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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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死霊兵

 次々に現れる火槍、凝縮された魔力に対し、魔法戦士は踏ん張りながら四本の剣を振るう。風の精霊を操る右手は、対流によって火槍同士を誘爆させ、水の精霊を操る左手は、水の壁を生み出すと、突き刺さった火槍を侵食、爆散させた。


 火の精霊を操る後ろの右手は、火槍から熱を奪い、弱体化したものを切り払う。

 土の精霊を操る後ろの左手は、それら拡散浪費する魔力を吸い取り、己の魔力に変換していく。


 目まぐるしく魔法剣を振るう中、油断なくライザベルに接近すると、最前くらった重火のトラップを避けて剣を振るった。

 だが、ライザベルとて無策ではない。以前と違い、トラップに使った粘着性の火魔法は、魔力吸収に耐性を持たせていた。


 ライザベルは指輪型の魔導器に意識を集めつつ、黒煙を上げる重火を飛び火させ、面の攻撃で圧倒しながら魔法戦士を牽制する。魔力耐性は、地階の黒煙魔力をもって完全耐性と言えるほど昇華していた。


 しつこいほど繰り返すのが彼女の真骨頂である。触れれば粘着し、重量で相手を束縛し、燃やし尽くす。シンプルかつ自由自在な重火魔法を飛ばしながら、至る所にトラップの触手を張り巡らせた。


 さらに四種の魔光に装飾された魔法戦士は、歩く的となって、リロの獄火魔法による集中砲火を浴びている。


 炎熱に視界がふさがり、魔法感知も効かなくなる。その刹那、ライザベルの勘が危険を告げた。

『何かがおかしい』

 これだけの攻撃したにも関わらず、魔法越しの手応えを感じないのだ。


 知らぬ間に相手の魔力が増強されて、重火魔法を圧倒していく。とうとう陽炎のように火魔法と隙間ができて、四色に輝く魔法剣士が浮き上がって見えた。


「獄火の魔力を吸収してる」


 驚きを隠せないライザベルのつぶやきは、見えない敵と戦うバッシや、マグマ窟に籠ったリロには伝わらなかった。

 つぶやいたライザベル自身も目の前の現象を信じる事ができない。

 そこにタンたんから無数の獄火槍が殺到し、溶けるように魔法戦士に吸収されていく。


 そもそも獄火とは、神にも制御不能とされる獄界のエネルギーそのものである。

 排気口としての魔導書タンたんが吐き出すのはその炎気とも呼べる排気魔力だったが、人はおろか、魔獣や魔人と呼ばれる存在にも分解、吸収できる代物ではないはずだった。


 それを吸収するとはーー敵の能力に戦慄を覚えたライザベルは、重火魔法のトラップを重ね掛けして動きを制しようとするが、四光に包まれた魔法戦士の障害にはならなかった。


 獄火を吸収した魔力に、一人の人間が生み出した魔法など相手にならない。

 ライザベルはそれでも、黒煙を上げる重火魔法を延焼させた。火魔法は攻めを止めた時点で価値を失ってしまう事を、嫌と言うほど体験してきたからだ。


 間隙を埋めるように、リロの生み出す火矢や火槍が、止める間もなく魔法戦士に吸い込まれていく。


 四光は益々勢いを増して異音を放ち、耳鳴りを伴う振動と重火によって、床は床としての機能を失いつつあった。

 石造りの建物はそれでも抜けることは無かったが、隙間に逃げる黒煙が階下を満たすと、空気を大量に消費して、火柱を上げる。


 真下からの攻撃に、それまで上半身の腕輪と、剣によって魔力を吸収していた魔法戦士が体勢を崩す。

 それを待っていたように、火槍よりも素早い火矢が殺到した。


 四本の剣と腕輪の内、風属性と土属性の二組が振るわれ、軌道を逸らし、魔力を吸収していく。土属性の腕輪と剣は見事に獄火を解し、散らしていった。


 その間に重火魔法の火球が放たれるが、魔法戦士の火属性腕輪と剣で切り捌かれる。熱を失った火球は瞬時に色あせ、追撃の火球も水属性の剣によって打ち消された。


 そのまま四本の剣を一連なりに振るうと、腕輪と共鳴して剣閃が飛弾と化した。四種の魔弾が干渉し合って乱れ飛ぶ。


 その内二つは空中でかち合って、残る飛弾も誘爆する。どうやらこの手法はあまり慣れていないらしい。しかし委細かまわず、空中に漂う魔光を切り裂くように、魔法戦士が突き進んだ。


 獄火の矢が十本束となって出現し、空気を焼きながら魔法戦士を叩くが、土属性の剣で吸収すると、流れるような水属性の剣が振るわれた。

 新たな火槍が発現した瞬間に掻き消される。残像の隙間に飛び込んだ魔法戦士は、ライザベルを袈裟斬りにした。


 右胸から左肩にかけた一閃に、鮮血が散る。驚愕の表情を浮かべたライザベルは、次の瞬間、輪郭を朧にすると、青い炎となってユラユラ漂った。


 それは見る間に分裂すると、魔法戦士の周囲を取り囲む。さらに揺れる炎がグルグルと周囲を回転しだすと、魔法戦士は強烈な睡魔に襲われた。


 リロの放った獄火魔法、催眠幻火《ウィル・オー・ウィスプ 》の擬態トラップだ。さらに二重・三重の輪となって魔法戦士を取り囲むと、折り重なるように狭撃する。

 瞬間、青い炎同士が重なり、白い閃光を放った。


 光が収まると、爆心地の魔法戦士が立ち尽くしている。全身に纏った魔力は消え、振り上げていた腕がゆっくりと垂れた。


 その機を逃さず、ライザベルの重火魔法が黒煙を上げて絡みつく。熱と重量を増した火魔法が、その体を地面に押し込むと、黒煙を凝縮させた。


 その瞬間、ライザベルの魔力感知に触れたのは、マグマのような魔力溜まりーー


『危ない!』


 と警告を放つより早く、黒煙を突き抜ける魔力の奔流が天を突く。魔法戦士の四色に染まった剣が床面を貫き、その下から鮮血のような魔力が噴出した。


 まるで獄火魔法の威力……いや、それは紛う事なき獄火の力と言えた。属性剣で吸収した魔力を転換し、新たな魔法を生み出したのだ。


 魔法戦士自身は、いまだにグッタリと催眠幻火《ウィル・オー・ウィスプ 》の効果に囚われているが、胴鎧に浮き出た赤い紋様に操られるように、属性剣に魔力が注がれていく。


「バッシ、あれを斬れ!」


 真っ赤な紋様から、燃えるような魔眼がのぞく。胴鎧から伸びた魔法陣が、周囲にも同じ紋様を描いた。


 何かを召喚しようとしている。獄火の火力をもって初めて喚び出せる危険な何かを……重火魔法の強度を上げながら、祈るように見つめるライザベルの視界を銀光が射した。


 空間を跳んだバッシの大剣が魔法戦士を切り裂いた。手応えとともに、魔法戦士の纏う魔力を紫光によって分解する。風属性の剣が後方に吹き飛んだ。


 入れ替わるように、地面に残された三本の属性剣から、魔力の奔流が溢れ出る。


 それぞれの剣に宿った魔眼は、実体を持ち人型になると、魂が凍り付くような雄叫びをあげた。瞬時に一体を切り裂いたバッシは、纏わりつく魔力に分解がもたつき、四肢が麻痺したように鈍くなる。


 またしても、知らぬ間に隠遁者のスキル攻撃を受けたらしい。ライザベルが重火魔法の黒煙を操って一帯を覆うが、既にどこかに移動したらしく、魔眼の主や隠遁者を捉える事はできなかった。


 バッシが大剣を引いて、痺れる腕で構えを取るうちに、目の前に、頭頂部から尾骨にかけて、属性剣に貫かれた魔物ーー死霊兵ゾンビが現れた。


 全身に戒めの鋼を巻き付けたゾンビが、血に飢えた咆哮をあげる。縦に身を貫く剣は、戒めの金具を通って床面に固定されており、もがくゾンビを拘束していた。


「こいつらは黒ゴブリンのゾンビね。しかも自爆竜と同じ戒めを受けている」


 ライザベルの言葉に、振るおうとした剣を止める。ポコの分析を進めると、ゾンビを拘束している戒めは、一定のダメージを受けると爆発するようになっていた。隠そうともしない仕掛けは、バッシにも馴染みの手法だった。


 開放されると手当たり次第に生命を食らい尽くし、限界を迎えた段階で、運命の反転によって自爆するよう仕込まれている。それは魔法王国時代の爆薬小鬼の突撃兵と同じ手口だった。しかも転生者の黒ゴブリンを利用している場合、その威力は桁違いだろう。


 怨嗟の叫びが自らを貫く剣と響きあう。すかさずライザベルの黒煙が魔法陣に取りついて、床ごと燃やし落とす。さらに黒煙が取り込もうとした瞬間、一際激しい共鳴音が周囲を薙ぐと、三本の魔法剣が宙に抜き放たれた。


 戒めを解かれた死霊兵が、崩れ落ちる床を駆けあがる。獄火の魔力を燃焼させるゾンビは、爆発的速さでバッシに殺到した。


 重い金属音が響き、大剣と牙が火花を散らす。他二体のゾンビは血肉を燃やしながら、勢いのままバッシの龍装に食らいついた。


 バッシが鋼の精霊との合身を意識すると、睡蓮火の力が鋼の大剣に宿り、紫光が花弁の形となった。


 〝破魔の剣であるとともに破邪の剣でもある〟


 かつてリロに言われた鋼の剣の性質が脳裏をよぎる。それはゾンビにとって天敵となりうる性質ではないか?


 だが、大剣でゾンビを貫いた瞬間、運命の反転とやらで自爆しないとも限らない。その真偽はポコをもってしても看破できなかった。


 躊躇が相手の有利を呼び込み、手詰まりのバッシは勢いに押され、刹那、銀光の世界に駆け込む。


 その間に、標的を変えたゾンビ達は獄火を求めてマグマ窟へと殺到する。そのうちの一体に鎌鉈を投擲したバッシは、背中に突き立った鋼睡蓮の綱を手繰り、伸縮させながらゾンビの一体を引き留めた。


 もう然と疾駆する背中に飛び乗り、足爪でしっかりと背骨を捉えたバッシは、左手に鋼睡蓮の綱を握り、右手に新たな鎌鉈を生成して、柄に伸びた綱を宙に回す。


 しっかり遠心力の乗った鎌鉈を並走するゾンビに振るうと、首元に巻き付けて、思い切り引っ張った。


 直接ゾンビに触れる事で、ポコの分析が精度を増す。この個体を爆発させないように仕留める方法は無いものか……解は得られないままに、バッシに向き直った二体が迫る。


 獄火によって超火力を得たゾンビは、口や目から炎を覗かせながら疾駆する。そこに獄火の火槍が連続的に打ち込まれた。

 獄火同士が打ち合う大火を背景に、バッシは紫光の大剣を振るうと、鋼睡蓮の綱をほぐしてゾンビ達の頸骨と同化させた。

 もつれあうゾンビ二体から綱を伸ばして、憑りついたゾンビとも絡める。


 首元で繋がれたゾンビ達は、ジリジリとリロのいるマグマ窟へと向かった。


『ゾンビは獄火の力を欲している、リロのもとに近づけたらまずい』


 ポコの分析を待たずとも、体感的に危機的状況を理解する。


「ライザベル!」


 バッシの叫びに呼応したライザベルは、彼の意図を瞬時に察知したが、身動きがとれなかった。既に隠遁者のスキルで麻痺状態になっていたのだ。


 声一つ上げられない状態で、しかし魔力をリリ譲りの指輪にあつめると、近接しているであろう隠遁者ごと火魔法の餌食にする。


 我が身を中心に燃え広がった重火魔法は、リリが若かりし頃に指輪に詰め込んだ初火を先頭に、黒煙を上げて宙を舞った。

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