表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
179/196

主戦場②

 聖龍騎士は魔法陣を追い詰めながら、新たに出現した火線とその軍団の勢いに押されてしまった。魔法陣は力を取り戻し、聖守護力場ホーリー・メイルと反発して、互いの身を跳ね上げる。


 聖龍の脚が、魔法陣の魔線が、轟音と共に戦場を打った。


 皆が反射的に身を庇ったそのすきに、火線に召喚された一部隊が、気配を殺して戦場を駆ける。

 集団の目的は、聖龍騎士の傍にあって、休養のため地上に降ろされた存在……大司教ラウルにあった。


 気配を殺した集団は、騎士達や神官たちに守られたラウルの姿を捉える。深い瞑想状態にある彼は、燐光の中で坐し、疲弊しているのか集中状態にあるのか、判然としなかった。


 隠匿に秀でた襲撃者の手が伸びる。それがラウルの法衣に触れんとした瞬間、白色の突風が吹いた。

 その風は、視覚にも魔法感知にもかからない隠匿状態の襲撃者を襲い、空中に鮮血の花を咲かせる。


 護衛達は突然の事態にラウルの周囲を固めて警戒を強めるが、魔力に優れた護衛の探知には、何も引っかからなかった。


 襲撃者達は陣形を変え、包囲の中心に溜まる白いもやを凝視する。最初の襲撃者にとどめを刺した靄は、包囲を抜けようと上空を目指したが、放たれた網状の魔具に阻まれ、地面に吹き付け実体を現す。


 それを地面に落ちた魔具が絡め取る。姿を消したままの襲撃者が確かめると、中には先程靄に仕留められ、実態を現した黒ゴブリンだけが絡まり、締め付けられていた。


 凝視する隠遁者ーー黒ゴブリン達の背後で、


「どうしたワン?」


 とあざ笑うような声があがる。その方向に不可視の得物を振るった黒ゴブリンは、頭上から落ちて来た魔法陣の魔線に潰された。


 大量の土煙に隠遁していた黒ゴブリン達の輪郭が浮かび上がる。白い靄ーーウーシアの霊剣が、よろめく一体の頸動脈を切り裂いた。

 その背後に爪を振り下ろした黒ゴブリンは、霊化したウーシアを捉え損ねて地面を砕き、すれ違いざまに手首を切り裂かれる。


 空中に咲いた血花が、ミュゼルエルドの後脚爪に割かれ潰れる。その聖光が第三・第四の血花を照らすと、


「ウーシア! ラウル様は無事か」


 と、天からジュエルの声が届いた。その間にも荒れ狂う魔線が嵐となって聖龍騎士を襲うが、聖守護力場に抑え込まれて轟音を連ねる。


 返事の代わりに八咫の鏡で信号を送る。取り決めていた合図にラウルの無事を確認した聖龍騎士は、周囲に聖龍炎の細射を浴びせると、フッと飛び立った。


 爆風の圧に死骸が転がる中、残りの黒ゴブリン達が再び隠遁に姿を消す。その数を正確に把握したウーシアは、己の魔力がもつかどうか換算し、ギリギリの線であると覚悟を決めると、不意に笑顔を作って霊化した。


 あっという間に場を埋め尽くす不可視の黒ゴブリン達、その中心で何故か姿を露わにしたウーシアは、ラウルを抱えて跳んだ。


 獣人にしても驚異的な長跳びで、腕を伸ばす黒ゴブリン達をかいくぐる。その時、真下に向けて放たれた聖龍炎が爆ぜた。


 爆風からラウルを保護しようと丸くなったウーシアは、背中に衝撃を受けながら転がった。息が止まるほどの衝撃にも負けず、ラウルを地面から守ったウーシアが霊剣を構える。


 その眼前に黒ゴブリンの剣が迫り、激しく打ち合って霊剣を弾き飛ばした。鋭く上体を沈めたウーシアは、剣を取るふりをして、相手の手首に噛み付く。


 そのまま骨まで噛み絞めて、相手の得物を折り取るように腹に突き刺し、剣身に体重をかけると、そのまま臓腑を縦に切り裂いた。


 諸刃のやいばに添えた手が裂け、痛みに霊化が遅れる。そこに別の襲撃者からの蹴りが放たれ、更なる痛みを覚悟したウーシアは、一向に来ない痛みに視線を巡らせた。


 眼前で止まった足先が震えている。襲撃者の目線を辿ると、神々しく後光をまとったラウルが笑顔で両手を差し出していた。


「こちらにいらっしゃい」


 手招きをするラウルの放つ光が、襲撃者の隠匿を剥ぎ、姿を現した黒ゴブリンの表皮を焼く。光に溶けるそれらとは逆に、腕の傷を癒されたウーシアは、ラウルの腕の中に飛び込んだ。


 その直後、広範囲を覆う聖龍炎が吹き付けて、一帯を焼き払う。聖光に包まれたウーシアは、光柱の中でその光景を眺めていた。


 音が追いつき、耳をつんざく爆音に悲鳴をあげるが、それに伴う痛みは即座に癒えていく。

 奇跡の顕現にキョトンとするウーシアの肩を持ったラウルは、注目すべき事象を指し示して、


「御覧なさい、あの街の中にバッシ達が居ます。この場は私達に任せて、貴女は一足先に向かいなさい」


 と優しい声をかけた。


 しかし、ラウルを護衛しなければならない、ジュエルに従属しなくてはならない。そうした思考を、ラウルの光に入ってきた人達が、訂正した。


 フチとシンハだ。


「中でバッシやリロ達が待っています。じきにもう一人の仲間も中にやりましょう。貴女の力が必要です、お行きなさい」


 と言った。それは念話としてウーシアのみならず、聖騎士軍全体に伝わる。当然ジュエルにも。



 フロイデとハムスが、状況を察して〝行け〟と促す。そこに騎士大隊を率いたオルフロートが駆け込むと、


「こいつに乗っていけ」


 と一人の従騎士を当てがった。一見貧弱そうなその騎士は、見事な操作でウーシアの元に馬体を寄せると、手甲に鎧われた手を差し出す。

 その勢いに手を掴むと、フワリと鞍の後部に乗せられた。


 犬人族のウーシアの嗅覚が、騎士が女である事を嗅ぎ分ける。何かを聞くタイミングも得られぬまま、女騎士は馬体に蹴りを打って、馬を加速させた。


 見る見る戦場が遠ざかる。その先にある城壁にぶつかりそうになった瞬間、馬の鞍に爪先を引っ掛けたミュゼルエルドは、指一本分の力で馬ごと彼女達を城壁内へと投げ込んだ。


「おい! 私の従者だぞ!」


 と抗議の声をあげるジュエルに、


「だからこそだ。あれくらいどうにでもなるだろう?」


 と告げる、が……城壁内から馬のいななきと、女二人の悲鳴が聞こえる。


「どうにかなる……よな」


 と自信なさ気な声をかけたミュゼルエルドに、


「心配ならすぐに〝あれ〟を始末して、自分の目で確かめに行きましょう」


 と言いつつ、守護力場を遠方に放って、ウーシア達を軟着陸させた。


 〝あれ〟と呼ばれた魔法陣は、赤く光る紋様を旋回させ、魔線を振るいながら地響きを立てている。


 その紋様から複数の火線が通り、一際大きな転移陣を描き出した。あたり一面が真っ赤に染まる中、無数の転移陣から黒ゴブリン達が湧き出し、その黒山が雪崩をうつ。


 単に崩れただけに見えたが、ミュゼルエルドはその様子に忌避感を得て、即座に聖龍炎を放った。雪崩れをうって現れたゴブリン達の動きは、他と比べて素早く、通常ではあり得ない避け方で犠牲を最小限にすませる。


 魔法陣の魔力は変わらず注がれているが、黒ゴブリン達はそれ以上の力に昂ぶり、それぞれの能力を発揮しながら、戦陣を組んで迫って来た。


 如何なる国の軍隊よりも統率が取れており、各々能力の異なる黒ゴブリンとは思えぬ最適化を示しながらの行軍に、


「転移陣の近くに女王がおりますな」


 フチ達の籠に乗ったラウルが分析しながら、聖龍騎士の傍に来た。フチは水晶球を覗き込みつつ、転移陣の解析に勤しんでいる。


「女王ですか? 今、ゴブリン達を統率しているのは女王なんですね?」


 神殿騎士であったジュエルは、信兵等の優秀な諜報員によって、大司教が正確な情報を握っている事は承知している。


「そいつを焼けば戦争は終わりか?」


 聖龍炎の魔力を胸に熾したミュゼルエルドが尋ねるが、


「残念ながら、女王自身は魔法陣の向こう側ね。それを操る者も街の中。根本的な解決は中の連中に任せましょう。そのためにウーシアを送り込んだわ。貴女達も入った方がいいんだけど……」


 とフチが聖龍騎士を見上げた。しかしラウルの祝福が切れた戦況は、明らかに人間側が不利であり、聖龍騎士が抜けられる状況ではない。


 現に飽和しそうなほどの魔素を変換した聖龍炎を放射するが、蜘蛛の子を散らしたような戦場では、効果を十全に発揮できなかった。


「まあ、やるしかあるまいよ。あいつらもやる気全開だぜ」


 なぜか嬉しそうな声をあげる、野太刀を引っ提げたフロイデが指し示す先には、光球が数発放たれ、戦場を舞っていた。それに続くように、オルフロート率いる騎士団が陣形を整えながら黒ゴブリン達を迎え撃とうとする。


「先ずはあれを何とかしないとな」


 と転移陣を示したフロイデはハムスを見ると、委細了承したハムスは無数の幻影剣を宙に出現させる。


「戦場は任せた。俺たち遊撃隊はあの火線の奴を殺ってくる」


 フロイデは声を張ると、バジリスクを操り、あっという間に宙を駆けた。後続の冒険者たちも、やっと自分たちの役割が決まったと、笑みを見せながら宙を追いかける。


「さて、私達も忙しくなるわよ。相手は女王の統率のもと、軍師に導かれたゴブリンの精兵達。久しぶりの消耗戦ね」


 フチはシンハに告げると、ラウルを見た。戦争に生きて来たフチは疲れた目を、それを受けるラウルは苦い決断を下した過去の出来事を思う。だが今は、


「行くしかあるまい。いつも我々は対処療法に取り組むが、あの子達なら根本治療を行えると信じよう」


 街に消えたウーシア達を思うと、少し救われるような気がした。たとえ今回の戦争で多数の犠牲者が出ようともーー大司教らしからぬ物騒な思考といえる。だが、無数の思惑が交錯する戦場で、外に居ながら全てを掌握する者は他に居た。


 ラウルは、


 〝そうはいかんぞ、リリの弟子達をなめたら火傷をするのはお主だ〟


 最後に脳裏をかすめた旧友リリの面影に、獰猛な笑みが自然と浮かび上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ