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飲み友達でニート仲間の女の子が『可愛すぎる女優』とバズっているらしい  作者: 剃り残し


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2

「発見。プロ無職さんだ」


 翌日の午前十時半。いつもの席で納豆を混ぜていた俺の前に、トレイを持った彼女が現れた。


「……プロをつけるのはやめてもらえませんか、昼飲み女さん。俺はアマチュア無職です」


「や、プロです。この殺伐とした資本主義社会において、労働せずに二百十円の定食を食べているじゃないですか」


「ただ貯金を切り崩しているだけですよ」


「貯金を……そうですか。どうぞ」


 彼女は自分のトレイに乗っていたメンチカツを箸で割り、半分を俺の白米の上に乗せた。


「えっ、いりませんって!」


「富の再分配です。私より下のランクの生活をしている人への施しです」


「いや、俺は健康のために揚げ物を控えてるだけで……貯金だって、それなりにありますから」


「それなり……六桁?」


「七桁です」


 彼女の顔から表情が消えた。メンチカツをつまんだ箸が止まる。


「……四捨五入いけます?」


「余裕です」


「……ちなみに、前職は?」


「外資系企業です。いわゆる、ガッポガッポでした」


「……がぽがぽ」


 彼女は俺の白米の上に乗せたメンチカツを素早く回収し、自分の口に放り込んだ。


「あ、返してくださいよ。俺のメンチカツ」


「騙しましたね? ハイスペ人間には施しません!」


「騙してませんよ。勝手に哀れんだのはそっちでしょう」


「こんなハイスペ人間にメンチカツを……私の方がゴミ人間なのに……あ、メンチカツ美味しい」


 彼女は咀嚼しながら、この世の終わりのような顔をした。


「そこまで卑下しなくても。ただ売れてないってだけでしょ?」


「うっ……無職さん、案外グサッと来る事を言いますね」


「事実は事実として受け入れないと」


「……無職さんは、無職という現実を受け入れているんですか?」


「ええ。会社も自分から辞めましたし。なるべくして無職になったんです」


 俺が答えると、彼女は箸の先で俺をビシッと指さした。


「やっぱりプロ無職!」


「定義がブレてますよ」


「プロ無職には敬語も要らないよね? タメ口でいいよね?」


「なら、昼飲み女にも要らないね!?」


「ん。許可する。あと、たまにビール奢ってくれそうだ」


「心の声が全部漏れてるよ?」


 彼女はニヤリと笑った。その瞬間、俺たちの間にあった不可視のアクリル板が取り払われたような気がした。見れば、彼女のジョッキは既に空に近い。


「……飲む?」


「え? まさか本当に奢ってくれるの? いやいや、冗談だって」


「ま、俺も飲みたくなったし。投資みたいなものだよ」


「金利かかる?」


「トイチで」


「トイチ……鬼だね、無職さん」


 彼女は笑いながら、空のジョッキを差し出した。俺はため息をつきながら席を立つ。


 二杯目のビールで乾杯を済ませると、彼女が身を乗り出してきた。


「ね、無職さん。普段、何をしてるの?」


「それを無職に尋ねるかね。一番の地雷だよ……」


 俺が冗談めかして言うと彼女はふふっと笑った。


「単に余暇の使い方の話。無職であることを責めてるわけじゃないよ。図書館とか行く?」


「行くよ。無料で涼しいし」


「わ、どこまでも無職っぽい」


「……どうせ、明日役立たない無駄な知識を仕入れに行ってるだけだよ」


「無駄な知識?」


 彼女の目が輝いた。琴線に触れたらしい。


「例えば?」


「例えば、か……そうだな……あ、カピバラっているじゃん」


「ん。癒やし系の」


「あれ、実はネズミの仲間なんだよね。世界最大級の」


「……ネズミ? あ、私が想像してるのってビーバーかも」


「似てるよね。尻尾で見分けるんだよ。ほとんどないのがカピバラ、平べったいのがビーバー、細長いのがヌートリア」


「ヌートリア……」


「あと、カピバラってのんびりしてるけど、本気で危険を感じると『ワン!』って鳴くらしいよ」


「……ワン?」


「犬みたいに」


「……ふふっ」


 彼女が吹き出した。そんな平和な会話を遮るように、食堂の奥から怒号が飛んできた。


「んだよオイ!」


「あァ? 負け犬が何言ってやがる!」


 赤ら顔の老人二人が、胸ぐらを掴み合っている。俺は関わらないように視線を逸らそうとしたが、目の前の彼女は違った。獲物を狙う猛禽類のような目で、老人たちの口元を凝視している。


「てめえ、やりやがったな!」


「うるせえ! こっちは気持ちよく酒飲んでんだ! アンタの汚えダミ声で、せっかくのビールがマズくなるんだよ!」


「なにを! テメエのそのツラこそ、酒をマズくさせやが――」


 一触即発の瞬間。


「……『アンタの汚えダミ声で、せっかくのビールがマズくなるんだよ!』」


 第三の声が響いた。それは、俺の目の前にいる昼飲み女から。老人の言い方を完全にコピーした、地獄の底から響くようなダミ声だった。


 老人たちが動きを止め、恐る恐るこちらを振り返る。


 当の張本人は「ん。静かになった」と呟いて、ビールをごくごくと飲んでいた。


「……」


「……」


 老人たちは顔を見合わせると、気まずそうに立ち去った。俺は開いた口が塞がらない。


「……無職さん。今の、使えそう?」


「使えそうというか……心臓に毛が生えてるね」


「ふふっ……怖がらないでよ。私は可愛いか弱い乙女ですよー?♡」


 彼女はぶりっ子ポーズで誤魔化したが、周囲の視線は痛いほど刺さっていた。


「……移動しよっか。無職さん」


「……うん」


「図書館、ついて行っていい?」


「何しに?」


「プロ無職の作法を学ばせていただこうかなと。酔ったギャンブラーの演技は獲得できたしさ」


「……イジってるね?」


「ソンナコトナイヨ」


 彼女は棒読みで言った。こうして、俺の静かな無職生活に、どうしようもなく騒がしい異分子が混入することになったのだ。


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