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飲み友達でニート仲間の女の子が『可愛すぎる女優』とバズっているらしい  作者: 剃り残し


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「……ね、潤。人間ってさ、なんで熱くなるんだろうね」


 図書館の、いつものテラス席。


 帆夏が死んだ魚のような目で、空を見上げていた。


 手にはコンビニの冷やし中華を持っているが、麺が伸びきって一塊のオブジェになりつつある。


「体温調節機能じゃないの?」


「や、物理的な熱さじゃないよ。精神の話。魂の燃焼の話」


 帆夏は重たい溜息をつき、割り箸を割った。パキッ、という乾いた音が、湿った空気に響く。


「現場にいるんだよ。唐辛子を濃縮還元したような人が」


「……胃もたれしそうな人材だね」


「ん。胸焼けがすごい。役名の『豪徳寺』って呼ばないと返事しないし、休憩中もずっと『今のシーンの感情曲線について議論しよう!』って寄ってくるの」


 帆夏が語るその人物は、今度のドラマの共演者らしい。


 若手実力派俳優、熱血漢で有名な彼は役柄に完全になりきり、日常さえもそのキャラクターとして生きることを是としているらしい。


 素晴らしいプロ意識だが、隣にいる帆夏にとっては、暖房が効きすぎたサウナに閉じ込められているようなものなんだろう。


「さっきもさ、私がロケ弁の唐揚げを食べてたら、真顔で聞いてくるの。『おい、風見。今その唐揚げを食べているのは、お前自身か? それとも役柄としてのヒロインか?』って」


「面倒くさい禅問答だなぁ……」


「でしょ? だから私、言ってやったの。『タンパク質を求めているホモサピエンスです』って」


「正解」


 二人で向かい合ってにやりと笑い、フィストバンプをしてまた前を向く。


「はぁ……潤、私はどうすればいい? このままじゃ、彼の熱量に干からびさせられて、ビーフジャーキーになっちゃう」


「そうだなぁ……」


 俺は考えながら、空を見上げる。


 遂に仕事の悩み相談を受けるようになってしまった。ここは無職のために開かれた無料の図書館だと言うのに。


 とはいえ「無職だからわかんね」と匙を投げるのも可哀そうだ。


 俺はテラスの端に落ちていた枯れ葉を指差した。


「いいかい、帆夏さん。その熱血氏は、いわば『焚き火』だよ」


「焚き火?」


「そう。キャンプファイヤーだよ。彼は自分自身を燃料にして、周囲を照らし、暖めようとしている。立派なことだ。だが、近づきすぎればどうなる?」


「……燃える」


「そういうこと。服に引火して大惨事だ。だから、正しい付き合い方は一つしかない」


 俺は両手を前に出し、暖を取るようなポーズをした。


「『当たらず触らず、遠赤外線だけ頂く』だ」


「……遠赤外線」


「そう。彼が熱く語り始めたら、心の中でマシュマロを串に刺して、彼の炎にかざすイメージを持つんだ。『ああ、いい火力だな。マシュマロが美味しく焼けそうだ』と」


「……焼くの?」


「焼くんだ。彼の情熱を、自分のメンタル回復のための熱源として利用する。決して会話の土俵に上がるな。ただ『へぇ、熱いですね』と、暖炉の前で寛ぐ老人のように微笑んでいればいい」


 帆夏はポカンとしていたが、やがてその瞳に微かな光が宿った。冷やし中華の麺をほぐしながら、ニヤリと笑う。


「……なるほど。燃料にはならないけど、暖は取るってことね」


「エコな関係性だろ?」


「ん。それならいけそう。私、マシュマロ好きだし」


 帆夏はズルズルと冷やし中華を啜った。酢醤油の酸っぱい匂いが、焚き火の幻影をかき消していく。


 ◆


 数日後。再びテラスに現れた帆夏は、心なしか肌艶が良かった。


「どうだった? 焚き火氏は」


「完璧だったよ、潤」


 帆夏は勝者の顔で、缶コーヒーのプルタブを開けた。


「彼がまた『魂の叫びが聞こえないか!』って詰め寄ってきたから、私、目の前でエア・マシュマロを焼いて食べたの」


「……実際にやってはないよね?」


「ん。心の中でね。で、彼に向かって聖母のような顔で言ったの。『豪徳寺さんのおかげで、心がホクホクしました。ごちそうさまでした』って」


「……で、反応は?」


「『……そうか! 伝わったか! 俺の熱が!』って感動して泣いてた。なんか、お互い幸せな誤解で着地したみたい」


「よ、良かったねぇ……あはは……」


 俺の適当なアドバイスもたまには役に立つらしい。


「おかげで撮影も順調。彼、私のことを『静かなる青い炎』って呼んでリスペクトしてくれるようになったし」


「青い炎……ガスコンロみたいだね」


「そそ。便利そうでいいじゃん」


 帆夏は笑い、俺の持っていた読みかけの文庫本を覗き込んできた。


「ねえ、潤。その本、面白い?」


「……いや。冒頭の三行で挫折して、今はページ数を眺める遊びをしてる」


「虚無だね」


「そうでしょ? 俺たちの日常にふさわしいんだ」


 風が吹き、テラスの木々が揺れる。


 熱すぎる情熱も、冷めきった虚無も、この場所では等しく「ただの時間」として流れていく。


 俺たちは並んで、ぬるくなった風に吹かれた。


 焚き火の暖かさは知らないけれど、この微温湯のような温度が、俺たちには一番お似合いだ。


「……あ、そういえば」


 帆夏が思い出したように言った。


「豪徳寺さんが言ってた。『いつか君の師匠に会ってみたい』って」


「……は?」


「『その達観した境地、誰に教わったんだ!』って聞かれたから、『テラスに住む仙人』って言っといた」


「やめてくれる!? 焚き火が延焼してくるの!?」


「ふふっ……それは嫌だよね。ここにいるときは誰にも邪魔されたくないから」


 帆夏は悪戯っぽく笑い、俺の腕を掴んだ。


 その手は、焚き火にかざしたマシュマロのように、ほんのりと温かかった。


新作を始めました。

『クーデレ生徒会長が激重感情で授業をサボって校舎の屋上で密会するようになってしまったため責任を取らされそうです』

https://book1.adouzi.eu.org/n6935lt/

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