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壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
1章 【WEB版】壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略①
16/110

16話 好きなことで生きていけ! わかったな!



 大守市役所環境部関係施設地区会館、桜台地区会館。


 正式名称が長すぎるこの建物で、大守市に突如として発生したダンジョンの各種受付を行っているようだった。


 面接の内容は、大体こんな感じだ。


「いつからステータス化しましたか?」

「一昨日です」

「一昨日?」

「自分あの日にちょうど、大守支店に転勤してきたんですよ」

「ああ、なるほどね。職業は……あそこの、小和証券なんだ。貯金通帳も見せてもらえる?」


 マニュアル通りの……というよりは、紙面に印刷した冒険者資格の面接マニュアルと思しき束を手元に置きながら、市役所の職員と思われる中年男性は手続きを進めていた。

 俺が手渡した貯金通帳を眺めると、彼は鼻にかけていた眼鏡を外して、それをまじまじと眺める。


「証券マンってのは、たくさん貰えるもんなんだねえ」

「パワハラが日常の激務でしたけどね」

「でした?」

「いいえ、なんでも」



 ◆◆◆◆◆◆



 その後にケシーから頼まれたDVDを借りて、スマホをソフトバントのキャリアに乗り換えてから、自宅に戻る。

 この1回では終わらず、どうやら何度か面接や手続きに来なければならないらしい。しかも、説明になかった書類が急遽必要だときたもんだから参った。まあ、大守の役所も、とつぜんダンジョンが発生して絶賛大混乱中なのだろう。


 スーパーで一週間分の食材と酒を買ってから、我が新居であるアパートまで戻ると……


 …………居た。


 なんとなくそんな気はしていたが、やはり居た。


 駐車場でビデオカメラを回しながら、女子高生YourTuber詩のぶは、おそらく配信用と思われる服とマスクを被って俺のことを待ち構えていた。

 何らかの理由で女子高生に付き纏われるというのは、映画や漫画では定番の心のトキめく状況ではあるのだろうが。


 実際にやられると普通に怖い。ただただ怖い。顔が良いとか関係なく怖い。


 俺はストーカー被害に遭う女性の不安な心象や、パパラッチに追われる有名人が常に抱えるストレスの一部がわかったような気がした。毎日こんなストレスに晒されていたら、薬物に救いを求めてしまってもおかしくない。


 俺が車から降りずにいると、ビデオを回した詩のぶがコンコンと窓をノックしてくる。

 スイッチでドアガラスを下ろすと、俺は右肘を外へと突き出した。


「あのなあ、詩のぶ。お前、普通に怖いぞ」

「三顧の礼って知ってます? 織田信長が豊臣秀吉を雇うために、三回会いに行ったっていう話ですよ」

「少なくとも、お前が本当に学校に行ってないことはわかったよ」


 それにその故事は、正確には目上の奴が格下の人を訪ねるときに使うものだ。


「どうにかなりませんか? なんなら、ちょっとエッチな写メとか送ってあげますけど」

「人を積極的に犯罪者にしようとしないでくれ」


 俺はため息を吐き出した。


「放っておいても、待ってれば職業冒険者なんてここにわんさか来るだろ。新しいダンジョンが出来たんだからな。そいつらに頼んだらどうだ」

「動画は鮮度が大事なんですよ」

「急いては事を仕損じるって言葉もある」

「ネット社会には通用しない、化石みたいな言葉ですね」

「大体、どうしてそんなに必死になる? 動画のネタなんて、いつもやってる感じじゃダメなのか?」

「動画、見てくれたんですね」

「そりゃあな」


 何となく、詩のぶは嬉しそうな雰囲気を醸し出した。


「わたし、YourTubeに賭けてるんですよ。絶対成功します。今が大チャンスなんです。このダンジョン探索動画でおっきくバズれば、すぐに有名YourTuberになれるかも」

「お前の夢や将来設計にケチを付けるつもりはないが、そんなに焦る必要も無いと思うね」


 俺は彼女の目をちゃんと見据えて、諭すようにそう言った。

 長いまつ毛をしてやがるもんだ。眼もアイドルみたいに大きくて、ハッキリしている。


「俺にはよくわからんが、今でも十分成功してるんだろ? このまま継続して、ちゃんと高校も卒業して、大学に行くかどうかはわからんが……それから本腰を据えればいい」

「学校なんて、馬鹿ばっかりですから」

「どこでも似たようなもんだ」


 軽口のつもりでそう返すと、一瞬だけ、詩のぶの表情に陰が差した感じがあった。

 …………もしかしたら、学校で色々あった奴なのかもしれない。


「……どうしても駄目ですか?」

「ま、これで諦めてくれ。もし何かあったら、相談くらいは乗ってやるから。もう尾け回すような真似はよせよ」

「…………」


 なんだか不意に、交渉が落ち着くところに落ち着いた雰囲気があった。

 買い物袋やレンタルDVDを掴むと、俺は車から出て、ドアをバタンと閉める。


「………………」

「……どうした、お前。黙りこくって」


 ビデオカメラをぶらりと垂らして立ち尽くしたまま、詩のぶは表情には出さないまでも、むすっとした様子だった。別に放っておいても構わなかったのだが、何となく嫌なので、一応は聞いておく。


「……おっかしいですね」


 詩のぶはブツブツと、誰に言うという雰囲気でもなく、そんなことを呟き出す。


「……わたしって、結構可愛いですよね。生配信すれば、投げ銭とかも結構貰えるんですけどね」

「まあ、好きなやつは好きなんじゃねえのか? ファンを大事にしろよ」

「……大人なんて、わたしみたいなJKに迫られたらイチコロだと思うんですけどね」

「どんな大人もイチコロなのは、警察と税務署だけだ」

「……おっかしいですね……おかしいですよ、水樹さん。わたしがこんなに言ってるのに? なんで認めてくれないんですか?」


 ……なんか、様子おかしいなこいつ。

 面倒なことになる前に、サッサと部屋まで戻るべきだろうか。


 そんな危険信号が脳裏をよぎった瞬間、

 詩のぶは片手を首元まで上げて、ビーッとパーカーのチャックを下ろした。


 前が開かれたパーカーの下には……何も着けていない。


 シャツとかそういうレベルじゃなくて、下着すらも着けていない。

 裸にパーカーの状態だった。


 首元からへそまで、詩のぶの白い肌が露わになる。パーカーの布地が彼女の両胸にひっかかり、大事な部分までは飛び出さなかったが、その胸と胸の間の領域が完全に露出されている。


 無駄な贅肉の付いていない、スレンダーで発達途上な体型。


 それを見た俺は、社会的な防衛本能により、持っていた荷物を全てその場に放り投げて、ダッシュでアパートの階段まで逃げた。これは原始時代の人類には存在しなかった、未成年を保護する社会と法制度が育んだ逃走本能だ。


「な、なにやってんだぁっ!? お前っ! 正気かあ!?」

「あなたが、お、おっかしいんですよ! 美少女JKにこれだけされても、欲情の一つもしないんですかぁ!? インポ野郎なんですかぁ!? これだけやっても感情動きませんかぁ!?」

「やり方が間違ってるんだ! 学校に行け! その腐った性根叩き直してもらえ!」

「こ、このぉっ! の、呪ってやりますから! 一生女の人と縁なくなれ! 恋愛運全滅しろ! 手相の結婚線全部消えろー!」

「うるせえわ、この痴女野郎! 俺を巻き込むな! YourTubeに帰れ! 好きなことで生きていけ!」

「い、いーですよ! もう二度と頼むもんですか! 将来の国民的YourTuberを無下にしたこと、後悔したって遅いですからね! 自分一人でやってやりますね! この性欲不全! 色々不全になれ! 人生のモテ期バグで無くなれ! モテなさすぎて社会生活に支障をきたせーっ!」


 そんな叫び声を聞きながらアパートの階段を駆け上がり、部屋の鍵をガチャガチャと回して部屋に戻る。


 靴を脱ぎ、疲れ果てながら居間に入ると、相変わらずテレビを見ていた様子のケシーが振り返った。


「おやおやー? おかえりなさいですよー」

「あ、ああ……ただいま」

「DVD、借りて来てくれました?」

「ああ……借りて来た。あとで持ってくるよ」

「本当ですかー! ありがとうございますー! 『絶対に笑っちゃったら駄目な冒険者養成所』、めっちゃ見たいんですよー! ねえねえズッキーさん、クッキー食べながら一緒に見ましょ?」


 そんな風に喜ぶケシーを見ながら、俺はなんだか、無性に泣きたい気分になった。


「……お前は常に尻乳丸出しの全裸なのに、あのストーカー痴女に比べればなんて良い奴なんだ……」

「……えっ? なんで急に、死ぬほど微妙な褒められ方されるの? えっ?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] とりま、主人公もJKも気持ち悪い設定なのは笑える。 [一言] 設定的に主人公がマトモな精神状態じゃないのは致し方無い様な…。 上司とバトル、左遷、ダンジョン、フェアリー、ドラゴン、挙句ハッ…
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