮影許可下りるわけなくて草

20:03 まちこ これ普通に犯罪じゃないですか?

20:03 ナナシ 垢BAN待ったなし

20:04 one fully このあと亡くなったんだよね…

20:04 伊藤真 許可取ってるって言ってんだから取ってるんでしょ

20:04 エビ大好き は? 可愛い…

20:04 登録者1人につき日本列島を1cmずつ動かすオリエンタルテレビ 頑張って!

20:04 shibaNeko 信者が擁護してて草

20:04 登録者100万人チャレンジ 無許可っぽくない?


「無許可だな」


 そう言ったのは、つい先日に無許可無資格でダンジョンに入って死にかけた俺である。

 前科一犯が言うのだから、その説得力たるやというところであろう。


 撮影許可云々の前に、そもそも資格同伴者が居ないと無資格者はダンジョンには入れない。例外的にその制限が解除されるのは、人命救助等によりダンジョン内に立ち入らなければならない、考慮すべき事情がある場合のみ。


 一介のYourTuberの生放送のために、高校生がダンジョンへと単身で入ることが許される事情というのは存在しないだろう。


「うわー! なんかよくわからないですけど、やっちゃった感じですかね?」

「やっちまってるな……」


 あの馬鹿……。

 俺は頭を抱えながら、そう呟いた。


『だ、大丈夫です! まだ、全然入り口ですので! い、いやあ! ダンジョンの中って、やっぱり緊張しますねえ!』


 ダンジョンの中を映すカメラの映像は、手振れで小刻みに震えている。


『お、おおー! 投げ銭ありがとうございます! あ、大丈夫です! まだ、ここは電波が通ってるみたいなので! ちょっと、もうちょっとだけ! 奥の方に進んでみたいと思いますよ!』


 おいおい、待て待て。


 それくらいにしておけ。

 まだ戻れるのにそれ以上進んだら、俺以上の馬鹿だぞ。


 そんな風に考えている間にも、生配信の映像は少しずつ先に進んでいく。


『ん、ん? 無許可? 犯罪放送? な、なんか、うるさいアンチがいますね!』


 配信しながらコメントを追っている詩のぶは、脳内でアドレナリンがドバドバと出ているのか、極度の興奮状態に陥っているように見える。


『え、炎上確定? じょ、じょーとーですよ! アンチは養分ってことをお忘れなく! 通報? 勝手にすればいいじゃないですか! 炎上したって、かえって知名度が上がるだけですから!』


 詩のぶは興奮した様子で、アンチコメに煽り返していた。


 頭に血が上っており、興奮状態で、周囲が全く見えていない。

 震える足で少しずつダンジョンの奥へと進みながら、彼女は配信のコメントを読むのに必死になっている。


 左右に道が分かれた場所まで辿り着くと、そこは電波がほとんど届いていないようだった。

 配信の映像には大きなノイズが混じり始め、音ズレも激しくなっている。


『え、えー##と! どっ####ちに進み####ますか####ね! 投票で#決め###え? ノイ###ズが? 電波####悪###い?』


 配信の不調に気付き始めた詩のぶは、目の前の分かれ道に背を向けて、映像の中に自分と分かれ道が一緒に映るように配慮しながら、コメントを必死で追っているようだった。


 そして、その彼女の背後。


 分かれ道の闇の中で、不意に何かが動くのが見える。


『あ####ほとんど聞こえ###ないで##すか?###なに?##後ろー###て!###そん####な定番の###ネタに引っかかり####せんから!##あはは###』


 ノイズだらけの音声の中で、詩のぶの笑い声が響いた。


 すると、突然。

 暗闇の中から、カメラに向かって何かが飛び出す。


『きゃぁ###あ###っ###!?』


 カメラがその場にガチャガチャと転がって、状況が一瞬わからなくなる。


 ノイズの混じった低い音質で、甲高くも醜い鳴き声が響いた。


『ゴ##ブ!###ゴブゥ###!』

『ゴ###ゴブ!###ゴゴ##ゴゴブ###ブ!』

『あ###あぁっ###!##たすけ###いやっ###!###助#けてっ####!』


 ノイズの中で、取っ組み合うような激しい音が響く。


 地面に転がったらしきカメラは、その一部始終を捉えていた。

 音飛びとノイズの嵐の中で、地面に倒された詩のぶが、背の低い緑肌の人影に組み伏せられている。その人影は三人ほどのようで、一人が彼女の足を掴むと、もう二人が彼女の手と首に手をかけた。


『助け###!###きゃあ##ぁっ###あっ#誰##誰か###あ!###やめて##い##や#!』


 彼女が転がるカメラに必死で手を伸ばすと、そのまま電波が切れたようで、配信が途切れる。


 生放送のチャット欄は、さらに過熱していた。


 ¥20,000 ¥5,000 ¥1,500 ¥1,000

20:06 ジベター 炎上配信かと思ったらフェイク配信だった

20:06 黒子のテニス めっちゃよく出来てる。登録した

20:06 登録者1人につき日本列島を1cmずつ動かすオリエンタルテレビ えっ!?

20:06 MAGIC NIGHT いや、作り物じゃなくない?

20:06 俺♡お前 これマジ?

20:06 ケンヂ ちょくちょくマジだと思ってる奴がいて草

20:06 動画無しで100万人を目指すチャンネル 本当にヤバイ奴じゃないの?

20:07 伊藤真 通報した方よくない

20:07 悲しTH 本物だと思ってる奴ほんとに馬鹿だな。

20:07 Atsumi Youichi フェイク動画うんぬんと言っている人たちがいますが、これは恐らく本物です。通報した方が良いです。フェイクだと決めつけている方は、何を根拠にしてそのように言えるんですか?

20:07 穴吸 長文臭すぎ


 俺はパソコンの前で立ち上がると、掛けていたジャケットをひっかけて、飛び出すように外へと駆け出した。


「おいおい! これは本当にヤバいぞ!」

「ま、間に合いますかね!? ズッキーさん!」

「間に合わせるしかねえんだよ!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 何をどうしたって間に合うわけがない事だけは分かるよ?
[一言] おぉ、いきなりヒーローッ!
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