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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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軍師との遭遇戦

 バッシが地下空間に出現した時、黒煙を上げる穴が目についた。その奥に対峙する女と背曲がりのゴブリンが見える。


 ゴブリンの衣裾が魔法陣を描き、獣のようなうなり声をあげる。声の持ち主が魔法陣から飛び出すと同時に、女の魔力が渦巻き、現れた部位から焼失させた。


 その隙にゴブリンの衣は別方向に広がり、背後に庇う人型を覆う。その姿を見たバッシは、戦慄とともに駆け出した。


 『リロ!』


ピノンに攫われる直前に見た、黒いものに捕らわれたリロ。人型はそっくりな姿形をしている。それを魔法陣が飲み込もうとしていた。


 バッシが銀光の世界を潜ると、人型の側面に転移した。腕の振りと同時に、鋼睡蓮が大剣を現し、紫光を纏った一閃が衣を切り裂く。


 生物のように身を退けた衣が、威嚇するように魔法陣を展開し、バッシに数体の牙を差し向けた。


「バチンッ!」


 牙の一部が発火すると、不自然なほど大量の黒煙が発生し、轟音とともに全ての獣を地面に叩きつける。


「そいつの魔法はそれだけじゃないよ、気をつけな」


 聞き覚えのある声がバッシに警告を放つ。それは強制的に転移させられた時に聞いた、味方らしき女のものだ。


 バッシは人型を保護しようと動くが、初動の前に別の場所から出現した赤毛の獣に襲い掛かられる。

 殺到する獣に大剣を振り下ろすと、素早く避けた獣が跳躍する。だが、遅い振りに隠した鎌鉈が胸部を捉えると、繋がる鋼の綱で獣を牽引し、バッシの足爪で捉えた喉元を踏み潰した。


 その間に背曲がりのゴブリンーー『軍師』は、人型を、ライザベルとバッシから隠すような位置に移動した。

 さらに両手を広げると、魔導士の衣を展開させて、一息に十体もの獣を召喚する。


 不揃いな体高を持つ四足獣達は、変形した黒ゴブリンの頭と、様々な動物の容姿を合わせ持ち、獰猛な牙と不潔な爪を赤毛の奥で鈍く光らせている。


 唸り声をあげる群れは、さらに追召喚された獣達に押され、バッシ達へと殺到した。


 リロに迫ろうと硬い床を削りながら走るバッシは、左指の爪を地面に突き立て、急角度で右に曲がる。その横を掠って獣が駆け抜けた。


「バチィッ」


 と硬質な音が響くと、バッシを追おうと踏ん張った前脚にライザベルの火魔法が纏わりつき、急激に押し潰された獣が転倒する。


 火花が散り、鉛の塊が転がるような音が鈍く響いた。あっという間に燃え広がった炎は、黒煙を纏って硬い燃えかすとなった。


 ライザベルの魔法〝重火おもび〟の能力を垣間見たバッシは、その威力と手際に恐れを抱きつつ、味方であることに勢いを得る。


 迫る他の獣に対し、右手の大剣で薙ぐと、素早く反応する獣の足を掠り斬る。重量に見合わぬ意外な跳躍で上に逃げた獣に対し、難なく斬り返しを合わせたバッシは、真下から胴を真っ二つに断った。


 内臓散る切り口に飛び込むように迫る二体の獣を、大剣から派生させた鎌鉈で引っ掻けると、振り返りざま、打ち下ろすように地面にたたきつける。

 抵抗無く石床を断つ大剣とは逆に、たたきつけられた獣は頭部を強打して昏倒した。


 背後に異様な気配ーーポコの探知能力に反応したバッシが見たのは、重火魔法の燃えカスが爆発して、迫りくる獣達に延焼していくさまだった。

 まるで生き物のように踊る炎は、重量をもって獲物を動けなくし、黒煙を躍らせ体液をも厭わず焼き尽くす。


 獣の群れを飲み込んだ炎は、床を焼き抜いて下階に落ち、床に叩きつけられると、一瞬明るい火の粉が飛び散った。


 煙る室内は肉や毛を焼いた臭いが充満し、戦場に慣れたバッシにも辛い状況となる。だがライザベルは涼し気な表情で燃えカスの前に立つと、


「私はライザベル、その子の保護者よ」


 と眼鏡をおさえ、獣を観察した。


「これは……元人間の転生体ね。黒ゴブリンの失敗作を転用したのかしら?」


 と軍師に向き直る。厳しい表情でライザベルを見る軍師は、ぶつぶつと呪詛の言葉をつぶやきながら、油断なくバッシにも注意を向けている。

 その挙動を伺うバッシは、同化した精霊がざわつくのを鋼越しに感じるが、迂闊に飛びかかる事もできずに、呼吸を整えた。


 素早く呪詛が完成し、軍師の懐に左右二つの転移魔法陣が形成されると、溢れるように飛び出す獣達が雪崩となって襲いかかる。


 長大な四肢を石床に響かせる硬爪に、真っ赤な剛毛。黄色く光る牙をむき出す姿は先ほどの獣達と同じである。


 だが中に一体、鋼睡蓮が波打つほど異常な気配を持つ個体が混じっていた。後方のライザベルはそれと気づかずに、重火魔法を先頭の獣に放つ。


『このままではまずい』


 反射的に駆け出したバッシは、赤の群れに突貫する。


 牙や爪を龍装で弾きつつ、奥の一体を狙って刃をふるう。毛皮に纏った魔力ごと断ち切ると、骨まで震えるような、奇妙な怖気が走った。


 断ち切った断面には、粘るような転移の魔法陣が展開している。その中の一つから、バッシの喉を狙う手刀が伸びた。


 だが、鋼睡蓮が予知していたように大剣を形成し、硬化した刃が空を斬る。


 すんでの所で消えた何者かは、ポコの知覚にもかからない隠遁を見せた。周囲の獣はすでに重火に捉えられ、黒煙を上げている。


 事態を把握したライザベルも油断なく周囲を探知するが、先程手刀を放った者は消滅したように気配を絶っている。


「消えたのか?」


 熱探知魔法に自信を持つライザベルは、自分の監視をすり抜ける程の手練れが、急造兵団の中に存在する事に違和感を覚えた。


 その隙をついた軍師が闇龍の軛に包まれたリロに近づく。だが油断なく灯し続けるライザベルの火魔法が行く手を阻んだ。


 軍師の焦りが手に取るように分かる。それはライザベル達に対するものだけではない。


『転倒から察知したリロの状態』


 に動揺を示している事を、ライザベルは経験から見抜いていた。


 闇が仕掛けた軛の力はライザベルも熟知している。その軛を破るほどの火気が、獄火の魔導書から漏れ出始めているのだ。


 怒るような熱風が頬をなでる。異音を放ちはじめた獄火の魔導書は、爆発寸前の危険物と化していた。


 本来ならば簡単に事が運ぶはずの所に、魔女のみならず、巨人戦士までが転移してきた。これ以上、不測の事態を避けるためには、リロとともに撤退するしかない。


 軍師は焦って魔法陣を展開するが、魔導師の衣は繊維の端から高温に縮れ、怯えるように魔法陣を引っ込めた。


 強い魔力同士が接触した場合、弱い魔力が取り込まれ、魔具の場合は構造に致命的ダメージを受ける場合がある。


 中でもタンたんの獄火魔法は、最大級の威力とともに、冥界に通じる底知れぬ闇をも内包しているのだ。魔具存在として圧倒的下位である衣の防御反応は自然な事だった。


 軍師は即座に魔導触覚を展開し、軛の中身を精査するも、闇龍の軛に溶かされた肉体に、自我など存在し得ないーーと思った瞬間、獄火の中に一粒の意識を検知した。


 曲がった体から押し出すように渾身の魔法を放つ。リロの精神と深く結びついた魔力が、闇龍の軛に絡まると、リロは苦しみに炎気を揺らした。


 獄火の勢いが弱まると、威嚇するように黒煙を放つ重火が燃え広がって円陣を形成する。


 軍師は魔力を維持しながら、重火を取り込むように魔法陣を展開すると、油断なく魔導師の衣を展開させる。目の前には瞬転したバッシがいた。


 魔法陣から召喚された獣達が、現れる端から斬り割かれる。断末魔の悲鳴をあげ地面に打ち捨てられる遺骸。その後ろから押すように新手の獣が召喚されるが、バッシはそれらを置き去りに銀光の世界を転進すると、軍師に斬りかかった。


 バッシの大剣と重火の円陣、前後を挟まれた軍師は、重火の下に滑り込ませた魔法陣を発動して、自身を飛ばした。

 その時、軛の表面にリロの顔型が浮き上がると、重火魔法がリロの軛に襲い掛かる。

 盛大な黒煙とともに人型が重量を増すと、魔法陣が発揮される直前に地面を踏み抜き、階下へと転落した。


 落ちる人型の周囲で重火が減少し、獄火が威力を増すと、落下していた速度が緩んで階下の地面を焼きながら浮いた。


 上階ではバッシが軍師に切りかかる。魔導触覚による超感覚で転移魔法を発動した軍師が、すんでのところで回避すると、それを無視したバッシは、階上へと飛び上がってきたリロに二の太刀を振るった。


 甲高い音が響き、闇龍の堅牢な軛に亀裂が入る。獄火の魔導書タンたんが呼吸をするようにページをめくると、ヒビに獄火が滑り込み、軛の核をなす部位を一瞬で灰にして、命令系統を失くした。


「あっ」と声を出した軍師が、魔導触覚の導きによって転移陣をくぐる。一瞬の後に重火が吹き付け、辺り一面を黒煙に染めた。


「ちっ、逃したか」


 ライザベルの言葉も耳に入らないバッシは、軛から解放されたリロを救おうと駆け寄り、くずおれる体を支える。だがそれはぬけがらのように腕の中で解れ、中から大量の粘液が流れ出た。


 バッシは知りたくもないのに、眼球に張り付いた知育魔本ポコがその正体を分析する。内臓の臭いそのままの粘液は、バッシと地面を汚すと、地面に染みを作った。


「……ッ」


 言葉を失ったバッシが目を見開く。ポコはその液体こそがリロであると告げている。粘状の、酷い悪臭を放つ汚物が、リロそのものであると告げている。だとすれば、辛うじて軛によって保たれていた肉体に、バッシがとどめをさしてしまったのだろうか?


「リッ……」


 引き攣れて言葉が出ないバッシの肉体が熱くなる。目の前が真っ赤に染まり、全身が燃えるような痛みに包まれた。絶叫するバッシの目の前で、滴り落ちる液体が流れるのを止めた。時間が巻き戻るように、地面にまき散らされた液体がバッシの体を昇り、熱を持ちながら上へと移動する。


 最後の一滴がバッシの唇から離れた時、真っ黒な闇龍の軛がリロの形に再生した。

 内包する獄火が更に体温を上げて、口からの排気を受けた床が溶け落ちる。


「リロ」と声をあげようとするバッシの唇に、さっきと同じ温度の指が添えられる。その横では獄火の魔導書タンたんが浮遊する。半開きのページがハラハラとめくられる中、バッシの膝に音もなく降り立ったリロが抱き着いた。


 言葉に詰まったままに、女型を抱き返す。その体温や重さはいつかのリロを想起させるものだった。


「リロか?」


 ようやく出た一言に女型リロがコクリと首を縦に振った。

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