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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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突撃

 ハンガウを中心とした逆V字の編隊が、暗く陰る戦場を、黄金の魔光をもって切り裂く。

 地面から湧き出る不定形のアンデッド達を、半ば無視するように駆け抜け、撥ね飛ばし、それでも手を伸ばし、のしかかってくるものには、幾重にも光を放つ剣群によって、瞬殺していった。


 そうしながらも、ハンガウは再び魔導具へと意識を向ける。半ば地面に埋もれ、放逐されていたそれは、ハンガウの意識を感知して、内包する起動装置を再度発動させた。


 ハンガウは、魔具と真白の地宮とのつながりが消えないよう、微細な魔力のコントロールをこなしつつ、走り、戦うという、非常に困難な作業をこなす。その負荷に対し、愛剣が輝きを増して、ハンガウの魔力コントロールを助けた。


 左手から突っ込んで来たアンデッドは、まるで犬のように四肢を駆ってくる。顔面が半ば崩れ、元が人間か獣かすら分からない者の突進を盾で受け、斬って捨てると、その向こうにヤマタ兵の集団が見えた。


 仲間が放ったはずのアンデッドに次々と襲われ、数の差から健闘むなしく死傷していくヤマタ兵。その数刻後には、目に真っ赤に染めた彼らが、ゆっくりと立ち上がり、新たな犠牲者を求め彷徨うのだ。


 各所で繰り広げられる地獄の光景に、部下達の事を思って寒気をおぼえたハンガウは〝皆無事に撤収できればよいが〟と願う。だがこの状態では、反王軍内の伝令すらままならなかった。



 反王軍の戦士達は、各所で輪を作り、力を合わせて窮状を凌いでいた。特に銀狼フェンリルから、獣憑き(ライカンスロープ)の超力を得た獣人達は、獣本来の驚異な力を発揮して、湧き出るアンデッド達を蹂躙する。


 だがそんな彼らとて、斬っても、砕いても、地面から生えてくるように湧き出てくるアンデッドに、次第に焦りを募らせていった。いかな超力とて無尽蔵ではない。追い詰められた獣人達はハンガウを見つけると、


「ハンガウ様! 我々はどうすればよろしいでしょうか?」


 と声を掛け、近寄った。それに無言で砦を指し示したハンガウは、目線を切ると、振りかえらずに走り抜けていく。


「ハンガウ様に続け! 全軍砦に撤収!」


 一際大きな狼男のライカンスロープが、両手にアンデッドを掴んで、他のアンデッドに叩きつけながら叫ぶと、長い遠吠えを放つ。


 それに呼応するように、戦場のあちこちから遠吠えが返ってくると、ハンガウの元へ次々と戦士達が付き従った。

 それらは逆V字の編隊に加わると、魔力的繋がりの一部となって、薄っすらと黄金の光を纏いだす。


 触れるもを全て切り捨て、戦場を一直線に進む集団の前方に、自軍砦の物見櫓が見えてきた。それにより走る足にいっそう力をみなぎらせ、魔力に酔うように精神を高揚させた一行の前に、濃厚な黒雲が湧き上がった。


 〝瘴気か!〟


 との警戒心から自然と回避しようとする。瘴気の塊の中には、あの妖怪がいるに違い無い。だが避ける事も難しいほど大きくなりすぎたそれは、砦への道を完全に塞いでいた。


 ならばいくしかあるまい、と気勢を上げて魔力量を上げると、黄金の光を纏った一団が黒雲に突っ込む。その中心部にはくだんの妖怪がいた。


「ヒーッ」「ヒューン」


 と甲高い声を上げたぬえは、いやらしい笑みを浮かべて目を細め、真っ黒な雲をたぐり身にまとって、自身を暴風の塊と化すと、戦士達に横からぶちあたって来た。


 崩れる陣形に、黄金の魔力を失った戦士達が瘴気に呑まれていく。それをまだ魔力を纏った者が助け上げながら鵺と対峙した。


 魔法戦士の光刃が鵺を切り裂き、肉を焼く。さらに後方からは、練達の弓手が放つ、精霊石のやじりを持つ矢が、虎柄の腹部に数本突き立った。


「ヒィーッ、ヒューン」


 と甲高い悲鳴をあげた鵺は、恨めしそうに瞳をギラつかせると、追い打ちをかける戦士に、質量を伴う瘴気を放って、自らは黒雲の中に紛れようとする。


 それを断ち切る黄金剣、ハンガウの魔力によって黒雲ごと真っ二つにされた鵺は、最後に、


「ヒビューッ」


 と耳に残る断末魔の悲鳴をあげると、事切れた。


 みるみる萎んでいく死体に瘴気が集まり、周囲は逆に晴れていく。


 ホッとして砦を目指そうとしたのも束の間、周囲を埋め尽くすアンデッドの群れと、同族を殺されて、こちらに向かいつつある瘴気の塊が遠望できた。


「くそっ! なんて数だ」


 隣で悪態をつく側近を、ハンガウが手で制すると、魔具への干渉を強める。もう少し進軍して魔力の供給も満ちれば、魔具の効果範囲に入る筈だ。


 ギリギリの時間と位置関係をかんがみると、弱音を吐いている暇は無い。ハンガウは剣を振り上げ、


「陣形を崩さず全速前進! 必ず助かる、魔力を惜しむな!」


 と身長の倍ほどにも達した黄金剣で、目の前のアンデッド達を切り裂きながら突撃した。


「おおっ!」


 この状況下においても、一歩も引かない隊長に心酔した集団が、溢れかえるアンデッドの集団に向かって突き進む。


 だが突如として魔具からの反応が搔き消えたことで、ハンガウの足は思わず止まってしまう。


「どうしました隊長!?」


 後続の獣人兵達が動揺の色を見せるが、直属のトゥクウォリ兵は無言でハンガウを囲むと指示を待った。それを見て何も言えなくなった者達も、黙ってハンガウの言葉を待つ。


 だがハンガウにも掛けるべき言葉が思いつかなかった。何故か突然自分の支配下から外れた魔具……あれは強力な魔法防御を施され、他の干渉を受ける代物ではないし、簡単に壊れる筈もない。


 だとすれば何者かが操作し直した事になるがーーそう考えている内に、魔具から力強い発動が伝わってきた。そこに繋がる魔力を通して、霊能者オウの、


「闇に掴まるなワフ」


 という言葉が蘇り、同時に周囲を俯瞰ふかんするイメージが送られてくる。


 なるほど、そういう事か。オウ・スイシ……元の所有者に権限が移譲したとすれば、突然自分の支配下から外れた事も納得がいく。


 魔具に干渉した偉大なる指導者の示す方向、真白の地宮に向き直ると、号令を発して、部下と共に道なき道を切り拓き、強行軍を再開した。


 このまま進めば、アンデッドの群れや、鵺を内包する瘴気などが立ち塞がるが、霊能者はそれ以上に危険な存在が、後方から近づいて来るのを示唆しさしていたからだ。


 霊能者のイメージが明示するそれは、以前に彼の言った〝闇〟に違いない。


 それはアンデッドなどの生ける屍人とも違い、純粋な妖怪でも、ましてや人でもない。まるで濃密な闇が人型となったような存在だった。


 〝妖人あやかしびと


 瘴気漂う汚染された戦場において、亜神にも等しい力をもつそれに追われるように、ハンガウは消費魔力を上げると、部下を率いる足を速めた。






 *****





「何を企んでおる? この状況になっても現れぬとは……オウ・スイシ、お主は部下を見捨てられぬたぐいの甘ちゃんだと思っておったが」


 アンデッドと化した牛竜にまたがったクロエが、瘴気に犯された戦場を見渡す。

 瘴気の核となる鵺が八体、戦場において、次第に数を減らした生者を追い詰めている。


 もはやアンデッドの数は計り知れない。元来この地が内包していた、不浄化なる魂をも巻き込み、黒螻蛄くろけらの呪いの力がもたらした死霊術は、鵺の発する黒雲の瘴気を得て、戦場を死の坩堝るつぼに変えていた。


「何が有ろうとも、これが我が手にある限り、お主らの好きにはさせぬ。観念して我が術の下に、素っ首を晒すが良いわ」


 ふところに入れた、手のひらに収まるほどの金印を撫でると、周囲に渦巻く濃厚な闇に意識を注いだ。


 金印ーーまたの名をとも言う。この国が古代より伝えてきた国の至宝にして、真白の地宮の鍵となる神聖なる遺物の一つ。


 書物によれば、犬人族などという下等劣種に隠匿されて伝わる霊剣と合わせて、剣璽と呼ばれており、真白の地宮に施された、人には成し得ない別次元の封印術を解除するための片割れとされているが、詳しい用法は人間族側には失われて久しい。


 それ自体に死者の魂を操る力が宿り、主と認めた者には、古代の闇精が取り憑き、加護を与えるというーー


 濃密な闇は実体を伴い、それぞれに闇の衣を纏う人型となった。そこへ法力を込めたくだを差し込むと、それぞれに妖怪の力を吸収した、四体の妖人あやかしびとが合成されていく。


 その内の一体、真っ黒な体に燃えるような目を光らせた土蜘蛛男が、変身による熱を放出しながら、瘴気を深く吸い込むと、クロエの側に身を屈めた。


 クロエは仕込んだ管に指を埋めながら、


「オウの行方を探れ、すでに忍びの者を配しておる故、それら呪針の痕跡を辿るのだ」


 と命令を出しつつ、蜘蛛の糸を引きずり出した。それを我が身と、他三体の妖人に結びつけると、視界が共有されて、その情報量に頭の奥が一瞬痛む。


 〝感覚共有〟


 これにより、土蜘蛛男が存在する間は、四体の妖人の情報が常時クロエの元に届けられる。


 地に手を添えたと思えば、即座に身を隠した土蜘蛛男。その見事な隠匿術に満足気な笑みを浮かべたクロエは、


「場はどんどん我が方に有利になっていくぞ、さあオウよどう動く?」


 と残り三体の妖人をはべらせながら、戦況を見下ろした。


 目につくのは黄金のやじりとなって、戦場を我が物顔で切り裂く、大陸の傭兵崩れども。

 ほんの少し、モワッと嫌気のさしたクロエは、ひざまずく妖人の一体に、


「あれを狩ってまいれ」


 と告げると、牛竜を立ち上がらせて、自らも真白の地宮に向けて進む。命令を受けた妖人は、肌寒い季節にも関わらず、更に周囲を凍てつかせる息を吐きだすと、滑るように斜面を下って行った。

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