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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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姉様の働き

 バッシの後、リロ、そしてライザベルへと姉様による説明が繰り返される。

 それぞれ自分の時は長く感じるが、他者が受けるそれは、ごく短時間であった。


「で、これを聞かせて、私達に何をしろって言うの?」


 ライザベルが腕組みをしながら問いかける。いまだに紫間者への不信感から、魔力自体は解かずにいた。


「姉様の願いは聞いた通り、女王の保護だ。この迷宮内に居続ける代わりに、女神の贄とならず、存在し続けるのが望み」


 ラガンが代弁し、それを補足するように、


 〝我々は女王の意思の元、常に一つの思考で行動してきました。しかし、超短命による短期間の転生を嫌う者達が現れ、その行動に歪みが生じています〟


 念話とともに、数匹の黒ゴブリンの像が伝達される。背曲がりのゴブリン〝軍師〟を筆頭に、〝魔法戦士〟と呼ばれる四本魔剣の使い手、それと最近人間から黒ゴブリンに転生したばかりの〝司祭〟と呼ばれる者もいた。


 前者二匹とは、先ほどまで戦っていたから話は早い。司祭と呼ばれる幼ゴブリンは知らなかったが、幼くして代表格とされる何かがあるに違いない。


 その背後には、女王すら操る〝教授〟という悪魔の存在があった。


 彼女が現在どこにいるのかは不明だが、女神を召喚しようとしている以上は、迷宮内に居ると思われた。


 〝我々が管理しうる最奥の通路から先が、教授の支配域です。現状では手出しも観察もできない場所に、女王様が居ます。どうか攻略して、女神の降臨を阻止してください〟


 姉様は深々と頭を下げると、バッシ達を順々に見た。


 ラガン達は了承済みだと言う。


 多産の女王が女神の器となれば、多数の悪神、悪鬼を創造し、奇形の果てに進化した神を生み出す可能性があった。


 神敵の生誕を阻止する行動に、大司教達の指示などは必要ないという。


 紫間者の目的は不明だが、表向きは敬虔なる信徒である伯爵の部下として、同じく神敵討伐という理由を語った。


 後はバッシ達三人の返答となる。


「あんたも行くのかい? それとも、教授に逆らえない軛を刷り込まれてるからって、ここで高見の見物かい?」


 ライザベルが尋ねると、姉様は残念そうな表情で、


 〝私は後から来る者達を勧誘しなければなりません、それに私の寿命はあとわずか、魔力を節約しなければ、最後までもたないでしょう〟


 と胸元をはだけて見せた。そこには血管が浮き出た部分や、表皮のただれた部分がある。寿命が残り僅かと、見て分かるほどに衰弱していた。


「近々あんたも転生するのかい? また一からやり直すなんて、かわいそうなもんだね」


 と見下すようなライザベルの言葉に、軽く微笑むと、


 〝とんでもない、女王様からまた生まれる事が出来るなんて、最高の幸せではありませんか〟


 と潤んだ瞳を輝かせながら、狂的な笑みを浮かべた。熱に浮かされたような姉様の表情に、皆が少し引いたところで、


「行くとなれば早い方が良い」


 と無言を貫いていた紫間者が皆を促す。


「俺は迷宮が苦手だ。あんた達はどうだ?」


 バッシが尋ねると、ライザベルも首を振る。そこで注目を浴びたラガンは、


「私は一通りの経験がある。もちろん迷宮に特化した冒険者のようにはいかんがな」


 と答えた。紫間者は無言のまま、返答する様子もない。


「こんな時にウーシアが居てくれれば」


 バッシの呟きに、タンたんが炎気を吐く。熱風の向こうには、グツグツと魔法陣を光らせる最終ページがあった。


 狂血の魔力で、魔法陣が真っ赤に染まる。その意図を汲んだリロが、


「姉様、私の思念を読んで、仲間を呼んで下さい」


 と姉様に近づく。リロの頭部に指を伸ばすと、


 〝ジュエル、ウーシア、貴女達の力が必要です〟


 リロの思考を姉様が飛ばす。その思念に反応する二人を、敏感に察知した姉様の元に、


 〝リロ! 無事なのね。こっちは取り込み中だから、すぐには行けないわ〟


 〝ウーは今そっちに向かってるワン〟


 ジュエルとウーシアの思念が返ってきた。


 〝ジュエルもなんとか片付けて、こっちに来て。悪魔の親玉が居て、貴女の力が必要です〟


 〝ウーシアは今から送る魔法陣に飛び込んで〟


 リロは返答とともに、最終ページの魔法陣を地面に零す。


 血の一滴が床を濡らすと、そこからひび割れ、空間が生まれた。獄火の力を与えられた真っ赤な水面が、ウーシアの目の前にも現れる。


 ウーシアは、同乗させてくれた女騎士に合図を送ると、


「行ってくるワン!」


 と馬の鞍を蹴って、水面に飛び込んだ。女騎士は、こんな所に置いていかれては困ると、続いて飛び込む。


 無人の街を、乗り手を失った馬が走り抜けた。


 地面から飛び出したウーシアが、転がるようにバッシに飛びつく。

 後ろから来た女騎士は周囲を見回し、居住まいを正した。


 そこにラガンの姿を認めると、


「隊長、無事ウーシア様をお連れしました」


 と敬礼する。ラガンが、


「聖騎士様はご無事か」


 と尋ねると、


「はっ、ジュエル様は聖龍様とともに戦場におられますが、護衛信兵ともども健在です」


 女騎士がかしこまって答える。ウーシアは、


『別に貴女に連れてきてもらった訳じゃない』


 と思いながらも、バッシに甘えるのに忙しかった。


 バッシの側にはリロが居て、三人の再会を喜びあう。

 肌の色が濃くなったリロを見たウーシアは、一瞬驚いた表情を浮かべると、今度はリロに飛びついた。


「リロ〜、ごめんだワン、リロ〜」


 涙を零すウーシアを、優しく撫でるリロは、


「大丈夫よ、私、ちょっと生まれ変わっちゃった」


 と黒い肌を光に晒した。黒い絹のような肌に、ウーシアの毛が優しく触れる。


 その言葉には負の感情がなく、どっしりと構えた精神性が、以前とは違う魅力を放っていた。


「お前達、先を急ぐぞ」


 と裏口バック・ドアを出て行くラガン達。リロは残ると言う姉様に、


「もう一人、さっき念話を通してもらった仲間が来るはずなんです」


 と告げる。姉様は、


 〝分かっています。その時が来たら、貴女達と話せるように気を配っておきましょう。一度繋がった方達の事は、その後もある程度把握していますので〟


 と答えて、扉をくぐるバッシ達を見送った。





 皆がいなくなった部屋に一人、姉様はため息をつきながら、己のボロボロになった身体を引きずるように壁際へと向かう。


 〝さて、残りわずかな命……女王様をお守りするために、もう一働きせねば〟


 生きている黒ゴブリンの中で最年長の姉様は、飼育係という立場と、磨き上げた念話スキルによって、種族全員と繋がっている。


 今となっては敵対関係に近い軍師や司祭らの思考ともつながっており、バッシ達のように、めぼしい部外者へも、その輪を広げつつあった。


 そこで得た膨大な知識を繋げると、ほぼ真実に近い状況把握ができる。常に更新し続ける情報が……


 それをもって、教授が実現しかけている女神の具現化を察知し、女神の顕現周期を度外視した計画のほころびを探し続けた。


 今まで何度繰り返しても答えの無かった問いに、バッシ達の存在が変化をもたらそうとしている。

 その予兆を確かな起点に変えなくてはならない。


 女王存続を叶えるために必要な最後の要素。その存在に呼びかける姉様を、激痛が蝕む。

 大量の情報を同時に処理しようとして、悲鳴をあげた脳が、安全のために気絶を選ぶ寸前に、無言の応答があった。


 〝貴方の力が必要です〟


 その者は姉様の計画を全て聞き終えると、黙って交信を切った。

 久しくなかった魔力の消耗で、抑えていた傷口が開き、姉様の寿命を縮める。

 浅い呼吸を宥めながら、壁に寄りかかった姉様は、時が来るのを静かに待った。


 〝これで良かったのだろうか?〟


 自問自答を繰り返す。


 〝分からないけれど、やれる事はやったはず。もう少しだけこの体が持ちますように〟


 神の実在する世界で、彼女には信捧する神が無かった。それ故に囚われの女王に祈りを捧げた。



 祈りが向けられた先、女王のはまる装置につながったチューブが脈打つ。それを撫でた教授は、その温度を楽しむように舐め上げると、


「あら、何かを感じているのね、あなたの予感は正しいわ。あなたのここから、世界が生まれるのよ」


 とチューブの繋がる先を撫でた。微笑むように装置全体が軽く震える。


「さて、こっちに来る人達を歓迎しないと。門には門番がいないといけないわ」


 微笑む教授の足元に闇が拡がり、その中に手を入れた彼女は、楽しそうに中身をいじり続けた。

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