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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第二章 不浄なる聖火教団
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剣龍の退屈な午後

 リリの元へと戻った時に、教団側と剣聖の事の顛末てんまつを散々聞かされたバッシ達は、剣聖という人物について様々な疑問が湧いて来た。


 それに答えるリリによると、剣聖ウォードと剣龍ミュゼルエルド、そこに当時は神官戦士だったノームと、修行の旅に出ていた魔法使いのリリが加わり、元々パーティーを組んでいたらしい。


 長期間に渡ってパーティーを組み、Sランクに昇格するほど数々の偉業を成し遂げたと言う。


 そんなある日、聖都のラウル司祭(現在の大司教)の依頼を受け、勇者降臨の手伝いをしたウォード達は、勇者と旅をするという司祭に、リリと剣龍の同行を許したと言う。


 さらに能力だけは高くて、実戦経験の無い勇者に戦い方を教えたのも、ウォードらしい。


 それからノームは鍛冶師として故郷へ、ウォードは自らの信念の元、一人旅立って行ったという。


「ウォード様はなぜそこまで、勇者に肩入れしたのかしら?」


 隣で聞くジュエルに、


「そうねぇ、勇者ちゃんも可愛いかったし、何より元々一人が好きなのよ。変人だからね」


 ケラケラと笑ったリリは、


「でもとっても優しい人なのよ、私なんていつも心配させちゃってるわ。今回も忙しいはずなのに、飛んで来てくれたし」


 と言って、バッシの淹れたお茶をすすった。聖都の街中にある店で購入した棒茶を、毛長山羊の乳で煮溶かしたそれは、独特なにおいを発している。

 どうやらリリの故郷の味に近いらしい。


「離宮への護衛にも付いて来てくれるのか?」


 と聞くと、


「ウォードは付いて来てくれるって。剣龍のエルちゃんは、ラウルと一緒に聖都を守るらしいわ。オルフロート君も居るし、結界も強化されたし。まあこっちは大丈夫でしょう」


 剣聖と呼ばれた人物と行動を共にできる、その事に一瞬心が踊るバッシ。するとそれを見透かしたように、


「あんまり期待しないでね? あの通り変人だし堅物だし、融通が利かない人だから。気に入らないと口もきかないの」


 苦笑しながらリリが告げる。心配して来てくれた人に対して、あんまりな言い草だ。


「剣龍様に乗って、一足飛びに向かうというのはどうでしょう? 敵が飛竜などをよこしても、剣龍様には到底かなわないはずですが」


 ジュエルの提案ももっともだ。何より危険な時間を短縮できるし、到着先で警護を固めればそれで良い気がする。それに対してリリが、


「そうね、あなた達には少し話すけど、これは本来秘密なのよ?」


 と言って一同を見回すと、


「聖都から離宮までの道で、何か気付いた事はないかしら?」


 と質問してきた。


「鉄砲水で出来た道? だろうか」


 と言うバッシに、


「そうね、そう見えるわよね。それは伝説と呼ばれる程昔の話よ。離宮には湧き水をたたえた大木があったの。その根っこは周囲一帯に伸びて、太いものは数キロ、数十キロの長さが有ったと聞くわ。その木に宿ったのが〝勇者〟そしてこの聖都で誕生したわけ。つまりあの道は勇者の産道さんどう、大木の根っこ跡って訳ね」


 皆が頷く。それを受けたリリは、


「今度の儀式は聖都を出発してからの旅程全てにかかっているわ。つまりあの道を辿る事自体が儀式な訳よ。飛ぶなんてあり得ないわね」


 と答える。それに首を傾げたリロは、


「先ほど遠い昔の話って……でもお師匠様は勇者様と旅をなさった訳ですよね?」


 と疑問を口にする。それを聞いたリリは、


「それこそひ・み・つ。余り首を突っ込まない方が良いわよ? 何にせよ宗教組織なんて怖いものなんだから」


 とおどけたリリ、だがその言葉の裏にある真実味が、バッシの心にくさびを残した。

 聖火教団も恐ろしいが、聖都側である主神ハドル正教も恐ろしい。それは間近で接し続けたリリだからこそ知る、裏の側面を指しての事だろう。


 もっとも今回の一件や、聖騎士を目指すジュエルのパーティーという時点で、バッシもどっぷり関わってしまっているが。

 そんな事を考えながら乳茶のご相伴にあずかっていると、


「……お待ちください、お呼びいたしますから、今しばらく……」


 と外から慌ただしい侍女の声が聞こえてきた。


「あら、噂をすれば……って奴ね、ふふっ。」


 リリがいたずらそうな顔でバッシを見ると、


「いいわ、通してあげて」


 と大きな声で、いまだ姿の見えぬ侍女に許可を与える。そこから大股にやって来たのは、まごう事なき〝剣聖〟ウォードだった。


 彼は一直線にバッシの前に来ると、


「お前がバッシか? 鋼の精霊と同期できるらしいな。うむ、双槌紋の大剣、リリの破魔破邪の力を内包すると聞く。立ってみろ」


 有無を言わせぬ物言いに、黙って立ち上がると、体つきや手指、果ては目の色まで検分される。

 ウォードはバッシよりも随分背が低いが、人間の中では高い方だろう。約190cmは有りそうな、骨太な戦士だった。


「鋼の精霊と同期出来るという事は、魔力が皆無なんだな? ふむ、分かった。場所を借りるからついて来い。出発までの間に少しでも鍛えてやる」


 と言うと、来た時と同様に、迷いも見せずに大股で立ち去ってしまった。


 困惑してリリを見たバッシを


「ほらほら、さっさとついて行かないと、気が変わってしまうわよ」


 と追い立てるようにけしかける。願ってもないチャンスに、


「じゃあ、行ってくる」


 リーダーであるジュエルに断りを入れると、大分先に進んでしまったウォードを追って走り出した。


「ふふふっ、バッシ君も大変なのに目を付けられたわね。まあノームや私が目を付けた時点で、こうなる事は大体分かっていたけど」


 楽しそうなリリは、遠のくバッシを見送りながら、若干冷め始めた乳茶を飲み干した。


 それから一週間、特訓という名の地獄がバッシを待っていた。それを横目に見るオルフロートや部下達が、過去を思い出して身震いするほどのーー





 *****





 剣龍ミュゼルエルドは退屈そうに四肢をたたみ、前脚を組んで巨大な顎を乗せながら、ポッカリと浮かんだ雲を、見るとはなしに眺めていた。


 ウォードに付き合ってリリの様子を見に来たのは良いが、その後何故か聖都守護要員として名が挙がっており、流れ上断れなくなっている。


 あいつ《ウォード》と居ると何時もこうだ。勇者を押し付けられた時などは、半泣きになったが……まあ奴も良いキャラしてたから良いか。


 今回の件も『まあ、しばらく何する予定もないので、ここに居るのも悪くないか』と諦めている。この剣龍はこうして流れに身を任せて生きてきた。


 全身を覆う赤黒い肉厚の鱗が、陽光を鈍く反射している。四足の親指に伸びる巨大な剣爪は鞘鱗さやうろこに半ば収納されているが、鍵状になった峰部に刻印された双槌紋は表からも見える位置にあった。


『小娘よ、何か用か?』


 強大な魔力を伴う念話が、足元をうろつく犬人族の娘に向けられる。さっきからしきりに爪にある紋様を眺めては、


「凄いワン、こんな大きな龍にマーキングするなんて、ノーム凄いワン!」


 と鼻息も荒く興奮した様子である。このままではおしっこでもかけられかねない危うさを感じて発した念話に、ビックリした娘は、毛を逆立てて飛び退いた。


 ギロリと睨む目は、眼球だけで娘の顔以上の大きさがある。頑健な牙の並ぶ口元からは、火精が尻尾を踊らせ、吹き出す熱気で汗ばむ程だった。


「すみませんだワン! 余りに立派な爪で、つい見惚れてしまったワンウ」


 少し離れた所で土下座をする娘、一瞬であそこまで飛び退けるとは、かなり運動神経が良いのだろう。


 更に全てを見通すと言われる龍眼は、手元に隠し持った霊剣の存在を見通していた。


『その剣は……カニディエ氏族の者か? では〝霊能者〟の一族であろう?』


 またもや強烈な思念波がウーシアを襲う。だが萎縮するよりも、その内容に惹かれて、巨大な剣龍の前に立ち上がると、


「カニディエ? 確かお母ちゃんから聞いた記憶があるワン……でも小さ過ぎて詳しく覚えてないワンウ。これの事を知ってるのかワン?」


 と袖口から霊剣を具現化させて尋ねた。銀色に光る剣身からは、霊気がかすみとなって、ゆらゆらと昇っていく。


『ああ、東方に一人、カニディエ氏族の正式な血統が居る。名を〝霊能者〟オウ、銀狼の娘や傭兵団を率いる強者だ。その者も似たような力を持つ刀を所持していた』


「それはウーの身内かワン?」


 ついにタメ口になった娘の無礼を無視して、


『それは知らぬ、単にその手の霊剣はカニディエ氏族が持つものと、直接本人から聞いただけだ。同じ犬人族だし、何か関わりがあるかもな』


 言うや、ブフンと鼻息を吐き出して、この話はもう終わりだ、と娘を追い払おうとした。だが器用に突風を避けた娘は、次の瞬間には目の前に近寄って、


「その人はどこに居るワン?」


 とかぶりつく勢いで聞いてきた。その目は真剣そのものである。


『うるさい近寄るな! 東方の端だ。わしの翼でも三日はかかる。船などで行くには何ヶ月もかかる島国だ。名を火の国という。魔物の跋扈ばっこする危険な土地だ』


 煩わしくなったミュゼルエルドは、立ち上がると畳んでいた羽を広げて、


『詳しくはウォードに聞け、わしはこれ以上知らん。奴は直接戦った事もあるし、その後の付き合いもある筈だぞ』


 と最後の念を送って飛び立った。


 強烈な風に煽られ、地面に四肢をつけた娘は、しかし目を輝かせて、


「東方の火の国……〝霊能者〟オウ、カニディエ氏族……仲間がいるのかワン?」


 不意に訪れた知識に胸を踊らせらがら、忘れないように何度も口にし続けた。





 それにしてもせせこましい都だ、ゆっくり羽を休める場所もない。と思って街中を旋回していると、ピカピカと反射で合図を送る者に気付いた。


 近寄って着地すると、そこに居た騎士団の中からオルフロートが進み出てきて、


「ミュゼルエルド様、退屈でしょうが、貴方様が街中で飛行するとパニックが起きます。ここ大聖堂前の広場をお譲りしますので、どうかここで儀式を守護して下さい」


 深々と頭を下げて来た。見ると何処かから掻き集めたであろう、クッションが山のように積み上がっている。


 こんな物より、金銀財宝を敷いた上の方が落ち着くのだが……まあ良いか。


 鼻息をブフォォォン! と吐き出した剣龍ミュゼルエルドは、クッションの上で足を畳むと、その上に顎を乗せて、また空を見上げた。本当に窮屈で退屈でつまらん。


「あちらに牛を用意しております。お好きな時におつまみ下さい」


 オルフロートが示す先には、急拵えの牛舎に十頭ほどの牛が繋がれていた。それを横目にチラッと見たミュゼルエルドは、


『まあ、少し位ならここに居てやっても良い』


 満更でもない様子でブフンと鼻を鳴らした。

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