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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第一章 巨人戦士と鋼の剣
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告白

 依頼を果たしたバッシ達は麓の村に報告を済ませると、代表者数名と現場まで引き返して、フォレスト・ゴブリンの全滅を確認した。


 これほどまでに膨れ上がった集落と、大規模な焼け跡、そして大量の死骸に驚愕した村長達は、感謝感激して握手を求めて来たが、何故か喜ばしい気分にはなれなかったバッシ達は、依頼達成書にサインをもらうと、早々に村を後にした。


 何故だろう? 少なくともバッシなどは、大量殺戮魔法を戦場で嫌という程見て来た。それこそ今回の規模どころではない、数百人、数千人を巻き込む程の極大魔法をである。

 にも関わらず、今回受けたショックはその時の比ではなかった。まるで平和な日常に、突如として紛争世界が紛れ込んだような、そんな違和感を感じたのだ。


 破壊を嫌うリロ以外にも、魔法を指示したジュエルまでもが固く口を結び、普段はうるさいほど陽気なウーシアも寡黙になっている。


 ネウロゲシアの時とは違って、知能のある種族を蹂躙するという行為には、特別な重さがあった。逃げ惑う者達を見下ろしての殺戮行為を気軽に行えるほど、精神は麻痺していない。


 重い足を無言で運んでの帰還の途中、突如として降り始めた雨を避けて、白年木はくねんぼくの根元で雨宿りをしたが、止むどころかとうとう本降りになってきた。


 密集した白い葉のおかげで、降り込まない事を良しとして、そのままここで夜を明かす事にする。

 大木の下から出来るだけ乾いた枝葉を集めると、リロの魔法で火を起こした。偶々朽ちて間もない太枝が固まってあったため、これで一晩はもちそうだ。


 バッシは木を組んで吊るした携帯鍋に水を張ると、砕いたホウジ・ナッツと黒糖を茹でて甘煮汁を作る。そうして仕上げに一摘みの塩を振りかけると、皆にふるまった。

 少し肌寒い外気に、湯気の立つ汁の甘みが沁みて美味い。これに火酒でも入れれば最高だが、ジュエルの方針で旅中の飲酒は禁止されているから、これで充分と諦める。


 猫舌のウーシアが最後まで「フ〜ッ、フ〜ッ、アツッ! ウマフ」と格闘しているのを、隣に座るバッシが眺めていると、


「今の内に交代で休むぞ。先に私とバッシが見張りをするから、リロとウーシアは仮眠してくれ」


 と言うジュエルの提案に従い、各々準備を始めた。リロは何時も通り、毛布をひいて包まるように横になる。白年木の葉は撥水性が高く、根元は完全に乾いているので、とてもすごしやすかった。

 もう一人のウーシアは、バッシの横で丸くなると、膝に手を置いて寝息を立て始める。


「完全になつかれたな。私とは主従の関係だが、お前達は何だろうな? 不思議と癒される画になってるが」


 ジュエルが最後の甘煮汁を飲み干すと、少し歩いた先の雨水でコップをゆすいだ。バッシも鍋に残った黒糖の塊をすくうと、ウットリと目を細めて舐める。〝甘味〟など、少し前の生活では考えられない程の嗜好品である。


「何故か、凄く懐く。何かあったか?」


 ウーシア密着ぶりは以前から気になっていた。何かあるのか聞いてみると、


「昔の事は喋りたがらないんだが、彼女も前の所有者の元では色々あったみたいだ。実際彼女が売りに出されたのも、元の主人が迷宮の中で死んだからだそうよ。彼女を残してベテラン・パーティーが全滅したって、当時色んな噂が流れていたけど、その事は喋りたがらないから、無理に聞き出してないわ」


 ジュエルの話の間、バッシは足元のウーシアを見ていた。口を開けて寝る姿はあどけない少女そのものだが、迷宮特化のスカウトとして、奴隷階級を生き延びてきたのだ。過酷な人生だったに違いない。


「霊感の鋭い彼女は、私と出会った時に〝運命〟だって言っていた。そして貴方に会ったとき〝運命の人〟に〝巡り会えた〟とはしゃいでいたわ」


 少し苦笑いするジュエルは、バッシの視線がウーシアの首に巻かれた隷属のくびきに注がれている事に気づくと、


「いずれは彼女を解放するつもりよ、それこそ聖騎士にでもなれたら、自由民の肩書きと、何らかのお礼をするつもり」


 と思いを話す。それが奴隷民にとって最高の栄誉である事は、バッシも理解しているが、ウーシアは個別にどんな目標を持っているのだろうか? 今度聞いてみようと思いながら、無警戒に眠る彼女の乱れた髪を手ですいた。





 *****






「結構夜は冷えますね」


 南方出身の寒がりなリロは、雨に冷やされた風に震えながら、毛布の裾を合わせて丸くなって座る。その横では、元気なウーシアが眠るバッシの足に背を乗せて、くつろぐ姿勢で周囲を警戒していた。


「リロの魔法なら一発であたたまるワン」


 ウーシアの言葉に、リロの顔色が翳る。


「私の魔法は兵器です、一瞬で皆さんを吹き飛ばしてしまうでしょう」


 と言うと、タンたんの背表紙を撫でた。


  ウーシアは熟練の技と霊感、そして霊剣やスリングを駆使しての戦闘術を習得しており、バッシは極めれば極めるほど底が無いと言われる剣術を習得している。その力は身に染み付いた地力として、決して裏切らないだろう。

 ジュエルは魔法も武器戦闘も能力的にバランスが良く、目標に向けての意欲が高い。そして聖武技に関しては、これからどんどん成長していくに違いなかった。


 それに比べて自分の不安定さは何だろう……まるで子供が刃物を振り回すようだ。そしてその切れ味は容易く多数を死傷しうる威力を持つ。


「私も身の丈に合った能力が欲しかったな……」


 と呟くリロに、


「それは違うワン」


 珍しく真顔のウーシアが、瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。


「力は正義だワン、それを持つ人間にとっての……だから持ち主がリロで良いんだワンウ。その力を持ち続けるのは、リロにしか出来ないことだワフ。リリもそれを知って託したんだワン」


 と言うと、消えかけた焚火にまきを足した。


「それにウーの能力も身の丈に合って無いワン、今回は霊剣に頼った挙句、皆を危険に晒したワン……それに前のご主人様も……」


「前の主人?」


「……厳しい人だったワン、だけど最低限の事はしてくれたワンウ。だけどそのお仲間は……」


 顔を伏せたウーシアの目が涙に光る。それを見たリロが、


「大丈夫? 無理に話さないで」


 と気遣うが、イヤイヤと首を振ったウーシアは、


「良かったら聞いて欲しいワン、誰かに話したかったのかも知れないワンウ。……その仲間の一人が私に手を出して来たんだワン。抵抗したけど……向こうは大きな戦士。到底かなわなかったワン。それにご主人はそれを知っても何も言わなかったワンウ。だから……」


 固唾を飲んで聞きいるリロは内心驚いていた。こんなに明るい女の子に秘められた過去の労苦に、今更ながら気付かされたのだ。だが次の言葉に絶句してしまう。


「罠と知りつつ、その戦士を向かわせたんだワン。そしたら大きな装置が働いて……気付いた時はウーひとりになっていたワン。ウーがご主人様を殺したんだワン……」


 暗い瞳で告白する少女に、何も声を掛けられないままーー遠く葉を打つ雨音だけが暗がりにうるさかった。






 *****





 雨の上がった道は、雲一つない空を反射して、寝不足気味の目に眩しい。

 バッシが再度見張りを交代すると、何故か寡黙だったリロが饒舌に話しかけ、元気だったウーシアが塞ぎ込んでいた。


 その違和感に疑問を持ちながらも、何と聞いたら良いか分からずに、そのままそっとしておく。寡黙なバッシ達は来た道を戻り、アレフアベドに帰り着いた。

 早速冒険者ギルドで依頼達成の書類を申請すると、残りの数日は軽めの依頼達成と準備にあてる。


 ここのところ働きづめで、気分転換を図りたかったのもあるが、フォレスト・ゴブリン討伐で浮かび上がった、いくつかの問題点を解決する必要性を感じていた。


 まだまだ組んでから日の浅いバッシ達は、能力の擦り合わせやコンビネーションなど、お互いの力を引き立てる総合力が低い。


 それは戦闘以外にも言えた。ウーシアの油断と霊感に対する慢心は、パーティー全体が知らぬ間に頼り切ってしまっていたせいでもあるだろう。バッシも一人で居る時よりも格段に警戒心が緩んでいるし、リロも攻撃魔法は良しとして、感知魔法の腕を磨くなどの努力が必要である。それにジュエル、彼女は感知能力という点では致命的に無能だった。


 パーティーだからできないことは分担すれば良いが、だからと言って何もしなくて良い訳ではない。彼女とてS級冒険者を目指すならば、最低限基礎的な事はマスターすべきだろう。


 課題の多いバッシ達は、残りの数日間を、ガラムの迷宮に通いながらの個々の欠点補強と、結束力の強化に焦点を当て、少なからず出没するモンスターを狩っていった。

 おかげでDランク規定モンスター10種の内、ゴブリン、グレイ・ウルフ、オークの3種を討伐し、それなりの収入も得ながら旅の準備を整える事ができたーーそんな折、


「待たせたニャン」


 マンプル達〝猫背組ストゥープス〟がアレフアベドに帰還した。





 ーーーーー






 マンプル達の故郷〝ンマーム大森林〟は原生林で、荒れ果てた木々がもつれ合い、獣道すら途絶えていた。まるで植物以外の動物の気配が無く、それでも木々が色濃く残っているさまは、却って不気味に映る。


「これが私達の集落があった森の現況ニャン、この更に奥、一日歩いた先に私達の村があるニャが、夜はまず近づく事すら出来ないありさまニャン」


 バッシ達を案内して来たマンプルが語る。長旅の道中聞いた話によると、夜間は浮遊モンスターの大発生によって、立ち入った者は生気を吸い取られてしまうらしい。


「こうなってしまったのも、全ては〝穢《怪我》れ〟のせいだ……」


 隣に立つブラムが、苦虫を潰したような顔で呟く。彼の話によると、マンプルの存在を知り、研究に来た魔導師が彼女に惚れてしまったらしい。それだけなら良かったが、人の身でありながら土地神である彼女と結ばれようと画策したと言う。

 それを阻止された魔導師は、逆上して戦闘になり、村人からの返り討ちに合って死んだ。だが、その念が怨霊となってンマームの森に根付き、以降浮遊モンスターが夜な夜な大発生し、森林は植生を変えて行ったという。


「最奥地に魔術的拠点を構築していたらしいのですが、最初彼を信用していた我々は油断しており、気付かなかったのです。そこにつけこまれた挙句、呪いを受けた後は、あまりに強い魔力に抵抗出来ず、村を放棄するしかありませんでした」


 悔しそうに語るブラムは、集落の長としての責任からか、右手を色が変わる程硬く握りしめていた。その手を緩めて鞄に入れると、


「しかし、これがあれば全ての元凶を祓える筈です」


 と言うと、この二週間で作成した魔法薬の入った小瓶を取り出す。中には蜂蜜色の粘液が封入されていた。


 暗い森の中に有ってほのかに発光する粘液。その硬く閉ざされた瓶の蓋には、聖都セルゼエフの司教印の下に〝解呪薬〟と書かれた札が貼られていた。

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