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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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黒エルフ

 ライザベルの指先が擦過音と熱を生み、周囲を黒煙が覆う。追加の魔力を得て膨らんだ炎は床を打った。


 轟音とともに石床に亀裂が入り、隙間から更なる黒煙が立ち昇る。背曲がりゴブリンとの戦闘の際、階下の延焼範囲を拡げていたのだ。その火はライザベルの移動を追って燃え広がり、今や重火と黒煙は地階全域を覆っていた。


 亀裂から噴出した黒煙は、ゴブリンの魔法剣士を包み込む。広大な居室が黒に支配され、突如凝縮すると、質量を得て床を叩いた。

 黒煙の塊は、補充される魔力に温度を上げると、床を赤熱化させ、グツグツと音を立てて震える。


 いや増す黒煙、周囲に延焼する重火が触手のように新たな犠牲者をーー隠遁する襲撃者を探った。


 その中心で黒煙塊が激しく揺れる。


 ライザベルは、中に封じた魔法戦士の魔力を感知すると、床に手を伸ばして火力を上げた。

 その瞬間、選択ミスを悟る。地面が隆起すると、階下の更に下から、剥き出しの土がせり上がってきたのだ。


 土はライザベルの重火魔法を吸収すると、高熱をも奪い尽くす。最後に空中に溶けた黒煙の中から、剣を輝かせたゴブリンの魔法戦士が現れると、渋面をつくるライザベルを見下ろした。




 #######





 バッシの背部に隠れたリロの周囲は、殆どが龍装でふさがれ、唯一空いた隙間にはタンたんがはまり込んでいた。

 ライザベルのかけた軽量化の黒煙は尽きて、魔法のロープも解けている。


 軛の厚い外皮に覆われた目が、光をとらえているとは考えにくい。その事を自身が一番良く知っていた。

 ならばこの感覚は何だろうか? 


 囚われていた時までは、獄火の魔導書内にある最終ページの中で、初代の火の巫女や師匠とともにあった。精神が隔離された状態では何ら支障がないのは分かるが、肉体に戻った今もそれほど違和感が無い。


 魔力を使った熱感知能力に、闇龍の軛が捉える触覚などがまじりあって、視覚すら有るような錯覚を受ける。だが世界に色は無く、先ほど吸収した鬼頭オーガ・ヘッドの養分にも味覚は無かった。

 闇龍の軛を伝って栄養の熱が体を巡っただけ、それは火酒が食道を灼く感覚に似ていた。


 味気ない、と落胆する気持ちが芽生える。


 激しく上下するバッシが背中を熱する。時折リロを覆う龍装に衝撃が走ると、気づかうように向きを変えるバッシが傷ついていくのを感知した。


 リロのなかでふつふつと芽生える怒りは、バッシを襲撃している者に対して、そして足手まといになっている自分に対して育っていく。

 その時、フッと、


 〝悔しかったら魔法を使いなさい〟


 と師匠の声が聞こえた。それは目の前を守護するタンたんから聞こえてくる。


 〝でも声が出ないから……魔法を使えません〟


 と思考の中で答える。呪文は破壊衝動を制御するための、大切な過程だった。それができない今、獄火魔法を制御できるとは思えない。落ち込むリロに、初代が、


 〝タンたんの魔力を文言で操るのは初歩の段階です。魔導書の世界に馴染んだ今のあなたならば、声などなくとも操れるはず〟


 〝それに闇龍の軛も仕様を作り変えたら、貴女の肉体にできるわよ〟


 と、これは師匠が告げた。言われて指を動かすと、確かに前よりは力をこめることができる。


 そしてすぐ近くにあるタンたんに意識を向けると、「遅い」とばかりに焦れたタンたんがページを開いた。

 一冊の魔導書を通じて広がる世界の広さに戦慄を覚える。再度「大丈夫」と意識を向けられたが、目の前には獄火の海が広がり、その熱で精神すら溶けそうになった。


 紅炎が放物線を描く、その尾が放つ熱波に焼かれたと思った瞬間、その先端が口を開き、淡いピンク色の花弁となって、リロを包んだ。


 〝師匠リリの睡蓮火だ〟


 それはすぐに紅炎の魔力を分解すると、リロを包むベールとなって、闇龍の軛をも分解し出した。

 組成を変える軛は、やがてリロの内臓や骨格、そして筋組織を作り出し、獄火の魔力が循環する。


 闇龍の軛が元どおりの体を作り上げるーーただしすべてが真っ黒なリロに向かって、


 〝ごめんね、黒いのは我慢してね〟


 と師匠の念が届いた。それを最後に念が通じなくなる。感謝の気持ちも伝えられないままにーー


 〝師匠は力を使い果たしたんだ〟


 死んで精神体になっても、自分を守護し続けてくれた事に胸が熱くなる。今後精神体として接した場合には、幼児化した彼女としか会えないであろう。

 その事を思うと胸が苦しくなる。


 だが、大恩に報いるのは今しかない、と覚悟をきめたリロは、呼吸の代わりに魔力を練ると、タンたんと意識を同期させた。





 #######





 バッシが我が身とリロを庇う中、敵は隠遁と麻痺スキルを駆使してバッシを翻弄し続けた。

 隠遁する敵が一体ではない事は把握している。その間に受け続けたスキル攻撃のせいで、麻痺の部位は両腕に及んでいた。


 ライザベルは善戦しつつも、近接戦闘に長けたゴブリン魔法戦士の相手は荷が重く、ついに背中合わせに追い詰められてしまう。


 足から鋼睡蓮の綱を伸ばし、鎌鉈を操るバッシが、蹴り足とともに不可視の敵に斬りつける。金属音が響き、隠匿ゴブリンの一体を押し返すが、もう一体に力の入らない右腕を斬りつけられた。


 そこからさらに麻痺スキルが入り込んだのだろう、軸足の踏ん張りがきかない中、突如目標を変えた魔法戦士がバッシに迫る。


 その背中を撃つライザベルの火魔法が、腕輪と打ち合う剣の一閃に弾かれた。魔法同士が焼失する異臭が鼻につく。更なる火魔法を準備するライザベルに、追い打ち一閃。火魔法に強い水の性質を含ませた魔法剣が、ライザベルの重火魔法を切り裂く。止まらぬ別の腕が腕輪を光らせながら風魔法を放った。


 ライザベルが致命傷を受ける覚悟を決めた時、


 〝ライザベル様〟


 と背後からリロの声を聴いたように感じた。次の瞬間、目の前には魔法の火矢(マジック・アロー)が数十本現れ、でたらめな方向に発射されると、魔法剣の斬撃をはじき返す。


 さらに次々と生まれる火矢や火槍が乱れ飛び、次第に方向性を纏め出すと、魔法戦士に束となって着弾した。


 熱波にあてられたライザベルが周囲を見渡すと、さらに数百もの火槍が周囲の空間を埋め、バッシ達に向けられていた。


「危ない!」


 と回避しようとするライザベルに、バッシが覆い被さる。二人は地面から盛り上がった溶岩状の壁に包まれた。直後、轟音が響き、壁の外で火槍が発動した事を知る。


「懐かしい、溶岩窟マグマ・シェルターだな」


 と話すバッシの背部で、数枚の分厚い鱗が縮まると、中からゆっくりとリロが這い出してきた。

 それを震える手で支えようとしたバッシに、


 〝大丈夫〟


 と自らの足で立ち上がったリロは、不安定ながらもタンたんを抱え、二人と向き合った。マグマの光に照らされる肢体は細かく震えているが、ライザベルが見るに、魔力は大海のように底知れぬ迫力をにじませ安定している。


 〝私はここで我が身を守りながら支援しますので、お二人は思う存分戦ってください〟


 と溶岩窟を拡張させると、空いた空間に大量の火矢を発生させた。それらは空気を焼き、振動しながらも安定して浮遊している。


 バッシにポーションをふりかけていたライザベルが頷く。効果の高い万能薬によって、若干ながら腕の麻痺を軽減させたバッシは、鋼睡蓮を両腕にまとわせながら頷いた。


 複雑に絡みついた鋼睡蓮を収縮させると、麻痺の残る腕でも動かすことができる。元通りとはいかないが、さらに一瓶分飲んだ薬が効いてくるまで、これで対処するしかないだろう。


「私は魔法戦士をやるから、見えない奴らを頼む」


 ライザベルの言葉にバッシが頷く。それを見たリロがマグマ窟の一部に穴を開けると、増加させた火矢をすべて放った。

 数百本の誘導火矢が描く火線を追って飛び出したバッシは、空中で魔光を散らす敵に斬りつける。誘導火矢は正確に敵に向かい、三体のゴブリンはそれで仕留められたのか、可視化して事切れた。


 それらの生存の有無はポコの分析に任せ、火矢を弾き飛ばした数体の居場所を探知する。感覚鱗で気配を探りながら大剣を生成すると、一体のゴブリンを切り裂いた。空中に血花が咲いて、胴体に一撃を食らったゴブリンがはじけ飛ぶ。


 血の飛沫が不自然に消える範囲に、切り返しの一撃を加えると、多少斜めに食い込んだ大剣が質量にものを言わせて、腕ごと体幹を潰し切った。


 不意に膜のような物に包まれる。麻痺のスキルだと直感したバッシは、全身の龍装を隆起させると、鋼睡蓮で強引に「脱皮」しながら一歩退いた。


 麻痺のスキルが脱皮した龍装に収束して固まる。生皮の剥げた筋繊維に鋼睡蓮を纏ったバッシは、筋収縮に合わせて大剣を一閃した。


 微妙なコントロールの効かない剣先が石畳を削る。火矢によって判明した敵はすでに移動していた。身の内で震える地龍の魂、全身にむず痒いような快感得ると共に、出血する皮膚を破り龍装が生える。

 そのまま口腔内まで鋼睡蓮で覆うと、凶血の能力を意識して咆哮を放つ。石畳を打つ咆哮はライザベルの鼓膜をも震わせた。


「やるなら知らせてよね」


 めまいを起こしたライザベルは頭を振った。油断なく重火魔法を展開した彼女は、リロの弾幕の隙を狙い火魔法を放つ。

 しかし大量の火矢と重火魔法のことごとくが、魔法戦士の斬撃に打ち消された。


 四本の剣はそれぞれに能力を振り分けられ、火・土・風・水の四大属性を纏っている。


 厄介なのは火魔法に有利な水属性と空気を操る風属性の魔法剣だった。束になって襲う火矢も、敵に届く前に弱体化し、微妙な軌道変化で誘爆させられている。

 さらにライザベル達も火魔法の保護で対処しているが、敵も火属性魔法で攻撃してきた。


 目には見えないが、火の精霊を具現化せず使役し、物の内部で熱を発生させるような作用をもたらす。

 その作用を、バッシの投擲した鎌鉈が内部からはじけ飛んだのを見て確信したライザベルは、


「私に火魔法を仕掛けるなんて百年はやいわ」


 と魔法剣士に指を向けた。その指先では、リリ譲りの魔導器が真っ赤な光を放射している。


 空間を埋め尽くすリロの火槍乱射を受けた魔法戦士は、空気を操作して火力を抑えた。さらに水の精霊を使役すると、大量の水をぶち撒き水蒸気を発生させる。


 熱気の中、正面から飛来した火球を避けつつ前進する魔法戦士は、足元を絡め取られて転倒しそうになった。


 足裏を粘着物で覆われたと判断した魔法戦士が「リン」と腕輪を操り、土属性の精霊を操ると、石畳が変形して巨人の手を生み出す。


 それに乗って上昇した魔法戦士は、足裏を石で覆いながら粘着ごとライザベルに飛びかかる。

 その時、粘着物が黒煙を放って急激に重量を増した。


 地面に激突する魔法戦士の周囲を黒煙が囲う。すぐに水属性を操って消火しようとするが、


「無駄よ、私がどれだけ仕掛けたと思ってるの」


 ライザベルの声を待たずに、避けたはずの火球が背部を直撃する。火は生き物のように魔法戦士を包むと、更なる黒煙を発生させて、その身を地面に食い込ませた。


 石畳が悲鳴をあげて陥没する。その周囲に乱雑に並んだ火槍が現れると、放たれるのを「キュウウ」と懇願した。


「待ちなさい」


 ライザベルは重火の下の魔法戦士の状態を感知して周囲を警戒する。既にそこには魔法戦士らしき人型しか居らず、内包する魔力から本体でないことは明らかだった。


 その時、ライザベルの背後で地面が隆起して襲い掛かる。咄嗟に横っ飛びに避ける彼女に振るわれた凶刃は、大量の火槍に貫かれて爆散した。


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