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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
最終章 聖戦と巨人戦士
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戦下街中〜ラガンと紫間者〜

 光と闇が絡み合う上空に荒れ狂う剣龍、混沌とした戦場はしかし、徐々にではあるが聖軍に傾きつつあった。

 だがそれはゴブリン共の支配する都市の玄関口、平原部にあふれた手勢との、いわば局地戦に過ぎない。


 戦前から侵入していた者達によって、事前に残留するゴブリン軍の情報を察知していた大司教は、新たにラガンを筆頭とする信兵隊を街中に送り込んだ。


「敵余剰戦力の概算は済んだ。だが計算外があるとすれば主要人物である背曲がりのゴブリンと、魔法王国の魔女だ。その外にも将軍()いまだ姿を現さない大物もいる。残りの組でさらに探るぞ」


 ラガンの言葉に皆が首是する。


「だが戦中は警備が厳しい、覚悟の上にも更なる覚悟がいる」


 なぜかその隣には紫間者がおり、その配下も相当数潜んでいた。目的を聞いても答えないが、同行には大司教の許可もおりている。

 ラガンは、紫間者の主人であるシウリ伯爵の性質から、利権絡みに違いないとあたりをつけていた。


 感情を律したラガンは、冷たい石のような精神で状況を俯瞰する。困難に際し信頼関係のない者達と行動するリスクと、紫間者達の手腕を天秤にかけるが、選択肢はなく、使命は重かった。


「今回だけはお互いに外せない任務だ、裏切り行為も時期を見ろ」


 声をかけるが返答は無い。言ったラガンも異変に気付くと、遅れて配下達が気配を消して散った。



「グガッ」「ギギッ」


 独特の発音で会話らしきものを交換する二匹の黒ゴブリンが、潜む者に気付く様子も無く広場に進み出る。


 乾いた血に汚れた広場は、何かの残骸はあれども、死体どころか骨一本落ちていなかった。その残り少ない残骸に鼻を近づけると、ヒクヒクと鼻孔を動かし、神経質に何かを探す。


 そして一匹が泥状の何かを掴むと、それを奪おうとしたもうゴブリンとの諍いが始まった。


 猛獣のような威嚇音を発しつつ、爪を振るう黒ゴブリン達。石畳を掠る爪は火花を散らし、体を撃つ拳は鈍い音を響かせる。


 ラガンや紫間者の部下達は、我知らず目の前の狂騒に見入っていた。

 その意識を取り込もうとする魔力と、阻止せんと聖樹の葉をふるうラガンの魔力が拮抗し、空気を「バチン!」と切り裂く。それは明確なる魔法の行使ーー


 散華する魔光の下、杖を掲げ持つゴブリンが現れた。その胸元に殺到した投擲武器は、一刀の元に切り捌かれる。


 そのまま突っ込んでくる刀に、異様な殺気を覚えたラガンはのけぞると、間一髪の間合いを必殺の刃が薙ぐ。その周囲に現れた数体のゴブリンは、見た事もないような装束に身を包んでいた。


 一瞬、闇が具現化したかのような錯覚に見舞われ、そこから放たれる短矢を避けると、毒らしき粘液に濡れる刃が襲い掛かってくる。黒衣の集団にラガンの視界は一気に暗くなった。


 踏む地面に違和感を覚える。危機感が鼻孔の奥に広がると同時に、ラガンの前腕から聖樹の葉が剥がれて伸びた。地面に、空中に、鞭のような光る葉脈が躍る。直後に縦揺れが襲いかかると、翻弄された部下達を、敵の刃が貫いた。


 その内の三刀がラガンに殺到するが、聖なる力に光る葉脈が打ちすえ、貫くと、操り人形を引っ張るように敵が宙を舞う。

 そのまま襲い掛かる敵にぶつけると、揺れ続ける地面に適応しきれない部下を救いながら、葉脈を巻き取った。


 視界の端に紫の靄が飛び込む。過去にラガンも味わった紫間者の能力ーーその紫霧は別名〝死霧しぎり〟と呼ばれ、直接それを見て生き延びた者は少なく、どの魔法とも分類できないものだった。


 恐ろしい暫定的仲間の能力発動に、口中に聖樹の葉脈を忍ばせたラガンは、フィルター能力を発揮しながら、体外に成長させた葉脈を助力に走る。

 バネを得て置き去りにする世界と、侵食する死霧。放たれる重圧に意識が引っ張られるのを無視して進んだ。


 眼前にも紫の霧溜まりがあり、目眩を起こすほどの魔力を放つ。濃紫を避けながら進むラガンの目に、死霧に侵されたゴブリンの肉が分解していく様が映り、ほどなく骨をむき出しに滴る肉がホロリと崩れた。


 ゴブリン達のあげる絶叫が、覆い尽くした死霧に封じ込められる。瞬転ーー霧が晴れると、地面にはゴブリン達の姿どころか、血の一滴も残されていなかった。


 鼻腔に張り付いた僅かな死霧が、残留魔力とは思えぬ激痛を発揮する中、ラガンは目当ての者の気配に葉脈の鞭を伸ばす。


 それは突然に姿を現すと、憎悪の視線をラガンに向けた。先ほど杖を握っていたゴブリンが、その先端を地面に突き刺して術を展開している。地面からは魔法陣らしき模様が広がっていた。


 〝転移陣か〟


 瞬時に判断したラガンが、足元にも伸びる陣の末端を避ける。あまりの速度に逃げ遅れた二名の部下が音もなく消え、なおも地面を盛り上げる魔法陣は範囲を広げ、逃げる信兵達を追い詰める。


 それを破壊しようとしたラガンが、聖樹の葉を巻き付けた鉄槌を下ろそうとした時、再び気配を殺した刀が伸びた。


 瞬時に葉脈の鞭を四本仕向け、刀の持ち手を多角的に狙うが、一薙ぎの剣閃によって切り払われてしまう。その奥から、気配をあらわにした戦士のプレッシャーが質量を伴う圧となってラガンを押した。


 〝斬られた〟


 瞬時に聖樹の葉を展開したラガンは、直感的に凶刃を防げない事を察知し、主脈の封印に意識を通す。切り裁かれ、血しぶきを放つ右手は、輝きに包まれながら変形し、剣を包み込む鞘型になると、綿毛のような細脈が表面を踊った。絡まりあって緊縛した聖樹の葉が、深々と斬られた腕を神聖魔法で結着させる。


 封じた刀が突如として風を放ち、縛を解いて距離をあける戦士。刃を下に半身に構えるゴブリンは、他にはない威厳を誇るように堂々としていた。


「お前が戦士か」


 潜入隊からの情報によると、そう呼ばれる上級ゴブリンがいたとある。彼がそうならば、魔法陣を操っているものは魔法使いと呼ばれる上位種であろうか? ラガンは部下が退避するための時間稼ぎのつもりで話しかけたが、不思議そうな顔を見せた戦士は、


「戦士……人間の呼び名か?」


 と反応を示し、ラガンを品定めするように眺めた。その間にも相手の刀を取り上げるべく聖樹の葉主脈に働きかけるラガンは、一方で魔法陣に葉脈の鞭を伸ばす。


 それを見破り、一足飛びに切り飛ばした戦士は、触れていないはずの葉脈をも切り裂く。配下の者達も魔法陣に対抗すべく封魔石のナイフなどで崩しにかかるが、黒装束の妨害により、陣拡大を止める事はできなかった。


 一瞬の油断も許さない戦士の気配と余裕が、部下を危険に晒しているラガンを苛める。


 その時、視界の端に紫がさし、瞬時にその意図を察したラガンは、部下たちに一斉攻撃の光魔法信号を放つと、その光鞭を戦士の方向に曲げた。


 瞬間、危険を察知した戦士が、切飛ばすのではなく大きく避ける。その勘の良さに舌打ちする精神をきっかけに光鞭が爆ぜた。中に詰まった葉脈の塊が爆発的に広がり、広範囲をでたらめに引っ掻く。それとほぼ同時に死霧が魔法陣を襲った。


 土に吸い込まれた死霧は、暖色だった魔光の温度を奪い、濁すと、魔力を沈静化させてゆく。魔法をも殺すと言われる死霧の能力が伝播すると、魔法使いを侵食し、負荷のうめき声があがった。


 一方で爆発増殖した葉脈を逃れた戦士もまた、掠った鞭によって瞬の間散らされた魔力に狼狽する。


 一瞬の隙をつくラガンと紫間者。能力的な優劣では互角、もしくは劣っていても、実戦の練度は転生者とたたき合あげの戦士では雲泥の差があるーーその二人が同時に違和感を覚えた。歴戦の勘が導くほんの些細な感覚に、ラガンは聖樹の葉を、紫間者は死霧を拡げた。


 逃れた戦士は上空に飛び上がり、自由落下に威力をつけて襲い掛かる。暴風はしかし気配を殺し、姿なき凶刃となって吹き晒した。


 ラガンは聖樹の葉を頭上に広げ、そこから一斉に葉脈と光毛を伸ばす。その下では珍しく得物を抜いた紫間者が、短筒を地面に突き立てた。


 短筒の中の成分が地面に放出されると、膨大な魔力に見合った地面が揺れ、紫の筋を持つ粘性生物のようにそそり立つ。紫の土盛りの下支えを受けた聖樹の葉が、暴風に晒された。


 一瞬でズタズタに切り裂かれる聖樹の葉。高純度の光魔法が風魔法と拮抗して高音を放つ。回復も間に合わぬ葉の隙間から飛び込む風の刃は、ラガンを深く傷つけた。それでも伸ばした数本の鞭で、戦士の体を捉えたと思った瞬間、土盛りの分だけ窪んだ地面を、魔法陣が包み込んだ。


 転移魔法のトラップに囚われた瞬間、魔法使いの


「女神の糧となれ」


 と愉悦の声が聞こえた。だが魔法陣に絡みついたままの死霧が魔法陣自体を侵食すると、途中で崩壊した魔法陣が二人を取りこぼす。


 不完全なまま発動した魔法は、それでも二人をどこかへと吹き飛ばした。

次話から、本当にいつ投稿するかわからない、不定期連載になります。それでも完結までは書ききる予定ですので、お付き合いいただけましたら幸いです。

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