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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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風の間

  〝どんどん肉を放り込め! 腕だけでも良い。あとは迷宮液がくっつけるからな!〟


 他種族が聞いたら、雑音にしか聞こえないがなり声が響く。戦地の後端、外壁の近くで、巨大な壺の番をする黒ゴブリンが怒鳴っていた。


 その横には、戦場で死んだゴブリン達の肉体と、まだ息のある負傷者が山を作っている。どちらもまるで消耗品のような扱いだったが、その事に異を唱える者は無かった。


 魔具装置からどんどん湧き出るスライム状の液体が、6つある巨大な壺に継ぎわけられていく。それは生ける者の肉体を再生させ、余分な肉体は酸で分解し、生ける者の養分とした。


 高栄養のスライム液は小分けにされて、黒ゴブリン達の回復薬や、食料としても支給される。


 女王による完璧な意思統合と、戦闘経験による成長を遂げた黒ゴブリン軍は、軍師の指揮やスライム液を得て、聖騎士軍を圧倒しはじめた。さらに--


 ザバリと音をたてて、一つの壺から迷宮液が溢れ出る。そばにいた黒ゴブリンは慌てて地面を啜った。それほどこの液体は高品質で、飢えた兵達にはこの上ないご馳走なのだ。


 その背中を踏み台にして、壺から出た黒ゴブリンが地面に降り立つ。踏み台にされた黒ゴブリンは、こそこそと引き下がった。


 ゆっくりと首を回すと、粘液が滴り糸を引く。その様子を煩わしげに見ると、下げた腕に嵌る金環がカチリと鳴った。


 〝魔法戦士よ、復活したら直ぐに前線に来い。足は用意してある〟


 軍師の念話に視線を上げると、数匹の黒ゴブリンに抑えられた騎獣が、煩そうに手綱を振りほどこうと首を振っている。


 見事に隆起した筋肉に赤毛を纏った〝それ〟の頭部は、頭蓋骨の半ばから別の個体の頭が生えた、奇形の黒ゴブリンのものだった。


 〝直ぐに向かう〟


 念話を返した魔法戦士は、土埃に覆われた戦場を見据えると、騎獣の手綱を受け取った。


 戦場に響く轟音に、暴れる騎獣の手綱をさばく。そこに魔力を流し込むと、ビクッと反応した騎獣の尻尾が股の間に収まる。手綱を引くと、大人しく地に伏せて、魔法戦士を背中に迎えた。


 聖龍騎士と魔法陣の戦いは佳境に差し掛かっている。聖龍騎士と魔法陣は何度も激突し、自力に勝る聖龍騎士が圧倒し始めている。だが、尽きることの無い魔力が魔法陣を後押しして、なんとか破壊を免れていた。



 〝右翼部隊、突入!〟


 軍師の指揮を受けた〝戦士〟を先頭に、黒ゴブリン千匹が突貫を仕掛けて、魔法陣を援護する。

 それを阻止しようとした聖騎士軍を、左翼に展開する〝魔法戦士〟の部隊が受け止めた。


 急遽参戦した魔法戦士は、いまだに調子半分だったが、寿命を縮めて回復した肉体を駆使して、戦場を駆ける。


 四属性に輝く魔法剣は、戦場においても目立ち、ゴブリン達を鼓舞し、敵に恐怖を植え付ける。


 聖龍騎士と魔法陣の戦いに割って入ろうとする黒ゴブリン軍は、聖騎士軍を押しとどめながら、聖龍騎士に対する布陣を形成した。


 軍師の命令で一斉に放たれた魔法が聖龍騎士を撃つと、鬨の声を挙げた戦士達が群がる。押しているとはいえ、魔法陣の伸ばす魔線の鞭を無視できない聖龍騎士は、防御に専念せざるを得なくなり、さらに調子を上げるゴブリン軍の猛攻を受けた。


 命知らずの群れは、完璧な統制のもと一糸乱れぬ攻めを見せる。聖騎士軍は、何とか温存していたギンスバルグを先頭に精鋭騎士団が突撃させた。


 光球や聖属性の盾撃シールド・バッシュなどの突貫力で一時的に戦端を切り開いた騎士達に、炎の属性剣が振るわれ、一直線上に熱波が襲い、聖光と反発しあう。


 そこに被せるように、他の黒ゴブリン達の魔法が放たれると、精鋭の中でも、魔力の弱い者から、負荷に負けて崩れるものが出た。


 弱みに付け込もうと意気の上がったゴブリン達に、横手から幻影剣の嵐が吹き付けると、それが止むのをまたずに、巨大な騎獣が迫った。


 紫の毒煙を排気しながら進む巨大な多足トカゲ(バジリスク)。その背中にまたがる偉丈夫が、


「助太刀いたすは、アレフアベドの冒険王なり」


 と大音声で名乗りをあげる。掲げる大野太刀は魔力に輝き、一閃した太刀筋は空間を切り裂いて、黒ゴブリン数匹を切り裂いた。


 後に続く部下も含めて、敵の一角を切り崩すと、本隊であるギンスバルグを先導するように黒ゴブリン達を蹂躙する。


 その先に居る魔法戦士に接敵した瞬間、両者の魔法剣が交叉し、魔力の火花と熱波が弾けた。


 その間にも、魔法戦士の背部に伸びた火線で、魔法陣がズラリと生まれ、軍師の獣が数十体現れ出でる。

 それに騎乗した黒ゴブリンの騎兵隊(ゴブリン・ライダー)が、鈍色の槍を揃えて迫ると、戦場は更なる混沌に飲み込まれていった。





 *****





 その部屋に入ったとたん、全員の耳がおかしくなった。バッシは思わず龍装で耳穴を塞ぎ、ウーシアは大きく突き出した耳を畳んで、その他は生唾を飲み込んで、耳抜きをする。


「全員固まれ」


 ラガンの忠告に皆が従う。そこに「ドンッ」と風が吹き、飛ばされそうになったバッシは、綱で皆を縛り、踏みとどまった。


 暴力的な風鳴りが満ちる。周囲は闇に包まれており、可視化しようと火を灯したライザベルの魔法は、即掻き消された。


 気圧の変化に耐えきれなくなった女騎士が卒倒する。ラガンは頬を叩きながら、耳穴に聖樹の葉脈を挿れると、ゆっくりと回復魔法を発動させた。


 ラガンの回復魔法は、葉脈で触れたものしか癒せないらしい。しかし、その効果は絶大で、ジュエルの回復魔法を上回る。


 その間にも、バッシは鋼の綱を幾重にも重ねて、防風シェルターを作った。外側に紫光を纏わせたシェルターによって、ようやく風の影響を脱した。


「見事なものだ、これほど優れた破魔の術は見た事がない」


 珍しく他者を評価する紫間者に、


「これはリリの魔法よ。貴方達が真似しようとして、死霧しぎりにしかできなかった術の完成形。でもすでに発導者は居ないわ。残念ね」


 ライザベルが誇るように説明する。奪おうにも、不可触である鋼の精霊に取り込まれてしまった魔力は取り出せない。伯爵の思い通りにならなかった事が、ライザベルには痛快だった。


「それにしてもこれからどうするワン? ここで篭ってても、なんの解決にもならないワンウ」


 言いつつも霊感で周囲を探っているが、取り囲む紫光と暴風によって、勘の冴えは鳴りを潜めていた。


 他の者達も影響は避けられず、特に魔力を探知の主力とするリロやライザベルはお手上げ状態であり、優れた密偵であるラガンや紫間者も感覚を遮断されて、力を発揮できずにいた。


 唯一、外と繋がっているバッシは、知育魔本の感覚鱗を加工し、暴風の中に泳がせた。それは自ずと凧のような形状になると、猛スピードで飛び上がる。


 細い綱に繋がれて迷宮内を飛び回る感覚に、同期するバッシは気持ちが悪くなる。

 少し感度を落として、荒れ狂う風と凧を俯瞰できるようになると、周囲を把握できた。


 そこは風以外に何もない空間だった。上空に何百、何千メートル上がっても、微細なごみ一つない、光すらない空間である。横にも遮るものは無く、上下感覚の狂った凧は乱気流に翻弄され続けた。


 そして出会った。感覚で分かるそれは風の化身である魔物だった。数キロメートルにも及ぶ気圧の塊。それは巨大な獣のようで、巨大なエネルギーを予感させた。


 正体を掴もうとすればするほど、実体はボヤけ、手のひらに収まる程の気配だと思える時もある。


 しかし突き詰め、捉えたと思った時には、その巨体に飲み込まれ、軽い凧は狂ったように旋回させられた。


 短時間のうちに大移動を繰り返す中で、バッシの中に知育魔本ポコの知恵が入り、気流を計算した略図が想起される。

 それによると、果てが無いように思えたが、数十キロ四方の閉塞空間であり、数本の通気が存在していることが解った。


 その場所を特定するために近づこうとして、凧は暴風にすりつぶされてしまう。


「真っ暗な巨大空間に、通気口があるな」


 意識をシェルター内に戻したバッシが皆に告げる。そのイメージを伝えようと、鋼睡蓮をより集めて板に示した。


「ここが現地点で、最も近い通気口はここか」


 ラガンが指し示すと、バッシがうなずく。その間にも、蛇のように地面を這わせた鋼綱で、シェルター外の通気口を探っていたが、


「ゴウッ」


 と突風に巻き上げられて、上空ですりつぶされてしまった。


「探ろうにも風にすりつぶされてしまう。紫光は近距離までしか纏えないからこれ以上このまま探るわけにもいかない」


 バッシの言葉にラガンが頷く。そして他のメンバーにも顔を向け、情報を促すが、誰一人探知系能力を発揮できる者は居なかった。


「行くしか無いようだな。何とかこの保護を保ったまま移動できるか?」


 ラガンの決定にバッシが頷く。鋼を半球形に保ったまま、真ん中をバッシが、その周囲を他のメンバーで支えるための取っ手を増設すると、感覚鱗を指針に移動する。


 その時、上空から異常な気圧が「ドンッ」襲い掛かった。一瞬押さえつけてから、急激に持ち上げてくる。

 必死に紫光で魔力を打ち消すが、あまりの魔力量と持続性に、一瞬打ち消し漏れた風が直撃した。


 フワッと舞い上がる半球形に、悲鳴が上がる。咄嗟に死霧が放たれると、周囲の風魔法がごっそりと侵食された。


 その隙をついて、バッシが半球形を球形に成形する。更に短く太い綱を四方に張って、紫光を纏わせて這い進んだ。


 その間、何度も暴風が邪魔をしたが、周囲に展開した死霧が風を侵食し、何とか通気口にたどり着く。


 球形の鋼をそのまま蓋にして通気口に入ったバッシ達は、ようやく風の間を後にするのだった。


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