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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
173/196

死刃様のゴブリン戦士

 群れに紛れていた存在が、狂血の能力によって洗い出される。

 その個体は周囲の黒ゴブリンと同じような体格を持ちながら、一目見てそれと分かるほどの、格の違いを身に纏っていた。


 腰元からゆるりと抜かれた曲刀の、黒にあってなお黒い刀身が現われる。


 その姿にバッシは既視感を覚えた。目の端に魔本ポコが示唆しなくとも、それはリリ護衛の際にリロと獄火の魔導書(タンたん)を狙ったーー


「死刃のウンド」


 漏れ出たバッシの言葉には、未だに狂血の魔力が残り、曲刀持ちのゴブリンを容赦なく撃つ。無影響には済まないその言葉は、しかし、何の作用ももたらさなかった。


 死刃のウンドは、死の間際に黒い曲刀を用いた。それはリリ・ウォルタの死亡と共に、バッシの記憶に深く刻み込まれている。同じ気配を纏う、しかし見た目は完全に異なるゴブリンーーポコの分析にも解は無く、別物との判断もつかない。


 静かに右へと移動するウンドようのゴブリンに、同じ右移動で距離を置く。それに合わせて、狂血影響下のゴブリン達が丸く空間を開けた。


 一歩踏み込んだ曲刀の突きが、バッシの手元に伸びる。届かぬ遠間からの刃は、黒い飛斬となってバッシを襲った。


 それを既に現していた大剣で、真正面から斬り下げる。紫光の刃は飛斬を霧消させると、踏み込みと共にウンドようを斬り上げた。


 変化する刃を伸ばして迫るも、斬りつけた手応えは皮一枚のみ。曲刀に刃を滑らされ、途上で軌道を変えようとするが、放たれた飛斬に弾かれる。


 揺るぎない体幹の上から、冷静な瞳がバッシを射抜く。曲刀は生き物のように閃くと、空中で大剣と打ち合った。体格差を凌駕する黒の力は、大剣の放つ紫光に溶けながらも層をなす。それは風を纏って侵食し、膨大な黒風となって空間を埋め尽くした。


 バッシの体表に浮かび上がった鋼睡蓮が、紫光を纏って黒刃の暴風域をほどく。

 隙間に滑り込む曲刀に大剣を合わせたバッシは、離れた瞬間に姿を見失った。

 感覚鱗を通じたポコの知覚も、黒の暴風域に阻まれて役に立たない。


 黒風は勢いを増し、隙間を縫って攻め立てる曲刀は風に乗って重く、速く、多角的に現れては消える。場当たり的に刃を合わせるバッシの中に、些細な違和感が芽生え始めた。


 仕留めに来るというよりも、時を稼いでいるような……勢いをつけて振われる曲刀にしては、殺気が薄すぎる。


 訝しむ間もなく、暴風は突然に止んだ。周囲には多数の黒ゴブリン。一様に胸を切り裂かれ、上空に向けて黒矢の尾を伸ばしている。

 陽の光を遮るほどの黒矢の柱に目を奪われる。その隙を突いた一閃を、龍装の爪を踏ん張り避けた時、遠間にもう一匹の異物が見えた。


 その黒ゴブリンは杖の一端を肩に当てて、先をバッシに向けている。その先端に集約した光点が揺らめくと、バッシの胸部を大剣の腹ごと撃った。

 後からつんざくような高音が追いつくのを、よろめきの中で聞く。


 大剣の表面は真っ赤に染まり、散らした筈の魔力塊が残り火のように煙をあげる。


 そこに降り注ぐ生命の黒矢……逃げ場の無い現世から次元を跨いだバッシは、皮一枚隔てた爆熱地獄を銀光の世界から傍観した。

 その絶対安全圏と思われた静寂の世界に、魔法陣の輪が侵入する。バッシ以外存在できない空間を、しかしその円は侵し、さらに魔力を放とうとした。


 すぐに銀光の世界を出たバッシを、容赦ない黒矢の爆発が撥ねとばす。なんとか地面を掴んだバッシは、大剣に纏う紫光に、銀光の力を重ねて振り抜いた。


 混じり合った閃光が爆圧を撥ね返す。負荷は鋼睡蓮を熱してバッシの生身を焼くが、その分よく働いて黒矢の爆発を崩した。


 龍装を焼く煙が視界を妨げ、焦土と化した街には異臭が漂い、自然の風に清められる。


 バッシが振り抜いた大剣を油断なく構え直すと、傍に迫っていたウンド様が胸を裂かれ、仁王立ちになっていた。


 深々と斬り裂いた手応えから、腕も切り飛ばしたと思っていバッシは、胸だけに傷がついている事に違和感を持つ。


 時間にすれば一瞬にも近い静寂、噴き出る血すら止まって見える濃密な時間の中で、何らかの力が芽生える圧力にバッシの龍装が逆立った。


 力の発動ーー衝撃波のような呼気が発せられると同時に、両者の刃が最大の威力を孕む。黒風の威を纏った刀身は全ての物を分断する鋭さで胴を貫き、紫銀の剣身は高みから一気に振り下ろされる。


 バッシは胴を裂かれたと思ったが、超回復の熱が無い事で我が身の無事を知る。それと同時に、真っ二つに斬り断ったものが、ウンド様の個体ではないことに気づいた。

 足元の魔法陣の残滓から、それが転移による入れ替えであると推測される。魔本ポコの誘導に咄嗟に大剣を構えると、ギリギリのタイミングで暴風を纏った刃が襲いかかった。


 紫光が黒風を斬って火花を散らす。遅れて襲いかかる風圧が、魔力を分解されて微風となった。


 その隙間に黒矢の第二波が濃い影を作る。自刃ではない、他方に放たれた風刃に切り裂かれた黒ゴブリン達は、驚愕の表情を張り付かせながら、命の黒矢を射出〝させられて〟いた。


 既に狂血の効果が薄れ、黒ゴブリン達の包囲が縮まっている。バッシは強く念じながら銀光の中に滑り込み、鋼精霊の疲弊と引き換えに別地点に現れると、大剣を閃かせて真横の黒ゴブリンを屠った。


 鋼睡蓮に取り込んだ金環が、魔力を少しだけ回復させる。それは切り裂いた黒ゴブリンの魔力だった。


 心的外傷トラウマを転移のきっかけとする金環は、精神力を奪い魔力に変換する力を内包していたのだ。だが能力を扱い慣れない現状では、微々たる魔力量しか吸収できず、転移を発動させるには至らなかった。


 背部を熱線が貫く。すぐに体を捻じって、薙ぐようなそれを回避するが、一瞬で龍装を切り裂いた火魔法が身を焼いた。

 急激なカロリー消費に意識が飛びそうになるのを足爪で踏ん張ると、襲い来る第二の熱線を紫光で散らす。

 さらに纏わりつくウンド様から距離を取ると、死角を突く風の刃に鎌鉈を合わせる。質量差からはじき飛ばされた刃先が欠けて飛んだ。その鎌鉈を強引に地面に打ち付け、我が身を引き寄せると、熱線によって発生した黒矢の第三波から回避する。


 度重なる黒矢の爆撃は、更なる誘爆を生み都市を揺るがした。


 轟音の後に転移陣が現れ、粉塵に煙る都市の残骸を照らす。減ってもすぐに補充される黒ゴブリン達とともに現れた魔法使いが、探知の魔法陣を展開すると、周囲に散った残骸からバッシの情報を得ようとした。


 その背後から喧噪の声が聞こえる。一瞬前には感じられなかったバッシが突如現れ、生き残った黒ゴブリンに切りつけていた。

 対処しようと発動させた魔法陣が纏まらずに拡散する。魔法使いの右足に絡みついた紫に光る金属縄が解けて、針状のそれらが足の皮膚を破ろうとしていた。反応した杖が熱線を放つが、その魔力すら紫の光に無効化される。


 鋼線の罠(スチール・トラップ)は、バッシが鎌鉈を放った際に仕掛けた罠だった。


 自身の魔力が解かれる事に気付いた魔法使いは、杖を構えると、側近を火線で貫く。その命の黒矢をもって鋼線を焼き切ると、間髪おかずに火弾を連射した。

 その着弾点に小さな魔法陣が展開すると、中心部から火線が乱射される。


 大量の火線と誘爆する黒矢の炎獄に、大剣一本で飛び込んだバッシは、黒矢の爆発の隙間に身を滑り込ませた。鋼睡蓮を龍装の表面に現しつつ、淡く紫光を放つと、爆風に交じる火弾を弾き、銀光を発動させた。


 銀の演舞が、爆風煙る戦場を、流れるように浸食する。銀線は刃となって血しぶきを咲かせ、黒ゴブリン達は自刃の黒矢を放つ間もなく絶命した。


 鋼睡蓮を纏いながら、鋼の精霊との真なる『合身』を実現させたバッシは、混ざり込んだ知育魔本ポコの影響か、ひどく冷静に戦況を俯瞰していた。


 ウンド様の暴風が不意打ちに襲っても、紫光を纏った大剣で切り裂き、隙間に鎌鉈を放つ。その刃をよける風の流れを、紫光で少し削ると、バランスを崩したウンド様の首を鎌鉈で切り裂いた。

 再びの回復に魔力を割いたウンド様は、大きく後退して黒ゴブリンの影に隠れる。そうしながら魔法使いに思念を飛ばし、その分析を聞いた。


 魔法使いは驚愕していた。転生による恩恵で、あらゆる属性魔法、無属性魔法、神聖魔法、精霊魔法、時空間魔法、そして複合魔法に精通し、こと魔法の知識では双子の兄である軍師をも凌ぐと自負していたが、目の前の大男が成している魔法が理解できないのだ。


 明らかに魔力の干渉を受けているにも関わらず、説明することができない焦りが、魔法使いの反応を鈍らせる。


 一瞬の虚をついたバッシの踏み込みが、魔法使いを捉える。即座に展開した魔法陣が杖の先端から放たれるが、その魔法術式が効力を発揮する前に、紫光によって切り裂かれた。

 硬質な衝突音が響き、間に割って入ったウンド様の刃が大剣と交差する。しかし、振り抜かれたバッシの勢いに吹き飛ばされたウンド様は、庇った魔法使い共々地面に叩きつけられた。


 転がる二匹に大剣が振るわれ、それを庇う黒ゴブリン達の血しぶきが散る。その中には最後に自刃の黒矢を放つ者もあったが、合身に輝くバッシを捉えることは叶わず、無駄に爆発した破片が魔法使い達に降り注いた。


 バッシの大剣が紫銀の軌跡を描く。攻撃魔法は分解されると悟った魔法使いが、支援魔法でウンド様を強化すると、肉体強化された膂力を爆発させるように曲刀を振るう。


 打ち合う点に力の全てが集約され、反発する。置きざりにされた衝突音が周囲を振るわせる中、重さに勝るバッシの大剣が更に振り下ろされた。肩を削られつつも真横にずれたウンド様が、その動力源である黒い風を背部に起こして距離を詰める。


 大剣の間合いの内側を突くような踏み込みで、避けようのない必殺の横薙ぎーーその瞬間、銀光とともに、右手なる大剣が組成を変えた。鋼睡蓮の葉脈状に分解した刃は、半分ほどの長さに可変すると、紫銀の半円を描く。


 コンパクトな振り抜きが曲刀を打ち据えると、力が入る前の手から弾く。空手を切ったウンド様が身をこわばらせた瞬間、その眼前に幾重もの魔法陣が展開した。


 紫銀の刃が魔法陣を分解するが、それを予見して、破魔耐性に特化された魔方陣が、粘り強く抵抗を示す。


 周囲にとっては一瞬の隙、だが、バッシとウンド様にとっては致命的な時間。反撃を予測したバッシの目の前から魔光の残滓が掻き消えるとーーそこには誰も居なかった。


 周囲を探ると、次々と掻き消えていく気配。転移の魔法による速やかな撤退にその魔力源を探っていると、遠方からはっきりと知覚される敵意がバッシに向けられ、消えた。


 改めて無人となった都市を見る。ほとんどの家屋が自刃の黒矢によって吹き飛んでしまい、焼けた街並みは、地面まで掘り返されて、地形が変わっていた。


 どこに向かうべきか検討もつかないバッシは、ポコの示す金環の能力に思念を向ける。

 ウンド様の肩を削り、吸い取った魔力が循環されると、ようやく次なる転移の環が空中に現れた。


 環の導く先でも何かの爆発音が響いている。おそらくリロが囚われているであろう、新たな戦場に向かうべく、バッシは境界を踏み越えていった。

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