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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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迷宮と血の遺跡

「全く、鬱陶しいわね。暑いし臭いし、最悪だわ」


 アレフアベドの遺跡で、作業を手伝う植物女ポメラは、相変わらず擬態した毒の実を邪魔そうにしながら不快を訴えた。


 彼女が寄生している大男ズオンズは、無言のまま、遺跡の解体作業に没頭し続ける。


 鉄の表皮を分厚く代謝して、作動の妨げとなる目詰まりを叩き落としていく。

 微細な器具が剥き出しの部位は、ポメラが担当して、傷一つ付けないよう、細心の注意を払いながら、作業を進めていた。


 ある程度の目処が立つと、ポメラが枝葉を伸ばして合図を送る。


 上階での解析作業を中止したベイルは、相棒のマルセイを誘って、ポメラ達の階層に降りてきた。


「で〜? そろそろ変化あった〜?」


 ベイルの質問に、ポメラが黙って指を向ける。そこには何らかの圧力で今にも爆発しそうな細い管があった。


 黙って彩光魔法を発動するマルセイの眼力が、内部構造を分析する。そして双剣に黄金魔力を纏わせたベイルは、催促するように刃を擦り合わせた。


「ねえまだ〜? どこに通せばいいのかなぁ?」


 魔光で「シャキシャキ」と火花を作り、煽るように声をかけるベイルを、うるさ気に誘導すると、


「ここの部分にだけ魔力を通してみろ。違和感があったら、小さいものなら消してしまえ」


 と告げる。お墨付きをもらったベイルは、二つの切っ先を管にあてがうと、マルセイの示す場所に魔力を浸透させた。


 その過程で、小さな管から魔力が溢れ出てくる。


「古い血管にいきなり血を流すようなもんだ〜、そりゃ〜あちこちから漏れるし〜、詰まるわな〜」


 探り当てた小さな詰まりに、黄金魔力で切れ込みを入れる。フッと圧力が減ったと思えば、装置全体に圧倒的な魔力が循環し始めた。


「お〜い! 遺跡が動くよ〜!」


 何が起こるか分からない状況で、ポメラを庇うズオンズの懐に、ベイルも潜り込む。


「割り込んでゴメンよ〜、死にたくなかったら〜、マルちゃんもおいでよ〜」


 渋るマルセイをポメラの蔦が引っ張り込んだところで、魂を潰すような音が響いた。

 眼下の血溜まりが攪拌されて、巨人の骨が浮かび上がっては沈む。


 地上を満たす血溜まりが揺れ、遺跡に重大な変化が起きているのが分かった。


「これはこれは、ありがとうございます」


 いつの間にか背後の空間に浮かぶ〝司祭〟と呼ばれる幼ゴブリンが、小さく拍手する。

 司祭の束ね持つ鎖がジャラジャラとうるさく、眼下の血溜まりに伸びているが、気にする様子は無かった。


 ズオンズの保護下から抜け出たマルセイが、先程見ていた部分を精査し直すと、色とりどりの光が、高速で管を通過しているのが見えた。


「こんな風に作動してるけど〜、それごと外しちゃっていいの〜?」


 遺跡解体の責任者である司祭に尋ねると、満面の笑みを浮かべた彼は、


「いいんですよ、そのために巨人達これらも消費したんですから」


 と鎖を掲げて見せた。巨人のゾンビに繋がっていたはずの鎖が、今は何とも繋がらずダラリと垂れる。先程の攪拌で全て崩れ去ったのだろう。


「さて、これでこの区画も剥がせます。避難しないと、部品ごと運ばれちゃいますよ?」


 とうそぶく司祭の発言にあせる。すでに皆は、他の部位での手際を見ていたからだ。


 事実、手繰り寄せられたゾンビ巨人達が、ベイル達の元に集まりだした。


 ベイル達が場所を空けると、待っていたかのように鎖を振るった司祭は、残るゾンビ巨人を寄越す。その手際はまるで巨大な魚を釣り上げる漁師のようであった。


 そのまま引き上げた巨人を軽く振り回し、空中を旋回させる。


 無重力状態の巨人が、宙を引きずりまわされる姿を見たベイルは、


「あんなの当てられたら〜、ひき肉にされちゃうよ~」


 と言いながら、手がかり足がかりで下方に退避する。その時、腹に響く音と共に、巨大な遺跡の一画がズレ始めた。


 それに対応した、下受けのゾンビ巨人が位置を修正するが、一体の足肉が崩れ落ち、剥き出しになった足骨が滑って転落する。


 鎖の影響を受けた巨人は、見守るベイル達に向かって振り子のように迫った。


 咄嗟にポメラの蔓が、遺跡とズオンズを固定すると、右上腕に分厚い鉄皮を纏ったズオンズが、裏拳を叩きこむ。

 全身のバネを乗せた一撃は、巨人の胴体を撃ち、腐った肉体を断裂させながら、弾き返した。


「おい、しっかり操作しな!」


 非難の声をあげたポメラに、


「ごめんなさいねぇ」


 と半笑いの司祭は、巨人の鎖を操って、別の場所に張り付かせる。骨格に影響を受けた巨人は、おかしな挙動のまま、遺跡の作業に加わった。


 むき出しになった柱には、紐や管が残され、遺跡の一部が剥がされるたびに最後の抵抗を示した。


 引きちぎったパーツには、潤沢な魔力が注がれており、蜂蜜のような魔素が垂れ落ちる。


「なんだい、これは? まるで迷宮深層か、迷宮核みたいじゃないか。今まではこんな事無かったのに」


 司祭の態度に憤りを覚えるポメラも、今までに無い魔素の濃度に、危機感を覚えて問いかける。


 司祭は楽しそうに、


「そうそう、最上級の迷宮が稼働し始めて、ここも連動しているんで、この有様ですよ」


 と笑いながら語り始めた。説明によると、ゴブリン達の女王が住まう迷宮から供給されるらしい。種族の秘奥を気安く喋る司祭に、警戒感を露わにするポメラを見て、ますます機嫌が良くなった司祭は、


「この部品をどうするか? 興味がありませんか?」


 と誘うような事を聞いてくる。


「え〜? 教えてくれるんですか〜? てっきりそっちは〜、秘密だと思ったのに〜」


 ベイルが食いつくと、司祭は笑顔のまま振り向き、巨人達に繋がる鎖を「ジャッ」と引いた。

 幼子に操られた巨人達は、数体で抱える巨大な構造物を地面に置くと、それぞれのパーツを粗く組み始める。


「もちろん秘密は秘密なんですけどね? ここまで手伝ってもらっておいて、何も話さない訳にも、ねぇ?」


 嬉しそうな司祭は、組み上がった円筒状のパーツを見上げながら、支える巨人ゾンビに、皆の前へと運ばせる。


「人間の臓器にも、予備のパーツとかあるでしょう? あ、知りませんか? あるんですよ。これもそうした臓器の一部みたいなものでしてね」


 魔素が滴るパーツからは、常人では耐えられない程高濃度の魔力が漂ってくる。


「一つの遺跡がドワーフ達に阻まれまして、魔力不足を補うための……いわば減量みたいなものですね」


「女神の臓器か、取り出した分はどうするつもりなんだ?」


 魔力に敏感なマルセイは、どぎつい情報を遮断するように、彩光魔法の目をすぼめながら質問した。


 巨人達は高濃度の魔力に、腐肉を泡立てながらパーツを支えている。

 それを嬉しそうにポンポン叩きながら、


「それは、貴方達のボスが決める事ではないですか?」


 司祭は小首を傾げた。禿鷹のボスと言えば直属はラガンであるが、大元を辿ればラウル大司教などの主神教があげられるだろう。

 しかし、この幼ゴブリンが言うボスとは、伯爵の事を指している。


 皆が顔を顰めるのを見て、ついに笑いを堪えきれなくなった司祭は、その容姿に見合った笑い声をあげた。


「あはっ……これは失礼。しかし、本当の事なんですよ? あくまでこれは貴方がたの上が決めた事。どう使うかは、そうですね、もうじき分かるとだけ言っておきましょう」


 指を立てて講釈を垂れると、皆の嫌悪感に触発されたのか、再度幼い笑い声をあげた。






 *****






 通路を進むにつれて、魔素の濃度が上がり、深海を進むような負荷がかかる。


 ラガンは濃厚な魔素に煙る視界の中に、何とかウーシアの姿を捉えながら付き従った。


 もはや罠感知や敵を察知する余裕は無く、探知系の全てをウーシアの霊感頼みとなっている。


 慣れ親しんだ聖樹の葉脈ですら、魔素に溺れて暴走しそうになる。今何者かに襲われたら、魔力に関係の無いバッシが主戦力となるだろう。


 振り向き見ると、当のバッシは、鋼睡蓮のカゴにライザベルを乗せ、伸ばした綱で他のメンバーを牽引している。


 この状態で戦闘になる事を想定すれば、色々と考え直さねばならない状態だったが、今は少しでも先に進む方が先決だと判断した。


 リロ達には、先程のように筒になって進む事も提案したが、魔素の濃度が高すぎて、推進力が不安定になるから無理だという。

 下手すれば大爆発を起こすと言われれば、諦めて地道に歩くしか無い。


 耐え忍び、魔素の嵐のような通路を進む。全身の血管が浮き立ち、目は充血して、激しい頭痛に動悸が治まらなかった。

 そんな、皆が半酩酊状態の中で……


 〝ようやくたどり着いた〟


 突然、目眩を起こす程の念話が響いた。思わず両手を地面につけ、四肢で体を支える格好となったラガンに、ウーシアが近づく。


「今のは、なんだワン?」


「姉様の念話に似ているが、明らかに別人だ」


 ラガンの言葉に、ウーシアも頷く。言葉の浸透度は同じだが、その裏に秘めた魔力が、段違いに大きい。

 警戒してバッシ達がおいつくのを待つと、珍しく紫間者が口を開き、


「あれは〝女王〟の声だ」


 と断定した。理由は分からないが、確信があるらしい。言外に事情を尋ねさせない威圧を滲ませていた。


「女王だとしたら、意識がはっきりし過ぎてないかい? 姉様の話だと、迷宮に囚われて自我は蕩けているって感じだったけど」


 ライザベルが反対意見を出す。


 ラガンは判断の根拠を求めて、紫間者を見るが、それ以上の理由を話すつもりは無いようだった。


「仮に女王だとして、待っていたような口ぶりだった。とすれば、姉様に嵌められたんだろうか?」


 と、バッシは率直な意見を話す。


 嵌められたという言葉を、他のメンバーが理解しようとする。だが、込み上げてくる気持ちが、理解を拒んだ。


 その異常事態を指摘するものはいない。ラガンが、


「女王に知られた、そして彼女の影響下に入ったとみるべきなのは変わるまい。今まで以上に慎重に進むぞ」


 と指針を示すと、皆が頷いた。小さな違和感を抱くバッシを除いて。

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