表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
195/196

女王

 姉様の思念が、バッシの目の裏で弾ける。それは理解を超えて、体を動かした。


 鋼の精霊が魔力を生成し、姉様とバッシを繋ぐ鮮血の門を生み出す。


 それと同時に、門に漲る狂血の魔力が、周囲の魔素を吸い込み、飽和魔力の弾道と化した。


 弾道に加速された〝姉様の命の黒矢〟は女王に向けて放たれたーー


 黒ゴブリン達にとって、育て親たる姉様の魔力は、己が血肉と同じである。それ故に防御体制が遅れた。


 棒立ちの黒ゴブリン達を縫い、黒矢が巨大な石の神輿に突き刺さる。


 その衝撃は高濃度魔素の誘爆を起こし、迷宮全体を揺らした。


 敵も味方もその規模から、爆発による被害を幻視するーーだが、実際には埃一つ立たず、神輿みこしにはかすり傷一つ無かった。


 中に居るであろう女王は、しばしの間沈黙を守る。黒ゴブリン達も固まったかのように動かない。

 あまりにも静かで、ゴブリン達が正気を失っている事を確信したバッシは駆け出した。


 転移に転移を重ねて迫る。


 姉様がバッシに見せた映像の中には、衝撃による黒ゴブリン達の停止状態も含まれていた。

 そして、そのタイムリミットが短い事も知らせている。


 トン、トンと転移を繰り返すバッシは、体ごと飛び込むように、神輿に大剣を突き込む。


 鋭い切っ先はそれでも硬い石神輿に拒まれるが、咄嗟に繊維状に解れた鋼は神輿に絡みつくと、表面を這い進み継ぎ目への侵入を目論む。


 その時、神輿から、強烈な思念波が放たれた。高濃度魔素によって肥大化し、物理的支配を伴った女王の思念ーー鋼睡蓮も弾かれてしまう。


 屈せず石室に張り付いたバッシは、大剣の腹に小さな刃を多数造り出し、ノコギリのように紫光の連斬をみまう。


 もはや姉様の支援は受けられないのだ。バッシ達異分子は、じきに高濃度魔素による中毒を引き起こすだろう。


 急ぐバッシは継ぎ目を削り切ると、石神輿いしみこし内に刃を滑り込ませた。中には丸まった女王らしき生物が一つ。と、同時に、高濃度魔素の思念波がバッシを襲う。


 〝中にお入りなさい〟


 思わず魅了されるほど、背筋の凍る女王の思念。あがらうことのできないバッシは硬直し、副作用として黒ゴブリン達が活性化した。


 一番早く姉様の黒矢から醒めた黒ゴブリンが、槍でバッシを突く。それを如意に伸ばした鋼睡蓮の刃で退けつつ、女王に向かって狂血の魔力を解き放った。


 鮮血の門は、残る魔力を使い果たしながら、女王に刷り込みを与えようと魔力変換されていく。バッシは口腔内を鋼を纏うと、


「目覚めよ!」


 と支配力のある狂血魔力の言葉を叩きつけた。


 それは姉様の黒矢に秘められた、真言を引き出す言葉でもあった。

 姉様の命と引き換えの覚醒術。黒矢に宿る決死の念が、女王の頭脳に集極する。


 〝ワッ〟


 と殺到する黒ゴブリン達を背に、女王の変化を見極める。左右に振り出した鎌鉈で、先頭の黒ゴブリンを引っ掛けると、鮮血とともに他のゴブリンへと投げつけた。

 それでも捌き切れないゴブリンの爪が、牙が、龍装で鎧われたバッシを傷つける。


 その時、咄嗟にバッシが飛び退しさる。


 一瞬で殺されるような気配を、背中でとらえていた。


 同時に、視界が聖なる青光に潰される。バッシの周囲に聖守護結界が展開し、〝キーン〟という耳鳴りとともに、聖龍炎が結界の外を消毒したのだ。


 直撃した石神輿いしみこしは、秘匿していた多層バリアーで対抗するが、あまりの高圧高温に、バターのように溶け失せていく。


「待て!」


 と叫ぶバッシの声はかき消え、聖なる龍炎は長い息の間、膨大な熱量を神輿に与え続けた。


 周囲の黒ゴブリン達は、龍炎の餌食となり、命の黒矢と化しながら、龍炎をかき消そうとするが、真正なる聖騎士(ジュエル)の聖守護力場がそれを許さない。


 そこに、聖騎士の更なる槌撃が「ドン!」「ドン!」と空間を震わせる。


 聖龍炎が途切れた瞬間、羽ばたいたミュゼルエルドは、巨体に見合わぬ挙動で、右前腕の剣爪一閃、地面ごと神輿を切り裂いた。


 聖なる龍炎に、半ば溶けた神輿は、一筋の亀裂を作りながらパクリと切り捌かれ、中身を曝け出す。


 その時、身の内から震えを覚えたバッシが、


「目覚めろ!」


 と声を放った。


 姉様が命に換えて助けようとした女王。覚醒術は完全に力を発揮した。

 なす術もないバッシは、僅かに残った魔力を含む〝命令〟を女王に放つ。バッシの小さな魔力に僅かに反応する女王。


 それと同時に、女王を守ろうと活性化した黒ゴブリン達は、隊列を組み換え突進してきた。


 前列の黒ゴブリン達が命の盾となり、命の黒矢がミュゼルエルドからの龍炎を反らす。ジュエルの槌撃も、他ゴブリンが死に際に放つ黒矢に跳ね返され、黒ゴブリン達が束となって襲いかかってきた。


 バッシは、それらを目の端に捉えながらも。神輿の亀裂から目を離さないでいた。


 トロリと溶け出す臭気。そこには、高濃度魔素にも隠せない〝女王の〟気配があった。


 惚けた表情の女王が、半分内臓器官剥き出しなった体を裏返すようにまろび出る。


 腹部には小さな卵が幾重にも連なり、黒ゴブリンの幼体が蠢くのが見えた。


 女王の覚醒に失敗した。姉様の目論見は半ば潰えた。


 バッシは内心歯噛みをしながら、姉様の思いを反芻する。


「教授の呪縛から女王を解放し、迷宮から離脱させる」


 という、姉様の命を賭した強い意志。


「本来の女王はただの一女性であり、この世界の理から離れた異世界人なのだ」


 全てを理解し、女王が本来持っていた望みを叶えたいと真剣に願う。一番の理解者たる姉様の願いはーー潰えた。


 教授アレのせいだ。


 姉様と深く共感し思い実現させようとしていたバッシは、瞬間気持ちを切り替えると鎌鉈を投擲した。


 スパッと突き立つ三本の鎌鉈は、ユラリと動いた女王を逃し、未成熟のゴブリン達の胸部や腕に突立つ。

 鎌鉈の柄に繋がる鋼睡蓮の綱を護衛の黒ゴブリンに掴まれると、追撃の隙もなく切り口から命の黒矢が放たれた。


 それはバッシに向けられてはいなかった。


 黒の血線はバッシの周囲を囲む数十匹の黒ゴブリンを貫き、誘爆するように膨れ上がった黒矢が、四方八方からバッシを押し包む。


 激しい爆風がバッシや仲間達を吹き飛ばされた。


 黒ゴブリン達に炎の槍を束と放っていたリロは、一瞬魔力制御に集中しすぎて何が起こったのか理解できなかった。


 全ての炎槍は、高濃度魔素の揺らぎによって暴発するが、高い制御力を取り戻したリロによって、方向性を黒矢にぶつける。


 〝バッシ!〟


 リロの声にならざる叫びを追い越して、ウーシアの霊化の銀風が吹き荒んだ。


 バッシの気配は完全に消えている。銀光の世界に退避していても、バッシの存在は確実に捉えるウーシア……それが焦っているせいか、全く感知できない。

 混乱している。探知に集中できない。極まった末の不在にパニックを起こしかけた。


 〝大丈夫だ〟


 空から聖龍ミュゼルエルドの念話がウーシアを打つ。

「ドドン」と地響きをたてた聖龍騎士は、なぎ払うように龍炎を半円状に放射する。


 全力の聖なる龍炎は全ての物を消し去る。


 ウーシアはその隙間、飛び込んで来た黒ゴブリンの剣士を切り裂いた。命の黒矢が発生するも、魔力の奔流に霊剣の刃筋を当てて、強靭な魔力を断ち切る。


「大丈夫ってバッシが……」


 実体化したウーシアが、ミュゼルエルドを見上げて抗議の声を上げる。


「バッシの気配が無いワン、あの時みたいだワンウ」


 将軍にバラバラにされた時と同じ状況に、動揺が隠せない。立ち止まって鼻を効かせても、霊感の端にすらバッシの気配が無い。と、思った瞬間、懐かしい匂いが鼻先を掠めた!?


 遠望する女王の肩口に、小さな金色の環が出来ると、シュルシュルと軌道を描きながら、女王の頭部を掠め飛ぶ。


 惚けた女王は、その刃音に反応を示し、一瞬猛烈な嫌気を表情に表した。


 相手のトラウマに反応する悪魔の金環。子悪魔ピノンから奪った能力が発動し、中からズルリとバッシが滑り出た。


 思わず大きな顎で挟もうとした女王を、容赦なく鋼睡蓮で拘束すると、その頭部を鋼の花弁でがんじがらめにする。


 姉様の命をかけた黒矢の魔法が、薄まりつつも効果を発揮するように願い、鋼睡蓮の魔力を高めていく。


 その中に、金環の悪魔的同調システムが作動した。女王の深層心理に働きかけると、女王が女王である前の記憶を再生する。

 そして多産の化物と化した際の情動が襲い掛かった。


『産め……産め……産め』


 陰鬱な喜びの声が、爆音でバッシの頭蓋骨を揺らす。


『産め! 産め! 全てを燃やして子宮にべろ』


 頭の血管がブチブチと切れながら、バッシは補強する鋼睡蓮を生成して行く。女王の快楽や怒り、悲しみ、全ての感情が全身から力を奪っていく。


 教授のもたらした麻薬的快楽の坩堝るつぼと、爆音の中にある虚無にしばし身を任せる。

 バッシは耐えた。ほぼ脳みそを鋼に変換し、代謝を繰り返しながら耐えて待った。


 ピノンの金環はさらに回転を続け、思念のくさびとなって、女王のトラウマの細かい傷跡に吸い込まれていく。


 それと同時に、気絶するほどの快楽がバッシを襲った。肩に彫られた母豚の文様が怪しく光る。刺青の豚の股から、沢山の小豚が生まれ、沢山の乳首に群がった。動かなぬ刺青が、まるで平面の生き物のように動いている。


 視界が歪み、極彩色の子豚たちの目から虹色の光線が放たれて、バッシに模様をつける。恐怖と共に湧き出す喜びに、バッシは『きれいだな~』と精神を蕩けさせた。


 形を失いつつある精神の隅っこで、鋼睡蓮の蕾が生まれた。小さな紫の蕾は、ムムムッと成長すると、高濃度魔素の揺らぎに紫の光を溶かし始めた。

 十分に大きくなった塊は、外側からパカッ、パカッと剥がれていくと、姉様の思念に導かれて、柔らかく拡がってゆく。


 フタッと音がするように鋼の紫花弁が全て落ちるころ、立ち尽くすバッシと女王が取り残されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ