表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
188/196

悪魔の迷宮②

 しばらく続いた光線の乱射が止むと、間をおかずに雨がふり始めた。


 マグマ窟を打つ「ジュッ、ジュッ」という音が、連続的な音に変わる。


 その雨が止んでから、バッシとウーシアはマグマ窟を出た。

 脱出先の探査チームとして、まずは二人で行動することになったのだ。


「しばらく待つワン、根っこが元に戻り始めてるワン」


 と、焼け野原となった周囲を見回す。ウーシアの言う通り、根っこはみるみるうちに盛り返し、焦げ臭い断面には水分が満ちている。


 雨によって地面は冷え、熱を帯びた霧が漂っていた。


「この臭い、そろそろ草が生えてくるワン」


 鼻を効かせたウーシアの言う通り、根っこが盛り上がった先に、青々とした芽が伸び始める。驚異的な成長を遂げた葉が茂り、元の牧草地に戻るのに、さして時間はかからなかった。


「次はまたスライムが降ってきて、管が吸う、の繰り返しだろ?」


 バッシは伸びる葉っぱを鑑定しながら、どのタイミングで動くか考えた。


 作戦は簡単だ。スライムを斬りまくり、狂血の転移魔力を補充する。そして管を伝い登って、上から転移魔法を発動、仲間を呼び寄せ、この層を脱出するというもの。


 極短距離を、限られた人数転移させる事には、それほどの魔力を必要としない。

 タンたんを介して転移魔法を行う案も出たが、一度は上を確認する必要があったし、時間がかかるため、この案となった。


「問題は上に出入り口があるか、その先は安全か? ということだが」


 バッシは大剣を構えながらそろそろ降り始めたスライムの雨に意識を向けた。ウーシアは霊化して酸の被害を避け、バッシは鋼睡蓮と龍装の傘によって、酸から身を守っている。


 傘の表面がぬるぬると溶けるが、代謝の方が勝り、鋼と鱗の溶ける強烈な臭い以外に害はなかった。


 周囲にアシッド・スライムの塊が出来上がっていく。知育魔本の分析で、正確な魔力溜まりを把握したバッシは、一息に巨大なスライムをスライスし、魔力を奪った。


 もっちりとした感触の後、魔力を奪われたスライムが、トロリと崩壊する。


 大剣の刃が振るわれるたびに、スライムの水分がまき散らされる。


 しばらくして、周囲のスライムが狩り尽くされると、消化・吸収されなかった牧草だけが静かに揺れ残った。


 バッシは魔力が溜まったことをウーシアに目で合図すると、スライムが残っている地点に移動する。

 そしてスライムを吸引し始めた管状生物に、龍装の爪をたてて取り付いた。


 背中の鋼睡蓮が寄り集まって、二本の太綱をつくる。その先端には、釜鉈よりも幾分小さめの鉤がついており、それらを腕のように操って、六本足となって素早く登る。


 抱えても半分までしか届かない太さの管は、のたうちながらもバッシを支えた。


「バッシ、あそこまで登ったら仕掛けがあるワン」


 見れば、最初にウーシア登った時、突如霊化したポイントである。

 そこでは管の一節が膨れ上がり、水球のような物を形成していた。


 吸い上げられたアシッド・スライムが、半透明の球状に溜まり、攪拌かくはんされて管を上がっていく。


 ウーシアからの情報で水球状の役割を知っていたバッシは、頭部の龍装を分厚く展開して不恰好な傘を作った。


 バッシがある一線を超えた瞬間、水球状の物体が「ブルン」と震えて膨らむ。

 次の瞬間、プッと開いた多数の穴から、アシッド・スライムが線となって放たれた。


 豪快に酸性の粘液を浴びて煙立つ。なんとか傘で受けきったバッシは、委細かまわず登り続ける。霊化したウーシアが、


「大丈夫かワン?」


 と声をかけるも、猛烈な臭気に声をあげる事も出来なかった。

 代わりに力強く手足を動かして、健在ぶりを表し、水球状の部位を超えて、更に上を目指す。


 ドロドロに溶けた龍装の傘や鋼を代謝して振り払う。その間に、登っている管の先端があがって来た。


「俺は大丈夫だ。ウーシアは先に行って調べてくれ」


 グイグイ登り、新鮮な空気を吸い込みながら告げると、霊化したウーシアはあっという間に光球の裏側に昇って行った。


 先ほどまで光線を放っていた塊は、煙をあげながら波打っている。激しい光は消え、残り火のようにぶら下がっているのが見えた。


 バッシは上方に睡蓮綱を放っては、それを補助に必死に駆け登る。


 背後に迫る管が、吸い込まずに留めていたアシッド・スライムを、空気と共に放とうとする。寸前で、綱付きの鉤を投擲すると、管に巻きつけて縛り上げた。


 スライムが詰まって膨れ上がり、横に振り抜かれた管は、空中にスライムを吐き出す。


 自らを持ち上げる方の綱に追いついたバッシが、更に上方に綱を飛ばすと、そこはもう、結界が作る天井だった。


「ここだワン」


 と声をかけてきたウーシアは、上下逆さまに頭だけを現している。

 体は結界の中にあって見えなかった。


 バッシの足を狙った管の先端を蹴ると、一息にウーシアの方に飛びついて、隣に転がり込んだ。


「どうなってるんだ?」


 そこは見た目には分け隔ての無い空間だった。下を見れば何の障壁もなく、管や草原、小さなマグマ窟が見える。


 アシッド・スライムを吸い上げた管は天井に伸びて、どこかを経由してから垂れ下がって、光球へと伸びていた。

 どうやら吸い込むのが管の口なら、光球は尻尾にあたるらしい。

 途中、天井に消えた辺りで、アシッド・スライムはどこかに送られているようだ。


 追ってきた管は、バッシ達の真下まで伸びると、透明な結界に口をつけて、「キュバ、キュバ」と吸い付いた。

 そこに無数の口が集まってくると、下を見たウーシアは、ゾワッと毛を逆立ててバッシにくっつく。


「大丈夫みたいだな。ここには入れないらしい」


 バッシ達の入った隙間には、管の嫌う何かがあるらしく、その周りだけはポッカリと空間ができていた。


「さて、もう少し上を見てくれ。どこかに上り口は無いか?」


 バッシも視神経に知育魔本の鋼を貼り付けて、周囲を探る。


 送り込まれたスライムは、あらかたどこかに送られたらしく、管の消えた先からかすかに音がする程度だ。


 振動する管と天井の継ぎ目はほんの少しだけ隙間があって、霊化したウーシアが試しに潜ってみる。


 しばらくすると、


「何か広い空間があるワン」


 と顔を出した。バッシは鋼睡蓮の綱を投げ上げると、先端の鉤を手のように広げて、上階の淵を掴んだ。それは結界にもかかわらず、しっかりとした手応えで、バッシの体重を支えた。


 登りきった上の階層は、だだっ広い空間だった。

 何にも無いにも関わらず、ほのかに光る床によって、暗くも明るくもない状態が保たれている。


 バッシが柏手を打つと、乾いた音が響いた。しかしそれは思ったほど広い空間のそれでは無い。


「ここは通路だワン、臭いの薄い不自然な場所だワンウ」


 鼻を効かせていぶかしむウーシアを見張りに、バッシは取り込んだ魔力を狂血の能力に注ぎ始めた。


 血の一滴が床に落ちると、真っ赤な魔法陣が広がる。最前決めておいた、合図である鬼頭オーガ・ヘッドを一粒落とすと、向こう側からも投げ返され、他のメンバー達が転移してきた。


 受け取った鬼頭を殻ごと食べるバッシを見て、


「私たちも何か食べましょうか」


 とリロが言う。手近な空間に闇を生み出すと、その中から様々な食材を取り出した。


「それ便利だワン」


 ウーシアが興味深く闇を見て、中から取り出される食材を嗅ぐ。

 どれも仕舞われた時の状態から劣化していないらしく、魚の油煮をもらうと、美味しそうに食べ始めた。


「一緒に封じられた魔法鞄を改造して、闇魔法に再編成してみました。入れた時のまま保存されているから、新鮮ですよ」


 言われてバッシはリロが攫われた時を思い出す。あの時装備品も一緒に闇龍の軛に取り込まれたはずだ。カバンは再編されて、魔法のように闇から取り出せるようにしたという。ならばその他の装備品などはどうなっているのだろうか?


 思案していたバッシとリロの目が合う。にっこりとほほ笑んだリロは、


「ほかの物も順次編成中なんです。そのうち闇のローブや、闇の靴なんかも出したいんですけど、案を出した師匠達が欲張りすぎて、時間がかかってます」


 と説明した。


 他の者達が腹ごしらえをする間に、ウーシアとラガンが周囲を探る。


「上は五メートルくらいで結界に阻まれるワン、それ以上ありそうだけど、見える範囲には何もないワン」


 霊化して探索したリロが報告する。目の前では、聖樹の葉脈を三本伸ばしたラガンが、風もないのにそよぐそれを繊細に操りながら、周囲を探っていた。


「どうやらこの周囲も見えない結界に覆われているな。かなり遠方に生物らしき反応はあるが、結界に阻まれて、きちんと知覚できない」


 厳しい表情のラガンが葉脈を伸ばして、さらに床や壁を探っていく。

 床は平らで、通路らしきものは、天井と同じ五メートルほどの幅があった。


 結界の外まで見渡せるように感じるが、実際のところは分からない。そして、


「ウーシア、ここに僅かなひずみがある。なにか分かるか?」


 と問う、鞭のように伸びた葉脈の先端が指し示す先を、ウーシアが精査すると、


「霊感に障るワン、何か仕掛けがありそうだワン」


 と銀色の霊剣を具現化させた。いまや立派な片手剣大になったそれを、葉脈の指し示す先に向け、五感を超える感覚を持って調べ上げる。

 さらに懐から小さな銅鏡を取り出すと、角度を調整しながら映り込む何かを探った。


 しばらく経ってから、


「解ったワン、この先にある違和感の正体も含めて、種明かしをするワン。リロ、このパンをもらうワン」


 と、リロ達の元に戻ったウーシアは、一本のバゲットを取ると、半分にちぎって、放り投げた。


 先ほどラガンの指し示した場所に落ちると、


「シュギンッ!」


 と鋭い音を放って、バゲットが切り裂かれる。魔力のある者には、一瞬魔光らしきものが通過したように感じられた。


「威力は分からないけど、モグ、罠があることは確かだワン、モグモグ」


 半分残したバゲットをかじりながら、ウーシアは『どうする?』と問いかけるようにラガンを見る。


「あれの威力は相当だろうな、聖樹の葉脈が切断されている」


 ラガンの見せた葉脈は、先端がすっぱりと斬られていた。


「これから先は高難度迷宮に挑むつもりで行く。先頭はウーシアと私、バッシとリロは龍装と魔法で何かあった時のカバーを頼む。ライザベルと紫間者は魔力で索敵と後方の警戒に当たってくれ」


 ラガンは的確な指示を出しつつ、初見の迷宮に連携の取れないメンバーで挑む不利を思って深く息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ