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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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悪魔の迷宮①

 裏口バック・ドアは奥へと進むにつれて分岐点が少なくなり、やがて一つしかない扉に辿り着く。

 そこには『開封厳禁』の殴り書きと共に、厳重なバリケードが築かれていた。


 金属製の扉は、留め具と共に溶接され、鉄の塊のようなかんぬきには、何本もの鎖が巻かれ、迷宮と一体化したくさびに繋がれている。


 その周囲には魔法封じを始め、魔除けや人払いの結界が何重もの輪を形成していた。


「これだけ特別扱いしてると、かえって破りたくなるってもんだろうに」


 と、覗き込んだライザベルがつぶやく。人払いの結界が鳥肌を作った。ラガンは結界に近づきながら、


「教授という悪魔は、侵入を阻止したい訳ではないらしい」


 と言って、姉様から預かった魔石を結界の一部にはめ込んだ。


 解れていく結界、魔光の下から現れた地面には、切り裂かれてできたような傷痕がいくつも現れる。


 不可触の迷宮を切り裂き、傷跡を修復もさせない存在に、バッシ達は不信感を募らせる。それら全ては、扉から現れた何者かの爪痕のように見えた。


「入ろうとした黒ゴブリン達に犠牲が出て、姉様達が封印したようだな」



 ラガンの合図を受けて、大剣を八相に構えたバッシが、一息に斬り下ろす。高音とともに極太の鎖が切れ「ガラン、ガラン」とうるさく響いた。

 遅れて飛来させた二丁の鎌鉈が反対側の鎖に絡みつくと、鋼睡蓮の綱が鎌鉈を支持し、メキメキと鎖を挟み締めて鎖を切断する。


 そして直接扉に溶接された板を切り裂き、物理的な封印が無くなると、そこには無抵抗なただの扉があるのみとなった。


 扉に近づいたラガンは一息つくと、


「この先には何が待ち構えているか分からない。悪魔の管轄する、生きた迷宮に潜る覚悟のある者だけが、扉を潜ってくれ」


 と最終通告を残し、真っ先にドアを潜った。


 それに続くのは迷宮攻略に長けたウーシア、その護衛を自称する女騎士、リロとバッシが続き、最後に紫間者とライザベルが残った。


「あんたを後ろから狙っている。積年の恨み、絶対に晴らさせてもらうわ」


 紫間者が先行しないと、てこでも動かぬ意思を見せるライザベルに、


「何の事だ、狙うのは構わないが、こちらも見ているのを忘れるな」


 と告げて、扉を潜った。その背中を見送ったライザベルは、指輪に閉じ込めた魔力を撫でて、


「あいつが出てくるなら、伯爵も絡んでいる。リロも狙われているんでしょう。油断ならないわね」


 と、亡き友人に語りかけながら、扉を潜り抜けたーー





 目の前には草原が広がっている。

 雲一つない青空に強烈な太陽。


 青々と茂るのは牧草だろうか? むせ返るような空気を吸い込むと、後味のように僅かな魔力が残る。


「これは」


 ライザベルが草に触れようとして、手を止めた。

 葉脈に見える筋が、古代語を間延びさせたように伸びている。


「育つ、って意味みたいだな」


 知育魔本を視神経に貼り付けたバッシが指摘する。皆の元に行こうとしたライザベルは、地面に違和感をもった。


 牧草地の下は土を連想していたが、どうやら地下根茎が密集しているらしく、ソフトな踏み応えである。


 空中から、


「何にも無いワン、果てしなく草原だワンウ」


 と言いながら、霊化していたウーシアが降りてきた。体感では地上100メートル以上から周囲を見回したが、地の果てまで牧草地が続いているという。


「見事に起伏がないワン、少なくともこの周辺には何も無いワン」


 と言って、皆を見回した。誰が指揮をとるのか?

 この中で迷宮について一番詳しいのは、ウーシアであろう。

 だが、全体を指揮するには、年季が不足している。


 そしてライザベルと紫間者の間には因縁があり、バッシは迷宮を苦手としていた。

 

 自然と皆の視線が、聖樹の葉脈を這わせて、地面を調べるラガンに集まる。


「……分かった、私が指揮を取ろう。その代わり皆、私の言うことを聞くんだぞ」


 ラガンは女騎士を助手にして、足元の牧草を引っ張りあげた。


 緑の汁を滴らせる草は程よい抵抗で千切れ、青臭さを放つ。


 そのまま根っこを引っ張るが、地面全体が繋がっており、とてもではないが持ち上がりそうにもなかった。


 その時、ポツッ、ポツッと滴る液体。見上げたバッシの目を、変わらず照らす陽光が灼く。


「臭いワン」


 ウーシアの指摘通り、降り注ぐ生臭い雨が、地面に集まって悪臭を放つ。


 それは不思議と根っこに吸収されず、塊になると、牧草に登っていく。

 そうしながら塊同士がくっついて、徐々に大きな塊になると、一斉に牧草を溶かして、吸収していった。


 周囲には草を溶かす酸臭が漂い、触れないようにするバッシ達は、移動しながら距離をとった。


 ラガンは聖樹の葉脈を伸ばすと、地面の牧草を操作して、葉っぱのない安全地帯をつくる。


 そうこうする内に、あたり一面の牧草は溶かし尽くされ、根っこだけになった地面に、多数の粘液球が残された。


「アシッド・スライムか? 普通こんな風に発生、成長はしないが、この迷宮の罠だろうか?」


 ラガンが意見を求めるも、答えられる者はいない。


 食べるものがなくなったスライムは、お互いを捕食するようにくっついたり、弾きあい、酸を吐きあう。


 そしてバッシ達の近場にいるスライムが、酸の煙を上げながら迫った。


 ライザベルが重火魔法を発動しようとするも、それを制したリロは、


「あれを見てください」


 と天を指差した。いつのまにか上空から、いく筋もの紐状物体が、風に揺られるように、フラフラと揺れ伸びてくる。


 それらは近づくにつれて、人間をも一飲みにしそうな太さを持つ、ミミズ状の生き物だと判明した。


 揺れる管は、アシッド・スライムに取り付き、スポッ、スポッと吸い上げていく。


 根元をよく見ると、太陽のように見える光球の後ろから伸びている。

 吸い込まれたスライムは、そのまた上に吸い上げられているのだろうか?


 どんどん数が減り、あれほどいたスライムが居なくなった時点で、管状生物は、またもフラフラと揺れながら収納されていった。


 直後に水滴が落ちてきて、土砂降りの雨になると、ものの数分でおさまる。


 リロの唱えた『マグマシェルター』によって避難していた皆が外に出るとーー


 目の前には草原が広がっている。

 雲一つない青空に強烈な太陽。


「つまりはこれの繰り返しって訳ね」


 二巡目を体験しながらライザベルが呟く。


「で、どうする? あの光球が怪しいけど、管みたいな奴を登って行く?」


 目の前では、またもアシッド・スライムを吸い上げようと伸びた、管状生物が揺れている。

 その表面はヌメヌメと粘液にまみれ、いかにも嫌悪感をもよおす見た目だった。


「俺が行こう」


 とバッシが言うのを制したウーシアは、


「バッシは重いからだめだワン。ウーが行くワン」


 と、言うが早いか、管状生物の表面に取り付き、爪をたてて素早く登って行った。


 管状生物は嫌そうに身をよじるが、スライム回収を止めることができず、悶えるようにウーシアの好きに登らせた。


 時折霊化しながら、陽光の中へと消えたウーシア。

 しばらくすると、あらかたスライムを吸い込んだ管が引き揚げて行く。


 特にウーシアが登っていった管は急速に戻っていった。


 それが光球の裏に引っ込んだ瞬間、パッと弾け、破片が落ちてくる。


 バッシの側に落ちてきたのは、管状生物の肉片だった。


 その後、衝撃音とともに、光球が揺れると、肉同士がぶつかり、よじれる。


 完全な球体に見えた光球は、波打つように形を変えて揺れた。それらが一斉に熱を上げると、何百もの光線を放つ。


 咄嗟にマグマ窟に覆われた、外壁を光線が撃つ中、バッシが、


「ウーシアは大丈夫か?」


 と叫ぶ。すると、横手から、


「大丈夫だワン」


 と甘えた声がかえってきた。


「ちょっと絡まれたからぶった切っちゃったワン。そしたらあんな騒ぎになるとは、失敗したワン」


 と頭をかいた。霊化して降りていたらしい。その移動速度は自重落下を超え、物理的な干渉を感じさせない静かさだった。


「何かする時は必ず報告しろ。偵察にしても、攻撃にしてもだ」


 有無を言わさないラガンの叱責に、ウーシアの耳が垂れる。


「それで、上はどうなっていたんだ?」


 続けて尋ねられて、ホッとした表情になると、


「あの光球は管の尻尾だワン、その上は見えないようになってるけど、天井に繋がっているワンウ」


 と答えた。さらにその上まで確認しようとして、戻ってきた管に襲われたという。


「ここから先に進むならば、その先が怪しいわね。それかこっちか?」


 とライザベルが地面を指差す。マグマ窟は未だに攻撃を受け続けており、外に出られそうもなかった。


「じゃあ下を試してみましょう」


 リロはタンたんの魔力を操作して、太い一本の炎槍を作り上げる。


 赤から黄色、白へと変色した槍は、高熱を放ちながら、火花を零した。


 それが一息に放たれ、地面を形成する根塊が一瞬で蒸発して、大穴が穿たれる。


 しばらくして、地響きと共に、周囲に拡散する火走りの音が聞こえた。


「どうやら下に通路は無さそうですね、迷宮壁があるだけのようです」


 とリロが告げる。頭を抱えたラガンは、


「だから、何かをする時は、まず報告しろ。この隊の指揮官は私だ」


 と言って、


『苦労性ね』と、嫌らしい笑みを浮かべるライザベルを睨み付けた。

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