表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
183/196

出現

 黒煙が柱のように天を突き、亡きリリの初火が絡まり昇る。それにともない、重火魔法によって重力から解放された瓦礫が、天井を伝って移動した。


「ゾンビ召喚は魔法戦士こいつの魔法じゃない」


 黒煙を操りながら、ライザベルが吠える。それを聞くバッシもまた、重火魔法で自重を無くし、大剣や睡蓮鋼を泳がせながら天井近くを浮遊していた。


 破魔の紫光は魔法を分解するが、リリの初火からなる睡蓮火を含んだ黒煙は、神聖魔法のようにバッシに影響を及ぼし続けている。


 部屋全体を覆う黒煙に睡蓮花が拡がる。毒々しい黒に薄紅の花が咲く様は幻想的だった。


 震える焔の花弁は若かりしリリの精神を表し、その瑞々しさは軽い嫉妬とともに、ライザベルの心に余裕を生む。



「さっき戦った背曲がりゴブリンの魔法だ」


 侵入する際に下調べをしていたライザベルは、街外で戦争が起きている事を承知していた。

 醒めた頭脳は、転移した背曲がりのゴブリンが、戦闘に参加している事を想定した。

 あれほどの術師が集団戦闘に参加しない手は無いはずとの目算が働く。

 そうなれば今現在、バッシの仲間達と戦闘中である可能性は高い。


「魔法を破れば、術師にダメージが行く。外の仲間が助かるかも知れんぞ」


 たぶん、との言葉は口に出さない。バッシはライザベルの発言を、取り込んだ知育魔本に補助されながら理解した。

 リロを害する者を斬る事が、仲間全員を助けることになる。

 バッシはーーしかし、すぐに手を出す事ができなかった。


 ゾンビを害する行為は、運命の反転とやらで致命的な爆発を起こす可能性がある。それが三体もリロを取り囲んでいるのだ。


 獄炎魔法を取り込んだ個体の誘爆が、どれほどのダメージをもたらすか……それは獄火魔法に接しているバッシにも、想像がつかなかった。


 さらに先程から姿を隠した麻痺のスキル持ちが、なりを潜めているのも気になる。かなりの数を斬ったはずだが、それらに致命傷を与える事ができたのか、手応えのみでは判別できなかった。


 彼らにも何か手出しできない理由があるのか、それともゾンビの無作為な攻撃対象にならないように、一旦引いたのだろうか?


 色々と悩むバッシにとってできる事はーーそれでも『斬る』しかなかった。

 他者から奪取した能力は、奪った魔力が不足しており、実戦で使えるほど習熟もしていない。


 斬れないものを斬るための策はある。今はその機を待ちながら……右手に生えた鋼の大剣は今にも振るわれんと力を溜めつつ、空中に不動の位を保った。自ずと天井についた足が、初動を生まんと屈曲する。


 甲高いスナップの音が響き、銀光と紫光を纏うバッシは睡蓮火と一体化した。


「いけっ!」


 その瞬間、ライザベルの重火魔法が蹴り足に加速を生む。


 一振りでゾンビを切り裂くと、一転、地を蹴って無重力を滑空する。消滅するゾンビが爆発する刹那、天井を埋める黒煙が最重量を持って降り注いだ。


 凶暴な獄火の力を睡蓮火が解し、重火魔法が爆発力を抑え込む。そのエネルギーに吸い寄せられ、疾駆するもう一体のゾンビの進路に刃を合わせたバッシは、瞬く間にそれを斬り伏せた。


 バッシの全身には鋼睡蓮が浮き上がり、爆発を銀光の世界に移送する。収まり切れないエネルギーを、追撃の重火魔法が押さえつけ、睡蓮火が解きほぐした。


 瞬時にライザベルを止めにかかる姿なき襲撃者。その体に睡蓮火が揺れると、紫銀の線となったバッシが斬りつける。


 敵の一部が可視化して、華奢な背中が目に飛び込む。その瞬間、別の一体にわき腹を突かれたバッシは、足爪踏ん張り、それを堪らえた。


 毒と思しき濡れ刃に、全身を超回復の血潮が巡るが、毒に対しては十全の力を発揮できない。バッシはなんとか大剣を振るうが、同時に体ごと突っ込んで来た別個体の刺突によって取り逃した。


 ライザベルの重火魔法と睡蓮火が、バッシを襲う隠遁者を芯から焼き尽くす。二つの魔力は高め合って消し炭を作り上げると、バッシに刺さる刃物だけがクサビのように残った。


 異様な臭いの中でバッシの意識が霞むと、未だに爆発を移送し続ける銀光の世界が揺らぐ。獄火を移送するのは、鋼の精霊といえども負荷が高かった。


 バッシが硬い龍装に食い込んだ刃を苦心して抜くと、濁った血がこぼれ出る。同時に限界間際の鋼睡蓮から、焼け鋼の異臭が漂った。


 その時、何とか焦点を合わせたバッシが見たのは、ヌルリと伸びる黒の触手だった。

 バッシは既に知っている。それは魔法の発現ーー


 〝暗状紅炎ダーク・フィラメント


 黒い炎は獄火に他者を取り込む、魔導書の中でも外法に類する魔法だが、闇龍の軛と一体化したリロの放つそれは、過去のそれとは比べ物にならない危険な雰囲気を纏っていた。


 忌避感を催す黒い炎は、一体のゾンビを取り込もうと触手を伸ばす。

 ゾンビは、火力の加速をもってリロに迫るが、膨大な魔力に引き寄せられると、ゆったり動く暗状紅炎に吸い込まれていった。


 黒い炎が胴体を穿ち眼窩から吹き出す。それがゾンビの全身を包み込む瞬間、運命の反転に強烈な呪詛が爆ぜた。

 その念にまで触手を伸ばし、爆発するエネルギーを捕食する。脈打つように力を吸収した暗状紅炎は、げっぷのように炎気を放った。


 それは無数の火矢となって姿を隠していたゴブリンを貫き、隠遁ゴブリンの輪郭を露わにする。


 暗状紅炎の絡みつきに即座に反応した者達は、跳ねるように空間を逃げ惑うが、闇の触手はそれを許す事なく、次々と獄火の世界へと吸収していった。


 喧噪一転、空中に漂う暗状紅炎は、術者が魔力を止める事で掻き消える。重火魔法の黒煙も、スナップを響かせるライザベルの誘導で、彼女の周囲に収束した。


 先端にリリの初火が芽吹き、蕾の先端に指輪型魔導器をあてがうと、スルリと還っていく。

 指輪にはまる紅石を覗き込むと、小さくなった初火が、三つに減ったライザベルの魔力を率いて、泳ぐように循環した。


 解毒ポーションを飲んだバッシは、リロの体調を伺う。

 リロは久しぶりに動いた影響か、闇龍の軛で作り出した体の影響か、微細に震えながらも、一人で立つ事ができていた。

 大丈夫だと身振りで示し、タンたんもそれを否定する様子は無い。


 次いで、バッシは焼け痕に魔法戦士を探す。

周囲は焦げ臭と熱気に包まれているが、隠遁者達の露わになった死体や、ゾンビ共の爆散したカスがこびりつくのみ。

 後方に飛んだはずの魔法剣士は見つからなかった。


 熱せられた空気が石造りの部屋から逃げる。代わりに吹き込む冷たい風が、焼け残った分厚いカーテンを揺らした。



 踊る影に一際濃い闇が生まれ、音もなく成長する。それはバッシ達を感知すると、急速に膨れ上がり、人型となった。


 隠遁者達のリーダー、ゴブリン達の間ではシンプルに『忍者』と呼ばれている存在だ。


 忍者はリロの奪取を軍師から、それとは別に、根源的指導者から命じられていた。


 軍師の転移魔法の助力を得た魔法戦士、隠遁とスキルに秀でた部下たち、そして獄火を食らうゾンビ……これだけの手数があれば、足手まといのリロを担いだ巨人戦士と魔女からリロを奪取することは容易い任務のはずだった。


 だが、獄火の魔導書を操るリロが復活した現状、劣勢を覆すためにどれほどの手勢を要するか、判断がつかない。軍師に念話で指示を仰いだ忍者は、撤退の合図を送ろうとして、固まった。


「困るのだよ、巫女リロを預けたのに、勝手に解放されては」


 忍自身の影が隆起する。そこには『闇』と呼ばれる、教授やピノンと同列の悪魔が存在していた。


 即座に跪く忍びの足元に、闇の転移魔法陣が展開する。そこから現れた者の冷気に、咄嗟に身を投げて回避するも、既に凍り付いた右腕は麻痺しかけていた。


『将軍』


 真っ白な巨体を見上げると、うつむき加減に立つ巨人がゆっくりと開眼した。

 潤んだ瞳から雫が垂れると、空中の水分を凍らせながら落ち、周囲の熱を奪う。


 その存在感は他の全てを圧する。


 ゆっくりと背筋を伸ばして一歩踏み出すと、凍りついた床が収縮してヒビ割れた。

 鈍く光る瞳はバッシを捉え、次いでリロに向けられる。


 鏡面のミスリルが流動して、並び立つ忍が映りこんだ。その苦し気にのたうつ体の周囲を、黒い靄が取り込み、目や口、耳とあらゆる穴から侵入していく。


「あれは魔法王国軍の将軍だ。俺たちでは勝ち目がない」


 リロやライザベルを後ろに庇いながら、二人に警告する。アレフアベドで惨敗した記憶も新しいバッシは、汗ばむ両手で大剣を構えなおした。


 あれ以来、将軍に、そしてミスリルの精霊に対抗する術を模索し続けているが、その解は未だに無い。鋼の精霊との一体化は成されたが、将軍は生まれながらにミスリルの精霊と一体化しているのだ。それをもって優位であるとは思えなかった。


「将軍の事は知っている、魔法王国の教授が作り出した、最強の人造兵器。隣の黒いのは闇と呼ばれる原初の悪魔じゃないかしら? リロを封じたのもあれだと思うけど」


 観念したのか、あっさりとした口調のライザベルに、リロがうなずく。静かなリロの手元では、タンたんがページの隙間から魔力を排気した。


 将軍が片腕を上げ、人差し指をバッシに向ける。向けられた方は激しい動悸に襲われ、麻痺のスキルに疲弊した身体からは脂汗が滲み出た。


 冷気に晒されて凍りつき、体ごと固まっていく錯覚を打ち消そうと、龍装の表面に鋼睡蓮を現す。

 冷え切った大剣を手に、無理やり動こうとした瞬間、バッシの全身は鋼のように硬直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ