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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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戦場のアンデッド

 真っ黒な靄が地表に広がり、命を落とした兵士達を覆っていく。その中心では、クロエの召喚したらしい妖怪が、虎模様の体の一部を見え隠れさせていた。


 ハンガウがその忙しない様子をいぶかしみつつ近づいて行くと、妖怪は死体に近づき、口から白く光るものを吸引しはじめる。そして吸い尽くすと目を細めて、


「ヒューッ、ヒーッ」


 と猿の頭に下卑た笑みを浮かべた。こいつは……死体に残存する魂を食っているのか?


 その想像に身震いする。それと同時に、死者を冒涜する行為に怒りが湧いた。戦地において非業の死を迎えた戦士達、その魂を穢す行為は、戦闘に身を置き続けるトゥクウォリ氏族の戦士にとっては、受け入れ難いものである。


 背中でカタカタと鞘鳴りをする黄金剣の柄を掴むと、魔力の込めて抜き打つ。数倍もの刃圏を得た居合切りは、妖怪を切り裂かんとしたが、寸前で透明化した相手は黒雲の中に逃げこみ、皮一枚のみを切るにとどまった。


 その黄金の刃が黒雲に触れた事で、嫌な感覚がハンガウに伝わってくる。逃げ込んだ妖怪を追って、黒雲に飛び込もうとした部下達を止めたハンガウは、


「その雲に触れてはだめだ。濃すぎる瘴気にやられるぞ」


 と警告を発した。彼女の得た感覚によると、この黒雲は黄泉よみの世界に通じ、人間が吸い込むと寿命を縮める可能性があった。


 拡大し続ける黒雲に、押された形のハンガウ達は、その円から少し離れると、戦場を冷静に見渡す。そこには等間隔に何箇所か、同じような瘴気が溢れ出し、戦場を支配しようとしていた。


 霊能者様の予言はこの事だったのか?


 ハンガウは、この作戦に出発するときに、オウ・スイシの発した、


「闇に足元を掴まれるな、私が行くまで生き延びるワフ」


 という言葉を思い出していた。目の前で広がり続ける黒雲と、その中で見え隠れする不気味な巨体が、あちらこちらで蠢めくさまを、無言の集団は固唾を飲んで見守る。


 その部下達に、


「ここまでは予測通りだ、皆、砦に急ぐぞ!」


 と撤収の命を出したハンガウは、先頭を切って走り出した。この局面までくると個々の武力などは関係なくなり、いかに同族達の犠牲を少なく退避できるかが最重要事項となってくる。 こんな訳の分からないモンスターに、部下を奪わせてはならないと、ハンガウは全速力で走った。


 その足元で、何かが蠢めく。


 咄嗟に身をかわすと、地面から無数の手が伸びた。それは先ほどまで生きていた戦士達の手、しかし、地面下を潜って来たかのように、泥と土に汚れている。


 手のみならず、頭を出している者もいる。それらは傷つき、中には頭が半分無い者もいた。泥に汚れた頭部には、燃えるように真っ赤な瞳が浮かび上がっている。こいつらは……死人返りの邪法か。


 獣人奴隷の戦力を失った、ヤマタの術師達の常套手段であり、ハンガウも数多の戦場で対面してきた。それにしてもヤマタとは、つくづく死者を尊ばない民族である。


 部下達もそれが気にくわないのだろう、苦い顔をして、行く手を遮るアンデッドの集団を見る。そんな彼女らに対して、


「再度破軍の陣形を組め! 一点突破で砦に戻るぞ」


 とハンガウが大音声で命じると、すぐさま逆V字の陣形が組まれ、その先頭にハンガウが立つ。

 皆の魔力が集中する頂点、その手に握られた黄金剣の輝きが、今までに無いほど強くなり、同時にトゥクウォリ兵全体を包み込んでいく。


 その魔力が与えてくれる高揚感に、魔法戦士達の剣も今までに無いほどの輝きを放った。


 光の塊となった一団が、アンデッドの集団に突入していくと、まるで闇夜を切り裂くかのように、屍人達の集団が消滅する。


 だが、彼女達が向かう砦までは、まだまだ長い道のりが待ち受けていた。






 *****






 一人残されたベルと呼ばれたトゥクウォリの女戦士は、


「ベル・オニャンゴと言う、よろしく」


 とジュエルに対して手を差し出した。それを受けてジュエルから順番に、挨拶と軽い自己紹介をしていく。それがバッシの番になると、ジーッと全身を観察された後、秀でた額の下にある大きな瞳を真っ直ぐ向けながら、


「ハンガウ様の剣と、あれほど打ち合える戦士は稀有だ。その力の秘密、間近で見せてもらうのを楽しみにしている」


 と言って、ハンガウが置いていった荷物を担ぐために、くるりと背を向けた。

 身長は一般男性よりも少し低いぐらいか? つまりジュエルよりも頭一つ低いが、肉付きの良い肢体は、均整をとりつつも力強い印象を受ける。


 その褐色の尻肉が、露出度の高い衣服とあいまって、左右に揺れるさまは、見ている方が恥ずかしくなるほど肉感的だった。


 これほど低い気温にも関わらず、体にピッタリと密着させた硬革鎧には、袖が無く、下半身も股ぐりに食い込むような短いものである。だがハンガウと同じように、全身を魔力の薄い膜でコーティングさせているらしく、雨も弾いていた。


「バッシ、お尻見すぎだワン」


 後ろからかけられたウーシアの声は、多少の怒気をはらんでいる。


「お尻じゃない、ベルの装備を確かめているんだ」


 頭に被った革製の装具によって纏められ、後部から垂れ下がる長い黒髪。その下に背負われた二本の片手剣は、十字を作るように、革ベルトで固定されていた。


 双剣使いだろうか? 死の尖兵と呼ばれる、暗黒大陸トゥクウォリ氏族の魔法戦士の存在は、世情に疎いバッシでも名前を聞いた事があるほど有名である。

 確実に前衛として戦力になるであろう背中を、頼もしく見ていると、


「やっぱりお尻をみてるんじゃない?」


 リロまでもが腕組みをして睨んできた。おいおい、そんな事無いぞ、確かに魅力的な尻のラインをしているが。

 肩をすくめて自分の荷物を取りに行ったバッシに、


「あんなブリブリヒップに興味は無いワンコ、ねぇ?」


 とマロンがシナを作って擦り寄ってきた。バッシは無駄口を叩くなという意味を込めて視線を送ると、無言で行く先を示す。

 するとなぜか喜んだマロンは、張り切って皆を先導していった。


 その後ろ姿を見つつ、なんだか面倒な事になったと鼻息をもらす。


「しっかりな、色男!」


 からかうような激励を送るスワンクに、片手をあげて答えると、ジュエルの声掛けとともに出発する。その背中には青血戦士団ブルー・ブラッズの、粘り着くような視線が張り付いていた。





 *****





「これが真白の地宮か」


 ポツリと呟いたジュエルが見上げたのは、地宮の上に鎮座する、巨大な真白の天蓋。森林地帯にあって、そこだけ切り取ったかのように、人工物が四角い壁面を輝かせている。


「それでどこが入り口なんだ?」


 と聞くと、


「ここでオウ・スイシ様を待て。我々では中に入る事叶わぬ」


 腰に手をやったベルが、当然とでもいうように告げる。

 え?……ここから入る事が出来ないのだろうか。それではクロエはどうするつもりだったのだろう? と疑問を持つと、


「クロエ殿は、地宮付近に我々用の基地を作ると言っていた。つまりは最初から中には入れる気が無かったって訳か。ベル殿の上役たる霊能者に、我々を受け入れるつもりがあるというならば、ここで待たせていただくしかあるまいな」


 腕組みをして考え込んだジュエルが告げる。そこに周囲を探索していたウーシアが戻ってくると、


「やっぱりここにしか入り口の痕跡はないワン」


 と地表部の正面を指差した。だがそこには足跡は残っているものの、肝心の出入り口が存在していない。


「つまりは封印型の迷宮という事か? 中には何が封じられているやら……恐ろしいな」


 ジュエルの言葉にバッシは改めて天蓋を見上げる。この島の規模にして、これほど立派な建物を作るのは、至難の技だったに違い無い。それだけの労力を費やす価値のある何かが封じ込まれているとなると……想像だけでも確かに恐ろしい。


「ではオウ殿がつくまでは、暇になりますね」


 と言うリロに、


「そうでも無さそうだ」


 と感覚鱗を立てたバッシが告げる。見つめる視線の先には、地面から手を出して這い上がろうと蠢めく者達の、異様な肢体があった。


「アンデッドだワンコ!」


 霊剣を構えるウーシアの後ろに、飛び上がったマロンが逃げ込んだ。震えながらウーシアの背中にとりつき、チラチラと顔を出して、迫り来るアンデッドを見る。


 バッシは破邪の力を保有する鋼の大剣を構えると、皆の前に立ち、指示を待った。


「バッシ、飛び出すなよ。ベルと共に最小限の間合いをとって、皆と一緒に一時離脱。日のさすあの丘まで警戒微速で進むから殿しんがりを頼む。アンデッドには私の聖騎士魔法が効きやすいはずだ、リロとウーシア、それにマロンも遅れずついてこい」


 と命じると、ジリジリと後退して行った。周囲の索敵をウーシアが受け持ち、マロンはリロが手を引いて導いている。


 バッシの視線にベルが重なると、ニヤリと口角を上げて、


「これほど早くその腕前を見られるとはな」


 と不敵に告げた。だが仲間を無事に逃がす事しか頭にないバッシは、


「なるべく戦わずに行くつもりだ、彼女達の支援を頼む」


 と告げると、足元に這いずり寄ってきたアンデッドに剣を突きつける。紫光を纏う大剣が、触れるか触れないかの所で、ボロリと肉が崩壊し、アンデッドは呆気なく消滅した。


 流石はリリの睡蓮火の力。本人の命が尽きても、なおも衰えぬ魔力に鼓舞されたバッシは、興味深気に覗き込んで来るベルを促して、先を行く仲間達の後を追った。


 暗く泥濘ぬかるむ森林のあちこちで、地面が蠢いている。まるで地獄に紛れ込んだような光景に、淡く光るジュエルの聖なる光が、心強く皆を先導していった。

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